なぜ不活化ソークワクチン(Salk vaccine、1955年、米国の細菌学者Jonas Edward Salkが開発したワクチンで、ポリオウイルスをホルマリンで不活性化したものを筋肉内に注射して用いる)が失敗したか、そういうことが過去にありますから、そういうことも含めて、やはりきちんとしたものを押さえておく必要があるのではないかと。
1981年8月27日に、金沢大学の「馬淵 宏」氏らは、アメリカの医学雑誌「The New England Journal of Medicine」に、コンパクチン(ML-236B)を7名の家族性高コレステロール血症(ヘテロ接合体)患者に投与し、経過を観察したところ、LDLコレステロールは劇的に低下し、その一方で、HDLコレステロールは低下しなかったことを“Effects of an Inhibitor of 3-Hydroxy-3-Methylglutaryl Coenzyme A Reductase on Serum Lipoproteins and Ubiquinone-10 Levels in Patients with Familial Hypercholesterolemia”として発表します。
ニューヨークタイムズは、この報告を“New Drug May Prevent Hardening of Arteries”というタイトル(見出し)で記事にします。
A new drug made from penicillin reduces levels of cholesterol in the blood and may prevent hardening of the arteries, an underlying cause of the heart attacks and strokes that kill 800,000 Americans a year, researchers say.(ペニシリンから作られた新薬は、血液中のコレステロール値を減少させ、年間80万人のアメリカ人が亡くなる心臓発作や脳卒中の根本的な原因である動脈硬化を防ぐことができる、と研究者は述べている。)
A study shows that the experimental drug compactin is effective in people with an inherited defect that produces high cholesterol levels in the blood and leads to premature heart disease.(研究は、血中コレステロール値を上昇させ、心臓病にかかる年齢を早めてしまう不全な遺伝子を持つ人々に、実験薬「コンパクチン」が効果的であることを示している。)
The new study was directed by Dr. Hiroshi Mabuchi at Kanazawa University School of Medicine in Japan and was published in the current issue of the New England Journal of Medicine.(この新研究は、日本の金沢大学医学部の馬淵宏博士により主導され、 the New England Journal of Medicineの最新号に掲載された。)(馬渕宏氏は、現在、金沢大学大学院医学研究科脂質研究講座特任教授)
肝臓でのコレステロール合成が抑制され、肝臓内のコレステロール含量が低下すると、肝臓の調整機能が働き出し、LDL受容体の発現が誘導され、肝細胞膜のLDL受容体が増加しで、外部から肝臓内にコレステロールを取り込もうとします。血液中のコレステロール含有率の高い(コレステロールを50%ほど含む)LDL(Low Density Lipoprotein、低比重リポタンパク)の肝臓への取り込みが促進されます(HDL、IDL、VLDLといったリポタンパクはコレステロールの含量が22~30%程度)。そして、血液中のコレステロールが減少していきます。
馬渕 宏氏の発表した論文には次のような記述があります。
Serum cholesterol decreased from 390±9 to 303±8 mg per deciIiter, and serum triglyceride decreased from 137±18 to 87±9 per deciliter. Intermediate-density-lipoprotein(IDL) cholesterol,IDL triglyceride, low-density-lipoprotein(LDL) cholesterol, and LDL triglyceride decreased significantly. However,there were no significant changes in very-low-density-lipoprotein(VLDL) cholesterol and triglyceride or high-density-lipoprotein(HDL) cholesterol.(血清コレステロールは、390±9 mg/dLから303±8 mg/dLに、血清トリグリセリドは、137±18 mg/dLから87±9 mg/dLに減少した。IDLコレステロール、IDLトリグリセリド、LDLコレステロール、LDLトリグリセリドは有意に減少した。しかし、VLDLコレステロール、VLDLトリグリセリド、HDLコレステロールには有意な変化はなかった。)
いまから半世紀ほど前の1966年に一種の報奨としてアメリカの「アルバート・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine、大学院大学“graduate school”)」に2年間留学した遠藤氏は、高血圧、肥満、糖尿病、動脈硬化といった生活習慣病の時代に入っていたアメリカで、「コレステロールに気をつけよう」という公共広告をテレビで見、コレステロール含量を表示している食品を目にします。
アメリカに「退役軍人省(United States Department of Veterans Affairs、VA)」という退役軍人に関わる行政を所掌している官庁があります。退役軍人省の下には「退役軍人保健局(Veterans Health Administration)」があり、およそ160の退役軍人用の医療施設、850以上の診療所を有して、およそ500万人に医療サービスを提供しています。退役軍人省は、「規範的老化研究(Normative Aging Study、NAS、規範的加齢研究)」に収集したデータを提供しています。
心臓病学を扱った医学雑誌(online)“The American Journal of Cardiology”(アメリカ心臓病学ジャーナル)に“Relation Between High-Density Lipoprotein Cholesterol and Survival to Age 85 Years in Men (from the VA Normative Aging Study)”(85歳までの男性におけるHDLコレステロールと生存率の関係(退役軍人対象の規範的老化研究から))という記事が掲載されました(2011年)。この研究は、中年時に測定したHDL-C値が85歳まで生存するのにどのような影響があるかを検討したものです。
ステロイド骨格(steroid、cyclopentanoperhydrophenanthrene、シクロペンタノペルヒドロフェナントレン)は、3つのシクロヘキサン環と1つのシクロペンタン環からなる4縮合環炭素構造です。このステロイド骨格にヒドロキシ基(OH基)が結合したものが「ステロール (sterol、ステロイドアルコール、steroid alcohol)です。そして、このステロールの一つが、コレステロール(cholesterol)です。フランスの科学者「フランソワ=プルティエ・ドゥ・ラ・サール(François Poulletier de la Salle、フランソワ=ラサール)」が1769年に胆石からコレステロールの固体を初めて同定します。それを、フランスの科学者「ミシェル=ウジェーヌ・シュヴルール(Michel Eugène Chevreul)」が1815年にギリシア語の“chole-”(胆汁)と“stereos”(固体)から名付け(最初は「コレステリン(cholesterine)」だったそうな)、化学構造がアルコール体であるため、“-ol”が付けられているのだそうです。