そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『質問の一流、二流、三流 』 桐生稔

2024-02-12 20:48:00 | Books
人と人との会話において、話題や流れをリードするのは実は質問なのだ。よい質問を投げかけるスキルを磨けば、会話のクオリティが上がり、相手との関係性が深まって、ビジネスでもプライベートでも成果につながる。

ネタバレになってしまうので内容まで書くのは控えるが、この本で紹介される質問のスキルは以下のような類型に分類される。

・会話にスムーズに入るための質問
・会話が途切れた時に使える質問
・相手との信頼関係を築く質問
・相手へのリスペクトを伝える質問
・相手の考えや本音を引き出す質問
・こちらが望む結論に相手を導く質問
・ディスカッションをまとめるための質問
そして…
・自分自身の人生の質を高めるための自問

質問力を向上させるためのヒントを期待して読んだが、思った以上に実践的な一冊だった。

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『祝福 (河出文庫)』 長嶋有

2024-02-06 20:18:00 | Books
2003年〜2010年に各誌で発表された短編を集めた一冊。それぞれに共通のテーマや関連はないが、どれをとっても長嶋節という感じ。
穏やかならぬ展開を見せる作品も中にはあるものの、日常の他愛ない場面を切り取って、誰しもが心にちょっとだけ引っかかっている感情を呼び起こすテイストが通底している。

PHS、オザケンの『LIFE』を録音したMD、木村カエラの『sakusaku』、「四角いニカクがまあるくおさめる」やつ、などスマホ前時代の風物がちょっと懐かしい。
さらには、浅香唯の『セシル』や夕方の『特捜最前線』再放送など、作者と同い年の自分からするとノスタルジーも甚だ。

高校時代の不良との甘塩っぱい思い出をクールかつエモーショナルに描く『マラソンをさぼる』と、非日常シチュエーションに似つかわしくない由無し事がつい頭に浮かんでしまう女性主人公のアンビバレントさが面白い『噛みながら』が特に印象に残った。


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『雪国 (新潮文庫)』 川端康成

2024-01-20 13:13:00 | Books
本棚の片隅にずっと潜んでいた文庫本をふと開いてみた。奥付けによると平成6年の刷版。30年「積ん読」していたようだ。

冒頭の一文ばかりがあまりに有名になっているが、満を持して読んでみると、とにかく美しい。

冬には雪に閉ざされる温泉町。俗世間の煩わしさや嫌らしさは覆い隠される異世界で、根源的な煩悩が開かれていく感じ。
凡そ人生における人との出会いや交わりなど、刹那の幻想のようなもの。
約一世紀前の小説でありながら、普遍を感じさせる。

描かれる女性2人の造形が実に魅力的。
駒子の利発さ、ころころと気分が変調する危うさ。
葉子の声の美しさに象徴される清廉さ、裏腹に儚く掴みどころのない妖しさ。

汽車が雪国へと到着する冒頭場面、雪中火事と天の河による終幕の印象深さは尋常ではない。
情念と情景が一体に、溶け込んでいく。

もともと短編の集合体とのことで、全体通すと必ずしもすっきり筋が通っていない印象もあり、けっして読みやすい小説ではない。
日本語表現も、文法や言葉遣いに違和を感じるところもところどころある。
が、それでもなお美しい。

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『定年前と定年後の働き方~サードエイジを生きる思考 (光文社新書)』 石山恒貴

2024-01-13 14:15:00 | Books
日本社会全体の少子高齢化が進む中、企業に対していわゆる「定年」を延長することが求められ、65歳までの雇用確保義務が課されるようになっている。
これを終身雇用・年功賃金という従来からの雇用慣行と整合させるために、多くの企業において役職定年・定年再雇用といった制度が採り入れられている。
これらの制度は企業の立場からは「福祉的雇用」として捉えられ、役職定年者・定年再雇用者は賃金が下げられ、技能継承のみやればよいとの低い期待が与えられることでモチベーションが低下していくケースもままある。

一方で、役職定年者・定年再雇用者の幸福感・仕事への熱意は全体として低くないという調査結果が出ている。様々な喪失や衰えがあるはずなのにも関わらず、このような全体傾向が生じる現象を「エイジング・パラドクス」と呼ぶ。
要は、定年後の境遇の変化に対する受け止め方には個人差があるのだ。
そして、その個人差を生じさせる要因は、好奇心の有無や自身のキャリアへの関心があるか否かにあり、シニア労働者には心理的要素としての「働き方の思考法」を身につけることが重要な意味を持つ。一方で、企業組織側にはそれを考慮した上でのシニア社員に対する処遇が必要である。
以上のような著者の考えが事例とともに解説されている。

自分も企業組織の管理職の立場にあり、マネジメント対象となるメンバーにはシニア層の方もいるので、彼らにモチベーションを保って年齢に相応しい活躍をしていただくやり方については日々頭を悩ませている。
また、自分個人としても、定年を意識してこの先のキャリアをどのように送っていくかを真剣に考えなければならない年齢を迎えていることもあり、この本で扱われている論点を他人事でなく関心をもって読んだ。

