POWERFUL MOMが行く!
多忙な中でも,美味しい物を食べ歩き,料理を工夫し,旅行を楽しむ私の日常を綴ります。
 





 北海道札幌市手稲区にある「手稲渓仁会病院」が「国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター」とともに2013年12月24日に「今インフルエンザシーズンの初めに経験したA(H1)pdm09亜型ウイルスによる健康成人の重症インフルエンザ肺炎症例について」という報告をしています。

 それによると、「インフルエンザ流行期のごく初期である11月中旬に、本邦ではここ2インフルエンザシーズンほど影を潜めていたA(H1)pdm09亜型ウイルスが原因と思われる健康成人の重症インフルエンザ症例を経験した」といいます。そして、2009~2010年にかけて大流行したインフルエンザA(H1)pdm09亜型ウイルスが、世界的に見ると、「一昨年あたりから分離ウイルスの中で大きな割合を占めるようになってきており、今後わが国でも再び警戒しておく必要があろう」と警告を発します。



 国立感染症研究所 が報告している「週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数」(2014年2月6日現在)を見てみると、2014年に入ってから、AH1pdm09(AH1N1)が、AH3(A香港型)と比べて、非常に多くなって多くなっていることがわかります。



 また、「インフルエンザウイルス分離・検出例の年齢群(2013年第36週~2014年第6週)」を見ると、AH1pdm09の患者数の割合がAH3などと比べて、0歳から6歳にかけて多いことが見てとれます。



 報告されている患者は38歳の女性で、免疫不全はないとのことです。患者は社員が海外と行き来のある旅行関連の会社に勤務しており、今回の原因ウイルスが海外から持ち込まれた可能性もあるといいます。しかし、原因ウイルスがすでに水面下で地域流行していて感染した可能性も否定できないともいいます。経過を見ていきます。

11月上旬…37℃台の微熱を伴う「乾性咳漱(空咳(からせき)、痰(たん)を伴わない乾いた咳)」があった。
11月16日…38.0℃の発熱と呼吸困難のために札幌のA病院を訪れた。当初、「咳喘息(気管支の慢性的な炎症が主な原因で、空咳が続く)」が疑われ入院した。
11月19日…胸部レントゲンとCT検査で両側の「間質性肺炎(絡み合っている肺胞と毛細血管を取り囲んで支持している組織である「間質」が炎症を起こす」)像が認められ、鼻腔ぬぐい液を用いた迅速検査でA型インフルエンザ抗原が陽性となった。
11月19日…ウイルスに対する特異的治療としてラピアクタ300mg/日、タミフル150mg/日がそれぞれ11月28、30日まで投与されたが、症状の改善には至らなかった。
11月19日…その後、低酸素血症が確認され、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の状態に陥り、ICUで挿管管理下に置かれた。
12月…喀痰からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたため、細菌性肺炎としての治療も開始されている。
12月13日(報告日)…現在、多臓器不全の傾向にある。

 11月20日とその2週間後の12月2日に採取されたペア血清について、赤血球凝集抑制(HI)試験を行ったところ、A/California/07/2009(H1N1pdm09)ウイルス抗原に対して、急性期(11月20日)HI価が1:10であったところ、2週間後(12月2日)の血清では1:320と大きな上昇が認められたと言います。その一方で、A/Texas/50/2012 (H3N2)、B/Massachusetts/2/2012(山形系統)、B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)に対しては、HI価の上昇は見られず、すべて1:20 となったそうです。A(H1)pdm09ウイルスによる感染があったことになります。

 感染症の診断、ワクチンの効果の判定に使用される「ペア血清(paired serum)」という手法があります。ペア血清は、同一被験者から期間をおいて採取された1組の血清です。例えば、感染初期の血清(「急性期血清」)と病気が回復した後の血清(「回復期血清」)とを1組とします。急性期血清と回復期血清とでどの程度の抗体価の上昇がみられるかを検査します。例えば、ペア血清の抗体価が4倍以上上昇した場合に、そのウイルスの感染を推定します。

 インフルエンザを発症した患者においては、症状が出てから4日以内の「急性期」には、その系統のインフルエンザウイルスに対する「抗体」はまだできていないのですが、症状が出てから2週間~4週間経った「回復期」には、「抗体」ができています。このため、血清中の抗体価をHI試験によって比較すると、インフルエンザウイルスに感染していれば、大きな差となって現れてくるのです。

(参考) 「ワクチンが充分には効かない「抗原性変異」と「赤血球凝集抑制試験」と、、、

 「長野県立こども病院小児集中治療科」が「長野県環境保全研究所感染症部」とともに2014年2月10日に「インフルエンザA(H1N1)pdm09による生来健康小児の急性インフルエンザ脳症死亡例」という報告をしています。

 その報告には、「今シーズン流行初期である2014年1月中旬に、生来健康な9歳児がインフルエンザ脳症を発症し、発症から2日目に死亡した」こと、「A(H1N1)pdm09による急性脳症を発症し、集中治療にもかかわらず死亡」したこと、「救急要請から2時間半後の集中治療室入室時にはすでにショック、DIC状態と病勢が強く救命しえなかった」ことに、強い無念さがにじんでいます。

 DIC(disseminated intravascular coagulation)とは、播種性血管内凝固症候群または汎発性血管内凝固症候群のことで、血液凝固反応は本来は出血箇所のみで生じるはずなのですが、それが全身の血管内で無秩序に起こる状態を言います。

 正常であれば、血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子の働きにより、必要な箇所以外では血液は凝固しません。ところが、何らかの原因で凝固促進物質が大量に血管内に流入することが起これば、抗血栓性の制御能を失うことになり、全身の細小血管内で微小血栓が多発して、臓器不全へと進行することになります。

 経過をこの報告から辿ってみます。

1月9日…咳嗽、鼻汁出現。
1月10日…朝6時、38.5℃の発熱出現。
1月10日…総合病院小児科を受診、鎮咳去痰薬と解熱剤(アセトアミノフェン)が処方された。抗インフルエンザ薬は投与されず。
1月11日…咳嗽、鼻汁が増悪したが、お昼に少量食事摂取(プリン)。
1月11日…「ドスン」というベッドから落ちるような音が聞こえ、うなり声、尿便失禁、開眼しているも視線合わず、顔色不良という状況で発見された。
1月11日…13時50分に救急要請、総合病院小児科へ搬送された。搬送中に嘔吐あり、呼びかけには反応なし。同医で迅速診断キットにてインフルエンザA陽性。
1月11日…集中治療目的で長野県立こども病院にドクターヘリ搬送となった。
1月11日…長野県立こども病院到着時、Glasgow Coma Scale(GCS); E4V1M1で、眼球左方偏位、左上肢屈曲位で硬直していた。痙攣持続していると判断され、気道確保など集中治療を開始したが、ショック状態は続いていたため、人工心肺装置を装着し循環管理を開始した。また出血傾向ありDICも合併していた。
1月11日…抗インフルエンザ薬(点滴注射薬ペラミビル。商品名は「ラピアクタ」)に加えて、ステロイドパルス(炎症を早急に抑える必要があるときに、ステロイド薬を大量に点滴する治療方法)、シクロスポリン(サイトカインの産生と遊離を抑制する抗生物質)などインフルエンザ脳症に対する特異療法を開始した。しかし、脳波は平坦となった。
1月12日…瞳孔散大と対光反射の消失を認めたため、人工心肺を中止。

 意識障害の程度を記録する「グラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale、GCS)」が、E4V1M1だったことから、開眼機能(Eye opening)は、「自発的に、または普通の呼びかけで開眼」、言語機能(Verbal response)は、「発語みられず」、運動機能(Motor response)は、「運動みられず」という状態であったようです。

 白血球が分泌し免疫系の調節に機能するインターロイキン (interleukin)、ウイルスの増殖阻止や細胞の増殖抑制で機能するインターフェロン(interferon)、細胞にアポトーシスを誘発する腫瘍壊死因子(TNF-α)やリンフォトキシン(TNF-β)など、細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達をするものをサイトカイン (cytokine)と言います。

 サイトカインは免疫系による感染症への防御反応として産生されることもあり、それが過剰なレベルになる(サイトカイン・ストーム)と、多臓器不全などを引き起こします。インフルエンザウイルスは、例えば肺細胞に対して影響を及ぼすと、肺組織においてサイトカインが過剰に分泌され免疫系を刺激します。肺に移動した白血球は肺の細胞を破壊し、肺胞炎、肺胞浮腫が起こり、患者は呼吸困難に陥ることになります。このようなサイトカイン・ストームは、健康で免疫系が正常な若年の患者に起こりやすいと言われています。

(参考) 「ウイルス感染が誘発する「サイトカイン・ストーム」と「多臓器不全」

 「札幌市衛生研究所」や「国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター」などが2014年1月6日に報告した「2013/14シーズンに札幌市で検出された抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルス」によると、「A(H1N1)pdm09ウイルスの抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスにおいて、札幌市で検出されたA(H1N1)pdm09ウイルスがいずれもNA蛋白にH275Y耐性変異をもち、オセルタミビル(商品名タミフル)およびペラミビル(商品名ラピアクタ)に耐性を示すことが確認された」といいます。

 「2013/14シーズンに札幌市の患者から分離されたA(H1N1)pdm09ウイルス5株について、札幌市衛生研究所において遺伝子解析による薬剤耐性マーカーの1次スクリーニングを行ったところ、5株すべてがH275Y変異をもつことが明らかになった」のだそうです。11月中旬に札幌市内の病院で、健康成人の重症インフルエンザ症例の発生があり、国立病院機構仙台医療センターでの患者臨床検体の検査によって検出されたA(H1N1)pdm09ウイルスのRNAについて、「国立感染症研究所において遺伝子塩基配列の解析を行った結果、札幌市衛生研究所で分離された5株と同様にH275Y変異をもつことが明らかになった」ようです。

 オセルタミビルおよびペラミビルに対して耐性を示すことが確認されたH275Y変異をもつ5株は、一方、ザナミビルおよびラニナミビルに対しては感受性を保持しているようです。つまり、ザナミビル (専用の吸入器によって吸入投与。商品名「リレンザ」)やラニナミビル (吸入投与。商品名「イナビル」)はH275Y変異をもつウイルスに対しても、増殖を防ぐ効果があることになります。

 インフルエンザウイルスは、ノイラミニダーゼ(Neuraminidase)という酵素をその表面に持っています。この酵素には、宿主細胞で複製されたウイルスを宿主細胞から遊離させするという働きがあります。オセルタミビル (商品名「タミフル」)やペラミビル(点滴注射薬、商品名「ラピアクタ」)という抗インフルエンザ薬は、このノイラミニダーゼの働きを阻害します。遊離できなくなるのですから、ウイルスは増殖できなくなります。

 ノイラミニダーゼは糖タンパク質であり、アミノ酸をその構造に持ちます。インフルエンザウイルスの中には、ノイラミニダーゼの275番目のヒスチジン (histidine、略号はHis、H) というアミノ酸がチロシン(tyrosine、略号はTyr、Y)というアミノ酸に変わっているものがあります。これを「H275Y変異」といいます。これが起こっていると、「タミフル」や「リレンザ」は、ウイルスのノイラミニダーゼを認識できなくなります。ウイルスの増殖を許してしまうのです。しかし、この変異はザナミビル (とラニナミビルという抗インフルエンザ薬には通用しないようです。

 長野県の小児から2014年1月11日に採取した咽頭と鼻腔ぬぐい液を長野県環境保全研究所に送付し、RT-PCR法を用いて遺伝子検査を実施したところA(H1N1)pdm09が検出されたそうです。MDCK細胞で分離されたA(H1N1)pdm09株に対し、TaqMan RT-PCR法を用いてNA(ノイラミニダーゼ)遺伝子を解析したところ、オセルタミビルおよびペラミビルの臨床効果の低下に関与しているといわれている耐性変異(H275Y変異)は検出されなかったといいます。

 この小児の発症と同時期に父、弟2人(5歳、2歳)にも迅速検査が行われていますが、迅速診断キットでインフルエンザA陽性であったといいます。なぜ、この小児だけが重篤化し死に至ったのでしょうか。亡くなった小児はワクチンの接種を受けていなかったといいます。しかし、想像するに2人の弟も接種を受けていなかったことでしょう。なぜ、この小児だけが重篤化し死に至ったのでしょうか。インフルエンザワクチンには、感染予防(罹患予防)、重篤化予防、死亡回避の効果があるといわれています。ワクチンの接種は受けた方がいいのかも知れません。

