詩とファンタジー No.30 春翼号
投稿詩とイラストレーション
かまくら春秋社
30号記念特集:おかあさんって、あったかい
30号目! やなせさんも天国で目を細めているでしょう。
表紙には寺山修司の似顔絵とともに短い詩が。
大工町寺町米町仏町 母買ふ町 あらずやつばめよ
これはどういうこと? なんだか苦しいですね~
母親のことを書いた詩はどれも心を打つ。
二編、記します。
あと何回
平田俊子
小さい頃は「ママ」だった
反抗期には「クソババア」
その後はずっと「おかあさん」
「おっかさん」と呼んだことは一度もない
世界中におかあさんはたくさんいる
わたしが「おかあさん」と呼べるのはひとりだけ
二十七歳違えば価値観が違う
生意気盛りのわたしは
しょっちゅう口答えしたし
家にいる母を物足りなく思った
そとで働くお母さんにあこがれた
歳月は恐るべきスピードで過ぎていく
専業主婦の母が
専業未亡人になって はや二十年
二児の母だった人は
あっという間にひとり暮らしの老人になった
ひとりでも買い物にいき 料理を作り
ひとりで食べて眠る八十七歳
母が健康なのをいいことに
頼られないのをいいことに
娘は遠くの町に住み
自分の暮らしにかまけている
あと何回「おかあさん」と
呼べるだろうとどきどきしながら
おかあさん おっかさん
やっぱり おかあさん
あと何回、私もかつて同じことを思った。
母親になり「おかあさん」と呼ばれ、やがて「うるせークソババア」の洗礼を受け「かあさん」におさまった。
その我が子も、あと何回…と同じことを思う日が来るんだろうなぁ。
家路
みなみくみこ
夕暮れになると
有線放送で
ドボルザークの
「家路」が流れる
羊飼たちが
羊を集める
ホルンのメロディを聴くと
私もどこかへ帰りたくなる
生まれて育った家にいるというのに一体
どこに帰るというのだろう?
台所の窓からみると
バットを背負った中学生が
自転車で
背を丸めて帰って行く
若かった父と母の待つ家
母の作ったあたたかい夕食のある家
きっと
私は中学生になって
帰って行きたいのだ
ひゅーい 箭内道彦 絵・山口はるみ
思い出 青木純 絵・軽部武宏
今回で三回目になるショートファンタジーの入選作品は、毎回温かいストーリーで気持ちがほぐれ、楽しみが増えた。