POWERFUL MOMが行く!
多忙な中でも,美味しい物を食べ歩き,料理を工夫し,旅行を楽しむ私の日常を綴ります。
 





 赤血球に含まれる「ヘモグロビン」の構成物の一つにヘムがあり、その分解代謝物にビリルビンがあります。ビリルビンは、胆汁や尿から排出されますが、異常に濃度が上昇することがあり、それは何らかの疾病への罹患を意味しています。ビリルビンの濃度が上昇して、眼球や皮膚といった組織や体液が黄色く染まった状態を「黄疸(おうだん。jaundice、ジョーンディス)」といいます。

 黄熱(yellow fever)は、発熱を伴い、重症患者に黄疸が見られることから、「黄」+「熱」と命名されています。黄熱は、黄熱ウイルス (yellow fever virus) を病原体とする感染症で、黄熱ウイルスは、フラビウイルス科(Flaviviridae)のフラビウイルス属(Flavivirus)に属します。この学名の由来は、黄熱ウイルスにちなんでおり、ラテン語の“flavus”(フラーウゥス)は、黄色または橙色の意味です。

 大豆などに含まれ、女性ホルモンの「エストロゲン」と似たような作用を持つといわれている「イソフラボン (isoflavone)」にも、“flavo-”という語幹が含まれています。また、植物体を太陽の紫外線から守る役割をしており、黄色などを発色させる植物色素に「フラボン (flavone)」がありますが、これにも“flavo-”という語幹が含まれています。

 話しを戻しますが、フラビウイルス属には、黄熱ウイルス以外に、日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus)やウエストナイルウイルス(west Nile virus、西ナイルウイルス)があります。このいずれもが蚊を媒介として、ヒトに感染するウイルスです。黄熱は、ネッタイシマカ (Aedes aegypti、エイイーディーズ・イージプタイ) などの蚊によって媒介されるウイルス感染症です。

 国立感染症研究所 病原微生物検出情報 (IASR) 2013年8月号によると、黄熱(黄熱病)は、「感染すると無症候の場合もあるが、通常ウイルス曝露後3~6日で発症し、発熱、筋肉痛などの非特異的症状が急激に始まる。一時緩解した後、15%のヒトでは2~24時間後に症状が再燃し、腎不全、黄疸、出血傾向、心筋障害が起こる。肝腎不全に至ると、20~50%が通常発症から7~10日で死亡する。」とあります。

 ネッタイシマカは、一般的には“yellow-fever mosquito”(黄熱蚊?)と呼ばれており、学名“Aedes aegypti”は、「エジプト縞蚊(しまか)」といったところでしょうか。“aedes”(エイイーディーズ)は、ギリシア語を語源とするらしく、「嫌な(hateful)」、「嫌で堪らない(repulsive)」という意味を持つようです。洋の東西を問わず、吸血する蚊は嫌われ者なのですね。ちなみに、英語“mosquito”は「小さなハエ」というだけの意味を、中国語「蚊(蚊子、wenzi、2-軽声)」はその羽音(昔の音は、wenでなくbun?)という意味を持っているようです。

 双翅目カ科ヤブカ属シマカ亜属は、胸部の背面などに白い縞模様(白条)があることから、縞蚊(しまか)と呼ばれ、昼間に活動して吸血します。ネッタイシマカのほかに、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus、エイイーディーズ・アルボウピクタス、その見た目から tiger mosquito(タイガー・モスキートウ))、その生息場所から forest mosquito(フォレスト・モスキートウ))などがいます。“albopictus”は、「白条」を意味し、学名も「一条縞蚊(ひとすじしまか)」といったところです。

 ヒトスジシマカ(Asian tiger mosquito)は、アメリカ合衆国にも生息範囲を広げており、合衆国の東半分の州にはすでに生息しているといいます。ハワイ州を除くアメリカで、ヒトスジシマカが最初に発見されたのは、テキサス州ヒューストンで、1985年。すでに30年ほどが経っています。日本や台湾から輸入された古タイヤとともに、侵入してきたといわれています。

 あるサイトでは、“In the United States, the Asian tiger mosquito may spread diseases such as West Nile fever and encephalitis.”(アメリカで、ヒトスジシマカは、ウエストナイル熱やウエストナイル脳炎のような感染症を広げるかも知れない)と述べています。

 国立感染症研究所の感染症情報「ウエストナイル熱/ウエストナイル脳炎とは」によると、「ヒトにおける潜伏期間は3~15日である。感染例の約80%は不顕性感染に終わる。発症した場合多くは急性熱性疾患であり、短期間(約1週間)に回復する。一般的に、3~6日間程度の発熱、頭痛、背部痛、筋肉痛、筋力低下、食欲不振などがみられる。皮膚発疹が約半数で認められ、リンパ節腫脹を合併する。 時にデング熱と似た熱型を取る。」、「重篤な症状を示すのは感染者の約1%といわれている。これらは主に高齢者にみられ、致命率(患者数に対する死亡者の比率。致死率ともいう)は重症患者の3~15%とされる。アメリカ合衆国の患者のデータでは、筋力低下を伴う脳炎が40%、脳炎が27%、無菌性髄膜炎が24%にみられている。」と述べられており、また、

 「媒介蚊は主にイエカの仲間であるが、我が国では、日本脳炎のベクター(媒介動物)であるコガタアカイエカやヤマトヤブカなどもなり得ると考えられる。本ウイルスが本邦に侵入すると、蚊や鳥を介して広範囲に拡がる可能性がある。」、「ウエストナイルウイルスは成熟期のメス蚊の吸血時に増幅動物である鳥類に伝播され、腸で増殖後、唾液腺へ運ばれる。鳥類は曝露に続いて1~4日の間にウイルス血症を起こす。流行には渡り鳥の存在や感染蚊の移動の関与が示唆されている」という記述もあります。

 アメリカなどでウエストナイルウイルスの媒介が可能であるとされた蚊は、アカイエカ(house mosquito、culex、キューレックス)、ネッタイイエカ(southern house mosquito、culex quinquefasciatus、キューレックス・クウィンケファシエイタス、「5つ帯の家蚊(いえか)」といったところでしょうか)、コガタアカイエカ、ヒトスジシマカ、ネッタイシマカ、キンイロヤブカ、ヤマトヤブカなどであり、このうちのネッタイシマカを除けば、すべて日本に存在する蚊です。ウエストナイルウイルスは、日本脳炎ウイルスが、主にコガタアカイエカが媒介するのとは異なり、いろいろな蚊によって媒介されるのです。

 日本脳炎のワクチンを接種している私は、蚊に刺されることは、それほど気にはしていませんでしたが、蚊に刺されると刺された場所が大きく腫れるため、蚊に刺されることを極端に嫌う妻のように、これからは黄熱ウイルス(ワクチンはあるが、日本では一般的でない)、デングウイルス(ワクチンは開発の最終段階だが、まだ上市されていない)、ウエストナイルウイルス(ワクチンはない)などへの感染を防ぐため、蚊の活動する季節は蚊に刺されないように虫よけのスプレーをして、外出すべきなのでしょう。

(参考) 「感染患者報告数の少ない日本脳炎の予防接種は受けるべきではないか?

