POWERFUL MOMが行く!
多忙な中でも,美味しい物を食べ歩き,料理を工夫し,旅行を楽しむ私の日常を綴ります。
 





 接頭辞“mono-”は「ひとつ」を表し、“poly-”は「たくさん」を意味します。“monomer(モノマー)”は「単量体」と呼ばれ、“polymer(ポリマー)”は「重合体」と呼ばれます。子供のころ、針金を曲げて作られている文房具の「ゼムクリップ」を一箱分つなげて鎖状にして遊んでいて叱られた記憶がありますが、あのゼムクリップ1個が「モノマー」で、それをつなげて鎖状にしたものが「ポリマー」と譬えて言っていいでしょう。つなげるのは面白かったけれど、外して元に戻すのは大変でした。

 「モノマー」をつなげて(重合させて)いく酵素が“polymerase(ポリメラーゼ)”です。“polymer”に酵素を表す接尾辞“-ase”が付いてできている語です。私は子供のころは「ゼムクリップ・ポリメラーゼ」だったことになります。遺伝情報を担う物質であるDNAやRNAといった「核酸“nucleic acid”」を構成する単位「ヌクレオチド“nucleotide”」を単量体と考えて、そのヌクレオチドを重合させ、RNAを合成する酵素のことは、「RNAポリメラーゼ“RNA polymerase”」と呼ばれます。

 「インフルエンザウイルス“influenzavirus”」は、遺伝情報をRNA(リボ核酸“ribo nucleic acid”)に持つRNAウイルスです。RNAの複製が感染した人間などの宿主細胞の核内でRNAポリメラーゼによって行われます。RNAの複製つまりウイルスの増殖がRNAポリメラーゼによって行われるのですから、このポリメラーゼの働きを抑えれば、ウイルスの増殖は阻止できることになります。私は父親に見つかり、叱られることで、2箱目に手を出せませんでした。

 イギリスの科学誌“Nature”オンライン版(2008年7月27日)に発表された「インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼにおけるサブユニットの相互作用の構造的基本(The structural basis for an essential subunit interaction in influenza virus RNA polymerase)」や「欧州分子生物学機構(European Molecular Biology Organization)」の機関誌“The EMBO Journal”オンライン版(2009年5月21日)に発表された「インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼにおけるPB1-PB2サブユニットの結合に対する構造的洞察(Structural insight into the essential PB1-PB2 subunit contact of the influenza virus RNA polymerase)」によれば、「RNAポリメラーゼの働きを妨げる化合物が見つかることができれば、ウイルス自体の増殖を抑えられる」という発想の下、横浜市立大学の「朴三用」准教授、「尾林栄治」特任助教らと筑波大学の「永田恭介」教授らは、RNAポリメラーゼの一部の構造を原子レベルで解明したそうです。

 インフルエンザウイルスは直径80~120nm(ナノメートル)ほどの栗の毬(いが)のような形をしています。栗の棘(とげ)の長さは直径の10分の1くらい(10nmほど)で、宿主細胞(例えば、人間の鼻腔内の細胞)に取り付くなどの働きをします。宿主細胞に取り付いた(吸着した)ウイルスは、細胞内に侵入していきます。侵入を果たすと、宿主細胞から部品を調達し、自分と同じものをいくつも複製します(増殖)。部品を奪われた宿主細胞は機能不全に陥ることになります。

 インフルエンザウイルス(A型)の遺伝子は、8つのタンパク質の情報を運んでいます。まず、ウイルスの表面に存在して、その働きによって細胞に感染する「ヘマグルチニン(hemagglutinin、HA)」の設計図です。ヘマグルチニンは少なくとも16種類が存在します。H1からH16までです。インフルエンザウイルスの“H1N1”といった亜型名の“H”はこのHA(ヘマグルチニン)の種類を表しています。強毒性の鳥インフルエンザの亜型名“H5N1”では、HAは“H5”というサブタイプになります。

 宿主細胞の中で部品を調達し、増殖したウイルスは、その宿主細胞から外へ出なくてはなりません。宿主細胞の中に留まっていたのでは、更なる増殖は望めません。そのときに「ノイラミニダーゼ(neuraminidase、NA)」という酵素が必要になります。この酵素には9種類があることが知られており、インフルエンザウイルスでは、N1、N2というサブタイプがあります。この設計図も遺伝子に書き込まれています。

 「ザナミビル(Zanamivir、商品名:リレンザ)」、「オセルタミビル(Oseltamivir、商品名:タミフル)」など「ノイラミニダーゼ阻害薬(Neuraminidase inhibitors)」は、この「ノイラミニダーゼ」を阻害する抗インフルエンザウイルス薬です。

 その他に、インフルエンザウイルス(A型)の遺伝子には、PA(RNAポリメラーゼ αサブユニット、RNA polymerase α), PB1(RNAポリメラーゼ β1サブユニット、RNA polymerase β1), PB2(RNAポリメラーゼ β2サブユニット、RNA polymerase β2), M(マトリクス蛋白、matrix), NP(核蛋白、nucleoprotein), NS(非構造蛋白、non-structure)の情報が書き込まれています。アマンタジンなどのM2蛋白阻害薬もあります。

 2009年5月26日のブログ記事「新型の「インフルエンザA」はタミフル耐性を獲得しはしないか」で、次のように書きました。

 「昨シーズン(2007~2008年)の後半から、ノイラミニダーゼ(neuraminidase、ウイルスなどの持つ酵素の1種で、細胞への侵入に重要な働きをする)蛋白の275番目のアミノ酸がヒスチジンからチロシン(H275Y)に置換していて、オセルタミビル(oseltamivir、「タミフル、Tamiflu」)に対して耐性を待っている(「タミフルが効かない」)A/H1N1亜型ウイルスが、世界各地で検出されることが非常に多くなっているようです。

