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映画「二世部隊~GO FOR BROKE!」

2012-01-23 | 映画



 






アメリカ陸軍442部隊を描いた映画は、わたしの知るかぎり3本あります。

ドキュメンタリー風の展開で、生存者の証言や、救出されたテキサス部隊やフランスの村、
強制収容所のユダヤ人などのインタビューが中心の「442日系部隊」
442部隊の生存者、レーン・ナカノが製作と主演をした「ブレイブ・ウォー」
そして、ハリウッドが1951年、MGM日本支社再開記念作品として作った、この
「二世部隊(原題GO FOR BROKE!)」

ほとんど無名の映画ですので、ご存じない方も多いと思いますが、
エリス中尉がこの映画をネタに漫画を二遍も製作してしまう、というあたりから、
個人的な気に入り具合をお察しいただけるかと思います。

冒頭取りあげた映画が、おのおの「ドキュメンタリー」と「シリアスな戦争ドラマ(トラウマ付き)」
であるとすれば、この映画は
「ディスカバー・ジャパニーズ・アメリカン」「日系人とはこんな人種!」
という(勿論好意的な)ディスカバリーチャンネルの民族発見モノのような作りと言えましょう。

アメリカ人にとって「アメリカ国民なのに日本人」という人種はこう見える、という可笑しみが満載。
彼らの受けるカルチャーショックと、後の「見くびっていてすまなんだ」的な価値観の逆転が、
日本人である我々にはなんとなく「そら見たことか」というような、いや、「ざまあみろ」でもなくて、
・・・・とにかく、胸がすかっとする痛快さを味あわせてくれます。


二世部隊の隊長に配属された、テキサス出身のグレイソン中尉。
チビのトミー、ウクレレばっかり弾いているカズ、寝室で賭けをする日系人の部隊にうんざり。
上官に配置換えを頼むも、すげなく断られます。

「先任伍長を紹介しよう。オハラ軍曹だ」
「オハラ!」

目を輝かせるグレイソン中尉。
「イエス、タカシ・オハラ」

orz ←グレイソン

日本語訳では「アイルランド系じゃないぞ」になっていました。
O’Haraだと思って喜んじゃったんですね、中尉・・・。


このグレイソン中尉を演じるのはヴァン・ジョンソン。
「東京上空30秒前」で、片足を失うローソン中尉を演じた、男前俳優です。
この、失礼ながら、ハンサムなのに妙に間の抜けたその雰囲気が、グレイソン中尉にピッタリ。
うんざりしながら訓練をするのですが、ところがなかなか彼らもしたたか。

適当にズルしたり、ジュードーで中尉を投げ飛ばしたりしながらも、真面目に訓練に耐えます。
そして、ヨーロッパ戦線へと送られるのですが、輸送船乗り込みの際の名簿の読み上げ、
これが、アメリカ人には一苦労。

「ナカシュ・・ナカスギ・・・・・ニシオカ」
「ウチガ・・ウチ」

オハラ軍曹「内垣内」
「ウチガキウチ」
「イキガーミ(池上)・・・・・・・カマクラ・・・・シマ・・・シマ」
オハラ軍曹「島袋天秀儀」「?」「シマブクロテンシュウギ」

「・・・・・・・・」(オハラ軍曹を見つめる)

そんな名前本当にあるか?
という突っ込みはさておき。
戦闘での働きにより、上層部の評価ウナギ登りの日系部隊に反して、
イタリア女の誘惑に負け、置いてけぼりになり叱られたりする愉快なグレイソン中尉。
しかし、彼らの勇気と実力を認め出すのに時間はかかりませんでした。

酒場で出会ったテキサス部隊の友人が「ジャップ」と言うと、血相変えて殴りつけます。
かつて自分が上官から言われた
「仏頭(Budda Head)でもなんでもいいが、ジャップと呼ぶな!
彼らはジャパニーズ・アメリカンだ!」

そのままのセリフでタンカを切りながら。

本当にあったことかどうかは知りませんが、ドイツ軍の諜報部が、
「こちら100大隊のリチャードソン大尉」と偽通信で位置を探ろうとしてくると、日本語で

「オイ、ナマエトカイキュウヲ イエ。 ニセイナラ、ニホンゴヲシャベレ」


まるで紫電改のタカのジョージ・モスキトンのような(ちょっと違うか)しゃべり方で撃退します。

厳しい訓練で部下をしごいていたグレイソン中尉がしょっちゅう耳にする言葉がありました。
「バカタレ」

何か注意すると「バカタレ」
文句を言うと「バカタレ」
が返ってくるのです。

士官に昇進した男前の日系人少尉、オハラに聴いても
「感謝しますという意味です」
いまいち納得いかないグレイソン中尉。

その後、グレイソン中尉は部隊と別れ、テキサス大隊に転属に。
そう、このブログでもお話しした失われた大隊(ロスト・バタリオン)
日系部隊の救出によって生還したテキサス大隊です。
山中で442らしき部隊に包囲された中尉、咄嗟に合言葉が出てきません。
「パスワードは?・・・ワン・ツー・スリー・・・・」万事休す。
咄嗟に口をついて出てきた言葉は

「バカターレ!」
「なーんだ中尉じゃないですかー!」

心から彼らを誇りに思うグレイソン中尉。
しかし、バカタレって、なーに?
「スチューピッドでフールってことですよ」
「俺には随分控えめな表現だな」


実は、この映画に出ている日系人たちは、一人の俳優(主役級のトミー)をのぞいて、
全員が第442部隊の生存者です。
冒頭紹介した「ブレイブ・ウォー」を製作したレーン・ナカノは、この映画で大学出のインテリ、
サムを演じています。

戦闘シーンも、仲間が戦死するシーンも(オハラ少尉は戦死する)あることはありますが、
全体的にコミカルなシーンが多く、戦争の悲惨さにあまり表現の中心を置いていないので、
どちらかというと「面白く」観られる映画であると思います。

レーン・ナカノが、後年「ブレイブ・ウォー」で、
戦闘で心に負った深い傷から立ち直れない442部隊の元兵士を描いたのは、
もしかしたらこの映画「二世部隊」にたいして、
「俺たちの戦いはこんなものじゃなかった」というアンチテーゼでもあるのかもしれません。

今どうなっているかはわかりませんが、ケン・ワタナベが、第442部隊をテーマにして、
アメリカで映画を作る計画がある、という噂を耳にしました。
これまでの、どの映画にも属さない、新しい切り口の映画になることを期待したいと思います。


 

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