 2007年の生活衛生((社)大阪生活衛生協会(2011年に解散)が出版) Vol.51 No.4に掲載された「日本人はウエストナイルウイルスに交差免疫を持つか」(大阪市立環境科学研究所研究主幹「今井長兵衛」(現在:千里金蘭大学生活科学部食物栄養学科教授)著)には、次の記述があります。

 「ウエストナイルウイルスに対する交差免疫機能を期待できる日本脳炎抗体を保有する住民は年を追って減少しており、とりわけ大都市において、その傾向が著しい。したがって、ウエストナイルウイルスが不幸にして日本に侵入したときには、全国民、とりわく都市住民がウイルスの危険にさらされ、少なくとも日本脳炎抗体を保有していないヒトの間でウエストナイルウイルスが猛威を振るう恐れがある。

 ハムスターの感染実験で、日本脳炎ウイルスを接種した個体にウエストナイルウイルスを接種したところ、抗原抗体反応が起こったという報告があります。このことは、日本脳炎に感染した経験があれば、ウエストナイルウイルスに対して、発症予防の効果があるということになります。

 このような「交差免疫反応」は、抗体の側に「特異性の低さがある」(譬えれば、欧米人にはアジア系の人種を見分けることが難しくて、日本人もベトナム人も中国人と思ってしまうようなもの)、抗原の側に「抗原性の類似がある」(譬えれば、日本人の中にも韓国人や中国人に極めて似た面立ちの人がいるようなもの)ときに起こります。

 「ウエストナイルウイルスの日本侵入経路の一つとして、ウイルス感染渡り鳥のカナダ南部・米国北部からの渡来が懸念されていた。ところが、2005年になって新たな事実が判明した。シベリア東部のウラジオストック周辺で2003年から2004年に死亡した野鳥からウエストナイルウイルスが検出されたというのである。シギ・チドリやカモなどの大部分の渡り鳥の繁殖地であるシベリア東部にウエストナイルウイルスが常在するとなれば、ウイルス感染渡り鳥の飛来経路が短縮されるばかりでなく、個体数も劇的に増加する可能性がある。

 「日本脳炎ワクチンによる西ナイルウイルの感染に対する交叉防御」には、「沖縄本島では156人の被検血清の96%はJEV中和抗体陽性であり、抗体陽性者の55%からWNV交差中和抗体が検出されている」という報告があります。これをどう読むかというと、沖縄本島で、156人から血清を調べさせてもらったところ、150人は日本脳炎ウイルス(Japan Encephalitis virus, JEV)に対する抗体を持っており、その中の85人の血清はウエストナイルウイルス(West Nile virus, WNV)に対しても反応したということです(65人の血清は抗原抗体反応は起こらなかった)。

  -この記事は、徐々に記述していきます-

 2014年9月8日配信の産経新聞の記事からです。

 厚生労働省は9月8日、新たに東京都内でデング熱6人の感染者が確認されたと発表した。いずれも最近の海外渡航歴はなく、東京・代々木公園とその周辺を訪れていた。重い症状の患者はいないという。国内での感染者は計80人となった。

 厚生労働省によると、新たにデング熱と確認されたのは東京都の20代~60代の男女6人。デング熱の国内感染が確認された後に代々木公園を訪れて感染した人はいない。


 国立感染症研究所の報告した「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月8日)」によると、第75症例(40代男性、発症日8月29日、潜伏期間6日)、第76症例(20代男性、8月31日、不明)、第77症例(30代女性、8月28日、5日)、第78症例(40代男性、8月12日、5日)、第79症例(60代男性、不明、不明)、第80症例(20代男性、8月31日、不明)の6症例です。

 2014年9月8日配信の産経新聞の記事からです。

 静岡県疾病対策課は9月8日、県東部に住む50代の男性からデング熱の感染が確認されたと発表した。男性は8月30日に1人で代々木公園を訪れており、最近の海外渡航歴はないため公園付近で感染したとみられる。県内でデング熱の感染者が確認されたのは初めて。

 静岡県疾病対策課によると、男性は今月5日に38度以上の発熱や頭痛などの症状が表れ、自宅近くの医療機関で受診。9月8日になっても熱が下がらなかったため、再び同じ医療機関で受診していた。男性は胸部や腹部などに発疹がみられ、「代々木公園でトイレを利用した」「公園内で蚊に刺されたかもしれない」と話したため血液検査をしたところ、デング熱の感染が確認された。


 これが第81症例になるのでしょうか。50代男性、発症日9月5日、潜伏期間6日になります。

(追記‐2014年9月9日) 2014年9月9日配信のJNNニュースからです。

 「デング熱」の国内感染で、初めて東京以外で感染したとみられる患者が報告されました。厚生労働省によりますと、千葉市・稲毛区に住む60代の男性は8月31日、発熱や倦怠感の症状が出て、9月8日、「デング熱」の感染が確認されました。現在は入院中で容体は安定していますが、この男性は「代々木公園」や、その周辺など、最近、東京都内を訪れたことはないということです。

 男性は、稲毛区内の社会福祉施設に住んでいて、この施設の周辺で感染した可能性がありますが、今のところ男性以外に入所者の感染は確認されていません。千葉市と厚労省は施設周辺の蚊の調査を行い、感染場所の特定を進めています。これでデング熱の国内感染者数は9月9日までに、合わせて86人となりました。