 世界各国における「耐性株(oseltamivir-resistant influenza virus)」の発生頻度は、2007年後半~2008年3月期には16%だったものが、2008年4月~9月期は44%になり、2008年10月~12月期は92%となって、耐性株が急速に世界中に広がっているのだそうです。」(引用終わり)

 インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼは、ウイルスの複製(増殖)に中心的な役割を担っているため、ウイルスの増殖を阻害する新薬開発のターゲットとして注目されています。インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼが持つ3つのサブユニット(PA、PB1、PB2)のうち、どれか1つのサブユニットでも欠けるとその働きを失うことに注目し、そのうちの2つのサブユニットの結合部位の構造解析を研究者たちは進めています。

 サブユニット間結合を阻害して、ポリメラーゼ活性を著しく低下させる「RNAポリメラーゼ阻害薬」ができれば、タミフル耐性を獲得したウイルスにも有効なことでしょう。H1N1やH5N1といった亜型に効果を左右されないのです。「新薬登場!」という朗報を早く聞きたいものです。

               (この項 健人のパパ)

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 今年度(平成22~23年度)のインフルエンザワクチンは、新型H1N1・季節性H3N2・B型の3種類を含む3価ワクチンと新型H1N1のみの1価ワクチンの2種類が供給される予定なのだそうです。13歳以上65歳未満の方は、1回目は 3,600円、2回目は 2,550円(同一医療機関で接種の場合)または3,600円(1回目と異なる医療機関で2回目を接種される場合)となる見込みのようです。合計で少なくとも6,150円になります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・平成22年度インフルエンザHAワクチン製造株の決定について(通知)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・薬食発0709第7号             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・平成22年7月9日
国立感染症研究所長殿
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・厚生労働省医薬食品局長

 生物学的製剤基準(平成16年3月30日厚生労働省告示第155号)の規定にかかる平成22年度のインフルエンザHAワクチン製造株について、下記のとおり決定したので通知する。

                              記
 A型株
  A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)pdm 
  A/ビクトリア/210/2009(H3N2)
 B型株
  B/ブリスベン/60/2008


 今年度のインフルエンザワクチンは新型H1N1ワクチンを含むため、接種方法・費用が変更されており、大きく値上がりをした感じがあります。私たちの住む町では季節性のインフルエンザワクチンの接種は、医療機関によっては1回接種で2,000円程度で済みました。1歳以上13歳未満の方は、補助が考えられており、例えば、東京都の23区では補助が予定されており、豊島区の場合は1回目および2回目とも1,500円/回の予定のようです。それでも、3,000円かかることになります。

 インフルエンザに感染するとインフルエンザ脳症を発症するなどのリスクの高いこの年齢層(1歳~14歳)に大幅な補助をし、ワクチンの接種率を上げるなどの施策は考えられないものなのでしょうか。インフルエンザの怖さを十分に知っている私たちは、他の出費を削ってでも、この金額を出すことを厭わないのですが、必ずしもすべての親御さんにその知識があるとは限りません。理想は、保育園・幼稚園・学校に「集団免疫」の壁を作ることです。

 2009年6月15日のブログ記事「「集団免疫」と「集団接種」と「ワクチンの有効性」と「接種禍」と」で次のように書きました。

 「インフルエンザワクチンの接種に関して、対照研究が行われたことがあったようです。対照研究では、ある現象について、その仮説を検証するために、処理を加える実験群(intervention group)と比較するための対照群(control group)を作ります。実験群と対照群は、検証する処理を実験群に施すということ以外は、まったく同一にします。

 学童の実験群には、ワクチンを接種し、対照群には、ワクチンを接種しません。このときは、ワクチンのインフルエンザの学童への感染防止にそれほど有意な結果は見られなかったようなのですが、家族など周囲への感染の割合が減ったといいます。

 「集団免疫(herd immunity)」という言葉があります。集団の構成員の一定数が免疫を獲得すると、集団の中に感染患者が出ても、集団の中で感染が阻止されることを意味し、その結果、子供や老人などの免疫力が弱い(「免疫学的弱者」、「ハイリスク群」)者たちが感染を免れることができることをいいます。」(引用終わり)

 インフルエンザの2009~2010年シーズン、8月24日までで、急性肺炎(人工呼吸器装着)…434人、急性脳症…547人、集中治療室入室…1011人、この3例の総計(重複分を取り除いて)…1562人、死亡者…202人(うち基礎疾患を有する者 145人)という報告が厚生労働省から出されています。

 2009年09月25日のブログ記事「我が子の命を守るために親として「インフルエンザ脳症」を知る。」で次のように書きました。

 「小さな子どもを持つ(これまでにインフルエンザ脳症を発症した患者を年齢別にみると4~9歳の子供に集中し、ほかにも12歳や14歳がいる)親は、子どもが発熱や咳などの「風邪様症状」を示したときは、むやみに「市販薬」を服用させるべきではなく(少なくとも「アスピリン(アセチルサリチル酸)」を成分とする解熱薬や解熱剤として含まれる感冒薬は必ず避けるべきです)、発熱から1日は「インフルエンザ脳症」発症の可能性を考えておく必要はあります。異常言動や異常行動、意識レベルの低下、意識障害、痙攣がある場合は速やかに病院に行く必要があります。」(引用終わり)



 厚生労働省が報告している「インフルエンザによる重症患者・死亡者の概況」を見ると、インフルエンザ脳症で入院している1歳から9歳までの子どもは、全体の3分の1(66%)を占めます。これに我が子「健人」の属する年齢区分10~14歳を加えると、全体の82%にも達します。1~14歳までのインフルエンザ脳症で入院した450人の中で基礎疾患を有していた子は22%に過ぎません。この年齢層の何%が基礎疾患を有しているのかが不明ですから、基礎疾患があると危険性がどの程度増すかは分かりません。しかし、新型インフルエンザはこの年齢層では「危険なウイルス」と言えるのです。親が知識を身に付けて子を守ってやらなくてはいけないのです。

