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空の神兵

2012-01-27 | 音楽

    

自宅に有線放送を引いています。
朝起きるとまずバロック音楽か、朝のクラシックBGM、OTTAVAというクラシック音楽番組。
めったにありませんが、家にいる午前中は作曲家別チャンネルなどを流しています。

夕刻から夜間にかけては気分によってコンテンポラリーなボーカル、
息子が好きなマイケルジャクソンや海外ラジオ(KOITが無くなって悲しい・・・)を。

ご存じのように「ゆうせん」は多様なジャンルに世界各国の音楽、あるいは
「羊の数」「般若心経」「アリバイ(街の雑音)」「軍艦マーチ」「心音」「ロッキーのテーマ」
など、まるでネタのようなチャンネルがあって、プログラムをザッピングしているだけで楽しめます。
ラジオ体操もわりと真剣にやってみたり。(結構な運動になりますよ)

ある日「おとぎの国の音楽」というタイトル発見。何かしら?と聴いてみると・・・・

「ネズミの国の音楽」でした。

「どんぐりの森のメロディ」
?何だろうと聴いてみると・・・・

「どんぐりを食べる森の中にいるお化けか妖怪のようなものが出てくるアニメを作っている
スタジオの作った一連の映画音楽を作曲している作曲家の曲」
でした。

・・・・セーフ?

前置きが長すぎるっ。
そして、当然のようにあるのが「軍歌、戦時歌謡」のチャンネル。
一度流しっぱなしにしていたのですが、いやー、いろいろあるものですね。
聴いたことのある軍歌なんてめったに出て来ない、というくらいの膨大な曲数です。
この曲数の多さ。
そりゃそーだ。
戦後封印されていたものの、国民一丸となって進め一億火の玉だをやっていたわけで、
当然のことながら音楽産業も戦意高揚にまた邁進していたわけですから。

数が多いだけあって玉石混交。
いかにもな「お上の意向にへつらい風」もあれば、音楽的なレベルの高さに思わず題を確認してしまう曲もあります。
(法人契約しているので、タイトルがウィンドウに表示されるのです)

一度、子供たちのかわいらしい声がピアノの伴奏で

「真珠湾の軍神がどうたらこうたら、敵艦に機体が突っ込み云々、仰げ特別攻撃隊~♪」


という歌詞を歌っているのでさすがにぎょっとして確認したら
「特別攻撃隊」という歌でした。
調べてみましたが、全く今日資料の残っていない曲のようです。

軍歌はもちろん、クラシック風、童謡風(大抵歌っているのは子供)、民謡、小唄風。
実にいろんなジャンルでこぞって日本バンザイ戦争ガンバレと歌っているわけで、これだけ膨大な
「戦意高揚、聖戦完遂、兵隊さんのおかげです」的戦争讃歌が残されているのを知るにつけ、
いくら負けたからって、戦後『騙されていた』なんて軍の所為にして、
「自分だけは戦争反対していた」風にしれっと振舞える日本人の掌の返し方、
あまりにも都合の良い変わり身の早さに鼻白む思いすらします。

それはともかく。
このように継続して軍歌ばかり聴いていると、必ずその異色さで音楽に耳を傾けてしまう曲があります。
それが、今日タイトルの
「空の神兵」です。

本日画像はアメリカ版「ライフ」に掲載された藤田哲描くメナド侵攻中の空挺部隊。
密やかに、息を殺して降下してくる白い落下傘が夢の中の景色のように幻想的に描かれています。

「藍より蒼き 大空に大空に たちまち開く百千の 真白き薔薇の花模様

見よ落下傘 空に降り 見よ落下傘空を征く  見よ落下傘空を征く」



「笹井中尉がMMだった話」
という稿で、セレベス島メナドに海軍横須賀鎮守府第一特別陸戦隊(海軍空挺部隊)
が奇襲落下傘降下を敢行し、その「白いものをかぶった天使」がオランダ軍を駆逐したため、
その御威光のおかげで笹井中尉が現地民に熱烈歓迎された、という話をしましたが、
1943年、スマトラのパレンバンにやはり降下して敵地制圧に成功した
陸軍第一挺進団挺進第二連隊とともに、この通称落下傘部隊は、その戦果からヒーローとなっていました。

