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 神経組織は体の中に張り巡らされた電線です。そこを通って、いろいろな情報が行き来しています。この電線は私たち脊椎動物では神経細胞(neuron)からできています。神経細胞はいくつもの樹状突起(dendrite)を持っていて、そこから軸索(axon)という神経繊維が伸びています。軸索のまわりには、髄鞘(myelin sheath、ミエリン鞘)という鞘のようなものが巻き付いています。



 「脱髄疾患(demyelinating disease)」という疾患があります。神経繊維に巻きついている髄鞘が脱落する疾患をいい、髄鞘が脱落すると、情報の伝導速度が遅くなり、いろいろな神経症状が引き起こされます。漏電しないように導体(「軸索」)が絶縁体(「髄鞘」)で覆われていたものがその被覆が取れて、電気が漏れ出した状態になってしまうのです(情報の伝導速度を大幅に上昇させている「跳躍伝導(saltatory conduction)」が行われなくなる)。

 この脱髄疾患が中枢神経系に起ったものに「急性散在性脳脊髄炎」があり、末梢神経系に起ったものに「ギランバレー症候群」 があります。急性散在性脳髄炎(acute disseminated encephalo myelitis、ADEM)とは、中枢神経系の脳や脊髄を覆っている髄膜という膜が炎症を起こすもので、ウイルス感染後やワクチン接種後に生じることのあるアレルギー性の脱髄疾患です。ギランバレー症候群(Guillain-Barré syndrome、GBS」とは、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる脱髄疾患で、これもウイルス感染後やワクチン接種後に生じることがあります。

 ギランバレー症候群で思い出すのが「大原麗子」さんです。2009年8月3日に、不整脈による内出血で亡くなった大原麗子さんは、1999年から2000年にかけて、「ギランバレー症候群」の治療のために芸能活動を休止しています。また、2008年11月には四肢に力が入らなくなる病気であるギランバレー症候群の影響で、足元がふらついて自宅で転倒し、右手首の骨折と膝の打撲という重傷を負っています。

 インフルエンザワクチンに限らず、ワクチンの接種でショック、アナフィラキシー様症状(蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫など)や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などが副作用(副反応)で起ることがあります。ADEM(エイデム)という脳症は、以前の日本脳炎ワクチンでは、200万回接種に1例ほどが発生すると言われていたようです。この確率で言うのならば、2,000万回以上の接種が行われた「新型インフルエンザワクチン」では、ワクチンの種類が違いますが、10例ほどの発生があることになります。

 蚊(コガタアカイエカ)を媒介(ブタ→蚊→ヒトという感染経路)とした重症脳炎である「日本脳炎(Japanese encephalitis)」は、2005年5月から接種を勧奨しないことになって以来(2010年4月1日、勧奨に戻った)、5年以上が経過していることから、再び日本脳炎が流行する(1966年以後、日本の患者数は激減し、近年では数10人以下。アジア各国では患者の多くは15歳以下だが、日本では高齢者に多い)のではないかと懸念されています。

 近年報告された患者の年齢は、65~69歳が最も多く、40歳以上が約85%を占めています。若年では、2006年に熊本県で3歳児、2007年に広島県で19歳の発生、2009年に高知県で1歳児、熊本県で8歳児が報告されています。2010年は8月時点で報告なし。日本脳炎ウイルスは、アジアに広く分布していて、その患者の実数は把握されていませんが、WHOの推計によると世界で数万人が発症し(感染してもその殆どが発症しない(不顕性感染))、このうち20~30%ほどが死亡しているといいます。

 日本脳炎ワクチンは、第1期初回として2回接種を行い、さらに第1期追加を行うことにより基礎免疫ができます。我が子「健人」は、1歳8か月前後に第1期初回の2回接種を受けていますが、第1期追加(第2期)を受けていません。公費での接種が受けられる第2期対象年齢(9歳~12歳)から間もなく外れる我が子は、タイやベトナムなど日本脳炎患者の多く出ている国に旅行に出かけることがあることから、ワクチン接種を急がなければなりません。

 阪大微生物病研究会が製造し、田辺三菱製薬株式会社が販売している「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン(ジェービックV)」は、日本脳炎ウイルス北京株を狂犬病ワクチンの製造用細胞として実績のあるVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)で増殖させ、得られたウイルスを採取し、ホルマリンで不活化した後、硫酸プロタミンで処理し、超遠心法で精製し、安定剤を加え充填した後、凍結乾燥したものだそうです。



 阪大微生物病研究会(「微研」)のいままでの日本脳炎ワクチン「ビケン」は、材料にマウスを使用していたことから、マウス脳由来成分の残存を完全に否定できないということがありました。この問題点を解決したのが、「ジェービックV」で、チメロサール等の保存剤を一切使用していません。微研のインフルエンザHAワクチンは、3種類あり、「ビケンHA」(1ml)では保存剤として「チメロサール」を使用しているのですが、「フルービックHA」(0.5ml)と「フルービックHAシリンジ」(0.5ml)は保存剤を使用していません。

 話が自分の関心事にずれていってしまったので、元に戻します。平成22年8月25日に開催された「平成22年度第1回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」の資料、「推定接種者数及び副反応報告頻度について」に、「ギランバレー症候群(GBS)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の可能性のある副反応報告」があります。