 2009年8月30日のブログ記事「ひとり歩きする数字-インフルエンザによる死亡者、年間1万人」で次のように書きました。

 「日本の季節性インフルエンザの年間死者数は1万人であり、新型インフルエンザでのこの死者数は驚くにあたらないとする論調があります。本当に従来の季節性インフルエンザで年間1万人ほどの死亡者が出るのでしょうか。ここにデータがあります。2000年から2008年までの「インフルエンザによる死者数」の統計です。

 2000年・・・・・・575人
 2001年・・・・・・214人
 2002年・・・・・・358人
 2003年・・・・1,171人
 2004年・・・・・・694人
 2005年・・・・1,818人
 2006年・・・・・・865人
 2007年・・・・・・696人
 2008年・・・・・・272人

 平均で年800人ほどが死亡しています。この事実にも驚きますが、年間の死亡者が1万人という数字はどこから出てくるのでしょう。ここに「超過死亡者」という考え方があります。インフルエンザによる死亡は、炎症が上気道に留まらず肺に達して肺炎という疾患を起こすためによるものが圧倒的に多いのです(少ないが「脳症」もある)。そのため、死亡診断書には「肺炎」と記載され、インフルエンザによる死亡にカウントされないこともあります。そこで、肺炎等の死亡者のうち、インフルエンザの流行があったために増えたであろう死亡者をもインフルエンザによる死亡にカウントします。」(引用終わり)

 今回の新型インフルエンザでどの程度の死者が出たのでしょう。厚生労働省の報告では、202人です。平均の800人ほどから比べるとかなり少ない。これにインフルエンザワクチンの接種後に亡くなった133人(2010年6月30日までの報告分)を加えてみましょう。335人になります。加えてみる理由は、季節性インフルエンザでは、流行期(ピーク期)の前にワクチン接種が行われたのですが、新型インフルエンザでは、ピーク期をやや過ぎたところで接種が行われているのです。

 そうすると、ワクチン接種後に亡くなったとしても、インフルエンザに感染していて亡くなった可能性も否定はできません。これは、厚生労働省の「第1回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会(2010年8月25日)」の報告で、ワクチン接種後に死亡した事例は、11月接種では68人(およそ103万人が接種)、1月接種で4人(およそ84万人が接種)と述べられていることから理解できます。いまだ流行の終息していなかった11月には、10万人当たり6.6人が接種後死亡し、流行の終息に近い時期の1月には、10万人当たり0.5人と、同じワクチンでありながら、有意な差となって現れているのです。

 多めにみたインフルエンザによる死亡者数、335人は、2001年や2002年の死亡者数に近く、これを見る限り、保健当局は新型インフルエンザを抑えこむことに成功した、と言えそうです。「超過死亡者」という考え方に立っても、今回は保健当局の十分な注視があったのですから、インフルエンザ感染で死亡しながら、インフルエンザによる死亡にカウントされなかった事例は、かなり少ないといえそうです。

 新型インフルエンザワクチン接種者の重篤な副反応報告において、基礎疾患を有する患者の割合が高いのですが、これは、ワクチンを重い基礎疾患を有する患者に優先接種した影響が考えられそうです。11月の接種は、基礎疾患を有する人たちへの優先接種でした。だから、11月接種では、10万人当たり6.6人の死亡者がでたのかも知れません。12月接種では、211万人に接種者が大幅に増えたのですが、10万人当たり、2.0人と激減します。

 世界的な大流行にもかかわらず、死亡者を少なく抑えたのですから、2010~2011年シーズンもさらにインフルエンザによる死亡者を抑えたいものです。

(参考)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・平成23年度インフルエンザHAワクチン製造株の決定について(通知)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・薬食発0502第5号             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・平成23年5月2日
国立感染症研究所長殿
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・厚生労働省医薬食品局長

 生物学的製剤基準(平成16年3月30日厚生労働省告示第155号)の規定にかかる平成23年度のインフルエンザHAワクチン製造株について、下記のとおり決定したので通知する。

                              記
 A型株
  A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)pdm09 
  A/ビクトリア/210/2009(H3N2)
 B型株
  B/ブリスベン/60/2008


                     (健人のパパ)

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 世界保健機関(WHO)は、2010年8月10日、専門家による緊急委員会を「遠隔会議」によって開催し、新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行段階は、パンデミック警戒レベル「フェーズ6」から「ポスト・パンデミック」期に移行していると発表しました。

 The world is no longer in phase 6 of influenza pandemic alert. We are now moving into the post-pandemic period. These are the views of members of the Emergency Committee, which was convened earlier today by teleconference.(WHO“H1N1 in post-pandemic period”)

 この「発表」を見て、今回の新型インフルエンザの「パンデミック」について総括してみようと思います。私は、2009年9月8日のブログ記事「インフルエンザに罹ったらそれは「新型AH1pdm」と見ていいのか」で、次のように書きました。

「季節性インフルエンザと新型インフルエンザで症状の違いはないの?」
「ないね。インフルエンザだから発熱をするのは共通だしね。38℃以上の熱が出るし、咳は出るし、のどは痛いし、頭痛はするし、鼻水は出るし、というのは同じさ。吐き気や下痢、筋肉痛というのは必ずしも伴わないそうだけれどね。」
「それじゃ、どっちに罹ったのかわからないわね。」
「ただね、東北大学の先生がね、新型の流行でA香港型とAソ連型は、ほぼなくなるだろうという予測をしているんだよ。」
「ということは、、、どういうこと?」
「これからインフルエンザに感染すると、そのほとんどが新型インフルエンザだということだね。」
「100パーセント?」
「そこまでは言えないと思うけど、、、」(引用終わり)

 この予測は外れたようです。パンデミックの当初は、新型インフルエンザH1N1が他の型を押し退けて優勢でしたが、現状では、多くの国から、他の型も併存していることが報告されており、新興勢力の新型インフルエンザも時の経過とともに季節性インフルエンザに降格されてしまったようです。

 During the pandemic, the H1N1 virus crowded out other influenza viruses to become the dominant virus. This is no longer the case. Many countries are reporting a mix of influenza viruses, again as is typically seen during seasonal epidemics.

