今年はいつになく早い開花宣言、それなのに今日は雪がぱらついて、行きつ戻りつが激しい春。
詩とファンタジー No.33
投稿詩とイラストレーション
かまくら春秋社
特集:小田和正の時を超えた歌
これまで季節ごとだった発刊が今号から年2回に。これを機にアップするのは止めにしようと思っていたのだけど…
残しておきたい一遍がありました。読み進める先が想像する通りで意外性はないけれど、しっくりきて、また情景も見ているかのように想像できる作品。
日常生活の中で、遠くにあっても色々な表情を見せる海を無意識に目にしている身としては、白波が立つと「今日はうさぎが飛んでいる」と思うのです。
海に放つ
TAKAKO
無数のうさぎたちを
海に放つために
夜の浜辺に連れてゆく
砂防堤を越え
砂浜に下り立てば 彼らは
ためらいもなく波打ち際に走りより
沖に向かって泳ぎ始めるのだ
振り返るものはなく
引き返すものもいない
波間をさんさんと進んでゆく白い背中
まるで降り積もった雪のような水面(みなも)
やがて 海の向こう側へと
潮が引くように白い影は消えてゆき
海面は元通りの暗いほら穴になる
見送った風は
少しだけ年老いて戻ってくる
すべてのうさぎを解き放った私は
ただ
自分だけを解き放つことができずに
海の果てを見つめたまま
いつまでも浜辺から立ち去れないでいる
絵 Mogu Takahashi