 20歳代の女性の「ワクチン接種の副反応としては否定できない。ギランバレー症候群の可能性あり。」とされたケースです。

 ワクチン接種前…体温36.6℃。新型インフルエンザワクチンと季節性インフルエンザワクチンを同時接種。
 ワクチン接種5日後…起床時より視界のぼやけ感を自覚し、見えにくさと共に持続。
 ワクチン接種10日後…両手首以遠のしびれ感出現。その後、上行し、両肘以遠のしびれ感出現。瞳孔散大、対光反射低下も出現。
 ワクチン接種11日後…しびれが両肘まで上行。受診し、瞳孔散大あり、対光反射低下あり、頸部及び頸椎のMRI異常なし、伝導速度検査にてF波低下より、フィッシャー症候群
(ギランバレー症候群の亜型とされる疾患で、上肢の運動麻痺はないという点でギランバレー症候群と異なる)疑いと診断。メコバラミン(手足の痺れや痛みを伴う末梢性神経障害の治療に広く用いられる)処方。
 ワクチン接種15日後…受診し、瞳孔散大、対光反射は改善、しびれ上行は回復。
 ワクチン接種21日後…フィッシャー症候群疑い軽快。


 糖尿病などの既往症のある70歳代の女性の「副反応としては否定できない。ADEM(急性散在性脳脊髄炎)の可能性を否定できない。」とされたケースです。

 ワクチン接種より前1ヶ月以内…季節性インフルエンザワクチン接種。
 ワクチン接種前…体温35.8℃。
 ワクチン接種3日後…急性散在性脳髄膜炎(ADEM)が出現し、入院。左半身の痙攣発作と意識消失が5分間持続。その後、回復するも、同様の発作が出現。一過性脳虚血発作が出現し、転院。CK値224IU/L。エダラボン、オザグレルナトリウム
(脳虚血症状の改善を図る)を投与。
 ワクチン接種4日及び5日後…5~10秒間の痙攣が出現。ジアゼパムを投与するも、全身痙攣は持続。バルプロ酸ナトリウム、フェニトイン・フェノバルビタールを投与。全身痙攣は持続し、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム
(運動機能障害および感覚機能障害を有する急性脊髄損傷患者の神経機能障害の改善を図る)、リドカインを投与。
 ワクチン接種13日後…痙攣は消失。左片麻痺あり。ステロイドパルス療法の実施、抗痙攣剤の投与にて痙攣発作の間隔延長。
 ワクチン接種14日後…痙攣完全消失。左片麻痺持続。
 ワクチン接種16日後…左片麻痺回復傾向。
 ワクチン接種17日後…左上肢に軽度の麻痺が残る。
 ワクチン接種26日後…左片麻痺は次第に回復。全快し、退院。ADEMは回復。


 先行感染がなく、妊婦健診を受け、妊娠経過は順調であった40歳代の妊婦の「GBS/ADEMとして否定できない」とされたケースです。

 ワクチン接種9日後(妊娠24週6日)…両上肢遠位部の表在感覚低下を認める。
 ワクチン接種10日後…両下肢の脱力が出現し、起立困難となった。
 ワクチン接種11日後…嚥下障害が出現。
 ワクチン接種13日後…両上肢の脱力も出現し入院。四肢遠位筋主体の脱力、感覚障害、四肢反射消失、両側顔面神経麻痺、球麻痺を認め、神経伝導検査では四肢遠位潜時延長、MCV低下、下肢でF波出現頻度低下、髄液検査にて細胞数0mm3, 蛋白135mg/dl、以上よりギランバレー症候群と診断。抗ガングリオシド抗体、ガングリオシド複合体に対する抗体は陰性。
 ワクチン接種14日後…この日よりγグロブリン療法を計3回実施。また、メコバラミン製剤を投与開始した。
 ワクチン接種15日後…呼吸麻痺出現し、人工呼吸器管理となった。
 ワクチン接種45日後…人工換気から離脱し、スピーチカニューレを挿入し、症状改善傾向であり、歩行器使用ではあるが、歩行可能、自力での食事も可能となった。胎児の発育は順調であり、異常も認められていない。主治医は、ワクチン接種とギランバレー症候群との因果関係は否定できないと考えている。


 「脱髄疾患」は、ワクチン接種後すぐに現れるものではなく、この3つのケースだけで言うのならば、3~9日後と言えます。それ以前に現れた類似の症状は、GBSやADEMなどの「脱髄疾患」を否定できるようです。専門家によって、GBSやADEMであることを否定できないとされたケースは、2,000万人を超える接種者のごく少数で、数例です。

 日本脳炎の「感染」で「発症」する場合は、1%を切ります(多くは感染しても発症しない。それゆえ、年齢がいくと感染して免疫を持つ者が増える。日本脳炎発症者の多くが免疫を獲得していない若年層である)が、それでも、我が子には、あと数ヶ月以内に日本脳炎のワクチン接種を受けさせます。このきわめて稀なケースにならないことを祈るばかりです。

 リスクを回避するために新たなリスクを負う、というのは辛いものがありますが、人生というものは、二者択一の問題を解いて行くことでもあるのでしょう。

                  (この項 健人のパパ)

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