 2009年8月27日のブログ記事「インフルエンザワクチンの安全性と有効性の壮大な臨床試験が」で、次のように書きました。

 「インフルエンザの予防接種を受けた後に、発熱やショック症状、肝機能障害などの「副反応」とみられる症状を起こす人は、日本では、年間100人から150人ほど。この「副反応」の発症例は、分母(接種を受けた者)がいくつか不明です。分子(「副反応」の発症者)もすべてが報告として上がってくるとは考えにくい。1万例をサンプリングしたところ、100例ほどあったとする報告もあります。これだと、副反応がでるのは1%ほど。症状は発熱が最も多く、次いでショック症状、肝機能障害、浮腫、ぜんそくなど呼吸器症状、注射部位のはれ、発疹の順となっています。「副反応」を起こす年齢層は、10歳未満と70歳代が多いそうです。予防接種後に心肺停止や、肝不全などで死亡する例は、年間5人前後だそうです。

 数ヵ月後には、世界ほぼ同時にインフルエンザワクチンが接種されることになります。インフルエンザワクチンの有効性が世界規模で検証されることになります。ワクチン禍が起こる確率(安全性の問題)とワクチンの有効性をめぐって、壮大な試験場に世界はなるのです。過去の例によると、予防接種後に心肺停止や肝不全などで死亡する人は、5300万人に接種が行われたとすると、およそ18人になります。輸入ワクチンを用いると、これを「少なくとも18人」という表現にすべきかも知れません。ワクチンによって重症化せずに命を救われる人たちがこの数百倍ほどもいたとしても、この数字を日本人は冷静に受け止めることができるのでしょうか。」(引用終わり)

 今回のWHOの報告は、次のように述べます。「今言えることは、われわれはただ運がよかったのだ。パンデミックの間、新型インフルエンザウイルスが毒性の強いものに変異することはなかった。タミフル耐性を持ったウイルスが広く拡大することはなかった。ワクチンはウイルスにうまく適合して有効であり、極めて安全性の高いものであった。」 

 This time around, we have been aided by pure good luck. The virus did not mutate during the pandemic to a more lethal form. Widespread resistance to oseltamivir did not develop. The vaccine proved to be a good match with circulating viruses and showed an excellent safety profile.

 2009年11月27日のブログ記事「「新型インフルエンザウイルス」に「抗原シフト」は起こったのか? 」に次のように書きました。

 「ウイルスの突然変異には、その変異に2種以上のウイルスが関与するか否かで「不連続変異(抗原不連続突然変異)」と「連続変異(抗原連続突然変異)」に分類されます。連続変異(抗原ドリフト(antigenic drift)、「ウイルスの小変異」)は、ウイルスの核酸がその構成要素の塩基で1単位で変異を起こすものです。ウイルスの内部には核酸が入っていますが、それを構成する塩基はアデニン (A)、グアニン (G)、シトシン (C)、ウラシル (U)です。その核酸を構成する1つの塩基が例えば、もとはAであったものがGに変わってしまうのです。

 変異が起きた部位が偶然にもウイルスの「感染性」や「毒性」に関わる重要な部位であった場合にはウイルスの性質が大きく変わることになります。また、この連続変異の起こる頻度は大きく、変異の積み重なりでウイルスの性質を大きく変えることもあり得ます。その結果、「ワクチン」が効かなくなることにもなります。

 不連続変異(抗原シフト(antigenic shift)、「ウイルスの大変異」)とは、例えば、人体内で2種のウイルスが1つの細胞に同時に感染すると、細胞内では合成されたウイルス遺伝子やタンパク質が混ざり合い、結果として元のウイルスとは異なったウイルスが新たに生じることをさします。この場合は、「ワクチン」の有効性は完全に失われます。」(引用終わり)

 これも「杞憂」だったようです。「杞」の国の人のように、天が崩れ落ちてしまわないかと「憂」えて(心配して)しまったのです。しかし、WHOの報告は、次のようにも述べます。

 Pandemics, like the viruses that cause them, are unpredictable. So is the immediate post-pandemic period. There will be many questions, and we will have clear answers for only some. Continued vigilance is extremely important, and WHO has issued advice on recommended surveillance, vaccination, and clinical management during the post-pandemic period.(パンデミックを引き起こしたウイルスも、パンデミックの今後も予測ができない。引き続くポスト・パンデミックも予測ができない。多くの難問が生じるであろうし、明確に答えの出せるものはそのほんの一部に留まってしまうであろう。引き続き警戒を続けることが極めて重要になり、WHOとしてはポスト・パンデミックの時期もサーベイランス、ワクチン接種、臨床像の把握を勧める。)

 2009年5月26日のブログ記事「新型の「インフルエンザA」はタミフル耐性を獲得しはしないか」に次のように書きました。

 「世界各国における「耐性株(oseltamivir-resistant influenza virus)」の発生頻度は、2007年後半~2008年3月期には16%だったものが、2008年4月~9月期は44%になり、2008年10月~12月期は92%となって、耐性株が急速に世界中に広がっているのだそうです。