 そろそろデング熱も終息するのではないかと考えていたのですが、新たな展開になってしまいました。(追記-2104年9月10日) 厚生労働省はこの症例について「9月9日に公表した、千葉市稲毛区在住のデング熱の患者については、国立感染症研究所におけるウイルス解析の結果、この患者から検出されたウイルスの血清型は、デングウイルス1型であり(デングウイルスには、DEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4と4つの型がある)、遺伝子配列は、代々木公園周辺、新宿中央公園、神宮外苑又は外濠公園への訪問歴のあるデング熱の患者から検出されたものと一致しました。」と9月10日の報道発表資料で述べており、同時多発でなかったことになります。今のところ、代々木公園に端を発しており、それが各場所に、例えば、新宿中央公園に広がったと考えられます。

 ここまで追記を加えたところ、展開が早くこの記事が実際に起きていることに追いついていけなくなっています。千葉県に住む50代男性が、勤務先の東京都台東区松が谷周辺で蚊に刺され、デング熱に感染したとみられるのだそうです。また、神奈川県在住の20代男性は、東京都千代田区の外濠公園か港区の青山公園で感染したとみられるそうです。このウイルスも遺伝子配列が感染場所が代々木公園のウイルスと一致するのでしょうか。(追記の終わり)

 「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月9日)」によると、第82症例(10代男性、発症日8月30日、潜伏期間不明)、第83症例(40代女性、9月1日、11日)、第84症例(50代女性、9月5日、不明)、第85症例(20代女性、9月5日、9日)が新たにデング熱の発症者として追加されており、千葉市・稲毛区の60代の男性の発症は第86症例として、9月10日に発表になるのでしょう。

 デング熱は「ヒトが感染しても、発症する頻度は10%~50%」であるとされています。つまり、1人発症すると、その周辺に1人から9人ほどの感染しても発症しなかった人(不顕性感染者)がいることに理屈的にはなります。しかし、不思議なことに、報道ではデング熱の発症者の周辺に感染者はいません。8月25日から代々木公園北側の宿泊施設に滞在していた、デング熱を発症した大阪府高槻市の10代女性3人(発症はそれぞれ8月30日、8月31日、9月1日)を含むグループ24人のうち半数以上が「蚊に刺されたと思う」と話しているという報道があったのですが、このグループからの発症者はそのあとに報告されず、また感染者の報告もありません。

 これまでに80人を超えるデング熱の発症者が報告されています。ならば、感染者10人に発症者は1人(10%)であれば、800人ほどが感染しているはずであり、感染者2人に発症者1人(50%)であれば、160人ほどが感染しているはずです。報道が過熱して、住民に冷静さを失わせて、パニックを作り出すと考えて、保健衛生関係者は報道への通知を控えているのでしょうか。(追記の終わり)

                     (この項 健人のパパ)



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 平成26年8月27日に、厚生労働省健康局結核感染症課から、各都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部(局)長に向けて、健感発0827第1号「デング熱の国内感染症例について(第一報)」が発出されます。

 日頃から感染症対策への御協力を賜り厚くお礼申し上げます。
 今般、さいたま市内の医療機関から、さいたま市衛生主管部局を通じ、海外渡航歴がないにもかかわらず、デング熱(四類感染症)の感染が疑われる患者(別添1)について情報提供があったことから、国立感染症研究所において確認検査を実施したところ、デング熱の患者であることが確認されました。
 患者には海外渡航歴がないことから、国内でデング熱に感染したと考えられます。現在、さいたま市は、厚生労働省及び関係自治体と協力して、疫学調査(患者の周辺者等における症例探索等)を実施しているところです。
 つきましては、本事例(デング熱の国内感染事例)について、貴管内の医療機関等の関係者へ情報提供するとともに、海外渡航歴がない場合であっても、平成26年度厚生労働科学研究が取りまとめたデング熱診療マニュアル案(別添2)等を参考の上、デング熱が疑われる症例については、検査の実施を検討するよう注意喚起をお願いします。また、デング熱の国内感染が疑われる事例については、速やかに保健所への情報提供を行っていただくよう協力要請をお願いします。


別添1「患者に関する情報」には次のようにあります。

・ 患者は、埼玉県在住の10代女性。東京都内の学校に在学中。
・ 海外渡航歴無し。
・ 8月20日、突然の高熱により、さいたま市内の医療機関を受診。同日入院。
・ 8月25日、デング熱の国内感染疑い事例について医療機関から情報提供を受けたさいま市から、厚生労働省に一報あり。
・ 8月26日、患者の血液検体を国立感染症研究所に搬入し、デング熱について検査を実施したところ、同日、デング熱陽性の結果が得られた。


 伝聞なのですが、このさいたま市の医療機関の医師は、過去にデング熱の患者を診たことがあり、10代の女性の症状を見て、デング熱を疑ったといいます。あるデータによると、日本における現員医師数は16万7千人ほどだといいます(非常勤を含む。届出医師数は30万人ほど)。デング熱輸入症例が急増し始めた2001年から2014年8月15日までの累計が1524例になることから、医師の引退などによる入れ替わりなどを考えずに大雑把にとらえて、医師の100人に1人ほど(0.9%)しかデング熱の患者を直に診たことがないことになります。

 ここでもしもの話しをすることになるのですが、この医師にデング熱の診察の経験がなかったならば、発熱に対して、解熱剤のアセトアミノフェンなどを処方して、終わってしまっていたことになったかも知れません。やがて、どこかの医師によって別の患者がデング熱であることが気づかれることでしょうが、その時は広範にウイルスが拡散してしまっていたことでしょう。そうなれば、国内感染の初発事例の感染地を特定することは難しくなります。または、10月の中頃を迎えて、ヒトスジシマカの成虫が寒さのために死に絶えて、デング熱の流行があったことすら気づかれずに終息していたかも知れません。

 気づかれずに終息するということは、デング熱はそれほど恐れる必要のないウイルス感染症であるとも言えます。インフルエンザウイルスは、接触感染、飛沫感染、飛沫核感染(空気感染)しますから、混んだ通勤電車の中に、インフルエンザの発症者がいて、マスクもせずに咳をしていれば、その周辺の乗客にインフルエンザウイルスを感染させる可能性は大きいと言えます。その発症者が鼻をかんだ手で吊り革をつかめば、そこにウイルスは残ります。実際、そのようにしてインフルエンザは流行していきます。しかし、デング熱の発症者が満員電車に乗っていても、そこに蚊が介在しなければ、デングウイルスをその周辺の乗客に感染させることは皆無です。

