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親馬鹿ビジネス

2012-01-25 | つれづれなるままに

親にとっては子は宝。我が子はこの世で一番可愛いもの。
欲目も手伝って、実力以上に美少女、天才、芸達者であると思いたい、それが親の習性です。

冒頭の写真は、そういったある「親馬鹿親」が、
自分の娘を「美少女コンテスト」で優勝させるために製作した「プロモーション写真」。
宣材です。
これ・・・・・・どう思われます?
アメリカ人なので、本人や家族が見ることはまずないと思いますから言いますが、
一見可愛いけど、よく見ると全く普通の子じゃないですか?


アメリカのテレビ番組は、素人さんの実態を面白おかしく紹介し、
「こんな(面白い、馬鹿な、酷い、くだらない、可哀そうな)人が世の中にはいるんですよ~」
と、大衆の覗き見趣味をあおる作りのものが多い、と一度お話ししたかと思いますが、
「Toddlers & Tiaras」(幼児とティアラ)という、賛否渦巻くこの番組は、
ページェントと言われるコンテストに、親子鷹さながらの涙ぐましい情熱をかける人々を追った、
TLC(だいたいそうい番組はこの局)の人気?番組。

家族総出で、たかが業者主催のコンテストの勝利に邁進する馬鹿馬鹿しい努力と、無益な情熱。
「あー、こんな馬鹿な親にこんなことさせられて子供が可哀そう」
こんな馬鹿な人たちがいる、ということに、しかし視聴者はある優越感も感じつつ、
眉をひそめながらも、実はそのショウを楽しむという趣向です。

勿論アメリカでも、このようなコンテストそのものに「すぐやめろ」「即刻やめろ」と息巻く人々がいます。
子供の人権を無視していることと、このコンテスト常連の美少女が何者かによって殺害された
「ジョンベネ・ラムジー殺人事件」のようなケースにつながる「黒い部分」を懸念する人々です。

しかし、ジョンベネの事件以降も、なんら変わりなく、今日もこのコンテストは継続しています。




この番組について、そのうちまた書くつもりですが、
まあ、とりあえずこのお子たちを観てやってください。



どう思います?
金髪の西洋人、というフィルターを抜きにしても、繰り返しますが大したことないでしょう?
馬子にも衣装のもの凄い化粧と衣装で、まあ何とか見られる、というレベル。
いやむしろ、不自然なけばけばしい化粧、ただの「大人のミニチュア」の気持ち悪さ。
むしろ眉をしかめてしまう人の方が多いかもしれません。

しかーし。

「うちのケイティは、この世で一番可愛いの!
こうやってコンテストに出ることで、そのうちハリウッドの目にとまるかもしれないし」
このショウが、コンテストが今日も継続しているように、このようにまずあり得ない夢を見つつ、
せっせとこういうページェントにお金を貢ぎ続ける親がいるのです。
そして、そういう親馬鹿を食いものにするページェント、さらにそれを面白おかしくショウにして番組を作るテレビ局。

こういったビジネスをここでは「親馬鹿ビジネス」と称することにします。

親がこのような馬鹿げたことにお金を費やし続けるのは(人にもよるでしょうが)そのどこかに
「そのうちうちの子が認められたら、もしかしたらその投資を取り戻せるかもしれない」
というステージママの打算もあるのかもしれません。

マコーレ・カルキンの両親のように、あまりにも非常識な大金を息子が稼いだため、
人生を狂わせた人もいますが、この「左うちわ願望」が、彼ら「馬鹿親」をして、
これだけの情熱を傾ける原動力になっていることも否定できないのではないでしょうか。

「それはアメリカみたいな物質至上主義が大手を振っている国だからだろう、
さすがに、日本ではそんな一攫千金を夢見るような親はいるまい」
そう思ったあなた、甘い。
規模こそ違え、日本にも「親馬鹿ビジネス」は存在します。

アメリカから帰国してきたとき、息子は2歳でした。
アメリカ人やヨーロッパ人にとって東洋人の小さな子やあかちゃんは無条件で可愛いくみえるらしく、
どこにいっても可愛いと声をかけられたものですが、
「まあ、外国人から見るとそんなもんかもしれないわねえ」
くらいに思っていました。
男子ですし、人より多少可愛いといわれたからってそれが何、と思っていた(今も)のも事実。

帰国してすぐのこと、息子を連れて繁華街に出かけたTO、帰ってきてから
「タレント事務所の人に声掛けられた」
と名刺を見せます。
「お子さん、かわいいからタレントかモデルに登録しませんか、だって」
「ほー」
「話には聞いてたけど、本当にスカウトっているんだなあ」
(息子に)「ちょっと働いて、パパとママに楽させてくれる?」
「?」

その日はそれで話題として楽しんで終わり、また別の日。
「また声掛けられた」とお出かけから帰ってきて報告が。
「同じ人?」
「違う」
スカウトとうちの息子のバッティング率の高さ、そしてこんな世界があったのかということに軽く驚きつつ、
「銀座和光前で待ち合わせている間ににクラブのスカウトの名刺が山盛りになるお嬢さんの話」
が思い出されました。
そう言えば、昔大阪梅田キタを歩いているとき、何度かそういうこともあったなあ・・・(遠い目)