 今シーズン(2008~2009年)の流行の主流は、A/H1N1ウイルスで、「タミフル」耐性のA/H1N1亜型(ソ連型)インフルエンザウイルス(昨シーズンは耐性がなかった)が全国的に蔓延していたようです。「迅速診断キット」でA型インフルエンザと診断された患者の60~70%はタミフル耐性のA/H1N1ウイルスに感染していたそうです。

 今回の「インフルエンザA(いわゆる「新型インフルエンザ」)」は抗インフルエンザウイルス薬が有効のようです。季節性のインフルエンザの一部が「耐性」を持つようになったことから、抗インフルエンザウイルス薬である「タミフル」の有効性に疑問符が付き始めています。「タミフル」の効く「インフルエンザA」と「タミフル」の効かない「オセルタミビル耐性Aソ連型インフルエンザ」のどちらを恐れるべきなのでしょうか。」(引用終わり)

 米科学誌「プロス・パソジェンズ(PLoS Pathogens)」電子版に掲載された「河岡義裕(東京大学医科学研究所、ウイルス学)」教授らのチームによる「フェレット」を使った動物実験による(“Characterization of Oseltamivir-Resistant 2009 H1N1 Pandemic Influenza A Viruses”)と、抗インフルエンザウイルス薬「タミフル」に耐性を持つ新型インフルエンザウイルス(H1N1)が、通常の新型ウイルスと同程度に感染拡大するようです。

 2008~2009年シーズンに「タミフル」耐性のA/H1N1亜型(ソ連型)インフルエンザウイルスが世界中に広がるまでは、タミフル耐性ウイルスは、広がりにくいと考えられていましたが、この動物実験がそれが誤りである可能性があることを確認したことになります。私たちは、重症化を防ぐ抗インフルエンザウイルス薬に頼ることができないのであれば、やはりインフルエンザに感染しないことを心掛けなければいけないことになります。

 2010年8月27日配信の医療介護CBニュースからです。

 政府は8月27日、世界保健機関(WHO)が新型インフルエンザの世界的な流行状況を「ポスト・パンデミック」と宣言したことなどを受け、「新型インフルエンザ対策本部」の廃止を決めた。新型インフルエンザに対しては、通常の感染症として対応する体制に切り替える。

 ただ、国内での再流行の可能性があるため、厚生労働省は国民への情報提供・広報やワクチン接種などの対策に引き続き万全を期すとともに、政府としては高病原性の鳥インフルエンザが発生した場合に備え、水際対策や医療提供の体制整備などについて検討を行う。


 まだまだ、家族と自分を守るための感染症との闘いが続きます。まずは、情報の収集からです。

               (この項 健人のパパ)

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 外国語を学ぶとき、必要になるものに辞典があります。日本人の英語学習者には「英和辞典」が、中国語学習者には「中日辞典」が、そして、韓国語学習者には「韓日辞典」が必要になります。その語彙の並びは、「英和辞典」や「中日辞典」などは、アルファベット順なのですが、「韓日辞典」は、「カナタラ(가나다라)」の順です。これを覚えておかなければ、辞書をひくのに大変な時間がかかってしまいます。

 しかし、「カナタラ」の順を覚えてしまえば、「中日辞典」より時間はかかりません。中国語では読みのわからない漢字が出てきたときは、「漢和辞典」を引くように「部首」で引いたり、「画数」で引くという手間が必要ですが(これは「漢字」が表音文字ではなく表意文字であるため)、表音文字であるハングルで語彙を並べてある「韓日辞典」は、すばやく引けます。

 日本語の「あかさたな、、、」にあたる韓国語の「カナタラ、、、」は、「きらきら星」のリズムで、♪カナタラマパサ アジャチャカタパハ(가,나,다,라,마,바,사,아,자,카,타,파,하)と覚えることができます。「チャカタパハ(자,카,타,파,하)」の部分は有気音が続きます。韓国語では、「チャ」は有気音を“cha”、無気音を“ja”、「カ」を“ka”と“ga”、「タ」を“ta”と“da”、「パ」を“pa”と“ba”で綴ります。



 実際に「カナタラソング가나다라 송)がどのような歌なのかは、このYouTubeの動画で聴くことができます。5分25秒ごろから、「キラキラ星」のリズムで「カナタラ」の歌が始まります。可愛らしい「呉教授(Professor Oh)」の授業は、幾度見ても飽きないですね。




                (この項 健人のパパ)

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 2010年8月23日、フィリピンの首都マニラで、香港の観光客らを乗せたバスが乗っ取られ、犯人である元警察官(Rolando Mendoza、55歳、2009年2月に部下が強盗などに関与していたとして解雇されていた)は約10時間にわたり立てこもった末にいわゆるSWAT(Special Weapons And Tactics、特殊火器戦術部隊)によって射殺されました。警察官の制服を身に付け、銃(M16自動小銃)を所持していた犯人は午前10時頃、バスを停車させて車内に乗り込んだといいます。それから10時間以上も経った午後8時40分頃、SWATがバス車内に突入して一応の解決をみますが、バスに人質になっていた観光客が8人も死亡し(7人が救出されるがうち2人が重傷)てしまいます。

 バスには香港の著名な旅行社「康泰旅行社」が募集した「フィリピ4日間の旅(康泰菲律賓4天)」に参加した4歳から72歳までの6家族20名(男性12名、女性8名、そのうち子どもが3名)が乗っていたそうです。事件が起こる前までは家族で楽しい旅を楽しんでいたはずです。10年の経験のあるツアーガイドの男性「謝廷駿」さんも乗っていたそうです。背の高い細身の陽気な男性だったそうです。亡くなってしまいます。夫と2人の娘を失った女性(吳幼媛さん)、両親を一度に失った10代の女の子(汪綽瑤さん)、ニュースではただ“8”人の犠牲者が出たとしか触れられませんが、そこにはそれぞれの人生があり、その周りに多くの悲しむ人たちがいます。