梅木三郎の歌詞高木東六の作曲によるこの軍歌らしくない軍歌は、
同名の映画の主題歌にも採用され、そのモダンな曲調と
「藍より蒼き」「真白き薔薇の花模様」「純白の花背負いて」
蒼い空に開く落下傘を白い花に准えたそのビジュアル的な歌詞の斬新さでヒットしました。

「外国人の耳にも音楽的に最も優れた軍歌であると認識されているらしい」
という話を(出どころ不明ですが)聞いたことがあります。
アレンジもまた斬新で、間奏部分にグロッケンシュピールと、チューブラーベルズを効果的に使い、
これがいかにも空から降下してくる落下傘に相応しい響きに聴こえるのです。

ここで専門的なことを書きますが、


まし  ろ  き   ば    ―         ら     -   の 

     C   C/B♭  F/A  Fm/A♭ C/G  D/F#   G  


は   な   -  も   よ    う

G7/F    C/E    G7/D   C     D7      G7

 

というコード進行。(わかりやすいようにCメジャーで書きました)
と言われましても何が何だか、と言う方は
「一語につきコードがひとつずつ変化していっている」ことだけご注意ください。
音楽に詳しい方は、このベース部分が順次進行していることにお気づきでしょうか。

凡庸なアレンジャーならIとV和音の二回繰り返しで終わってしまうであろうこの部分のコード進行だけで、
「やるな」と同業者なら思うでしょう。
音楽的に高度なのはもちろん、曲に躍動感を与えているアレンジと言えます。
さすがにフランスで作曲を学び、オペラや協奏曲も作曲している純音楽の作曲家の手によるものです。

余談ですが、この曲以外に音楽的に優れていて汎世界的魅力があると思われるのは
「愛国行進曲」です。個人的意見ですがいかがでしょうか。


この曲を作曲した高木東六氏は、戦後もテレビでおなじみ、タレント的知名度がありましたが、
この「名戦歌」を作曲したことについてあるときは
「後からあんな歌詞を付けられて迷惑した」
しかしあるときは
「梅木さんの美しい歌詞を見たとたんさわやかなイメージが広がり、15分で書いてしまった」
と、全く矛盾することを語ってもいます。

おそらく、この二つの発言の間には時間の隔たりがあり、前者は戦後の国民の多くがそうであったように
「戦時のアリバイ」を主張したもので、真実は後者にあると思われます。
詩のリズムにあまりにも無理なく添ったメロディは、音楽的に見ても前者のように
全くゼロから歌詞より先に作曲されたとは到底思えません。

102歳まで生きた高木氏ですが、その長い人生の中で、自らの戦時中の所信所在について
何らかの「弁明」をしなくては社会的に気まずい、と思われる時代もあったのでしょう。

稿末に全歌詞を掲載しました。
この歌は陸上自衛隊第一空挺団の事実上の隊歌として、
何年か前までは富士総合火力演習などの降下展示の際、演奏されていたそうです。
しかし、先日購入した2009年度の総火練ではすでに別の曲になっていました。

残念です。


空の神兵      梅木三郎作詞 高木東六作曲

藍より蒼き 大空に大空に たちまち開く 百千の  真白き薔薇の花模様

見よ落下傘 空に降り 見よ落下傘 空を征く   見よ落下傘 空を征く



世紀の華よ 落下傘 落下傘  その純白に紅き血を 捧げて悔いぬ 奇襲隊

この青空も 敵の空 この山河も 敵の陣   この山河も敵の陣



敵撃砕と 舞い降(くだ)る 舞い降る  まなじり高きつわものの いずくか見ゆる幼な顔

ああ純白の花負いて  ああ青雲に花負いて ああ青雲に花負いて


讃えよ空の神兵を 神兵を 肉弾粉と砕くとも 撃ちてしやまぬ 大和魂(やまとだま)

わが丈夫(ますらお)は 天降(くだ)る   わが皇軍は天降る 我が皇軍は天降る