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キャッスル航空博物館~B-52「成層圏の要塞」

2015-02-12 | 航空機

去年の8月、カリフォルニア滞在中に車で約2時間南に下った
アトウォーターという内陸の町にある

キャッスル航空博物館

を見学してきました。

相変わらず遅々として進んでいませんが、時折こうやって
思い出したように
ここで見た航空機についてお話を続けています。
終わらないうちにまたもや別の航空博物館のシリーズが始まってしまい
尻切れとんぼに終わってしまいそうですが、努力はします。



キャッスル航空博物館は広大な飛行場後の敷地に軍用機中心に航空機が

常時60機以上展示してあるという米国でも有数の航空博物館ですが、
片隅にはこのような資料館もあり、こちらも大変充実しています。

冒頭写真は、当博物館室内展示のB−52コクピット。

 


博物館の外側に回ったところはこうなっています。
実際のB−52のコクピットの部分だけ切り取って、
博物館の建物に組み込んでしまっているんですね。
トレーラー状のものと溶接して室内から見学できるようにしてあります。



さすがに上空を飛んでいるかのようにコクピットを書き割りで囲む、
などという芸当まではできなかったようです。
こういう展示物は航空協会だけでは無理なので、常に寄付を募っているのですが、
有志企業によるドネートで展示物を制作するという例もあるようです。



CPTはコクピットのことです。
カウンティバンクという銀行による寄付による展示であると宣伝しています。

 

B−52は頭文字”B”、つまりボーイング社が開発しアメリカ空軍に採用された戦略爆撃機です。
愛称は「ストラトフォートレス」。
「ストラト」は「strategy 」、つまり「戦略」からきているのかと思ったのですが、
実は”stratosphire”から取った

「成層圏の要塞」

という意味なんだそうです。なるほどー。



ここの野外展示にもB−52がありますが、あまりの巨大さに
かなり離れないと全体の姿がフレームに収まりません(笑)

当航空博物館を俯瞰で示した案内図を見ると、展示航空機の中でずば抜けて大きく、
最も場所を取っているのが、


コンベアのRB-36H「ピースメーカー」。



次いでこのB−52です。
アメリカ軍が大陸間爆撃機の航続力に亜音速の速度性能を備えた
大型機を、冷戦下にソ連圏内の目標を爆撃するために開発しました。



実際にはベトナム戦争で冷戦時代予期していた核爆弾による攻撃ではなく、通常の絨毯爆撃を行い、
(アメリカ以外には)

「死の島」

と恐れられました。



冷戦下で、ソ連による奇襲核攻撃を恐れたアメリカは、
複数のB−52をつねに滞空してパトロールさせることにより、
万が一ソ連が核攻撃を行った場合にも航空機の全滅を避け、いつでも
報復核攻撃を可能としているというアピールをしていました。

つまり
B−52に核を積ませて常時4~5機国境圏内をうろうろ
させていたわけです。

そんなことして落ちたら危ないやないかい!

と思わず今頃突っ込んでしまったあなた、あなたは正しい。

実弾頭の核兵器を搭載してのパトロールは、一度ならず二度ならず
複数回、墜落事故を起こして その度に放射能事故にまで発展し、
そのうち最大の事故となった

チューレ空軍基地米軍墜落事故

では核弾頭が破裂、飛散して大規模な放射能汚染を引き起こし、
事故のあったグリーンランドを所有していたデンマーク政府との国際問題に発展するわ、
環境汚染は拡大するわ、除去作業に関わった作業員に賠償請求されるわで、 
これはもうソ連に取っては奇貨とでも言うべき敵の(
文字通り)
自爆だったわけですが、しかしさすがにソ連はこの事件をターザンの石と考えず、

「核戦争の危険を低減する方策に関する合意書」

に合意したため、両国で調印に至っています。
相手が腐っても文明先進国で、良かったですね。

めでたしめでたし。(棒)




通常爆弾が多数搭載できるように改造されたB−52。

これは、1956年、偵察機能を削除して長距離爆撃機に特化した機体で、B−52D(6モデル目)です。
ほとんどがベトナム戦争に投入されたもので、ここに展示してある機体もそうです。



同年代に制作されたB−52は170機と大量で、このキャッスル航空博物館始め
多くの機体が現在も展示保存されています。



大理石にみっちりと彫り込まれた気合いの入った碑文。

これはベトナム戦争でおこなわれた

アークライト作戦

の誇らしい説明文です。
グアムのアンダーセン空軍基地から飛来した27機がベトコンの拠点に対し
1,000ポンドおよび750ポンド爆弾による攻撃を行ったというもので、
おそらくベトナム人が見たらドン引きすると思われますが、
アメリカ人というのはほら、たとえばドゥーリトル空襲のことだっていまだにやたら誇らしげに語り、

「ドゥーリトル空襲記念日に皆で集まってパーティしよう!」

なんてやっちゃう国民ですから。
日本ほど自虐的になる必要はないけど、もう少しこのとき絨毯爆撃で亡くなった
非武装の民間ヴェトナム人に対して遠慮してもいいんじゃないかな、と思うの。