 フィリピン内務省の高官(Philippine Interior Secretary)“Jessie Robredo”は、「我々にもっと準備する時間があって、もっと十分な装備があって、もっと十分な訓練を積んでいれば、困難であってももっとすばやく対応できたんだが、、、」("Had we been better prepared, better equipped, better trained, maybe the response would have been quicker despite the difficulty," )と述べたと言います。警察の対応の悪さがこの悲惨な結末を迎えたことを非難されて答えた言葉です。それに対して、フィリピンのSWATは、"Stupid Waiting Afraid Team" だとか "Sorry We Aren't Trained"だと揶揄するネットの書き込みもあります。

 妻の反対に遭って、家族旅行の行き先をフィリピンにするアイデアは却下されましたが、マニラで我々が被害に遭う可能性は低くはないことを残念ですが確認しました。フィリピンの首都マニラでは、2007年3月28日にも、手榴弾と銃で武装した男らに遠足に向かう保育園児ら30人あまりを乗せたバスが乗っ取られています。このときは、子どもたちに死者が出ることなく解決しています。最近でも韓国人観光客や、アメリカ人観光客などが強盗の被害に遭って、亡くなっています。安全な日本に感謝するとともに、亡くなられた方々のご冥福をお祈り致します。

                (この項 健人のパパ)

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妻「また韓国の本買ってきたのね。そんなに買い込んで、読んでるの?忙しいのに。」
私「少しずつね。」
「やっぱり韓国に行くつもり?」
「そうね。行きたいね。」
「何しに?」
「まず、焼肉かな。本場でしょ?」
「何が好きなの。」
「タン塩かな。」
「あら、タン塩は日本のものよ。」
「タン塩は日本の発明なのか。」
「焼肉自体が日本のものなのね。」
「え!」

 そこで、調べてみました。情報は複数にあたって確認です。妻の言っていることを信じないわけではないのですが、念押しをしたいのです。「野村進」著、講談社刊(1996年)、「コリアン世界の旅」に見つけました。

 日本の焼肉料理とは何だろうか。純然たる朝鮮料理と思われているが、本当にそうなのか。実際には、テーブルの上で肉を焼いて食べるというやり方が始まったのも、タン塩(清香園の張貞子の発案によるもので、「それまでもタンは焼肉に使っていたんですけど、どこの店もタレにつけて焼いていたんです。でも、ヨーロッパに旅行に行ったとき、レストランでタンをハムみたいに燥製にしたのが出てきたんですよ。それを見て、うちのタンを塩焼きにしたらどうかなあ、と。帰ってきて、塩焼きしたのをお酢と塩とレモンのタレにつける食べ方を考えたんです」)という人気メニューが生まれたのも、朝鮮半島ではなくここ日本の地でのことなのである。付け加えるなら、ユッケ(牛肉のたたき)に卵黄を載せて出したのも、生センマイ(牛の第三胃)を千切りにして酢醤油で食べさせたのも、日本でのことと言われている。韓国の焼肉店でもしタン塩が出てきたら、それは日本から逆輸入されたメニューなのだと思ってまちがいない。

 「張貞子 (チャン・ジョンジャ)」 は、1919年にソウルの「張」家に生まれます。1950年、在日韓国大使館の初の政治顧問として駐日していた夫「金修史」のもとに、4人の子供を連れて来日します。1952年、まだ日本に韓国料理店がないころ、親戚の勧めで銀座に「清香園」を開店します。「分量や作り方を文にはできない、料理は自分の舌と身体で覚えるものだ」という信念から86歳になるまで「清香園」のレシピを紹介しなかった張氏も、2005年7月には、「ブックマン社」から「時の香り 清香園の韓国料理」という料理本を出版しています。

 その本の記述によると、今日の韓国料理(한국 요리)は、王や両班のための宮廷料理と、庶民の知恵が生んだ郷土料理の融合・発展したものなのだそうです。王朝時代、韓国の料理人は女性だったそうです。現代でも、名高いホテルの料理長は代々女性と決められているなど、韓国料理店の厨房では女性を多く見かけるそうです。張氏は、両班(양반)の家系に生まれ、基本の調味料はすべて家庭で手作りしたものを使っていたそうです。韓国では上流家庭ほど薄味で、上品な仕上がりを好むそうです。

私「じゃ、韓国に焼肉はないの?」
妻「そんなことはないわよ。あるわよ。でも、別物ね。」

 韓国で「焼肉」と言えば、普通は「プルコギ불고기」を指す。ハングルで「火の肉」を意味するこの料理は、だが、日本の焼肉とは似て非なるものだ。韓国では、真ん中がこんもり盛り上がった鉄鍋に、タレをからませた肉をどさりと載せて焼く。この鍋は誇張するとスペインのソンブレロのような形で、流れ落ちてくる肉汁はソンブレロのつばのところで受け、肉を少しつけたり後でうどんを煮込んだりして食べる。日本の焼肉よりは、ジンギスカンに近い。

妻「プルコギを食べたんだけど、ジンギスカンみたいだったわよ。」
私「ジンギスカンは好きだから、いいね。」
「むちゃくちゃ甘いのよ。好みじゃないと思うわよ。」

 いま日本にある焼肉のスタイルを作り上げたのは、私は断言してよいと思うが、在日韓国・朝鮮人と帰化者たちなのである。食道園の社長で全国焼肉店経営者協会(現在は、「事業協同組合 全国焼肉協会」)の会長も務める江崎政雄(現在は、「叙々苑」の新井泰道氏)によれば、全国2万軒の焼肉店のおよそ9割が在日か帰化者とその子孫の経営ではないかという。「焼肉文化」というものがあるなら、それはとりもなおさず朝鮮半島から日本に来て住み着いた人々の文化なのである。