(参考) 「ワクチンって効くの? インフルエンザワクチンの有効率を考える

(参考) 「我が子の命を守るために親として「インフルエンザ脳症」を知る

 2014年2月10日(月)配信の毎日新聞の記事からです。

 国立感染症研究所は2月10日、長野県内の男児(9歳)がインフルエンザ脳症で死亡したと発表した。男児から検出したインフルエンザウイルスのタイプは、今季流行しているA型のH1N1型だった。このタイプは、2009年に新型インフルエンザとして流行し、その際に脳症を発症する患者が多かったため、同研究所は今後も脳症の患者が増える恐れがあるとして関係者に注意を呼びかけている。長野県立こども病院によると、男児は1月10日に発熱などの症状が出た。翌日に症状が悪化。県内の病院に救急搬送され、インフルエンザと診断された。その後も顔色が悪いなど症状が悪化し、1月12日に脳症で死亡した。

                  (この項 健人のパパ)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )






 集団における疾病の発生状況や原因、対策などを研究する「疫学(epidemiology)」で扱う指標の1つに「相対リスク(relative risk、RR)」というものがあります。曝露群と非曝露群、発症群と非発症群で「四分表(分割表、contingency table)」を作り、発症率を2つの群で比較して示すものです。

 例えば、喫煙習慣と肺ガンの発症との関係について疫学的に調査するとします。喫煙習慣のあるグループが「曝露群(exposed group)」であり、喫煙習慣のないグループが「非曝露群(non-exposed group)」になります。タバコを吸うことを「曝露」と考えるのです。そして、将来どのくらいの人が肺ガンになるのかを観察します。肺ガンを発症したグループが「発症群」であり、肺ガンを発症していないグループが「非発症群」になります。



 四分表から、曝露群の発症率を A /(A+B)で、非曝露群の発症率を C /(C+D)で求めることができます。この曝露群の発症率を非曝露群の発症群で割ったものが相対リスクになります。例えば、曝露群の発症率が0.3で、非曝露群の発症率が0.1だとします。0.3/0.1=3 で、相対リスク(RR)は、3 ということになります。



 相対リスクが 1 であれば、曝露群と非曝露群で発症率に違いがないことを意味し、1 より小さければ、曝露群よりも非曝露群で発症率が高く、1 より大きければ、非曝露群よりも曝露群で発症率が高いことを意味します。上記の例で言うと、肺ガンの発症率は喫煙者群で高いことを意味するわけです。

 もう少し具体的に述べてみます。例えば、次のような調査をしたとします。A市の小学校在籍者をインフルエンザワクチン接種群と非接種群に分けます。ワクチンの接種状況は、本人や保護者への聞き取り調査で把握します。インフルエンザの罹患状況は、学校から報告されるインフルエンザ様疾患による出席停止者をインフルエンザ罹患者とします。その結果、小学校在籍者が2036名のところ、接種者は937名(接種率46.0%)であり、インフルエンザ罹患者は627名(罹患率30.8%)だったとします。

 さらに接種群での罹患者数(251名とする)と非接種群での罹患者数(376名)を把握します。ここでは、インフルエンザワクチンの接種を「曝露」と考えています。「曝露(exposure)」には、「風雨に直接曝される(さらされる)こと」から派生した、「細菌やウイルスなどの病原菌や薬品などの物質(通常は有害物質)に曝されること」という意味があります。



 上記の表のインフルエンザ罹患率は、インフルエンザワクチン接種者群で、251÷937=0.2678...から 26.8%であり、非接種者群で、376÷1099=0.3421...から 34.2%になります。26.8÷34.2=0.7638...で、相対リスクは 0.764 になります。1 より小さい数ですから、接種者群よりも非接種者群で罹患率が高いということになります(それぞれの罹患率を比べれば、相対リスクを求めなくてもどちらの群で罹患率が高いかは一目瞭然ではある。その差は 34.2-26.8=7.4)。

 インフルエンザワクチンの有効率をこの相対リスクから求めます。1 から相対リスクを差し引いた値に100を乗じた値(%)がワクチンによる発症予防の有効率となります。(1-0.764)×100=23.6で、有効率は 23.6%ということになります。

 老人福祉施設や病院に入所または入院している65歳以上の高齢者を対象として、インフルエンザワクチンの有効率を調べた研究があります。それによると、罹患の予防には有効率が34~55%であり、死亡を回避するには有効率が80%ほどであったようです。アメリカの65歳未満の健常な成人では、その有効率は70~90%という報告もあるようです。

(参考) 「今年(2011/12年シーズン)のインフルエンザワクチンは効く?効かない?

 ウイルスによる感染症は、最悪の場合、感染する⇒発症する⇒重症化する⇒死亡する、という経過を辿ります。感染しても発症しないこともあります。これを「不顕性感染(inapparent infection)」といいます。免疫機構がその機能を充分に発揮して、身体症状を示すまでには病原体の活動を許さないのです。不顕性感染の臨床上での応用が「弱毒生ワクチン(attenuated vaccine)」です。

 「予防」には各段階に応じて、発症予防(罹患予防)、重症化予防、死亡回避が考えられます。感染しても発症させない、発症しても重症化させない、重症化しても死亡に至らせない、という働きをワクチンに求めることになります。有効率と言っても、罹患予防では40%だが、重症化予防には80%であるということもありえます。

 そもそも「有効率40%」とはどんなことを意味するのでしょうか。これは「相対リスク」が0.6であるということであり、インフルエンザワクチンの接種者の発症率(罹患率)は、非接種者の発症率(罹患率)の6割だということです。ワクチンを接種したことで発症しないで済んだ人が、接種者×(非接種者の発症率-接種者の発症率)/100 人いることに理論上はなります。

(この記事は、未完成です。)

 

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )






 生物が異なった環境に移されて、次第にその環境に適応するような性質に変わることを「馴化(じゅんか、順化)」といいます。ウイルスを生物と呼ぶには疑問のあるところですが、インフルエンザウイルスは発育鶏卵(孵化鶏卵)内での増殖能力が低いため、ワクチン株に使用するには長期間にわたって、発育鶏卵での継代培養を続けて、「馴化」させなければなりません。

 日本での現在のインフルエンザワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを「発育鶏卵(孵化鶏卵、有精卵が孵化するまでの発育過程の鶏卵)」に接種して増殖させ、漿尿液から精製・濃縮したウイルスをエーテルなどの脂溶性溶剤を加えて、免疫防御に関与する部分を取り出し(「成分ワクチン」)、更にホルマリンで不活化したものです(死滅させた病原体を含む「不活化ワクチン」で、弱毒化してあるが生存している病原体を含む「生ワクチン」とは異なる)。



(参考) 「人獣共通感染症と「豚インフルエンザ」、「鳥インフルエンザ」」

 ワクチン株を卵に馴化させる過程で抗原性が変異するということが起こります。ワクチンの元となった株(野生株)と、そのシーズンの流行株が一致したとしても、抗原性変異が起こってしまった製造株でワクチンが作られたとすると、ワクチンの効果が期待通りにはいかないことになります。2012/2013シーズンの季節性インフルエンザワクチンでは、A/Victoria/361/2011(H3N2)という株が製造株に使われていました。しかし、この株は「卵馴化(たまごじゅんか)」による抗原性の変異が大きかったため、このワクチンでの防御効果は低下していたようで、この結果、このシーズンのワクチンは効かなかったという評価が出てくることになりました。

 国立感染症研究所の「病原微生物検出情報 (IASR)2013年11月号」 の「平成25年度(2013/14シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過」という記事では、「2012/13インフルエンザシーズンは、A(H3N2)ウイルスが国内や多くの諸外国で流行の主流であった。このシーズンは、ワクチン効果が低かったと国内外から批判が出ているが、これはウイルス流行予測に基づくワクチン株の選定の問題ではなく、ワクチン株の卵馴化による抗原変異がワクチン効果を低下させていることが原因となっている。」と述べられています。

 流行株が抗原性変異を起こす。 ⇒ インフルエンザワクチンの効果が期待できない。

 製造株が抗原性変異を起こしていた。 ⇒ インフルエンザワクチンの効果が期待できない。


(参考) 「ワクチンが充分には効かない「抗原性変異」と「赤血球凝集抑制試験」と、、、

 生体内に「抗原(antigen(アンチゲン)、例えばウイルス)」が侵入したとき、それに対応して生成され、その抗原に対してのみ反応する蛋白質を「抗体(antibody(アンチボディ))」といいます。抗体が抗原に結合すると、白血球やマクロファージといった食細胞がその抗原と抗体の複合体を認識できるようになり、貪食して体内から除去することになります。

(参考) 「季節性インフルエンザの免疫を持っていれば、重篤化しないのか?

 抗原が姿を少し変えると、生体がそれを抗原と認識し、抗体を生成するようになるのに時間がかかって、その増殖を許してしまうということが起こります。ウイルスが増殖のために細胞を破壊していくのを阻止できない状態が一定期間続くのです。抗原と認識できないほどに変化が起こっていることを、「抗原性変異」といいます。

 喩えてみましょう。町があります。多くの人が流入し、そして流出して行きます。その中には町に損害を与える犯罪者も混じっています。町の治安は警察組織が守っています。その町での犯罪歴がある人物は、警察官はたちどころに認識できます。また他所の町で犯罪歴のある人物は指名手配写真が配られています。指名手配犯が整形手術を受けて町へ入ってきます。警察官は認識できません。町に損害が出始めて初めて犯罪者と認識することになります。

 警察官が犯罪者をそれと認識できないのには、警察官に配られる指名手配写真の作成に失敗してしまって、本人とかなり違ってしまっている場合もあります。卵馴化が原因となります。例えば、インフルエンザA型(H3N2)ウイルスのHA遺伝子のアミノ酸配列の156位で、「ヒスチジン (histidine、His、H)」が「アルギニン (arginine、Arg、R)」に置換されたり、194位で「ロイシン (leucine、Leu、L)」が「プロリン(proline、Pro、P)」に置換されるといったことが卵馴化で起こるようです。その人物の印象を決定する要素が異なっていると、同一の人物だとは認識されません。



 平成25年4月19日の健発0419第3号、国立感染症研究所長が厚生労働省健康局長に宛てた「平成25年度インフルエンザHAワクチン製造株の決定について」では、

 生物学的製剤基準(平成16年3月30日厚生労働省告示第155号)の規定に係る平成25年度のインフルエンザHAワクチン製造株を下記のとおり決定したので通知する。

                      記

 A型株
・・・・・A/カリフォルニア/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09
・・・・・A/テキサス/50/2012(X-223)(H3N2)
 B型株
・・・・・B/マサチュセッツ/2/2012(BX-51B)


とあります。今年度からは、ワクチン株の表記が元株の野生株と区別できるようにするために製造株番号も明記されています。例えば、A(H3N2)亜型ウイルスのワクチン株は、A/Texus/50/2012という元株から増殖されたX-223という製造株に決定されたということになります。

 2012/13シーズンでインフルエンザの流行の主流は、A(H3N2)亜型インフルエンザウイルスで、国内外でインフルエンザ患者から採取され、分離された株の大半は、A/Victoria/361/2011と抗原性が類似していたようで、それならばこれを元株とした製造株(IVR-165)を2013/14シーズンのワクチン株とすればよいはずなのですが、この株は「卵馴化」の影響を強く受け、抗原性が大きく変異してしまうのだそうです。そこで、A/Victoria/361/2011に類似していて、卵馴化の影響を受けにくく抗原性が変異しにくかったA/Texus/50/2012を元株とするX-223という製造株からインフルエンザワクチンを製造することにしたわけです。

 ワクチン株をA/Texus/50/2012(X-223)に変更しても、依然として卵馴化の影響が存在するようですが、その影響はIVR-165血清では96%、X-223血清では9%(赤血球凝集抑制(HI)試験で、HI価16倍を指標にして、それ以上に変化した割合)で、抗原性変異の程度が小さかったようです。

 「平成25年度(2013/14シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過」では、「現行のインフルエンザワクチンが卵で製造される限り、この問題の根本的な解決は極めて困難であり、ワクチンの製造基剤を変えるしかない。現在、国内および諸外国では培養細胞を用いたインフルエンザワクチンの製造に切り替えつつあり、これら細胞培養インフルエンザワクチンに期待したい。」と述べられています。

(参考) 「「卵アレルギー」と「細胞培養法」の新型インフルエンザワクチン

                         (この項 健人のパパ)

コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )






 ヒト以外の動物にももちろん、ウイルス感染症はあります(他の生物の細胞を利用して、自己を複製する構造体がウイルスであるので、植物にもウイルス感染症はある。例えば、タバコなどの葉にモザイク状の斑点を作り、葉の成長を悪くする「タバコモザイクウイルス(tobacco mosaic virus、TMV)」)。「ウイルス感染症(viral infectious disease)」とは、「病原体(pathogen、パソジェン)」であるウイルスに感染することで、その生物に生じる「不都合な症状(=病気)」を言います。

 「人獣共通感染症(zoonosis、ズーノーシス)」という言葉があります。「動物由来感染症」と言い換えられるように、「ヒト」とヒト以外の脊椎動物の両方に感染、寄生する病原体によって生じる感染症のことを言います。例えば、「狂犬病(rabies)」は、「狂犬病ウイルス(rabies virus、レイビーズウイルス)」を病原体とする人獣共通感染症で、ヒトを含めて、すべての哺乳類が感染します(アメリカでは哺乳類であるコウモリから感染したヒトの狂犬病の症例が多いという)。

 全身に、体表だけなく内臓にも、膿疱が生じ、呼吸器に生じた膿疱により肺が損傷を受け、重篤な呼吸不全によって、死に至る(致死率は40%前後といわれた)こともある「天然痘(疱瘡、痘瘡、smallpox、variola)」は、「天然痘ウイルス(variola virus、バリオラウイルス、痘瘡ウイルス)」によるウイルス感染症で、ヒトのみに感染し発病させます。20世紀だけでも2~3億人が死亡したとされる天然痘は、1980年5月に世界保健機関(World Health Organization、WHO)が「天然痘根絶宣言」を出しています。

 ヒトのみに感染するウイルスを根絶することは、可能であるといわれます(実際、1958年に世界保健機関が始めた「世界天然痘根絶計画」で、天然痘では達成できた)が、人獣共通感染症であるウイルスを根絶することは不可能でしょう。草むらに潜んで不意に攻撃を仕掛けてくるゲリラのように、ヒト以外の宿主に潜み、ヒトに散発的に流行をもたらすウイルスを根絶する手段を人間は持ちえていないのです。

 インフルエンザウイルスは、ヒト、豚、鳥などの間で複雑に行動するウイルスです。長距離を移動する渡り鳥などの体内に潜み、国境を容易に越えていきます。家禽であるニワトリやアヒルに乗り換え、姿を徐々に変えながら(「変異」)、家畜である豚に乗り換えます。その間にチャンスがあれば、ヒトにも乗り換えます。

 ヒトに38~40度の高熱を出させる気道感染症である「インフルエンザ」は、「インフルエンザウイルス(influenza virus、flu virus)」による、ウイルス感染症です。インフルエンザは、「宿主(host)」の種類によって、ヒトインフルエンザ以外に、トリインフルエンザ(鳥インフルエンザ、avian influenza、avian flu、bird flu)、ブタインフルエンザ(豚インフルエンザ、swine influenza, swine flu, hog flu, pig flu)、ウマインフルエンザ(馬インフルエンザ、equine influenza、horse flu)などがあります。

 鳥インフルエンザは、「トリインフルエンザウイルス」が「鳥類」に感染して起きる鳥類のウイルス感染症です。ウイルスなどの病原体が、宿主となる生物に「感染(infection)」して、宿主に感染症を「発症(onset)」させる性質を「病原性(pathogenicity)」と言います。「病原性」は本来、「ある」か「ない」かですが、「ウイルス感染症」では病原性のあるウイルスしか問題にならないわけですから、宿主に与えるダメージの強度に応じて、「高病原性(highly pathogenic)」、「中病原性(mild pathogenic)」、「低病原性(low pathogenic)」というような表現が行われています。

 「高病原性鳥インフルエンザウイルス」は、次のいずれかの条件に合うものを言います。
(1)ニワトリの静脈内に接種すると、ニワトリを高い確率で死亡させる。
(2)ウイルスのHAというタンパク質の一部が、強毒タイプのウイルスのHAに似ている。
(3)全てのH5またはH7亜型(家禽に対する病原性の強さに関係ない判断基準。この判断基準に疑問が呈されることがある)

 上記の定義(1)では、「病原性」は致死率の高さを意味するように思われます。しかし、H5型、H7型のすべての鳥インフルエンザウイルスを「高病原性」と定義((3))する(日本の「家畜伝染病予防法」)と(この型の鳥インフルエンザの中には低病原性のものもある)混乱することになり、致死率の差(「トリ」の致死率)に応じて、「強毒性」、「弱毒性」という呼び分けも行われています。

 H5型、H7型の鳥インフルエンザウイルスでは、「高病原性」だが「低毒性」である、という表現が現れる可能性もあります。「ヒト」にとっては、「強毒性」、「弱毒性」という区別のみが分かりやすいようにも思われます。いま中国で、ヒトへの感染拡大が懸念されているH7N9という型の鳥インフルエンザウイルスは、複雑です。このウイルス、トリにとって「弱毒性」であるにもかかわらず、ヒトにとっては「強毒性」である疑いがあるのです。

 鳥インフルエンザウイルスは、濃厚接触(鶏の糞や剥がれ落ちた皮膚、羽毛などが飛沫として舞う鶏舎などに長時間留まるなど)の場合を除いて、「ヒト」には本来感染しないと言われています(変異をすると「ヒト」に感染するようになる)。「ヒトインフルエンザウイルス」と「鳥インフルエンザウイルス」は、別のウイルスなのです。

 A型インフルエンザウイルスは、その粒子の表面にある「赤血球凝集素(この働きによって細胞に感染する。ヘマグルチニン、haemagglutinin、HA)」と「ノイラミニダーゼ(ウイルスの自己複製プロセスに必要。neuraminidase、NA)」という酵素の種類によって、分類されています。赤血球凝集素には16種類、ノイラミニダーゼという酵素には9種類が見つかっています。

 ヒトにインフルエンザを発症させるインフルエンザウイルスには、次のようなものがあります。2009年4月にメキシコでの流行が始まり、やがて世界的に流行したいわゆる「新型インフルエンザ」は、H1N1という型であり、「A香港型」は、主にH3N2という型です。また、南アジアの多くのトリの間で局地的流行(エピデミック)を起こしている「高病原性トリインフルエンザ(Hyper Pathogenic Avian Influenza、HPAI)」は、H5N1という型です。

 2013年4月9日の「共同」の記事には、「ベトナム保健省当局者は4月9日、南部ドンタップ省の4歳の男児が鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)に感染し、4月4日に死亡したことを明らかにした。ベトナムで同ウイルスによる死者が出たのは、昨年2012年1月28日以来となる。男児は3月23日に高熱やせきなどを発症。死亡後の4月5日に感染が確認された。世界保健機関(WHO)などによると、ベトナムでの同ウイルス感染者は、今回の男児を含めこれまでに124人、うち死者は62人となった。」とあります。発症者をすべて把握できていたとすると、致死率は50%という高率になります。

 国境を越えて感染症や病害虫などが持ち込まれたり、また持ち出されることを防ぐために、「検疫(quarantine)」が行われています。検疫とは、出入国する人、輸出入される動植物や食品などを一定期間隔離して(quarantineという語は、1347年の黒死病(ペスト)大流行の際に、潜伏期間に等しい40日の間、船を入港させず港外に留め置いたことに由来するという)、伝染病の病原体などへの汚染の有無を確認することです。人は厚生労働省健康局所管の検疫所、食品は医薬食品局食品安全部所管の検疫所、動植物は農林水産省消費・安全局所管の動物防疫所と植物検疫所がそれぞれ管轄しています。

 厚生労働省検疫所が海外感染症情報を提供している「FORTH(For Traveler's Health、フォース)」というサイトがあります。2013年4月2日の「新着情報」は次のように述べます。

 4月1日付けで公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、中国の国家衛生・計画出産委員会は3月31日、インフルエンザA(H7N9)に感染した患者が3人発生したとWHOに報告しました。患者は3月29日に中国の疾病予防管理センターで実施された検査で確定されました。インフルエンザA(H3N2)、インフルエンザA(H1N1)pdm09、インフルエンザA(H5N1)、新種のコロナウイルスの検査も実施されましたが、いずれも陰性でした。
 患者は上海市で2名、安徽省で1名発生しました。患者は3人とも重症の肺炎と呼吸困難を合併した呼吸器感染症を発症しました。発症日は2月19日から3月15日までの間でした。患者のうち2人は死亡し、1人は現在重篤な状態にあります。
 これまでのところ、患者の間に疫学的な関連は確認されていません。接触者の経過観察を含む調査が行われています。現時点では、経過観察中の88人の接触者から新たな患者は発生していません。


 「呉亮亮」は、妻「呉曉雅」と子「軒々」とともに、2013年1月に江蘇省塩城市から上海にやって来て、上海市閔行区にある景川菜市場で、よりよい生活を望んで、1日12時間労働という仕事に就きます。しかし、鳥インフルエンザウイルス(「禽流感病毒」)H7N9に感染し、発症し、転院した「復旦大学附属上海市第五人民医院」で、2013年3月10日に27歳という若さでこの世を去ってしまうのです。2月27日に発症して「風邪を引いて具合が悪い」と訴え、12日間病魔と闘い、力尽きて、呼吸不全で亡くなりました(2月27日,他自覚“感冒不適”,3月10日便因呼吸衰竭去世。)。鳥インフルエンザウイルスH7N9による2人目の被害者でした(1人目は、3月27日に発症し、4月3日に「復旦大学医学院附属崋山医院」で、「急性呼吸窮迫症候群 (acute respiratory distress syndrome、ARDS) 」で亡くなった52歳女性(52-year-old retired female resident in Shanghai))。

 27歳的呉亮亮死了。殺死他的是H7N9禽流感病毒。

 私たちは、中国での鳥インフルエンザの流行の記事を目にするとき、「4月23日の時点で、中国全土の感染者数は108人になり、死者も22人に上った。」というように数字でしか人の死が表現されていません。そこで、若くして突然に亡くなった人やその家族に気持ちを寄り添わせて悼むために、「中国青年網」(2013年4月8日)の記事を引用して、実名で臨床症状の経過を記述してみたいと思います。



 関東の「横浜中華街」、関西の「神戸南京町」、九州の「長崎新地中華街」を「日本三大中華街」と呼び、その南京町に台湾料理の「攤販街(タンファンチェ)」があります。手偏に「難」と書く「攤(タン、tan、1声)」には「平らに広げる、並べる」という意味があり、「屋台、露店」を意味することもあります。一方、「販(ファン、fan、4声)」には「仕入れる」という意味があり、「物売り、行商人、小商人」を意味することもあります。そこで「攤販(タンファン)」とは「露店商」を指すことになります。

 「呉亮亮」の奥さんは「呉曉雅」です。中国では、女性は結婚しても「姓」が変わることがありません。制度的に「夫婦別姓」なのです。中華人民共和国第7代国家主席「習近平」氏の奥さんは「彭麗媛」で、姓は異なります。しかし、日本でも結婚しても姓が変わらないときがあります。たとえば、「佐藤」(日本で一番多い姓)さんが「佐藤」さんと結婚をするときです。中国で、「呉」姓の人が「呉」姓の人と結婚すると姓は同一になります。「呉亮亮」は「呉曉雅」と2010年12月に結婚して、露天商である奥さんの父親の仕事を手伝って、屋台で「豚肉(中国語では「猪肉」と表現される)」を販売していました。
 
 中国語では、ニックネームのことを「小名(xiao ming、シャオミン)」、本来の名前は「大名(da ming、ダーミン)」と言いますが、呉亮亮は奥さんのことを「小名」で「婷婷(ティンティン、Ting ting)」と呼んでいました。「婷婷」は「女性の様子がしとやかであったり、しなやかであること」を意味します。

 2月27日、呉亮亮は熱があるのか顔を火照らせて、奥さんに「婷々、俺、身体の具合が悪い(我 難受)」と訴えます。家に帰り、体温を計ると、39℃ありました。この頃には、すでに高熱のせいで意識がはっきりせず(已経焼得有点迷糊了)、家の近くの診療所で点滴を受けることになります。このときは、徐々に熱が下がったといいます。

 上海の52歳の女性も「悪寒(rigor)」を感じ、40.6℃に達する高熱で発症しています(インフルエンザの「全身症状」はあったことになります)。このときは、「気道症状」(インフルエンザの「局部症状」の1つ)の咳(cough)、咽喉痛( pharyngalgia)、鼻詰まり(stuffiness)も「胃腸症状」(これも「局部症状」の1つ)の吐き気(nausea)、嘔吐(vomiting)、腹痛(abdominal pain)、下痢(diarrhea)も明らかな症状がなかったことから、医師に診てもらうこともなく、服薬もしなかったようです。