 知ることは恐れを少なくします。そこで、国立感染症研究所 病原微生物検出情報 (IASR) 2007年8月号掲載の2つの報告「輸入デング熱62症例の臨床的特徴について」(東京都立駒込病院や国立感染症研究所など)と「国立国際医療センターにおける輸入デング熱症例の臨床的検討」(国立国際医療センター国際疾病センターと国立感染症研究所)を読んでいくことにします。「輸入デング熱62症例の臨床的特徴について」は、1985年から2000年の間に診断された、62例のデング熱患者の症例を調査したものです。

 デング熱の発症は、「突然の発熱」から始まります。しかし、発熱はデング熱発症に特有の症状ではありません。インフルエンザなどでも高熱を経験します。



 TBS系「王様のブランチ」(毎週土曜、9時30分~14時)のレポーター「紗綾」さんは、8月21日の午後、代々木公園でロケをしていて、蚊に刺されたのが原因でデング熱に感染したそうです。紗綾さんのブログでは、9月27日の記事に

お盆の時に風邪を引いて、熱が出て…

昨日からまた熱が。

高熱でフラフラです…

前回の熱が比にならないくらいきつーい。

すぐに喉が渇くし、水分が手放せません。

さぁ!!

みずみずしい梨を食べて、薬飲まなきゃ!!


とあります。これによると、発症したのは8月26日で、潜伏期間は5日。「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月2日)」(PDF)における第23症例に該当します。

 9月5日のブログでは、

報道でご存知の方もいらっしゃると思いますが、私はデング熱になり、入院をしておりました。

やっと退院しました。

今回、突然高熱が出て、初めはただの夏風邪だと思っていました。

しかし、詳しく検査をして貰い、デング熱だと判明しました。

自分がデング熱!?と、初めは信じられませんでしたが、ネットで調べてみると症状が全く同じでビックリしました。

私の症状は、血小板や白血球の数値が下がり、40℃前後の高熱が続き、頭痛、眼痛、倦怠感、腹痛、寒気、発疹、かゆみ、浮腫みと、どれもすごく辛い症状でした。

症状で眠れない日もありました。

病院に入り、日が経つごとに容態も良くなり、少しずつ回復して来ました。


とあり、高熱に頭痛が伴ったと報告しています。「国立国際医療センターにおける輸入デング熱症例の臨床的検討」は、2005年1月から2006年12月までの2年間に国立国際医療センター国際疾病センター渡航者健康管理室を受診した日本人海外渡航者で、病原体診断または血清学的にデング熱・デング出血熱と診断された16例を対象として検討したもので、その報告を読むと、発熱の続く期間は、不明の1例を除く15症例をそれぞれ見ていくと、5、5、8、5、5、5、5、5、5、5、6、6、6、4、6日と、5日から6日ほどになります(平均有熱期間は、5.4日)。発症から受診までの期間は、治癒後検査のために受診した2例を除いて、2、5、5、5、5、6、6、6、3、4、5、2、8、7日と、これも5日から6日ほど。突然の発熱でデング熱は発症するわけですから、最近の海外渡航歴があって、なかなか熱が引かないので専門の医療機関を受診したということなのでしょうか。「16症例」では、半数の症例が発疹の出現を契機に国際疾病センター渡航者健康管理室を受診していたとあります。

 頭痛の出現割合は「62症例」では、90%ですが、「16症例」では、発症時に発熱とともに頭痛が伴った例は16症例中10症例で、63%であり、この場合は3人に2人ほどしか頭痛が出現しなかったことになります。データによっては、必ずしもデング熱の発症で頭痛を伴わないことがあるのです。「16症例」では、渡航者健康管理室での受診時に頭痛が残っていた例は、14症例中6例であり、43%と低くなります。発症から5日ほど経つと頭痛が引いてしまう人もいるわけです。デング熱を起こすデングウイルスには、D1(DEN-1)からD4(DEN-4)まで4つの型があります。「16症例」での、デングウイルスの型は、DEN-1が3例、DEN-2が3例、DEN-3が4例、DEN-4が1例でした。型によって、発熱以外の症状に違いがあるのでしょうか。



 発疹の出現を契機に医療機関での再度の受診を考えるという傾向があるとすれば、「62症例」では発疹は84%であり、「16症例」では50%です。「16症例」では、症状が数日(5日ほど)経っても緩和されないことで、医療機関を変えて再度受診したというケースもあります。8月26日に突然の発熱でデング熱を発症した紗綾さんは、発症3日めの29日に再び発熱し(発熱は2~7日間持続し、二峰性であることが多いと言われている)、「目の奥が痛い」と訴えた(頭痛?眼窩痛?「眼窩痛」は「62症例」では44症例中24症例で55%の割合で起こっている)ため、30日に再度診察を別の病院で受けます。この時にはデング熱の国内感染は報道されていました。医師はデング熱に感染した疑いがあると判断することになります。



 「62症例」では、41例において麻疹や風疹に類似した、主に四肢に分布する発疹がみられ、発熱が出現してから、平均5.7日後に出現したと報告しています。発疹が見られた症例では、ほとんどの例で解熱時に発疹が出現したということです。平均有熱期間は、5.4日というデータがあることから矛盾はありません。

 紗綾さんは、「血小板や白血球の数値が下がり」と述べていますが、10万/μL以下の血小板減少が「62症例」では57%に、「16症例」では、14症例中の86%にみられたと報告しています(PLT。血小板(platelet)の数が減少すると、 出血しやすくなる。基準値は15万~35万個/μL)。白血球減少は、「62症例」で71%(3,500/μL以下)に、「16症例」で79%(3,000/μL以下)にみられたと報告しており、殆どのケースでWBC(白血球数、white blood cell count)が異常値を示すことになります(基準値は3,500~9,800/μL)。「62症例」では、白血球数および血小板数の平均値は、発症後10日以内に正常化したと報告されています。

 アスパラギン酸とα-ケトグルタル酸をグルタミン酸とオキサロ酢酸に相互変換する酵素である「AST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素、aspartate aminotransferase)」は、肝臓に多く含まれる酵素で、肝障害を知る手がかりになります。ウイルスの増殖などの何らかの異常で肝細胞が破壊されると、ASTは血液中に漏れ出します。健常者であれば、ASTは血清中には非常にわずかな量しか存在しない(基準値は、30 IU/L以下)のですが、溶血性疾患などの障害で異常値を示すことになります。「16症例」では、発症してから5日ほど経ってからの採血で、14症例の平均で94 IU/Lを示したと報告されています(最低で31、最高で342 IU/L)。「64症例」では、11 IU/L以上であった者は78%いて、平均では 82 IU/L(最低で13、最高で375 IU/L)だったといいます。このAST値の平均値が正常化するには3週間以上を要したと報告されています。