 焼肉つながりで、「前川恵司」著、「PHP研究所」刊(1997年)、「なぜだ韓国 なるほど韓国」からも引用しておきます(一部省略)。

 子どもたちがカルチャーショックを受けたのは、焼き肉屋に入った時のことだ。骨付きカルビ갈비、galbi、ばら肉のこと)を焼きはじめて、女店員が大きな裁縫ばさみをもってきて、肉をじょきじょき切りはじめた。食べやすい大きさにするためで、どの店でもやるサービスなのだが、そのときに、「食べごろですから切りますよ」とか、「失礼します」と一言、客に声をかけるでもない。
 つっかけを引きずりながらやってきて、ぶっちょう面のまま裁縫ばさみを突き出し、焼けた肉を切りだす。いきなり、裁縫ばさみを目の前に突き出され、子どもは反射的に座ったまま後ずさりした。そのショックで食欲をなくし、もう肉に手をつけなかった。
 アメリカの大学で勉強している25歳の韓国女性が教えてくれた。「
韓国社会は、職業への貴賤感が消えていない社会だから、焼き肉屋の店員というだけで、学校も出してもらうことができない家に育った、という先入観で見られる。汚い仕事ときれいな仕事。頭を使う仕事と力仕事。職業への差別感が強いから、自虐的になってしまうのよ。」
 のれんを下げて何代目を誇る気風は、韓国の商人道には薄い。店が繁盛して、金回りが良くなると、店ごと売ってしまうケースが多いのだ。その金で、お抱え運転手をアゴで使うような、もっときれいな「事業」にのり出してこそ、偉くなったといえるのだ。じいさんのころからの小商いを、手堅く続けているなどということは、「うだつの上がらないやつらだ」と見られ、むしろ馬鹿にされてしまう。
 極論すれば、誰もが力あるものを至上のものとしている。だから、財閥
재벌があって商人がいない。巨大なモールのようなショッピングビルやデパートはたくさんある。その他は、露天や屋台、それにアパートの下の店、あとはアーケードも何もない市場시장がふつうだ。日本のような華やかな商店街は少ない。

 この記述に従うと、料理店の老舗などというのはないのだから、この店に行くとハズレがない、という店はないことになります。最新の情報を手に入れて、中りをつけるしかないようです。そんなエネルギーは割きたくないから、これはわが妻「あみ」に任せることにしましょう。妻なら、ホテルの従業員や市場のおばちゃんに普通に話しかけて、活きのいい情報を手に入れるだろうから。

 この店員の愛想の悪さで韓国人を責めることはできなさそうです。中国に関する本でも同じようなことを読んだことがありますし、ドイツに関する本でも読んだことがあります。ことによると、店員の愛想の悪いのが「グローバル・スタンダード」、「世界の常識」で、店員の愛想の良さが「ガラパゴス」、「日本の非常識」なのかも知れません。しかし、どの職業にもその技術の優秀なプロがいて、自信を持って生きており、周囲もまた世間も賞賛するという社会が悪いはずがありません。例えば、みなが社長では社会が動いてはいきませんし、社長になれなかった者が不満を抱いている社会では、社会全体がストレスを感じてしまいます。ひょっとすると、韓国が世界でも上位の自殺率を示すのはそのせいかも知れません。

 もう一つ、韓国の作家「韓水山」著、徳間書店刊(1995年)、「隣の日本人」から引用してみます。

 食文化の本質がこのように違うなかで、もう一つ明らかに違うのが食堂のありようである。
 韓国でいつも羨ましそうに話されるのが、代を継いで商いをしている日本の食堂のことである。「食べ物の商い」に対する認識がかなり改まったとはいうものの、まだ韓国では「水商売」のように見下げて見る傾向がある。
 味が評判となって客も絶えずに上々の商いをしていたかと思うと、さっさと転業してしまうのが韓国である。だからといって、代を継ぐ店もないわけではないが、だいたいにおいて食堂は店を開いたら、すぐ閉じるということを繰り返している。
 また、どういうわけか韓国の食堂は、誰にでもできる商いになっている。転職した官吏も、会社をつぶした事業家も、やることが見つからなければ始めるのが食堂である。それで韓国の食堂はいつも「祝い鉢」を並べた「新装開店」が多い。
 

 これでは、ガイド本を頼りに美味しい料理を食べさせてくれる店を訪ねることはできそうもありません。取材時と出版時とは時間的にかなりのギャップがありますから、取材者が美味しいと勧める店は私たちが訪れるときにはなくなっているかも知れません。最後の手段、「大衆は過たず」で、客の入りを覗いて判断しましょうか。妻は言っています。「私の鼻に任せなさい。美味しい店は美味しい匂いがするの。私の鼻は嘘をつかないの。」 はい、お任せします。

             (この項 健人のパパ)

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 日本、朝鮮、ベトナムは、漢字文化圏に属します。漢字文化圏とは、漢字の持つ概念を採用している地域と言っていいでしょう。この3国には、もちろん固有の言語がありました。しかし、その表記に漢字を用いた時期があったことから、その概念も取り入れたのです。日本では、「漢字かな混じり」という表記方法が取られており、漢字が表記に用いられます。日本固有の言語も意味の共通性から「訓」という方法が考え出され、漢字表記が多数です。

和語「マナブ」 → 音読み漢字「学(呉音ガク)」 (用例)韓国語学習  (注)現代中国語音 /xue/(シュエ)
音声「マナブ」 → 訓読み漢字「学ぶ(まなぶ)」 (用例)韓国語を学ぶ