個人にとって必要な「働き方の思考法」とは。
まずは企業組織に蔓延るマッチョイズムへの囚われから脱却すること。
自身の情熱・動機・強みがどこにあるのかを熟考し「自己の成長と専門性の追求」にフォーカスして主体的に職務を再創造する(ジョブ・クラブティング)。
その際には、独りよがりな「周りの見えないジョブ・クラフター」にならないよう全体性とのバランスに留意して、周囲から受け入れてもらえるようにする。
そのための実践として、スキルシェアサービスを利用してのギグワークや副業フリーランスを通じて業務委託という働き方に慣れること、越境学習となる場に積極的に身を置くことでホームとアウェイを行き来し葛藤を通じた自己調整を経験することなどが推奨されている。

一方、企業組織側は、賃金を引き下げなければならないという認識に引っ張られて、シニアの自己評価を徒に下げるようなことがあってはならない。
シニアに対しても責任のある仕事を与えて権限委譲し、業務目標を主体的に設定してもらって支援を行い、正当な人事評価で報いることが大切である、と。

モチベーションの低下したシニアを企業が低い待遇で囲っておくというのは、誰も幸せにならない話で、社会的な損失は甚大だと思う。
まずは個人が自らのキャリアを自律的に考える素地を広げていくことが重要で、企業側にもキャリア自律を促す取り組みがもっともっと必要なのだと再認識した。

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山崎元氏死去

2024-01-06 10:08:00 | Society
経済評論家の山崎元さんの訃報を知り、少なからずショックを受けています。

山崎さんを初めて知ったのはたぶん10年以上前、オリエンタルラジオが出ていたテレビの経済バラエティみたいな番組に出演されていたのを観て。
なんとなく人柄に関心を持って、ダイヤモンドオンラインの連載を継続的に愛読していました。

生前最後の記事は、年末12月20日配信の『山崎元、最後に贈る「ウィスキー」ガイド』。ご自身の死期が近いことを予期されていたのでしょうか…

山崎元、最後に贈る「ウィスキー」ガイド

山崎元、最後に贈る「ウィスキー」ガイド

本稿は、ウィスキーの飲み方、楽しみ方を説明するための、全国の酒友にお送りする、筆者のたぶん最後のウィスキーの飲み方ガイドである。

ダイヤモンド・オンライン

 


素人の消費者の目線に寄り添ったフェアでわかりやすい投資指南や、豊富な転職経験に基づくキャリアに対する助言・提言は、参考にさせてもらうことも多くありました。

心よりお悔やみ申し上げます。

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『もう生まれたくない (講談社文庫)』 長嶋有

2024-01-03 10:40:00 | Books
事故、自殺、早逝…誰かの不慮の死の報せに触れたとき、人は全く関わりがなく関心もなかったはずの他人の人生に思いを馳せたくなる。
誰もが思い当たるこの心情に踏み込むニッチな語り口。

この小説は、2011年の大震災で多くの生命が失われたことを契機にしている。2024年の元旦、能登でまた大きな地震があり予期せず失われた生命が多くあったことを報じる様子を聴きながら、このレビューを書いている。

巻末に「本作に登場する主な死者と死因」のリストが掲載されている。殆んどは現実に起きた(2014年以前のものだが)有名・無名の人の死ではあるが、明確に憶えているものもあれば、すっかり忘れかけていたものもある。

人は自分の生き方を選ぶことはできても、自分の死に方を選ぶことは難しい。
ましてや自分の死が他者にどのような思いを抱かされるのかなど制御のしようもない。
そんな儚い普遍に改めて気づかされる。

久々に長嶋有を読んだが、登場人物の境遇や心情の機微を拾う視点のユニークさは相変わらず。
そのディテールの綿密さを、書くほうも読むほうも楽しむという面がある。
セガサターンへの偏愛は著者の趣味の反映そのものだと思うし、大学講師・布田や蕗山フキ子の造形なんかはちょっと悪ノリを感じる。

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Year of the Dragon

2024-01-03 10:06:00 | Diary
2024年、穏やかなお正月だねーなんて言っていたら、元旦からまさかの能登半島地震とその二次災害ともいえる羽田での航空機衝突大炎上事故ですっかり雰囲気も変わってしまいました。
新年早々こんなだと、今年は何か想像もできないとてつもないことが起きそうな気がしてきます。

思えば昨年は、ジャニーズ、宝塚、ビッグモーター、日大、そして年末の自民党派閥パーティー券問題まで、社会の様々なパンドラの箱が開けられた一年でした。
引きずってきた昭和の時代が完全に終わり、溜まってきた古い膿がようやく取り除かれていく時代が訪れたということでしょう。
その解体過程で露わになる歪みが今年も大きな騒動を引き起こすことと思います。