 デング熱の症状が「発熱」(100%。62症例/62症例)、「頭痛」(90%。54症例/60症例)、「筋肉痛」(60%。31症例/49症例)、「寒気」(56%。28症例/50症例)であるとするならば、インフルエンザの症状と大きく変わりません。ヒトスジシマカの成虫が活動する時期(5月頃から10月頃)に、蚊に刺されてから4日ほど(「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月4日)」)(PDF)のデータでは、潜伏期間の最短は第7症例(10代男性)、第22症例(10代男性)、第25症例(20代女性)の4日であり、最長は第13症例(30代女性)の13日。この症例だけが10日以上である。多くは5日~7日)経ってから高熱が出たならば、診察を受ける際に、医師に蚊に刺されたことを告げるのがいいでしょう。デング熱として治療を受けずに、熱が下がる前後に発疹が出たならば、再度受診して、やはり蚊に刺されていることを告げることが必要でしょう。

 デング熱への感染を防ぐには、これからは、私たちは公園などの樹木の多い、蚊に刺されそうなところに出かけるときは、虫よけスプレーをして(肌が露出している部分はもちろん、衣服の上からも。かつ、こまめにかけられるように持って)出かける必要がありそうです。高熱と頭痛などに苦しみたくはないですからね。

 多国籍製薬会社サノフィ(Sanofi S.A.)のワクチン事業部門である「サノフィ・パスツール(Sanofi Pasteur)」は、現在、デング熱のワクチンを開発中だといいます。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によれば、アジアでの研究結果では、開発中ワクチンのデング熱に対する予防効果はデング熱の型(血清型、serotype)によって異なり、DEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4に対する効果はそれぞれ50%、35%、78%、75%だといいます。今回の日本でのデング熱の国内感染のウイルスの型はDEN-1。50%の予防効果しかないことになります。このデング熱のワクチンは、早ければ2015年に東南アジアで使用できるようになるかも知れないそうです。

(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(1)

(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(2)

                     (この項 健人のパパ) 

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 日本には存在しない(または稀な)感染症で、海外旅行者が渡航先で感染し、自国に帰国するときに持ちこまれたものを「輸入感染症(imported infectious disease)」といいます。海外渡航先での食べ物や水、または蚊に刺されたことなどが原因で感染し、帰国後に発症します。国立感染症研究所感染症情報センターは、輸入感染症を旅行者感染症として、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス・パラチフス、デング熱、マラリアなどを例示しています。

 輸入感染症の1つにデング熱があります。2014年のデング熱輸入症例は第33週(8月15日現在)で98症例で、インドネシアからの輸入症例が多いといいます。日本国内でのデング熱とデング出血熱の発生は、2007年…89例、2008年…104例、2009年…92例、2010年…244例、2011年…113例、2012年…220例、2013年…249例あったのですが、今年2014年は8月15日までで98例になっているそうです。



 統計上は、輸入感染症としてのデング熱の最近の年間発症例数は200例強ですが、デング熱に特有の症状はないために、ほかの感染症と考えられて、治療が行われている場合も可能性としてあります。国立感染症研究所のページには、「デング熱を疑う患者の診断指標」が掲載されています。

 Aの2つの所見に加えて、Bの2つ以上の所見を認める場合にデング熱を疑う。
  A)必須所見
   1.突然の発熱(38℃以上) 2.急激な血小板減少(10万/μL以下)
  B)随伴所見
   1.発疹(発病数日後、解熱傾向とともに出現する場合が多い)
   2.悪心・嘔吐
   3.骨関節痛・筋肉痛
   4.頭痛
   5.白血球減少
   6.点状出血(あるいはターニケットテスト陽性)
  C)除外指標;CRPが10mg/dL以上の場合は、まず細菌感染その他の検索を優先してください!!


(注) ターニケットテスト(tourniquet test、止血帯試験)では、血圧を計る要領で、上腕部に止血帯を使って一定の圧力を加えておき、前腕に点状の出血班が見られるかどうかを判定する。毛細血管透過性亢進の有無(デング熱では毛細血管の透過性が増す)と血小板の機能低下の有無(デング熱では急激な血小板減少がみられる。血小板の基準値は、13万~35万/μLほどで、10万/μL以下で血小板減少症、40万/μL以上で血小板増多症とされる)をみる検査方法である。(注の終わり)

(注) CRP(C-reactive protein、C反応性蛋白)は、体内で炎症反応や組織の破壊が起きているときに血中に現れるタンパク質で、その産生量は炎症反応の強さに相関することから、血清中のCRPを定量して炎症反応の指標とすることができる。細菌感染では上昇しやすく、ウイルス感染では強い発熱を伴って発症するものでも上昇はわずかである(アデノウイルスなど一部のウイルス以外)。一般的な基準値は、~0.3mg/dLで、軽い炎症などが疑われる場合で、0.4~0.9mg/dLである。デング熱は強い発熱を伴うウイルス感染症であるが、CRPのそれほどの上昇はみられない。(注の終わり)

 2014年9日1日配信のNHKニュースからです。

 8月、国内でおよそ70年ぶりに感染が確認されたデング熱に、新たに東京などの19人が感染したことが国立感染症研究所の検査で確認されました。厚生労働省によりますと、全員が8月、東京の代々木公園付近を訪れていたということで、厚生労働省は発熱などの症状が出た場合は医療機関を受診するよう呼びかけています。

 デング熱はアジアや中南米など熱帯や亜熱帯の地域で流行している蚊が媒介する感染症で、ヒトからヒトには感染しません。8月、東京の代々木公園を訪れていた東京や埼玉の男女合わせて3人が、およそ70年ぶりに国内でデング熱に感染したことが確認されています。その後も症状を訴える人が相次ぎ、国立感染症研究所が検査したところ、東京や神奈川など6つの都県の合わせて19人がデング熱に感染したことが確認されたということです。これで今回国内でデング熱への感染が確認されたのは、合わせて22人となりました。いずれも重症ではなく快方に向かっているということです。