 韓国は、ハングル文字を15世紀中頃に作り出したことにより、漢字で表記することは殆どありません。抽象概念や専門用語など漢字で表記することができる言葉も多数ありますが、漢字で表記することはごく稀です。ハングル文字ですべて表記することは、日本語の表記をすべて「かな」で表記することと同じように思われますが、そうではありません。「百貨店」(3文字)を「かな」で表記すると「ひゃっかてん」(6文字)となりますが、「ハングル文字」で表記すると「백화점」(3文字)となって、文字数に変化はありません。ハングル文字は、「子音+母音+子音」という音節を表すことができるからです。



 19世紀中頃に始まるパリの「ボン・マルシェ百貨店(Le Bon Marché)」が世界最初のデパートと言われていますが、デパートとは、大きな面積を持ち、多種類の商品を取り扱う店舗を言います。日本語では、“department store”と表記はせず、「デパート」と表記しますが、韓国語は、漢字表記「百貨店」ではなく、その音「백화점(ぺクヮジョム)」で表記されます。



 ベトナムには、「チュノムChữ Nôm)」という、ベトナム語を表記するために漢字を応用して作られた文字がありました。意味や音の似た漢字を偏や旁として組み合わせて作られていました。日本語の「国字(和製漢字)」と同じような発想です。例えば、日本の国字「峠」は、山の上り下りの境目ということで作られています。現在、ベトナム語は、17世紀にカトリックの宣教師アレクサンドル・ドゥ・ロード(Alexandre de Rhodes)が考案した「クォック・グー(Quốc ngữ)」と呼ばれるローマ字表記法によって表記されています。1945年に漢字やチュノムは使われなくなりました。



 韓国では、漢字教育を殆ど受けていない世代が増え、漢字を使用した出版物が売れなくなっていて、韓国の新聞や雑誌に、漢字が使用されているのを見かけることは殆どないと言われています。漢字をどう扱うかについては、政治問題化しており、朴正煕大統領は、1970年に漢字廃止宣言を発表しているし、金大中大統領は、1998年に漢字復活宣言を発表しています。韓国には、漢字復活を望む「全國漢字育推進總聯合會(전국한자교육추진총연합회)」があり、ハングル専用を推進する「한글 학회(韓글 學會)」があります。

 日本は、初等教育で漢字教育に大きく時間をかけていますから、漢字の「表意性」を利用して韓国語を覚えるという方法はある程度の年齢に達している人たちには、有効な方法です。ある程度の年齢に達していると「意味」を持たないことを暗記するのはかなりの負担になります。「ハナ・トゥル・セッ・ネッ・タソッ・ヨソッ・イルゴプ・ヨドル・アホプ・ヨル」などという無意味な文字列を暗記することは苦です。これを若い世代に覚えさせるとあっと言う間に覚えてしまいます。そこで、一般的には、若い世代は「漢字」を媒介せずに、ある程度の年齢に達した人は「漢字」を媒介にした方が効率がいいと言えるかも知れません。

 漢字の「音」読みには「呉音」・「漢音」・「唐音」・「慣用音」など数種類があります。例えば、現代中国語(普通話)で/ming/(ミンng、2声)と発音される「明」は、呉音では/ミョウ/で、「明日(ミョウニチ)」、「明星(ミョウジョウ)」、「明礬(ミョウバン)」などに使われ、漢音では/メイ/で、「明治(メイジ)」、「照明(ショウメイ)」などに使われて、多くの語彙がこの音で読まれます。唐音では「ミン」で、中国王朝名の「明(ミン)」で使われます。韓国語の漢字音では、(ミョンng、myeong)と発音します。呉音に近いですね。

 日本語では、漢字の音読みをするとき、/ng/という音には、/ウ/をあてることが多く、例えば、現代中国語で「唐」は/tang/(タンng、2声)ですが、日本語では/トウ/になります。/ng/の音が/ウ/になっています。これは日本語には意識して発音する/ng/の音がないからです。韓国語の漢字音では、(タンng)です。韓国語には/ng/の音があります。(ミョンng)が日本に入ったときに、/ミョウ/という音に変わったことは十分考えられます。

 ここで言う「呉」、「漢」、「唐」は、中国の王朝名ではありません。地域を表しています。「呉」は中国南部で、「漢」は中国の中央部を指しています。「唐」は中国全体を指します。「漢音」は、奈良時代後期から平安時代の初めごろまで(7~8世紀)に、遣隋使、遣唐使、留学僧などにより日本に伝えられた、「隋(581~619)」や「唐(618~907)」の都「長安」などで話されていた音をいいます。非常に多くの語彙が体系的に日本に持ち込まれます。「呉音」は「隋」以前、「南北朝時代(439~589)」に伝わったものと言われ、体系性に欠け、仏教用語に使われる音が多いと言われています。例えば、「男」は漢音では/ダン/ですが、呉音では/ナン/、「女」は漢音では/ジョ/ですが、呉音では/ニョ/で、「男女」を/ナンニョ/と読むのは、呉音ということになります。

 韓国語で「男」は、(ナム、ナンm)であり、「女」は、(ヨ)です。これも呉音に近い。呉音は、朝鮮半島の百済(346~660)経由で伝わったと言われもすることから、韓国語の漢字音は呉音が多いかも知れません。しかし、隋や唐の都「長安」などから帰国した遣隋使、遣唐使、留学生たちが、長安の音(「漢音」)を正統とし、日本に以前から定着していた音(「呉音」)を排除しようとしたならば、日本には呉音は多くは残っていないことになります。

 私たちは、韓国語を漢字表記されても、意味は想像できたとしても、音を推測することはできないことになります。漢字を媒介にする韓国語の学習方法は、さて効率のよいものとなるのでしょうか。

                   (この項 健人のパパ) 

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