(参考) 「風邪かな?それともインフルエンザ?-インフルエンザの症状について

 インフルエンザは、急な発熱で発症することが多いと言えます。このインフルエンザ発症の初期段階で、ウイルスが持つ「ノイラミニダーゼ」という酵素の働きを阻害する「ノイラミニダーゼ阻害薬(Neuraminidase inhibitors)」を投与できれば、ヒトの感染細胞からインフルエンザウイルスが外部に放出されることを阻害でき、ヒトの体内でインフルエンザウイルスが増殖することを妨げることができるといいます。

 「ノイラミニダーゼ阻害薬」には、経口薬のオセルタミビル(商品名「タミフル(Tamiflu)」、吸入薬のザナミビル(商品名「リレンザ(Relenza)」とラニナミビル(商品名「イナビル(Inavir)」、点滴注射薬のペラミビル(商品名「ラピアクタ(Rapiacta)」)の4種類があります。WHOは、中国で行われた臨床検査の結果、この鳥インフルエンザ(H7N9)ウイルスに対しては、タミフル(「達菲」)とリレンザに感受性がある(ウイルスの増殖を防ぐ)ことが示されたと発表しています。また、日本の国立感染症研究所が、中国から4月10日に届いたウイルス株を用いて行った実験でも、タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタのいずれでもウイルスの増殖を抑えることができたといいます。

 日本の厚生労働省によると、この鳥インフルエンザウイルスを検出できる検査キットが開発され、日本全国の検疫所や地方衛生研究所、計90か所に配備され、鳥インフルエンザウイルス(H7N9)への感染が疑われる人が出た場合、鼻やのどから粘膜を採取し、この検査キットで感染の有無を調べる(早ければ6時間程度で結果がわかる)ことになっているといいます。

 流行の初期では、インフルエンザであることは認識されていなかったため、抗インフルエンザ薬を投与するなどの適切な治療が施されなかった可能性はあるのですが、最初の鳥インフルエンザウイルス(H7N9)感染例の報告があってから、すでに3週間以上が経とうとしているのに、このウイルスに感染し発症して亡くなる人の数は着実に累積していっています。公表日でみると、4月1日に2人、4日3人、5日1人、9日1人、10日2人、11日1人、12日1人、15日2人、16日1人、17日3人、21日3人、22日1人、23日1人となっています。

 これはどういうことでしょう。次のような場合などが考えられます。
(1)抗インフルエンザ薬が投与されていない。
(2)投与はされているが、抗インフルエンザ薬に効果はない。
(3)抗インフルエンザ薬に効果はあるが、発症から数日経ってからの投与で手遅れである。
(4)すみやかに投与され効果をあげているが、発症者が公表されている数よりもはるかに多く、基礎疾患があったため快復しなかったなどの不幸な例が報告されている。

 2月28日、この日の朝、呉亮亮は再び高熱を出し、診療所を再診し、また点滴を受けることになります。しかし、熱は下がりませんでした。
 3月 1日、この日も点滴を受けますが、熱が引くことはありません。この場合の点滴にはどのような意味があったのでしょうか。水分などの補給だったのでしょうか、抗生物質などの投与に点滴を利用したのでしょうか。
 3月 2日、治療の効果が上がらなかったためでしょうか、呉亮亮は上海市第五人民医院に転院します。X線がとられます。肺にいくつか異常陰影が発見されます(拍了X光。結果顕示呉亮亮肺部上有几个白点。)医師は肺炎の可能性を示唆します。インフルエンザウイルスによってウイルス性肺炎を起こしていたものと思われます。

 インフルエンザウイルスに感染して重症化する場合、たいていはウイルス性肺炎を起こし、「急性呼吸窮迫症候群」という重症の肺の障害を起こします。ウイルス性肺炎は、高度な医療でも、治療が非常に難しく、このような状態になってから抗インフルエンザ薬で治療しても、容易には救命は望めません。肺に空気が入っていかなくなり、呼吸不全で亡くなっていきます。

 インフルエンザウイルスが気管、気管支、細気管支といった「下気道」にも達し、肺が重度の炎症を起こすとインタ-フェロンなどのサイトカイン類はウイルスを攻撃して死滅させようとしますが、正常な細胞まで攻撃してしまいます。その結果、正常の肺の機能である酸素を取り入れて二酸化炭素を排出する働きができなくなり、呼吸困難が生じることになります。症状としては、肺機能の低下により、1回の換気量が少なくなり、頻呼吸が現れます。これを急性呼吸窮迫症候群と言います。

 3月4日、呉亮亮には咳が出始めます。それとともに、呼吸も苦しげになります。妻婷々は傍にいて看病を続けます。朝には薄い粥を茶碗に半分ほど口にしたのですが、昼には元気なときには大好きだった肉であっても一口も口にはできなかったといいます。
 3月5日、咳がひどくなり、食欲は完全に落ちます。熱が一向に下がらず、治療の効果が上がらないことに、妻婷々は不満を口にします。このような状態になっていても、医師は「肺炎では咳が出ることもあり、数日経てば良くなりますよ(説肺炎就是会咳嗽,過几天就好)」という暢気な返事をしていたといいます。

 3月6日、呉亮亮の病状は急激に悪化し始め、集中治療室 (Intensive Care Unit、ICU)に移されます。同済大学附属上海市肺科医院
の専門家や上海CDC(疾病予防コントロールセンター)の専門家もやってきますが、病状の進行をとめることはできません(上海市肺科医院的専家,上海市疾控中心的専家曾先后為呉亮亮会診,併提出了一系列的救治方案,但都無法制止他的病情継続悪化。)。
 3月10日、この日の昼12時10分に、呉亮亮は「重症肺炎」、「呼吸不全」で死亡します(呉亮亮扼救無効后死亡,当時的死亡原因是重症肺炎,呼吸衰竭。)。

 4月24日、厚生労働省は鳥インフルエンザH7N9型の感染が中国で広がっているのを受け、H7N9型を感染症法に基づく「指定感染症」に指定することを決めました。指定感染症は、生命や健康に深刻な被害を与える恐れのある事態が発生したときに迅速な対応をするため指定します。指定感染症への指定は、新型肺炎(SARS)、H5N1型の鳥インフルエンザに続き、3例目になります。
 指定感染症に指定されれば、感染の疑いのある人に強制的に健康診断を受けさせたり、患者を入院させたりできるほか、接客業や食品加工業など感染を広げる可能性が高い仕事については、休業の指示も可能となります。
 また、海外からのウイルス持ち込みを防ぐため、検疫法の政令も改正し、H7N9型に感染した疑いがある海外からの入国者に対して、検疫所での診察や検査を実施できる「検疫感染症」にH7N9型の鳥インフルエンザを指定することも決めました。

(追記)

 毎日新聞の2013年05月11日配信の記事からです。

 中国・上海市政府は5月10日、鳥インフルエンザ(H7N9型)の新たな感染者が20日間連続で確認されていないとして、同型ウイルスに対する警戒態勢を解除した。ヒトからヒトへの感染を示す証拠も現時点では無いとしている。ただし、感染源の可能性がある家禽類を扱う市場の閉鎖や取引停止措置は続ける。上海市では3月31日に世界で初めての感染が報告されて以降、33人が感染し、このうち13人が死亡した。市政府は4月6日から市内の家禽類を扱う市場をすべて閉鎖。同20日に75歳女性の感染が報告されたのを最後に新たな感染例はなく、「拡大を防止し、制御できる状態にある」と判断した。感染者のうち5人は治療中で、15人は退院した。密接な接触があった458人の医学的な観察も解除された。中国本土では2市8省で計131人の感染が確認され、このうち32人が死亡している。

 毎日新聞の2013年05月31日配信の記事からです。

 中国の鳥インフルエンザウイルス(H7N9型)は、3月31日に感染が明らかになってから2か月が過ぎた。新たな感染者は激減し、一定の封じ込めに成功した形だ。ただ、世界保健機関(WHO)は秋以降に再び拡大する可能性も指摘。中国本土の感染者は2市8省で132人(うち37人死亡)。4月は120人以上確認されたが、5月は福建省などで5人だけ。感染者が突出して多かった上海市や江蘇省、浙江省で新たな感染者は出ておらず、警戒態勢は順次解除された。上海市などは4月上旬から市場での家禽類の取引を停止し、その後、新たな感染者は激減した。浙江省は衛生管理の徹底などを条件に5月31日からの取引再開を認めた。

 時事通信の2013年07月10日配信の記事からです。

 中国国家衛生計画出産委員会は7月10日、H7N9型鳥インフルエンザの感染状況に関する月例データを発表した。6月30日時点の死者は5月末から4人増え43人、感染者は江蘇省で1人増え133人となった。

 毎日新聞の2013年07月11日配信の記事からです。

 今春から中国で感染者が相次いだ鳥インフルエンザウイルス(H7N9型)の特徴を、さまざまな哺乳類を使った実験で解明したと、東京大などのチームが7月10日付の英科学誌ネイチャー(電子版)に発表する(“Characterization of H7N9 influenza A viruses isolated from humans”)。日本人は感染や悪化を防ぐための抗体を持っていないことも判明した。チームの河岡義裕・東京大教授は「パンデミック(大流行)を起こした場合、肺炎患者が増える可能性がある」と指摘する。H7N9型ウイルスは、遺伝子解析から、ヒトの細胞に感染・増殖しやすい特徴があると予想されていた。チームは、上海市と安徽省で見つかった最初の2人の患者から採取したウイルス( A/安徽/1/2013 (H7N9)、A/上海i/1/2013 (H7N9))で、哺乳類のフェレットやマウス、サルなどに感染させた。その結果、両方のウイルスは、フェレットの鼻やのどなどの上気道で増殖しやすかったほか、サルでは上気道に加え肺でも増殖した。また、安徽省のウイルスでは、飛沫感染を起こすことをフェレットで確認。マウスの実験では、既存の抗ウイルス薬が、2009年に大流行したH1N1型に比べ、症状を抑える効果が低いことも分かった。さらに、日本人500人を調べたところ、全員がH7N9型のウイルスに対する抗体を持っていなかった。

 産経新聞の2014年1月18日配信の記事からです。

 インフルエンザやノロウイルスなどが流行する「感染症シーズン」が到来し、中国では昨春流行した鳥インフルエンザ(H7N9型)の人への感染が相次いで報告されている。再流行が懸念される中、2009年のH1N1型のようにウイルスが人から人に持続的に感染する「新型」に変異し、世界的流行(パンでミック)となる恐れも指摘される。国内では季節性のインフルエンザが流行期に入っており、厚生労働省は国内外の警戒を続ける。

 国立感染症研究所によると、昨年3月に初めて中国で人への感染が確認されたH7N9型は、5月以降は小康状態が続いていたが、10月に新たに4人の患者が発生。その後も中国国内で相次いで感染が報告されている。世界保健機関(WHO)によると、中国と香港、台湾の感染者は約200人、致死率は3割に近い。今月に入ってからは毎日のように新たな患者の報告があり、再流行が指摘されている。
 
 国立感染症研究所の大石和徳センター長は「H7N9型の発生を受け、中国では生きた鳥を扱う市場は一時閉鎖されていたが、それが再開されたことで感染拡大した恐れがある」とみる。患者の多くは鳥との接触があった。

 「冬になれば増えると思っていたが、予想通りだ。昨年、患者が一気に増えたときと同じような形で増えている」と指摘するのは、東北大大学院医学系研究科の押谷仁教授(ウイルス学)だ。押谷教授が注目するのは、中国の旧正月である春節(今年は1月31日)。春節の時期、中国国内は人や鳥の往来が増える。押谷教授は「これまでの鳥インフルエンザも春節の時期に増えている。人々の移動が多く、鳥を食べる機会が増えるからだろう」と分析する。


            (この項 健人のパパ)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )






 インフルエンザの流行する冬季に発熱、鼻づまり、咳などの「風邪様症状(感冒様症状)」が現れると「風邪(普通感冒)」なのか「インフルエンザ」なのか判断のつきにくいものです。また、風邪様症状があるから風邪かインフルエンザを発症しているとも限りません。

