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そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『あんぽん 孫正義伝』 佐野眞一

2012-09-07 23:30:23 | Books
あんぽん 孫正義伝
佐野 眞一
小学館


「あんぽん」とは、学生時代、孫正義氏が名乗っていた日本姓「安本」を音読みして付けられたあだ名。
日本国籍を持っていなかった頃には「安本正義」だった氏が帰化を機に「孫正義」となったのは、一見すると矛盾に感じられます。
その矛盾にこそ、今では日本を代表する大実業家、立志伝中の人物となった氏の、屈折した複雑な生い立ちが反映されるいます。

ノンフィクションの鬼才・佐野眞一は、孫正義の立志伝には全く興味が無いと言い放ち、孫の父方・母方を三代遡り、在日朝鮮人として差別と金と暴力にまみれた一族の歴史を紐解いていきます。
その過程のダイナミックなグル―ヴ感が堪らなく面白い。

鳥栖駅前の朝鮮人で養豚と密造酒で生計を立てていた一家。
大雨で川が溢れれば豚の糞尿に浸かることになる劣悪な環境で育った孫正義は、父が金貸しとパチンコ屋で次第に裕福になるにつれ、福岡の有名中学から名門・久留米大付設高に入学し、あっさりと中退して米国留学へと巣立っていきます。
父方と母方の親族間の激しい確執は、文中にも使われているように、まさに『血と骨』の世界と表現するのがピッタリな感じで。

こんなにも激烈な環境を潜り抜けてきた孫に、普通の日本の家庭環境に育ったサラリーマン経営者が叶うわきゃないよな、と率直に思います。
著者は、在日の存在が日本人の生物多様性を辛うじて維持していると書きますが、よくわかる気がする。

孫氏に実際に会ったことはありませんが、ちょっと普通じゃ太刀打ちできそうもないエキセントリックさを持っているんだろうなとは想像できる。
スティーヴ・ジョブズも然り、聖人君子のような人物ではイノヴェーターには為り得ないのでしょう。

エンターテイメントとしても抜群に面白いノンフィクション。
原発と炭坑の奇縁に拘ったり、孫氏の電子書籍論に過剰に反発したり、ところどころ意味不明なところもありますが、そのあたりの佐野節も含めてケレン味が堪らない一冊であります。
コメント
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