必要なのは個人も社会もアップデートを怠らないことだと思います。
自分も人生の3分の1くらいは昭和を生きた世代ですが、人生の6〜7合目を迎えている今こそ考え方や行動を見直し、能動的に変えていかなければなりません。
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『唐―東ユーラシアの大帝国 (中公新書)』 森部豊

2023-12-25 20:33:00 | Books
唐は、言わずと知れた7〜10世紀にかけて約三世紀続いた中国の王朝だが、多くの日本人にとってまず頭に浮かぶのは遣唐使。遣唐使を通じて、仏教文化や律令制度がもたらされたとのイメージが強い、というかそのイメージしかない。

唐という王朝の通史を切り取った本著を読んで印象を新たにしたのは、唐は中国の王朝といっても漢民族の統一王朝ではないということ。そもそもその前の隋と同じく唐の王家は遊牧民である鮮卑の拓跋部の血を引いており、王朝の歴史においてもテュルク系の騎馬民族やイラン系のソグド人が跋扈する。その版図においては、さらに西方から進出したイスラム教徒やキリスト教徒の集団までを包含する。本著のサブタイトルにある「東ユーラシア」という大きな捉え方に相応しいハイブリッドでダイナミックな帝国であったのだ。

その支配地域も現在の中国の領土に比べると南北に狭く東西に広いイメージ。都である長安や洛陽などの中心都市は、現代の北京・上海よりもだいぶ内陸部に位置し、国家の重心は大陸側に寄っていた。

唐の歴史は周辺勢力との争いの歴史であり、ウイグル王国やチベット王国とは互いに攻め込んで戦い、時に打算的に手を結ぶ。現代の中国におけるウイグル問題やチベット問題はここから繋がっているのだなと考えると興味深い。

しかしこの時代によくこれだけバカでかい版図を治めることができたなと感心する一方、実はきちんと治められていたのは王朝が安定していた一時期に過ぎないことも分かる。外敵防御のために設置した藩鎮が中央に離反して地域勢力化したり、租庸調で知られる税制や塩の専売制も形骸化して地域勢力の既得権益となる。こうして外観すると唐の歴史は無数の内乱・内戦の連続で、中央においても王家における跡目争いや貴族・宦官の権力争いと殺し合いの仁義なき戦いが繰り返されるのである。遺された史料に限りがあるが故に記録に残りやすい争乱の歴史に実態以上にフォーカスが当たる面はあるにしても、よくここまで争い殺し合うことができるものだ、というのが率直な感想。

歴史の流れに応じて人物名を憶えるのは世界史を学ぶにあたっての関門の一つだが、高祖李淵、太宗李世民、高宗、武則天、玄宗、楊貴妃、安禄山、黄巣、朱全忠くらいの名は改めて頭に刻んでおこう。

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『まち(祥伝社文庫) 』 小野寺史宜

2023-12-19 22:29:00 | Books
「ひと」から「まち」へ。

前作『ひと』では、天涯孤独となり居場所を喪った主人公が、周囲の人の情に支えられ守られていく様が描かれたが、本作では既に仕事(引越しバイト)も居場所(アパート)もある主人公が、居場所において出会う人たちとの関係性を深めていく中で、その居場所に対する愛着をさらに増していくイメージの物語。

前作に感じた昭和の人情ものテイストは薄まり、昭和が完全に失われゆく今の時代の、人と人との距離感を踏まえたコミュニティのあり方を心地よく描いている。爽快さは同じでも、後味はややさらっとして落ち着いた感じがする。その分、読後にちょっと物足りなさを感じるのも確か。

体格に恵まれ屈強な若者である点は違っても、素直で誠実な主人公の人柄は前作と共通。善人が多く登場する中、嫌な奴がごく一部出てくる構造も踏襲されている。ちょっとショッキングな暴力の場面があるのは印象的。

都内でもかなり地味なイメージの江戸川区平井にフォーカスが当てられる。河川を中心に町のディテールが好ましく描かれている。

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『ひと (祥伝社文庫)』 小野寺史宜

2023-12-09 09:44:00 | Books
天涯孤独の身となった主人公の青年。非凡なところがあるわけではないが、とても素直、誠実。だからこそ、情の厚い周囲の人たちが自然と手を差し伸べてくれる。その中で細やかで健全なロマンスも生まれていく。

昭和の時代には数多存在した人情モノのフォーマットを現代に甦らせた感じ。

加えて特徴的なのは、地名や距離や移動時間、モノの値段、人の姓名などのディテールがとても丁寧に叙述されること。
そして登場人物たちが抱く感情や印象の機微も細やかに表される。例えば、好い人ばかりではなく2人ほどイヤな人物が登場するが、彼らのイヤさが客観的な言葉で的確に表現されるあたりとか。

何というか、世の中のサイレントマジョリティに響く感じの作品。自分も、ほっこりと心地よく読むことができた。

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