 例えば、ウイルス感染による「急性心筋炎(acute myocarditis)」であることもあります。小児の急性心筋炎の原因は、コクサッキーウイルスへの感染(Coxsackie viral myocarditis)が最も多いのですが、エコーウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルスによるものもみられます。アデノウイルスは普通感冒の原因ウイルスの一つであり、インフルエンザウイルスはインフルエンザの原因ウイルスです。

 重症に至る「ウイルス性心筋炎(viral myocarditis、virus-induced myocarditis)」はかなりまれな病気で、0.0001%以下の確率であるとも言われています。つまり、風邪様症状のある患者の1万人に1人以下だということになります。風邪様症状や消化器症状(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢など)が先行し、その後に「動悸」、「胸痛」、「不整脈」、「息切れ」、「夜間の呼吸困難」などがあれば心筋炎を疑う必要があるようです。風邪様症状があるお子さまに「顔面蒼白」、「チアノーゼ」、「不整脈や失神発作」、「四肢末梢の冷感」などがあれば、心筋炎を疑うことが大事です。

(参考) 「インフルエンザウイルス感染で「ウイルス性心筋炎」になってしまうと

 風邪様症状とインフルエンザ様症状を並べてみましょう。まず大きく、局部症状と全身症状に分けます。局部症状はさらに、気道症状と胃腸症状に分けます。風邪(普通感冒)もインフルエンザも、まず「上気道感染症」となって症状として現れます。



 「上気道(upper respiratory tract、upper airway)」とは、「鼻腔(びこう、びくう、nasal cavity)」、「咽頭(いんとう、pharynx))」、「喉頭(こうとう、larynx)」を言います。鼻から始まって、喉仏(のどぼとけ)の位置までの気道を上気道と言うわけです。

 ウイルスは、外界とつながる鼻腔から主に侵入し、鼻粘膜や咽頭粘膜に感染し、これらの部位で増殖します。生体は防御反応として、炎症を起こします。これによって、鼻水(鼻汁)、くしゃみ、鼻詰まり、喉の痛みなどの症状として現れます。鼻粘膜の炎症で、鼻水、くしゃみ、鼻詰まりを起こし、咽頭粘膜の炎症で、喉の痛みが生じます。

 「炎症(inflammation)」は、ウイルスの感染など何らかの有害な刺激を生体が受けた時に働く「免疫応答」の結果です。炎症の徴候を頭字語(acronym、アクロニム)を用いて表わすと、“PRISH”(プリッシュ)になります。Pain(疼痛、とうつう)、Redness(発赤、ほっせき)、Immobility(機能障害)、Swelling(腫脹、しゅちょう)、Heat(熱感、熱っぽい感じ)の5つです。熱感、発赤、疼痛、腫脹の4つを「炎症の四徴候」とも言います。

 粘膜などの組織はウイルスに侵襲されると、その組織に存在する「肥満細胞(顆粒細胞、マスト細胞)」などから「ヒスタミン(histamine) 」などを放出します。ヒスタミンは、血管内皮細胞を収縮させることから、細胞間隙が開いてしまいます。これを「血管透過性亢進」といいます。血漿成分が血管外に滲出していきます。

 この結果、炎症を起こした粘膜などの組織には多量の滲出液が貯留し、腫脹(腫れ)を呈することになります。これが鼻での呼吸を大きく阻害するほどに腫れると、「鼻詰まり」という症状になって自覚されます。「鼻水」は、鼻粘膜から組織の外に滲出した水分などですから、ヒスタミンは、鼻水の分泌も促すということもできます。ヒスタミンが鼻粘膜における知覚神経である三叉神経終末にある「ヒスタミン受容体(H1受容体)」と結合すると、延髄のくしゃみ中枢へ信号が伝わり、刺激を受けたくしゃみ中枢が「くしゃみ」を起こします。

 鼻粘膜へのウイルスの感染がヒスタミンの放出を起こし、それが鼻水、くしゃみ、鼻詰まりといった症状を生じさせるのです。市販されている総合感冒薬には、この症状を緩和させるために、解熱鎮痛剤、鎮咳去痰薬の他に「抗ヒスタミン剤」などが配合されています。「抗ヒスタミン剤(antihistamine)」は、ヒスタミンがH1受容体と結合することを阻害して、H1受容体の作用を抑制する薬剤です。

 鼻から喉仏にかけての上気道が炎症を起こしても、鼻水、くしゃみ、鼻詰まり、喉の痛みといった症状がすべて出るとは限りません。健康状態や体質により、さまざまな様相を呈します。鼻水は出るがくしゃみはしない、くしゃみは出るが鼻詰まりではない、鼻水は出るが喉の痛みはないということも起こります。

 私たちの身体は、組織を損傷するような刺激があると、その情報を「痛み」として脳に伝えます。身体に異常が発生したことを知らせる警告が電気信号として脳に送られるのです。組織を損傷するような刺激を「侵害刺激(noxious stimulus)」といい、その侵害刺激に反応する場所を「侵害受容器(nociceptor)」といいます。

 ウイルス感染などで傷害された組織で炎症が起こると、痛みをおこす化学物質(「発痛物質」)が出て、それが侵害刺激となります。「発痛物質(pain producing substance)」には、外因性の物質と内因性の物質があります。唐辛子の辛み成分である「カプサイシン (capsaicin) 」は粘膜に接触すると焼けるような感覚を引き起こす外因性発痛物質です。

 血管内皮細胞が損傷を受けると、血液凝固因子の一つである「ハーゲマン因子(Hageman factor)」が活性化されて、血管を守るためのシステム(血液凝固系)が稼動し始めます。活性化されたハーゲマン因子は、血漿中に存在する「プレカリクレイン(prekallikrein)」という物質を「カリクレイン(kallikrein)」にし、カリクレインは、「高分子キニノゲン(high molecular weight kininogen、HMWK)」という物質を分解して、「ブラジキニン (bradykinin)」を放出させるというふうに次々に反応を起こします(カリクレイン・キニン系)。

 ブラジキニンには、血管拡張、血圧降下作用、血管透過性亢進などの作用があるのだそうですが、生体にこの系が存在することの理由は調べたのですが分かりませんでした。しかし、ブラジキニンは、強力な内因性発痛物質でもあります。生体に不都合なことが起こっていることに対して、「痛み」という強い警告を出すシステムでもあります。

 痛みの原因である発痛物質「ブラジキニン」の発生を抑え、喉の痛み、喉の腫れに効果をあらわす物質に止血剤として用いられる「トラネキサム酸(Tranexamic acid)」があります。第一三共の咽頭炎・扁桃炎(喉の腫れ、喉の痛み)、口内炎に効能のある「ペラックT錠」、佐藤製薬の風邪の諸症状(喉の痛み、発熱、咳、頭痛、関節の痛み、筋肉の痛み、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、痰、悪寒)の緩和に効能のある「ストナT」などは、トラネキサム酸を配合した市販薬です。

 血液中では、血液凝固因子によって血液が固まる現象(血餅ができる。凝固系、coagulation system)と、凝固した血液を溶かす物質「プラスミン(plasmin)」によって血液が溶ける現象(血餅が解消する。線溶系、PA-plasmin system)とが絶え間なく均衡して起こっています。この均衡が崩れると、血餅が肥厚したり(「血栓症(トロンボーシス、thrombosis)」の原因になる)、出血が止まらなかったりします。

 何らかの原因で異常に活発になったプラスミンの作用を抑え、出血を起こす、出血が止まりにくくなる、という現象を制御するのが「抗プラスミン剤(antiplasmins )」です。血餅は、「フィブリン(fibrin、線維素)」というネットが血球をくるみこんだものです。プラスミンは繊維状タンパク質でできている、このネット(網)を切断するタンパク質分解酵素です。

(未完)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )






 「免疫」という言葉はいろいろな意味で使われます。「麻疹(はしか)は子どもの頃に罹っているので、免疫を持っている」と言えば、麻疹ウイルスに接触しても発症することはなく、発熱や咳、鼻水といった風邪様症状を前駆症状として、39℃以上の高熱と発疹という麻疹の症状に苦しむことはありません。

 「あの夫婦の喧嘩には、すっかり免疫がついてしまった」と言えば、夫婦喧嘩を幾度となく見ることで慣れてしまい、仲裁に入ることもしなくなったとういうことでしょう。重大な結果になることなく終息することを経験すると、特に特別な行動をとることもなくなります。

 「彼女は恋愛に対して免疫がないから、悪い男に引っ掛かりそうで心配だ」と言えば、異性との交流の経験が不足していて、男性の意図が正しく読み取れなかったりすることを言うのでしょう。恋愛に不慣れな女性は無防備であったり、逆にガードが固すぎるということもあるようです。

 話しが脱線していきそうです。元に戻します。「免疫」という言葉を「耐性」という言葉で説明してみましょう。「耐性」を、「通常の状態、平常な状態を乱されることなく、保ち続けられる能力」と定義すると、麻疹ウイルスに遭遇しても、風邪様症状に至らず、高熱も出さないのであれば、麻疹ウイルスに対して、「耐性」があると言えますし、夫婦喧嘩を目撃しても、心乱されることがないと、「耐性」があることになりますし、異性の意図を正しく読み取り、正しく対処できれば、これも「耐性」を持っていることになるでしょう。

 この「耐性」は「経験」に由来するのでしょう。ヒトの体内にある「免疫細胞」は、麻疹に感染、発症すると、忘れられない経験・体験として記憶します。憎っくき麻疹ウイルスと言ったところでしょうか。再度、麻疹ウイルスに遭遇すると攻撃を仕掛け、撃破します。こうして、発症を防ぎます。

 ワクチンは免疫細胞に「疑似体験」をさせるものです。ウイルスまがい(「スプリットワクチン」)のものに遭遇させて、「経験」させておきます。本物のウイルスに遭遇したときに攻撃を仕掛けるように訓練をしておくのです。しかし、これは疑似体験なので、免疫細胞が忘れてしまうことも起き得ます。麻疹ワクチンを接種していたのに、麻疹に罹ったということが起こるのです。

 この「経験」をヒトの体内の具体的なものに置き換えると、「抗体」という糖タンパク分子になります。「経験」を適用できる「状況」を具体的なもの置き換えると、例えば、細菌やウイルスなどの病原体になります。これを「抗原」と言います。

 生じる「状況」(環境の変化)は、必ずしも同一とは限りません、いろいろなバリエーションがあると言っていいのです。そのとき、いままでの「経験」が適用できて、正しく対処できるとは限りません。いままでの「経験」が役に立たないほどの「状況」のバリエーションを「抗原性変異」と言います。



 現在、世界の麻疹ウイルスは23の遺伝子型(D4、D8、D9、H1、G3、Aなど)に分類され、世界の各地に土着の遺伝子型があるそうで、伝播経路の解析に用いられるようです。2007~2008 年にヨーロッパやアメリカで流行した麻疹ウイルスは、日本からの旅行者が持ち込んだそうです。

 現在、世界中で使用されているワクチン株に「抗原性変異」が危惧されてはいるが、流行野生株との間には抗原性に変異はないのだそうです。つまり、麻疹ワクチンの接種で、遺伝子型が異なったとしても、麻疹の発症は防げるということです。

 これと異なり、インフルエンザウイルスは、多種多様にあり、その「経験」はほぼ同種の「状況」でなければ、役に立ちません。これが「ワクチンが効かない」と囁かれる理由なのです。

 インフルエンザウイルスに対する「経験値」を測定するには「赤血球凝集抑制試験(Hemagglutination Inhibition Test、HI試験)」という方法が用いられます。

 インフルエンザウイルスは、鳥類や哺乳類の赤血球を凝集させます(赤血球凝集反応、hemagglutination)。「抗体」は、赤血球凝集反応を特異的に抑制します。この抗体の値を測定するために、調査対象者から採取した血液を利用します。血液にインフルエンザウイルスを入れると、赤血球が凝集するのですが、ウイルスに対する「抗体」があるときは凝集が起こりません。



 具体的には、血球吸収処理などの前処理を行った被験者の血清(前処理によって、10倍血清希釈液となる)を検体とし、それを20倍血清希釈液、40倍血清希釈液など(×10、×20、×40、×80、×160、×320、×640、、、)というように希釈したものを用意します。

 前処理とは、検出精度を低下させる非特異的阻害物質と赤血球自然凝集素を除去する操作です。

(1)被検血清0.1mLを小試験管に採取し、RDE(Receptor Destroying Enzyme、受容体破壊酵素)を0.3mL加えて十分に混和後、37℃に一夜静置する。
(2)56℃で60分間加温してRDEの作用を止め、その後、希釈液(1/200mol/L 燐酸塩緩衝塩化ナトリウム液)を0.6mL加える。
(3)吸収用赤血球浮遊液を50μL(0.05mL)加えて十分に混和後、常温(15~25℃)に60分間静置する。この間、2~3回振り混ぜる。
(4)遠心分離後、上清を別の小試験管に採取する。以上の処理が終わった血清の希釈度を1:10とする。