 厚生労働省によりますと、感染が確認された人は全員が8月、東京の代々木公園付近を訪れていて、最近1か月以内の海外への渡航歴はないということです。厚生労働省は「いずれも代々木公園付近で蚊に刺されたことが原因とみられる。蚊はあまり移動しないため、今のところ感染が大規模に広がることは考えられない」として、冷静な対応を求めるとともに、発熱などの症状が出た場合は医療機関を受診するよう呼びかけています。

 厚生労働省によりますと、新たにデング熱への感染が確認された19人の内訳は、東京都が13人、神奈川県が2人、埼玉県と千葉県、茨城県と新潟県がそれぞれ1人ずつとなっています。これまでに東京都で1人、埼玉県で2人の合わせて3人の感染が明らかになっていて、感染が確認されたのは合わせて22人となりました。年齢は10歳未満の子どもから50代までの男女となっています。


 国立感染症研究所の報告した「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ」(PDF)によると、デング熱の発症日で最も早いのが、8月16日の東京都の20代男性と埼玉県の10代男性の2人。ともに、8月9、10日に代々木公園を訪れています。潜伏期間は6日ないしは7日。最も遅いのが、8月27日の千葉県の50代男性で、代々木公園周辺に8月15~18、21、23~25日と8回訪れ、8月23日に蚊に刺されたと申告しています。潜伏期間は4日。

 10歳未満の子供もデング熱の発症者の中にいます。東京都の男の子です。8月16日に代々木公園に行き、蚊に刺され、その5日後の8月21日に発症しています。子供がデング熱にかかった場合、その症状は一般的に大人の場合よりも軽く、快復も早いと言われていますが、生命を脅かすデング出血熱に発展する可能性が大人の場合よりも高いようです。

 テレビのロケ中にデング熱に感染した女性タレントの2人は、厚生労働省が発表した22人には含まれていないようです。そうだとするならば、24人がすでにデングウイルスに感染したことになります。デングウイルスを持った蚊が1匹だけでは、これだけの感染者が出るというのは考えにくい。ヒトスジシマカは2~3日おきに吸血し、また、集団でヒトを襲います。海外で感染し日本に入国した人をかなりの数の蚊(数十匹?)が刺して(デングウイルスのキャリアとなったその人物は数回、代々木公園の数か所を訪れ、そのたびに蚊に刺されたのかも知れません)、その体内にウイルスを取り込み、その蚊の数匹ずつが日を分けて(例えば、少なくとも8月10日、11日、16日、17日、18日、20日、21日、23日。「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ」から推測した)、かなりの数のヒトを襲ったことで、感染がこれほどの広がりを見せていると考えるべきでしょう。

 デング熱を起こすデングウイルスには、D1(DEN-1、DENV 1)からD4(DEN-4、DENV 4)まで4つの型がありますが、今回の国内感染の事例すべてがD1であったようです。8月に入って、デング熱を発症した輸入感染症の患者からは、D1(旅行先はそれぞれインドネシア・ギリ島、インドネシア・スンバ島)とD2(バングラディッシュ、インド)という2つのタイプが確認されています。

(追記‐2014年9月2日) 2014年9月2日配信の時事通信の記事からです。

 厚生労働省などは9月2日、新たに大阪府や青森、愛媛両県などに住む14人のデング熱感染が確認されたと発表した。いずれも最近の海外渡航歴はなく、東京・代々木公園周辺を訪れていた。これまでに22人の感染が確認されており、感染者は10都府県の計36人になった。

 厚生労働省などによると、14人は未就学児から50代までの男女で、東京7人、大阪3人、青森、新潟、山梨、愛媛各1人。訪問日が確定できない3人を除き、8月5日~26日に代々木公園周辺を訪れており、8月14日~9月1日に発症した。

 発熱や頭痛などの症状があったが、重症化した人はおらず、容体は安定しているという。


 国立感染症研究所の報告した「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月2日)」(PDF)(愛媛県と新潟県各1人のデータは未掲載)によると、2日の追加発表分で、デング熱の発症日で最も早いのが、8月14日の東京都の20代女性で、8月10日に代々木公園及びその周辺を訪れています。潜伏期間は4日。最も遅いのが、9月1日の大阪府の10代女性で、代々木公園に8月25、26日に訪れたが、蚊に刺されたかはわからないと答えています。潜伏期間は6日または7日。大阪府高槻市保健所によると、デング熱に感染していたのは、この女性を含めた大阪府高槻市の10代女性3人で(発症はそれぞれ8月30日、8月31日、9月1日)、現在、入院中だが、容体は安定しているといいます。この3人を含むグループ24人は8月25日から代々木公園北側の宿泊施設に滞在し、25日の夜と26日の朝、代々木公園近くで軽い運動をし、26日午前には代々木公園内を歩いたと申告しているようです。24人のうち半数以上が「蚊に刺されたと思う」と話していることから、発症していない人も経過観察しているということです。平均的な潜伏期間(4日から7日)から考えると、感染していたとしてもこのグループからの発症はこれ以上なさそうです(不顕性感染)。

 厚生労働省などが9月2日に発表したところによると、新たに大阪府など6都府県の計14人について、デング熱の感染が確認され、その居住別の内訳は、東京都7人、大阪府3人、青森、山梨、愛媛、新潟県各1人。愛媛県の10代の少年は、高校の合宿で8月5~13日に代々木公園周辺に宿泊し、8月6日は代々木公園内をランニングしたといいます。愛媛県の少年と同じ合宿に参加した29人のうち、10代の少年1人にも発熱や発疹の症状があるため、国立感染症研究所でデング熱への感染の有無を検査するということです。

 新潟市保健所によると、8月16日から18日にかけて、代々木公園周辺の宿泊施設に滞在しながら、100人以上が参加する説明会に参加していた新潟市の10代の女性は、8月24日に発熱の症状を訴えて新潟市内の医療機関に通院したが、熱が下がらなかったため、5日後に入院し、その後、発疹やむくみの症状が出たが、回復したため、9月1日に退院したそうです。新潟市の研究所が検査したところ、デングウイルスの遺伝子が検出され、感染が確認されたということです。新潟県では、8月20日に代々木公園周辺を通った新発田市の10代男性が、8月24日にデング熱を発症しています。

 さらに、岡山県倉敷市保健所によると、8月中旬に代々木公園内を通ったと話している東京都内の大学に通う20代の男性が、帰省先の倉敷市で受けた血液の迅速検査でデング熱陽性と判明し、国立感染症研究所に確認検査を依頼しているそうです。