スカウトは声をかけるのが仕事。
そこで適性とか、本当に売れるかとか、そういった「事後」のことまで深く考えず、
ただひたすら数撃って当たるのを待っているわけですから、声をかけられたからと言って
「やっぱりうちの醇ちゃん(仮名)はかわいいんだわ!もしかしたらモデルになれるかもだわ」
とのぼせ上るほどおめでたくはないつもりでしたが、まあ、なんとしましょう。

「悪い気はしない」のですこれが。

この「悪い気はしない」程度の親馬鹿具合をも、日本の業者はうまく突いてくるものだと知ったのは、
この後、実際に今度はわたしと5歳になった息子がスカウトに遭遇したときのことです。

すれ違った女性が、息子に鋭い目を注いだかと思うと
「すみません、お急ぎですか?」
と声をかけて来ました。
わ、来た来た、と思っていると、案の定それは子供タレント事務所のスカウト。

たとえうちの子が、親の欲目抜きで、末は阿部寛か加藤雅也かというレベルだったとしても、
わたしは「そういう世界」だけには親としてかかわってほしくない、と望んでいます。
「もし興味がおありでしたら、事務所でお話を」の誘いにそのときうなずいたのは、好奇心から。
この世界がどういうものなのか垣間見られるかも、という興味です。
今にして思えば暇だなあと思いますが、時間もそのときはありましたしね。

  

そのときもらったパンフレットの表紙をご覧ください。
お子さんをモデルやタレント事務所に登録するのは、
決してあなたの見栄や親馬鹿ではないんです。
お子さんにはあなたも知らない才能が隠されているかもしれない。
当事務所はその才能を発見するお手伝いをしたいのです。
そしてその体験が、ひいてはお子さんの後の人生に大きく役に立ってくるのです。
そして、運が良ければ、テレビに出たり映画に出るといった貴重な体験もできます。
それはお子さんの人格を、大きく育てることになるのです。

とは、決して書いているわけではないのですが、つまりは、
親がこういうことに乗り気になるときにつきものの「やましさ」を、まず軽減するために、
上記のような美辞麗句的「大義名分」を用意してくれているわけですね。

「それでは、もし登録したいということになれば、どうなるわけですか?」
エージェントの女性、にこやかに
「まず、醇ちゃん(仮名)のアルバムを作ります。
たとえばCM製作者や番組の担当者に見せ、オーディションに参加するための宣材ですね」
はいはい。
「つきましては、撮影代と、アルバムの制作料、そして登録料が必要となります」
そうでしょうね。ではしめておいくら?
「6万円必要になります」
・・・・・・・。
やっぱりね。

たとえタレントやモデルとして売れても売れなくても、登録したいといってくる親はウェルカム。
オーディションに合格してもしなくてもエージェントは全く困りません。
画像右下の「レッスン」とやらで、未来のスターを目指してお金を落としてくれるんですから。

内心「やっぱりね」と思わずニヤニヤしてしまったのですが、
それですぐじゃまた、と引き上げないのがエリス中尉。さらに話を聞いたところ、
「がんばった思い出は、決して無駄にはならない」という例として、
何かの撮影に参加したある男の子、A君の話をしてくれました。

A君は、撮影当日高熱を出してしまいました。
しかしながらお父様はお医者さんなので解熱の注射を打ち、現地まで車でA君を搬送、
みごとその甲斐あって責任を果たし、
親は勿論A君自身もいまやその貴重な体験に感謝しています。

A君の親には悪いけど、たとえA君が駄目でも、いくらでも代りの子は用意できたと思うなあ。
ジェンナーじゃあるまいし、幼児である息子に解熱の注射をする父親っていうのも、
医者としてはともかく、親としてどうか?と思わずにはいられません。
息子が現場で昏倒でもしたら、親も周りもどうするつもりだったんでしょう。

そして次に、「私の子は特にかわいい」と思っている親ばかりが、
このエージェントに登録しているわけではありません、という例として、B君の話を。

B君は、いわゆる「いまどきの都会的な男の子」ではありません。
終戦直後、洟たらしてそのへんにいたような、もっさりした風体の子供。
当然、スカウトに誘われた親は
「何でうちのBみたいな子が?」と訝しく思いました。
しかし「元気な小学生、でも、洗練されていない、田舎っぽい雰囲気の子供が欲しい」
というある企画にうまくはまったため、B君は全国版の何かの広告に採用され、
その雄姿が一時あちらこちらの駅を飾りました。

親は勿論B君自身もいまやその貴重な体験に感謝しています。


「ですから、必ずしもかわいいとされるお子さんだけが必要とされているわけでもないんです」

なるほど。
確かに、映画でも何でも、美男美女だけでは成り立たない世界ですからね。
夜の世界のスカウトも「世の紳士が全て美女が好きなわけではない」という観点で、
声をかけるって言いますから。

親馬鹿ビジネスは、日頃「うちの子なんてとてもとても」と思っている親馬鹿でない親の、
潜在的親馬鹿心でさえも、こうしてくすぐり、お客として取りこんでいくもののようです。

散々他の子供の写真を見せられ、「考えてみます―」と、事務所を出てから、息子に一応、
「あんな写真撮ってほしい?」と聞いてみると、

「ぜ っ た い に い や だ !」


まあ、そう言うと思ったよ。