 小さな試験管(「ウェル(well)」というくぼみ。「穴」という表現も使われる)が縦横に並んだような形状のマイクロタイタープレート(Microtiter plate、マイクロプレート)の穴番号2から穴番号9までに希釈液を25μLを入れておきます。穴番号1には小試験管の10倍血清希釈液を50μL入れ、穴番号9には10倍血清希釈液を25μL入れます。穴番号2から穴番号8までは、順に前の番号の溶液を均一濃度にして、25μLを移します。つまり、穴番号1から25μLを穴番号2に移し、均一濃度にし、穴番号2から25μLを穴番号3に移し、、、ということを繰り返します。穴番号8からの25μLは穴番号9には移さずに捨てます。



 穴番号1から穴番号8(穴番号9には入れない。穴番号9は「血清対照」用)に一定の抗原量(例えば、4単位のHA抗原液25μL)のウイルスを加えて反応させます。穴番号1から穴番号9まで50μLの溶液が入っていることになります。このとき、その血清希釈溶液の中に「抗体」が存在すれば、ウイルスの赤血球凝集能を奪います。赤血球が入ってきても、凝集が起こらないのです。そこに、赤血球浮遊液(例えば、0.5vol%反応用赤血球浮遊液50μL)を加えて、目視で赤血球の凝集を観察します。穴番号1から穴番号9まで100μL(0.1mL)の溶液が入っていることになります。例えば、穴番号3(40倍血清希釈液)までは凝集が起こらなかったのが、穴番号4(80倍血清希釈液)で凝集が起これば、HI価は40であるといいます。



 感染症の診断、ワクチンの効果の判定に使用される「ペア血清(paired serum)」という手法があります。ペア血清は、同一被験者から期間をおいて採取された1組の血清です。例えば、感染初期の血清(「急性期血清」)と病気が回復した後の血清(「回復期血清」)とを1組とします。急性期血清と回復期血清とでどの程度の抗体価の上昇がみられるかを検査します。例えば、ペア血清の抗体価が4倍(「2管差」という表現もします)以上上昇した場合に、そのウイルスの感染を推定します。

 インフルエンザを発症した患者においては、症状が出てから4日以内の「急性期」には、その系統のインフルエンザウイルスに対する「抗体」はまだできていないのですが、症状が出てから2週間~4週間経った「回復期」には、「抗体」ができています。このため、血清中の抗体価をHI試験によって比較すると、インフルエンザウイルスに感染していれば、大きな差となって現れてくるのです。

 国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンターが2009年2月2日に「2009年1月、仙台市・山形市・福岡市の医療機関で採取された検体から分離が続いているAH1亜型、AH3亜型、B型インフルエンザウイルスの今シーズンワクチン株からの抗原性の乖離について」という報告を行っています。

 流行しているインフルエンザの株と今シーズン(2008/2009年シーズン)のワクチン株に抗原性の乖離が見られるというものです。「ワクチン株と抗原性の乖離がある」とは、インフルエンザワクチンが充分には効かないということです。この「抗原性の乖離」を調べるには、「赤血球凝集抑制(HI)試験」が行われます。

 検査機関は、医療機関から寄せられたインフルエンザ様患者の臨床検体からインフルエンザウイルスをMDCK細胞(Madin-Darby canine kidney cell)を用いて分離します。イヌの腎臓の細胞から作り出した増殖力の強い「MDCK細胞」と呼ばれる細胞を「培養器」で増殖させ、そこにインフルエンザウイルスを混ぜてその数を増やし、分離するのです。

 「培養細胞(cultured cell)」は、人為的に生体外で培養されている細胞です。培養細胞が、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質を持つと「細胞株(cell line)」と呼ばれます。ヒト子宮頸癌由来の「HeLa細胞(ヒーラ細胞、子宮頸癌で亡くなった30代黒人女性(ヘンリエッタ・ラックス(Henrietta Lacks))の腫瘍病変から分離され、株化された)」、イヌの腎臓上皮由来の「MDCK細胞(Madin-Darby Canine Kidney、マディンとダービーがコッカー・スパニエルの腎臓細胞から細胞株を樹立した)」、アフリカミドリザル腎臓由来の「Vero細胞(ベロ細胞)」などがあります。

 国立感染症研究所はそのシーズンのインフルエンザワクチンに使用した「株」を検査機関に供与します。検査機関はそれを例えば、イタチ科に属する肉食性の哺乳小動物である「フェレット」に感染させて、「抗体」を産生させ、血清を採取します。この血清は「抗体」を持った血清ということで「抗血清(antiserum)」と呼ばれます。

 このフェレット抗血清と0.75%モルモット血球を用いて「HI試験」が行われました。フェレット抗血清から10倍血清希釈液、20倍血清希釈液、と希釈度を高めていったものを「ウェル」に順に何列か作っていきます。これの例えば1列めに、ワクチン株(2008/2009年のA香港型(H3N2)は、A/ウルグアイ/716/2007)をそれぞれ加え、それにさらに0.75%モルモット血球を加えて、凝集反応を見ます。HI価は1,280だったといいます(1:1,280の希釈度までは凝集が起こらなかった)。

 これと流行株との比較が行われます。2列めからは仙台市のインフルエンザ患者数名から分離されたインフルエンザウイルスの株をそれぞれ加え、それにさらに0.75%モルモット血球を加えて、凝集反応を見ます。6株中4株はHI価が640だったそうです。これを「1管差」といいます。「抗原性に乖離はない」と表現されます。しかし、他の2株は160(3管差)と320(2管差)と抗原性に若干のずれが生じていたようです。凝集をある程度は阻止したが、弱かったのです。管差が大きいほど「抗原性の乖離が大きい」と表現されます。

 ペア血清では、「抗体」価の上昇の話しを、抗原性の乖離では、「抗原」性変異の話しをしてきました。さらに、今シーズン(2012/13シーズン)のインフルエンザウイルスに関して、横浜市衛生研究所が報告した「2012/13シーズン最初に分離されたA(H1N1)pdm09、A(H3N2)亜型およびB型インフルエンザウイルスの性状」を読んでみます。

 横浜市では、2012年9月7日(第36週)に福祉施設で、インフルエンザ様症状を呈した19名(入所者11名、職員8名)をインフルエンザ迅速診断キットで判定をしたところ、A型で陽性を示したといいます。そのうちの3名からうがい液および鼻かみ検体を採取したそうです。このうち1名(24歳)からAH3亜型ウイルスのHA遺伝子を検出し、MDCK細胞でも同患者からウイルスを分離したそうです。

 A型とB型のインフルエンザウイルスの表面には、「ヘマグルチニン(赤血球凝集素、haemagglutinin、“heam”ヘム+“agglutinin”アグルチニン(凝集素))という糖タンパクが存在します。このヘマグルチニン(HA)は種類が多く、いままでのところ16種類見つかっているといいます。よく知られているのは、「Aソ連型(H1N1)」にいわゆる「新型インフルエンザ(A(H1N1)pdm09)」はともにH1、「A香港型(H3N2)」はH3、「高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)」はH5です。

 また、9月11日(第37週)に保育園で、迅速診断キットA陽性患者13名の発生報告があり、5名からうがい液および鼻かみ検体を採取し、2名の患者からAH3亜型ウイルスのHA遺伝子を検出し、4名(1~4歳)の患者からウイルスを分離したそうです。

 分離した5株のウイルスについて、2012/13シーズンインフルエンザサーベイランスキットを用い、横浜市衛生研究所はHI試験による抗原解析を実施しました。A/Victoria/361/2011の抗血清に対するHI価は1,280と高かったそうです。横浜市のこのケースでは、今シーズンの「A(H3N2)亜型」に対するワクチン株の選定に間違いはなかったといえます。

 生物学的製剤基準(平成16年3月30日厚生労働省告示第155号)の規定に係る平成24年度のインフルエンザHAワクチン製造株を下記のとおり決定したので通知する。

 A型株
  A/California/7/2009(H1N1)pdm09 (A(H1N1)pdm09)
  A/Victoria/361/2011(H3N2) (A(H3N2)亜型)
 B型株
  B/Wisconsin/01/2010 (山形系統)




 2013年第4週(1月21日~1月27日)に、日本全国の定点医療機関(インフルエンザ定点(全国約5,000カ所の内科・小児科医療機関)、感染症の発生状況を把握するための情報を各保健所に報告する医療機関)当たりのインフルエンザ発症者の報告数(1週間に1つの定点からどのくらいの報告があったかを表す数値)は、36.44となりました。

 1日に1医療機関に5人以上(36.44÷7=5.205...)のインフルエンザ発症者が来院していることになります。例年、ピークは第4週から第10週(3月上旬)にあり、定点あたり報告数が30台後半から50前後となります。多いときには1日に7人以上のインフルエンザ発症者が受診することになります。

 第4週に定点の医療機関を訪れたインフルエンザ発症者数は、およそ18万人で、定点当たりでは36.44人(18万÷5千=36)となり、前週(第3週、1月14日~1月20日)の22.58人からおよそ1.6倍に増加したことになります。最も多かったのは新潟県で53.81、次に、千葉県が53.22、長崎県も50.91となり、ピークを迎えつつあると思われます。30という警報レベルを超えているのは、30都道県にも達し、第3週の9県から大きく増加しました。

 大きな流行の発生・継続が疑われることを示す「流行発生警報」は、1週間の定点あたり報告数がある基準値(警報の開始基準値、インフルエンザは30)以上の場合に、発報されます。前の週に警報が発報されていた場合、1週間の定点当たり報告数が別の基準値(警報の継続基準値、インフルエンザは10)以上の場合に発報されます。「流行発生注意報」は、警報が発生していないときに、1週間の定点あたり報告数がある基準値(注意報の基準値、インフルエンザは10)以上の場合に発報されます。

 大阪府は、豊能、三島、北河内、中河内、南河内、堺市、泉州、大阪市北部、大阪市西部、大阪市東部、大阪市南部と11のブロックに分けられ、ブロック内に15(大阪市西部)~45(北河内)のインフルエンザ定点を持ち、総数が309です。大阪府においては、2012年末から発症者報告数の増加が続いており、2013年第4週には定点医療機関当たり22.85(報告数7060、7060÷309=22.847...)になったようです。

 大阪府には41か所の保健所があり、その保健所管内で「警報」を発報しているのは4か所(西、旭、寝屋川、岸和田保健所管内)、「注意報」を発報しているのは33か所(此花、東成、住吉、中央保健所管内は10未満で注意報が出ていない)で、大阪府全体では注意報レベルに留まり、警報レベルには達していません。



 大阪府立公衆衛生研究所は、医療機関から寄せられた臨床検体からインフルエンザウイルスを分離し、ウイルス株からの抗原性の乖離を検査しています。2011/2012年シーズンは大阪市で40株、堺市で25株、その2市を除く大阪府で105株の検査を行いました(2012年3月1日現在)。そのそれぞれでA(H3N2)亜型は、31株、14株、102株でした。大阪市では、2管差以内に納まったのは21株(0管差はなく、1管差8株、2巻差13株)、3管差以上は10株でした。堺市では成績は悪く、2管差が2株、3管差以上が12株でした。ほとんどワクチンは効かないといえる状態でした。大阪府では2管差以内が25株(0管差はなく、1管差3株、2巻差22株)、3管差以上が77株でした。



 このデータから言えることは、2011/2012年シーズンはインフルエンザワクチンの効きめは、かなり悪かったということでしょう。私は2012年2月12日に「今年(2011/12年シーズン)のインフルエンザワクチンはハズレなのか。」という記事を、2月16日に「今年(2011/12年シーズン)のインフルエンザワクチンは効く?効かない?」という記事を書いています。

 前掲のインフルエンザの年別・週別発生状況をみて見ると、2011/2012年シーズンのグラフは、例年のグラフと比べて(2004/2005年シーズンを除く)、定点あたり報告数が40.0を超え、流行の終息まで数週間長引いています。ワクチン株が流行株と抗原性の乖離が大きかったためなのでしょうか。

(追記-グラフの追加)

(追記終わり)

 今シーズン(2012/2013年シーズン)の流行状況の予測はできるものなのでしょうか。大阪府立公衆衛生研究所感染症情報センターの発表している「分離ウイルス株の抗原性変異(平成25年1月31日現在)」という表を見てみます。大阪市の検査株数は9株、堺市はデータがなく、2市を除く大阪府の検査株数は9株で、大阪市のA(H3N2)亜型の検査株数は6株、大阪府は9株でした。

 そのすべてが2管差以内に納まっています。大阪市では0管差が半数の3株、1管差はなく、2管差は残りの3株です。大阪府では1管差が1株、2管差が7株です。このデータのみから判断すると、第4週か第5週がピークであり、あとは徐々に終息に向かうことになります。しかし、不安材料があります。B型のインフルエンザです。データ量が少なく、あくまで可能性があるとしかいえないのですが、2株のうち、1株が0管差で、他の1株が3管差以上であることから、0管差の株はワクチン株が採用した山形系統で、残りの1株がワクチン株に採用されなかったビクトリア系統であったのかも知れません。ビクトリア系統が今シーズンのB型の流行株にならないことを祈ります。

(参考) 「インフルエンザワクチンを接種した人でもB型のインフルエンザに注意!