 デング熱の代々木公園での感染は、まだまだ広がりそうです。しかし、医療水準が高く、衛生環境の良好な日本において、致死率の低いデング熱をそれほど恐れる必要はありません。問題は、蚊が媒介するウイルス感染症がデング熱だけではないということです。蚊媒介感染症(mosquito-borne infection)は、感染症法上、全数届出疾患のうち四類感染症の対象とされています。対象疾患は、ウエストナイル熱、チクングニア熱、デング熱、日本脳炎、マラリアの5疾患があります。日本には、日本脳炎ウイルスが常在しています。日本脳炎(Japanese encephalitis)は、感染しても発症するのは100~1,000人に1人程度で、大多数は感染しても発症しません(不顕性感染)。しかし、発症したときの致死率は20~40%といわれています。日本脳炎ウイルスに感染しているブタなどを吸血したコガタアカイエカがヒトを刺すことによって感染します。

(参考) 「感染患者報告数の少ない日本脳炎の予防接種は受けるべきではないか?

 ウエストナイル熱(West Nile fever)は、2014年8月26日現在、アメリカでは、カリフォルニア州(93人)、ルイジアナ州(43人)、テキサス州(30人)、サウスダコタ州(22人)など34の州と地域から12人の死亡を含む297人の患者(髄膜炎もしくは脳炎のような神経侵襲性疾患(neuroinvasive disease)を起こしたのは、そのうち53%ほど)がCDC(アメリカ疾病対策センター)に報告されているといいます。医療水準の高いアメリカで、このデータからはその致死率は4%ほど。25人に1人は死に至ることになります。日本では、2005年8月24日に出国し、8月28日から9月4日までロサンゼルスに滞在後、9月5日に帰国した30代男性が、ウエストナイル熱を発症しています。帰国時に発熱及び頭痛、その後発疹しました。9月7日に近くの医療機関を受診し、さらに9月10日、川崎市立川崎病院を受診することになります。ELISA試験で、ウエストナイルウイルスに対する特異的IgM抗体陽性となりました。中和試験でも、ウエストナイルウイルスに対する特異的中和抗体を認め、ペア血清で4倍以上の上昇があったようです。その後回復したそうです。ウエストナイル熱の潜伏期間は3〜15日で、感染しても発症しないことが多く、発症する人の割合は5人に1人ほど(約20%)です。

 ウエストナイルウイルスはカラスやスズメなど鳥の体内で増殖し、その血液を吸った蚊に刺されることで、人に感染します。

 デング熱の予後(病気が治った後の経過)は、比較的良好だといわれています。後遺症を伴うことは殆どないのです。それに対して、日本脳炎やウエストナイル脳炎などの脳炎を起こすウイルス感染症は非常に恐ろしい病気です。神経系を標的として感染し、その機能に障害を与えるので、後遺症を伴いやすく、後遺症が残った場合は深刻な状態になります(ウエストナイル熱の発症者の100人に3人ほどがウエストナイル脳炎を起こすと言われている。日本脳炎は発症者の5人に1人は亡くなり、5人に1人は後遺症が残り、完全に治癒するのは5人に3人ほどだという)。(追記の終わり)

(追記‐2014年9月3日) 厚生労働省などは9月3日、新たに北海道や千葉県など4都道県の計12人について、デング熱の感染が確認されたと発表しました。いずれも8月に代々木公園やその周辺を訪れていました。これで、国内の感染者は11都道府県の計48人になりました。

 厚生労働省などによると、12人は10代から70代の男女で、居住別の内訳は東京都9人、北海道、千葉県、山梨県各1人。重症者はなく、入院中の患者を含めて全員快方に向かっているといいます。

 北海道の患者は40代の女性で、8月22日に代々木公園の周辺で蚊に刺され(代々木公園に隣接する明治神宮で、蚊に刺されて感染したものとみられている)、8月29日に発熱や頭痛を発症したといいます。潜伏期間7日。千葉県の患者は70代の男性で、8月に数日間、代々木公園内で土木作業を行い、8月24日に発症したそうです(詳細は、「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月3日)」)(PDF)(9月2日の愛媛県と新潟県各1人のデータは掲載された。また、帰省先の岡山県倉敷市で8月24日に発症した20代の男子学生も感染が確認された。千葉県の人のデータは未掲載)。(追記の終わり)

(追記‐2014年9月4日) 2014年9月4日配信の時事通信の記事からです。

 東京都は9月4日、代々木公園で採集した複数の蚊からデング熱のウイルスが検出されたため、同日午後2時から一部を除き同公園を閉鎖したと発表した。

 東京都によると、立ち入りが禁止されたのは中央広場や噴水池のある公園北側の地区(約44万6000平方メートル)で、道路を挟んで南側の陸上競技場や野外ステージのある地区(約9万4000平方メートル)は含まれない。期間は当分の間で、再開時期は未定。

 採集装置は園内10カ所に設置され、276匹のヒトスジシマカが採集された。このうち北側の地区4カ所
(「日本航空発始之地記念碑」周辺、渋谷門の北の「桜の園」周辺、西門の北のサービスセンター周辺、サイクリングセンター周辺(その北に国立オリンピック記念青少年総合センターがある))で採集した蚊からウイルスを検出。広範囲に及んだため、北側の地区全体を閉鎖することとした。同公園には路上生活者が約30人いるが、希望者には福祉施設などを紹介する方針。

 東京都は9月4日午後、国立感染症研究所の専門家とともに園内を視察。5日以降、生態系への影響を踏まえた上で蚊の駆除を行うほか、蚊の採集場所を20カ所に増やし、ウイルスの保有状況を追加調査する。


 厚生労働省などは9月4日、新たに群馬県などの7人のデング熱感染が確認されたと発表しました。10代から70代の男女で、東京6人、群馬1人。いずれも代々木公園周辺で蚊に刺されたとみられるそうです。これで感染者は、北海道、青森、茨城、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、山梨、大阪、愛媛の12都道府県の計56人となりました(詳細は、「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月4日)」)(PDF)(9月3日の千葉県の人のデータは掲載された。群馬県の人のデータは未掲載)。

 群馬県は9月4日、県内の10代の男性がデング熱に感染したと発表しました。男性は8月29日に発熱し、病院を受診しましたが、熱が引かないため、9月に入って入院したといいます。8月に代々木公園を訪れ、蚊に刺されたことがあったということから、9月4日に群馬県衛生環境研究所が検査を行い、デング熱と確定しました。