ここに展示されているこれらの爆弾も、そのときに使用したものを再現しているようです。
1965年から1973年までの間、「アークライト作戦」に従事したB−52は、
碑文によるとおよそ13万回に亘る出撃回数に90万の飛行時間、投下爆弾は900万発に及びます。



操縦士、レーダーナビなど最後のクルーの名前が刻まれています。
因みに操縦士はアル・オズボーン大尉、ナビはフレッド・フィルズベリー少佐。
ナビが機長より上官のようです。
真珠湾やマレー沖海戦のときの爆撃機も偵察が士官(真珠湾は淵田少佐)でしたが、
アメリカでもこういう組み合わせは少なくなかったようです。




それでは今一度室内展示に戻りましょう。
1957年の「ライフ」の表紙を飾るのは

「45時間で世界一周」

と言うタイトルがかぶせられたB−52の勇姿。
下のクルーの写真はやはり「ライフ」からで、レーダー・オペレータの中尉だそうです。
しかし、この模型を見ると、この機体の巨大さが改めてわかりますね。



このキャッスル航空博物館のあるのはアトウォーターという市ですが、
この「アトウォーター・シグナル」という新聞が伝えるのは、B−52の墜落事故のことです。



1956年の2月、カリフォルニアのストックトンとトレーシーの上空で
乗員8名のB−52ストラトフォートレスが爆発墜落、4名がパラシュートで脱出、
4名が殉職したという事故がありました。

8ヶ月前から運用されたこの機体の初めての航空事故で、
機長のフレミング少佐の遺体は散乱した機体とともに発見され、
遺体にはパラシュートを付けていた痕跡が あったことから、脱出時
パラシュートに火が燃え移り墜落死したことが判明しました。
フレミング少佐にはキャッスルガーデン(基地内の軍人用居住地?)に
妻と三人の子供 がいることなどがこの記事に書かれています。

ここに展示されているのは、生還した4人の一人で 後尾射撃手だった
ウィラード・ルーシー軍曹(写真)が事故時使用したパラシュートと、
そのときに被っていたヘルメットなどの装備品です。 



ハリウッド映画がここをロケ地として撮られたことがありました。
日本では上映されず、DVDも発売されていないのでご存じないと思いますが、そのものズバリ、

「B−52爆撃機」(Bombers B-52)



この映画の撮影は全てキャッスル空軍基地だった頃の当地で行われました。
導入されたばかりのB−52を実際に登場させる目的があり、
キャッスル空軍基地にはB−52の部隊が配備されていたからです。

この映画は、B−52が導入されようとしていたころのアメリカ空軍を舞台に、
機体のテスト飛行での危機に立ち向かうクルーと、彼らを取り巻く人間模様を描きます。



この出演者の中で日本人に有名なのはヒロインのナタリー・ウッドでしょうか。
「ウェストサイド・ストーリー」の出演と、その謎に満ちた死で有名な女優ですが、
(彼女は水死体で発見され、いまだに殺人事件であるという疑いは消えていない)
しかし、その他にもエフレム・ジンバリスト・Jr.などが主演しているというのに
どうしてこの映画が日本未公開であるのか全くの謎です。

ナタリー・ウッドはカール・マルデン演ずるベテラン曹長、ブレナンの娘、ロイスの役。
お約束ですが、父親の機のクルーであるニックネーム「ホットショット」
ジム・ハーリー中佐とお付き合いをしていて、案の定意味もなく反対されているという設定。

どうして曹長の部下に中佐がいるのかはわかりません(笑)



ブレナン機長たちが、B−52の導入を空軍にためらわせている技術的な問題を
何とかして解決しようと奮闘努力するというのが話のコアになっています。

ある極秘のテスト飛行で、空中給油の後に
コントロールパネルのショートから火災になったブレナン機。
自分の命を賭してクルーの命を救おうとしたハーリー中佐の姿を見て、
ブレナン機長は、娘との交際と、ついでに彼の技量を初めて認めるのでした。

・・・・ん?

この事故内容は、先ほど新聞記事になっていたアトウォーターでの事故と全く同じなんですが。

映画は事故の翌年の1957年の公開となっていますから、
空軍かボーイングか、あるいはそのどちらもが、
この事故後のB−52への世間の批判を払拭するために仕掛けたプロパガンダ目的の映画だったのかな、
sとふと考えたり。



衣装も靴も、アクセサリーですら皆展示されています。

館内ではDVDで映画が放映されていましたが、一種のパニック映画のような造りで、
特に事故シーンはなかなか面白そうだと思いました。

ブレナンが、好条件で民間飛行機会社からの誘いを受け、
彼が愛する空軍の生活と高報酬のどちらを選ぶか板挟みになる、というのが話のクライマックスのようです。

その結果はネタバレになるため英語版のWikipediaにも書かれていませんが、
常識的に考えれば彼がどちらを選ぶかは分かりきっています。
意表をついて案外あっさり高収入の道を選ぶ、というオチも案外アリかもしれませんが、
日本ではそれを知るすべはありません。


どなたかこの映画をご覧になったことがあればぜひ教えて下さい。
別にどうしても気になって仕方がないというわけではありませんが。