(更新) 大阪府立公衆衛生研究所感染症情報センターの発表している「分離ウイルス株の抗原性変異(平成25年2月12日現在)」



              (この項 健人のパパ)

(追記) 2012年2月2日(土)配信の読売新聞の記事からです。

 神奈川県横浜市鶴見区の汐田総合病院(261床)は、2月2日、入院患者13人と職員2人の計15人がインフルエンザに集団感染し、うち70~80歳代の男性入院患者3人が死亡したと発表した。同病院によると、死亡した3人は発熱などの症状を訴え、1月30日午後から31日朝にかけて肺炎で死亡。3人は肺疾患や肺癌などで入院中だったという。残る12人については、命に別条はないという。

 病院は会見を開き、感染した患者13人からいずれもインフルエンザA型の陽性反応が出たと明らかにしたそうです。

(追記) 2013年2月4日(月)配信の毎日新聞の記事からです。

 宮城県仙台市泉区の「仙台徳洲会病院」(病床数305)は2月4日、入院患者10人と看護師4人の計14人がインフルエンザに集団感染し、このうち80代男性と70代女性の患者2人が死亡したと発表した。12人は快方に向かっているという。同病院によると、女性は肺炎で、男性は腰椎骨折などでそれぞれ入院していたが、1月30日から2月2日までにインフルエンザを発症し、女性は1日、男性は3日に死亡した。14人からはいずれもインフルエンザA型の陽性反応が出たという。

(参考) 2013年2月5日(火)配信の読売新聞の記事からです。

 秋田県秋田市南通みその町の中通総合病院(539床)は2月5日、入院患者20人と職員29人の計49人が1月24日以降、インフルエンザA型に集団感染したと発表した。このうち80歳代男性が2月4日、70歳代女性が5日に死亡した。現時点で、感染と死亡との因果関係は不明という。同病院によると、男性の直接的な死因は肺癌、女性は鬱血性心不全だった。

 一方、青森県むつ市小川町のむつ総合病院(434床)でも1月、入院患者と職員計82人がインフルエンザA型に集団感染していたことが分かった。うち60歳代の女性患者が死亡し、同病院は「感染が持病の心臓病を悪化させた一因」としている。同病院によると、女性は1月4日、拡張型心筋症で入院。22日夜に高熱を発症し、31日に心不全で死亡した。


コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )






 毎年、インフルエンザの流行シーズン前であり、ワクチン接種前である7月から9月にかけて、「インフルエンザ感受性調査」が行われます。この調査は、インフルエンザウイルスに対する抗体を各年齢層においてどの程度保有しているかを把握するために行われています。2012年度の調査は、2012/2013年シーズンに先立ち、25都道府県から各200名ほど、合計5,000名ほどを対象として実施されました。

 インフルエンザウイルスに対する抗体の有無および抗体価の測定は、調査対象者から血液(血清)を採取し、各都道府県衛生研究所が「赤血球凝集抑制試験(HI法)」を行います。この測定に用いるインフルエンザウイルスは、2012/2013年シーズンのインフルエンザワクチンに用いられているウイルス3種類とワクチン株とは異なる系統のB型インフルエンザウイルス1種類の合計4種類です。

 赤血球凝集能を持つインフルエンザウイルスのようなウイルスの抗体検査は、「赤血球凝集抑制試験(HI試験、Hemagglutinin Inhibition Test)によって測定します。抗体が存在すれば、抗体はウイルスの赤血球凝集素を攻撃し、赤血球が凝集しないようにします(凝集抑制)。赤血球の凝集で抗体の保有を判断するわけです。

 具体的には、段階的に希釈した血液(抗血清)をウイルス検体と反応させ、赤血球凝集反応がどれだけの希釈まで抑制されるかを観察します。血液の希釈倍率はHI価と呼ばれます。インフルエンザの感染予防や感染しても症状の軽減に期待できる40倍以上を抗体保有とし、より感染を防御できる十分な抗体価を160倍以上として評価します。

(参考) 「新型インフルエンザウイルスの抗体保有率の報告を読む

 今年のインフルエンザワクチンに用いられたのは、「A(H1N1)pdm09亜型(新型インフルエンザと呼ばれた系統)」から「A/California/7/2009」、「A(H3N2)亜型」から「A/Victoria/361/2011」、「B型(山形系統)」から「B/Wisconsin/1/2010」でしたが、この株について抗体保有率の調査が行われ、そのほかにワクチン株とは異なる系統のB型インフルエンザウイルスであるが、抗体保有状況の把握が必要と考えられるウイルスである「B/Brisbane/60/2008」も抗体保有率の調査が行われました。

 ワクチンは、例年、A型から2種類、B型から1種類選択され、大きく分類して山形系統とビクトリア系統と2種類あるB型からは、今年(2012/2013年シーズン)は山形系統が選択されています。国立感染症研究所のページから「平成24年度(2012/13シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過」をB型のインフルエンザについて読んでみましょう。

 現状においては、来シーズンにどちらの系統のB型ウイルスが流行するかを予想することは極めて困難である。米国では両系統のB型ワクチンを用いた4価ワクチンの導入も検討されているが、わが国では生物学的製剤規準によって、総タンパク量の上限(240μg)が規定されているので、現状では4価ワクチンの導入は不可能である。

 日本では、インフルエンザワクチンは多くて3価であることが「生物学的製剤規準」で規定されており、4価ワクチンの導入は現在はできません。そこで、山形系統とビクトリア系統あるB型のいずれかが選択されることになります。

 2011/12シーズンの国内におけるB型インフルエンザの流行は、シーズンを通してビクトリア系統と山形系統の混合流行で、その比率は、2:1であった。周辺諸国での状況は、中国北部、韓国はビクトリア系統が主流、香港や台湾、中国南部は山形系統が主流と、国・地域ごとに流行パターンが異なっていた。世界全体では両系統ウイルスの分離比は2:1でビクトリア系統がやや優位ではあったが、山形系統も増える傾向が多くの国でみられた。

 B型のインフルエンザウイルスに対する抗体を生成するはずのワクチンは、効果が低いとも言われており、B型のインフルエンザに感染し発症するリスクをワクチン接種では大きく減少させることはことはできないようです。しかし、2012年度の抗体保有状況調査では、ビクトリア系統の「B/Brisbane/60/2008」に対する抗体は、0~4歳、60~70歳群は除かれるのですが、それ以外の年齢層で高い抗体保有が認められたそうです。



 山形系統のB型インフルエンザウイルスにおける最近の分離株は、2008/09シーズンのワクチン株「B/Florida/4/2006」から抗原性が大きく変化しており、ほとんどの分離株は最近の代表株「B/Wisconsin/1/2010」に類似していたようです。そこで、4シーズンぶりにB型インフルエンザウイルスからは「山形系統」が「ビクトリア系統」に代わって選択されることになります。

 現時点ではビクトリア系統が流行の優位ではあるが、多くの人はビクトリア系統のウイルスに対する基礎免疫を獲得しているので、2012/13シーズンにビクトリア系統が流行した場合にも、それほど大きな健康被害は生じないと予想される。一方、もし2012/13シーズンに山形系統による流行が主流となった場合は、この系統ウイルスに対する抗体保有レベルが低いことから、健康被害が大きくなる可能性がある。これらの状況を考慮して、WHOの推奨どおり山形系統からワクチン株を選定するのが妥当との判断に至った。



 WHOが「世界におけるインフルエンザ流行状況」を報告していますが、2013年1月4日の最新の報告に気になる記述があります。アメリカではインフルエンザが原因と考えられる小児の死亡が2012年52週(12月26日~1月1日)には2例あったが、いずれもB型のインフルエンザに感染していたというのです。“Two influenza-associated pediatric deaths were reported (compared to eight in the previous report); both were associated with influenza B viruses.

 この時期に検出されたインフルエンザウイルスの大半はA(H3N2)であったそうですが、インフルエンザ陽性検体2961のうち、79%はA型のインフルエンザであり、21%がB型インフルエンザだったようです。“In the USA, the majority of influenza viruses detected were A(H3N2), however influenza B accounted for a larger proportion than in Canada. Of the 2961 influenza positive specimens in the last week of 2012, 79% were influenza A and 21% were influenza B. ” 5人に1人はB型のインフルエンザに感染していたということになります。

 B型のインフルエンザウイルスのサブタイプを決定したところ、115検体のうち、3価のインフルエンザワクチンに採用した「山形系統」のB/Wisconsin/1/2010の類似株が69%であり、残りの31%が「ビクトリア系統」であったようです。“Of the 115 influenza B viruses characterized 69% were B/Wisconsin/1/2010-like of the Yamagata lineage, the B virus component of this seasons trivalent influenza vaccine, and 31% were of the Victoria lineage.” B型のインフルエンザに感染すると、その30%ほどがインフルエンザワクチンに採用されなかったビクトリア系統ということになります。ビクトリア系統は、0~4歳、60~70歳群において、抗体保有率が低いことから、この年齢群に属する人はインフルエンザ感染に特に注意する必要がありそうです。



 確率から言うと、インフルエンザに感染して発症すると、B型のビクトリア系統のインフルエンザである場合は、0.21×0.31=0.0651から6.5%です。15人に1人ぐらいの割合で、B型のビクトリア系統のインフルエンザであることがアメリカでは確認されています。



 A型(亜型はH1N1pdm09、H3N2(A香港型))とB型の混合流行だった2010~2011年シーズンのインフルエンザの流行では、インフルエンザ迅速診断キットによる判定での発症の中央日は、A型が1月28日、B型が3月18日だったようです。これと同じような経過を2012~2013年シーズンも辿るとするならば、A型のインフルエンザ発症はそろそろピークを迎えることになり、およそ2か月後にはB型のインフルエンザ発症のピークがやってくることになります。



 体内でインフルエンザウイルスが増殖するには、感染細胞からインフルエンザウイルスが外部に放出されることが必要ですが、それにはウイルスの細胞膜表面にある「ノイラミニダーゼ(Neuraminidase、NA)」という酵素が関係します。そのノイラミニダーゼを抑制することでインフルエンザウイルスの増殖を抑制できることが知られています。

 ノイラミニダーゼを阻害する抗ウイルス薬を「ノイラミニダーゼ阻害薬(Neuraminidase inhibitors)」といいますが、それには、経口薬のオセルタミビル(商品名「タミフル(Tamiflu)」、吸入薬のザナミビル(商品名「リレンザ(Relenza)」とラニナミビル(商品名「イナビル(Inavir)、2010年10月19日第一三共株式会社が販売開始)、点滴注射薬のペラミビル(商品名「ラピアクタ(Rapiacta)」)の4種類があります。

 この4つのノイラミニダーゼ阻害薬について、日本臨床内科医会インフルエンザ研究班が調査を行い、解熱時間から有効性を比較ところ、4剤間で大きな差がないことが明らかになったそうです(第25回日本臨床内科医学会で発表された)。

(参考) 「頻繁に変異するウイルスと戦う人間は強力な武器を手にできるか。

 抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬、neuraminidase inhibitors)に対して耐性を持つ(増殖を阻害されない)インフルエンザウイルスが存在します。耐性ウイルスだからといって、「発症を防ぐ、または発症は防げないが症状が軽く済む」などのワクチンの効果には影響はありませんし、また耐性ウイルスだから症状が悪化しやすいわけではないのですが、抗インフルエンザ薬による症状緩和の働きはありせん。