 今までの発症者のデータで、一番早く発症したのは、東京都の20代の女性で、8月4日に代々木公園を訪れており、8月12日に発症しています。潜伏期間は8日(第52症例)。次は、8月14日の発症の東京都の20代女性で、8月10日に蚊に刺されています。潜伏期間は4日(第25症例)。同じく、8月14日の発症の東京都の20代女性で、8月9日に蚊に刺されています。潜伏期間は5日(第50症例)。第34症例の愛媛県の10代男性も8月14日に発症していますが、蚊に刺されたかは本人に記憶がなく、感染地を特定することは難しかったかも知れません。あくまでもしもの話しですが、デング熱の検査キットが普及していて、デング熱を疑う態勢ができていれば、この後、数日で集団発生事例として、感染地が特定され、蚊の駆除が始まっていたでしょう。そのときは、これだけの発症者が発生することは防げたかも知れません。

 気になるのですが、代々木公園には路上生活者がいるということですから、その路上生活者の中にデング熱に感染したが発症しなかった人がいた(または発症したが病院には行けなかった)とすれば、蚊に刺され続けることで継続的にデングウイルスを蚊に供給していたということが考えられないのでしょうか。そのために、ウイルスを持った蚊が数十匹も存在することになったと、、、路上生活者に対する聞き取りはなされるのでしょうか。路上生活者のデングウイルスへの感染の有無の検査はなされるのでしょうか。路上生活者を代々木公園から外へ出すことでウイルスを拡散させてしまう可能性はないのでしょうか。(追記の終わり)

(追記-2014年9月5日) “The Wall Street Journal”の2014年9月4日の記事によると、マレーシアでデング熱患者の急激な増加(deadly outbreak of dengue)が起こっており、特に首都クアラルンプールを取り囲み、日系企業が数多く進出している、人口密度の高いセランゴール州で深刻だといいます。

 今年は、8月30日までで、マレーシアでのデング熱による死者は131人(131 dengue-related deaths)。これは前年の同じ時期の38人のおよそ3.4倍になります。今年の感染者は6万8千人ほどで、このデータからは致死率はおよそ0.2%(感染者500人に1人が死亡する)。昨年(2013年)の感染者は1万9千人ほどで致死率は約0.2%。

 デング熱感染者の急激な増加の原因を研究者は、DEN-2という伝染性の強いタイプ(more virulent strain of dengue)(デングウイルスにはDEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4の4タイプがある)のデングウイルスの流行だと指摘しているようです。

 デングウイルスのキャリアのヒトから吸血したメスのネッタイシマカの体内に移動したデングウイルスは、蚊の消化管から中腸(mid gut)(昆虫では胃にあたる)に移動し、その周辺で増殖(replication)を行います。およそ5日後、ウイルスは蚊の唾液腺(salivary glands)にも移動します。これで、ウイルスはヒトへの感染を準備したことになります。

 蚊は、吸血するとき、吸血しやすいように、血が凝固することを防止するための物質(抗凝血作用物質)を含んだ唾液をヒトに注入するのですが、そのときにウイルスもヒトの血管内に移動することになります。すべての種類のウイルスが、蚊の「胃」で増殖できるわけではなく、蚊媒介感染症のウイルスだけがそれをできるから、蚊を媒介としてデングウイルスなどがヒトに感染するのです。(追記の終わり)

(追記‐2014年9月5日) 2014年9日5日配信の産経新聞の記事からです。

 厚生労働省は9月5日、東京都新宿区の区立新宿中央公園で蚊に刺され、デング熱を発症したとみられる患者が確認されたと発表した。代々木公園周辺以外で感染者が確認されたのは初めて。新宿区は公園の蚊の駆除を始めた。

 厚生労働省によると、患者は埼玉県の30代男性で8月中旬から下旬、5回にわたり新宿中央公園を訪れた。8月30日に発熱や頭痛などの症状を訴えたが、入院はせず、容体は安定している。男性から検出されたウイルスの遺伝子配列は代々木公園で感染した患者と一致しており、同じウイルスが新宿中央公園に広がったとみられる。

 新宿中央公園は代々木公園の北約2kmで、行動範囲が100m以内とされる蚊が移動したとは考えにくいことから、厚労省は代々木公園周辺で蚊に刺された患者が、新宿中央公園周辺で別の蚊に刺されたことで感染が広がった可能性が高いとしている。

 厚労省などによると、岩手県と山口県でも初めて国内感染の患者が確認され、9月5日までに感染が明らかになった患者は14都道府県で71人。いずれも最近の海外渡航歴はなく、新宿中央公園の例を除き、70人は東京の代々木公園周辺を訪れていた。重い症状の患者はいない。


 岩手県は9月5日、県内に住む10代の女性がデング熱に感染したと発表しました。岩手県によると、デング熱への感染が確認された女性は、8月17日から18日の間に代々木公園の周辺で蚊に刺され、8月23日に発熱や頭痛、発疹などの症状が出て、岩手県で医療機関を受診したようです。潜伏期間は5日または6日。検査でデングウイルスが確認され、デング熱と確定したということです。

 2014年9月5日配信の時事通信の記事からです。

 神奈川県横浜市は9月5日、東京・代々木公園で蚊に刺されてデング熱に感染した横浜市南区の20代女性(「デング熱国内感染患者 現時点での疫学情報のまとめ(平成26年9月5日)」)(PDF)の第49症例)が、発症3日後に横浜市金沢区の「海の公園」で蚊に刺されていたと発表した。横浜市は同日、女性が蚊に刺された公園内の「犬の遊び場」2カ所を閉鎖。蚊を捕獲してウイルス検査を行う。

 女性は8月17日と24日に代々木公園で蚊に刺され、8月28日に発熱などの症状が出た。8月31日午後3~4時ごろ、海の公園を訪れ、蚊に4カ所程度を刺された。9月3日になってデング熱と診断された。横浜市は今後、ウイルスを持つ蚊が確認されれば駆除を行う。
(追記の終わり)

 残念ながら、デングウイルスが拡散している可能性が出てきてしまいました。

(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(1)

(参考) 「デング熱のウイルスは、日本のヒトスジシマカに常在するようになってしまうのか。(3)

                   (この項 健人のパパ)

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