 2012~2013年シーズンのインフルエンザウイルスからは、いまのところ、耐性ウイルスが発見されていないといいます。“Since 1 October, none of the 526 A(H3N2), 39 A(H1N1)pdm09, or 226 B viruses have been resistant to neuraminidase inhibitors.” 発症しても、症状を緩和させるのに有効な薬剤があり、その効き目が現在のところ損なわれていないというのは安心といえます。



             (この項 健人のパパ)

コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )






 インフルエンザにかかると、その症状に個人差はありますが、意識が朦朧とするほどの高熱、しつこい咳、食事もままならないほどののどの痛み、頭が割れそうな強い頭痛、四六時中流れる鼻水、からだの震えが止まらないほどの悪寒、歩くのもやっとになるほどの関節痛、などの不快な症状のいくつかが現れます。

 この不快な経験をしたくはないので、インフルエンザへの感染を防ぐために、少なくとも感染をしても軽い症状で済むように、私たちは12月から3月までの本格的な流行期に間に合わせて、10月から11月頃にインフルエンザのワクチン接種を受けます。しかし、流行期にはインフルエンザに罹患した患者を毎日診なければならない内科の医師は、ワクチンの効果があまりでない年と、そうではない年があることを感じていると言います。

 およそ4年前の2008年4月11日に開催された日本臨床内科医会の「第105回日本内科学会」で、「日本臨床内科医会インフルエンザ研究班」が2001/02シーズンから継続的に行っている「インフルエンザワクチンの有効率」に関する研究の結果が発表されました。その結果は、「流行シーズンによって、インフルエンザワクチンの有効率は、20%から80%まで大きな開きがある。」というものでした。

 ワクチン接種者からのインフルエンザ発生率は、2001/02年シーズンから2006/07年シーズンまでの過去6シーズンのいずれにおいても、非接種者に比べてかなり低く、ワクチンの有効性は認められるとするものの、詳細に年齢群別に発生率を見ると、シーズンによっては差がほとんど認められない年齢群もかなりある、と報告されました。

 研究班は、日本臨床内科医会に所属する40施設以上の医療機関で、インフルエンザの予防接種を希望した患者と希望しなかった患者を追跡して、データの収集を行ったといいます。インフルエンザ様の症状が発現した患者について、「迅速診断キット」を用いて診断し、罹患状況を把握します。また、ワクチン接種の前後、インフルエンザ発症時、回復時に、赤血球凝集反応(HI)抗体価を測定します。

(参考) 「息子の発熱と「イムノクロマト法」と「迅速診断キット」の原理と、、、

 インフルエンザウイルスは、鳥類や哺乳類の赤血球を凝集させます(赤血球凝集反応)。しかし、そのインフルエンザウイルスに対して、ヒトが「抗体」が持っていれば、抗体はウイルスの赤血球凝集素を攻撃し、赤血球が凝集しないようにします(凝集抑制)。この現象を利用して、血液中に抗インフルエンザ抗体がどのくらいできているかを調べることができます。

 「赤血球凝集抑制試験(HI試験、Hemagglutination Inhibition Test)」では、血球吸収処理などの前処理を行った被験者の血清を検体とし、×10、×20、×40、×80、×160、×320というように希釈したものを用意します。そこに、一定の抗原量のウイルスを加えて反応させます。このとき、抗体が存在すれば、ウイルスの赤血球凝集能を奪うことになります。さらに、赤血球浮遊液を加えて、目視で赤血球の凝集を観察します。

 検体に含まれている抗体の数が多いと、希釈に耐えます。そこで、どの希釈倍数まで凝集が抑制されていたかでHI抗体価を測定します。例えば、×10、×20、×40希釈の検体では赤血球が凝集しなかったが、×80希釈の検体では赤血球が凝集したとすると、HI抗体価は40倍ということになります。インフルエンザの感染予防や感染しても症状の軽減に期待できるのが40倍以上で、より感染を防御できる十分な抗体価は160倍以上とされています。

(参考) 「新型インフルエンザウイルスの抗体保有率の報告を読む

 ここで、定義をしないで使っていた「有効率」について述べておきます。「有効率80%」というとき、「ワクチン接種を受けずに発症した人の80%は、ワクチン接種を受けていれば発症を免れた」ということを意味しています。ワクチン接種者からのインフルエンザ発生率とワクチン非接種者からのインフルエンザ発生率を比較することで求められます。ワクチンを接種していれば、ワクチンを接種していない人よりも発症者が少ない、ということが「有効率」であって、インフルエンザの感染力が強い時には、有効率が同じであっても、ワクチン接種者からの発症者は多くなります。

 今年(2011/12年シーズン)は、インフルエンザの患者が各地で多数出ていますが、このことをもって、ワクチンの有効率が低い(「今年のワクチンは外れ」)とは言えません。ワクチン接種者のインフルエンザ発症率とワクチン非接種者のインフルエンザ発症率のデータを収集して初めて、有効率が測定できるのです。そのためには、インフルエンザのワクチン接種を受けたグループと接種を受けないグループを分け、その中でインフルエンザに発症したグループと発症していないグループに分けます。つまり、ワクチン接種を受けてインフルエンザを発症しなかった人、接種を受けたが発症した人、ワクチン接種を受けていなくてもインフルエンザを発症しなかった人、接種を受けていないので発症した人、というデータが必要なのです。

(参考) 「今年(2011/12年シーズン)のインフルエンザワクチンはハズレなのか。

 こうして求めたワクチンの有効率は、A型のインフルエンザウイルスでは、2001/02年シーズンの78.6%から、2002/03年、2005/06年、2003/04年、2004/05年シーズンと低下し、2006/07年シーズンでは20.5%になっていました。2005/06年シーズンを別にすると、2001/02年シーズンから2006/07年シーズンへと減少して行ったのです。



 ワクチン接種前後のHI抗体価の変化をみてみると、A/H3N2型(香港型)では、HI抗体価が40倍以上に達した割合や接種の前と後を比較して4倍以上の抗体価の上昇が見られた割合が2006/07年シーズンでは他のシーズンと比べて低い傾向が見られ、ワクチン株に対する抗体価の上昇の悪さが、2006/07年シーズンの20.5%という低い有効率に影響したようです。

  今年の(2011/12年シーズン)ワクチンの有効率は、いくらくらいの値になるのでしょう。インフルエンザの大流行が始まっています。東京都では、定点医療機関(東京都には419ヵ所)からのインフルエンザの患者報告数は、2012年第5週(1月30日~2月5日)で18,939人で、これを419で割ると定点医療機関当り45.20人になります。1週間で約45人ですから、単純に7日で割ってみると1医療機関で毎日6人強が「インフルエンザです」という宣告を受けていることになります。この45.20人という数字は、現在の調査が始まった1999年以降もっとも多くなっているのだそうです。



 毎年、インフルエンザの本格的な流行が始まる前に、インフルエンザに対する国民の抗体保有状況を把握するために、感染症流行予測調査事業において、「インフルエンザ感受性調査」が実施されています。対象者(2011年度の調査は、25都道府県から各198名、合計4,950名を対象とした)から採取された血液(血清)を用いて、赤血球凝集抑制試験(HI試験)が行なわれ、インフルエンザウイルスに対する抗体の有無と抗体価が測定されています。

 この調査によると、本年度の抗体保有率は「A(H3N2)亜型」に対して、すべての年齢群で前年度(2010年)よりも高かったようです。ここに言う「抗体保有率」は、HI抗体価が40以上の抗体を保有している者の割合を示しています。これでいくと、前年度よりも患者数を低く抑えられるはずでした。しかし、結果は「大流行」になってしまいました。ワクチンの接種が抗体価の上昇にあまり結びつかなかったのでしょうか。



 A型のインフルエンザの罹患者の急激な増加が1月から2月にかけてあり、その後で3月から4月にかけてB型の罹患者の増加があり、ピークが2つ現れるのがインフルエンザの流行の例年の状況(2008/09年シーズンが典型)なのですが、今年(2011/12年シーズン)はA型の流行をすぐに追いかけてB型の流行が始まってしまったので、インフルエンザの大流行になっているのではないかという観測もあります。

 東京都健康安全センターの「インフルエンザ検出数」というグラフを見れば、その観測も頷けるものがあります。WHOの報告によれば、世界的にはカナダ、西ヨーロッパ、北アフリカ、中国などでインフルエンザの流行が拡大しています。検出されたウイルスの大多数はA(H3N2)型ですが、メキシコではA(H1N1)型、中国ではB型が多くなっているといいます(The most commonly detected virus type or subtype throughout the northern hemisphere temperate zone has been influenza A(H3N2) with the exception of China, which is reporting a predominance of influenza type B, and Mexico, where influenza A(H1N1)pdm09 is the predominant subtype circulating.
In addition to Mexico, some southern states of the United States of America and Colombia in northern South America have also reported a predominance of A(H1N1)pdm09 in recent weeks.
)(WHO“Influenza update”03 February 2012)。



 東南アジアでも流行しているB型のインフルエンザは、ワクチン株(ビクトリア系統)に含まれていない種類(山形系統)が流行株に含まれています。ワクチンの効果もなく、インフルエンザの罹患者がこれからも増加を続けるのでしょうか。

                (この項 健人のパパ)

(追記) 2月17日配信の毎日新聞の記事によると、2012年第6週(2月6日~12日)の1施設あたり(全国約5000の定点医療機関から報告)のインフルエンザ患者数は前週より減少したそうです。患者数は昨年10月中旬から増加してきましたが、今回は40.34人で、前週の42.62人から初めて減少に転じました。

 今シーズン(2011/12年シーズン)の患者は、70歳以上の割合が昨シーズンの3倍近くに上っているのが特徴といえるようです。2012年第5週(~2012年2月5日)までの70歳以上の推計患者数は累計約27万人、全体の4.4%で、昨シーズン同期の約10万人、全体の1.6%と比べると大幅に上回っています。さらに、重症患者の3分の1ほど(32.3%)を70歳以上の高齢者が占めているといいます。

コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )






 2月10日、国立感染症研究所は、2012年第5週(1月30日~2月5日)に医療機関を受診した患者数が第4週(1月23日~29日)から約38万人増加し、約211万人(全国約5000の医療機関からの報告を基に推計)に上ったと発表しました(感染症発生動向調査週報(2012年第5号)の発行は2月17日)。「新型インフルエンザ(インフルエンザ(H1N1)2009、A/H1N1pdm09)」が流行した2009年には、第48週(2009年11月23日~11月29日)にピークを迎え、約189万人が罹患したと推計されていますから、このウイルスに対応したインフルエンザワクチンが行き渡っていなかった時期よりも患者数が多いといえます。

 国立感染症研究所は、今年(2012年)は例年より湿気の少ない日が多く、インフルエンザウイルスが喉の粘膜などに付着しやすい状況となっていることも流行の原因の一つと考えているようです。気象庁のホームページから、「気象統計情報 > 過去の気象データ検索」で東京都の湿度のデータを調べてみると、2012年第4週(1月23日~29日)で、77、51、53、40、42、36、29%と並びます。平均値をとると、約46.9%になります。これを2011年第4週(1月24日~1月30日)と比べてみます。65、34、37、28、30、40、34%と並び、平均値は約38.3%になります。

 twitterには、「本日、ドクターに会えたので聞きました。やはり 今年のインフルエンザワクチンは全部ハズレだそうです。」(1月27日)、「調剤師さんのお話によると今回のワクチンはハズレらしい。」(2月8日)、「今年のインフルエンザワクチンはハズレだなと、感じる。例年に比べ多くの医療従事者が罹患しているのをみてる。」(2月8日)などという呟きが見られます。この説の真偽のほどは、不明です。私にとっては伝聞に過ぎなく、医師や薬剤師から直接「ハズレ」と聞いたとしてもそう判断した根拠が正しいものかもわかりません。

 国立感染症研究所感染症情報センターの発行する「病原微生物検出情報月報(Infectious Agents Surveillance Report、IASR)」の2011年11月号にある「平成23年度(2011/12シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過」という項目に気になる記述があります。「孵化鶏卵での増殖性が良好なA/ビクトリア/210/2009から開発した高増殖株X-187」・・・「で製造したワクチンは流行株をあまり抑えない可能性が示唆された。」しかし、「総合的に判断して、2011/12シーズンのA(H3N2)亜型ワクチン株は、A/ビクトリア/210/2009高増殖株X-187を選択することとした。」という記述です。

 現在のインフルエンザワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを「発育鶏卵(孵化鶏卵、有精卵が孵化するまでの発育過程の鶏卵)に接種して増殖させ、漿尿液から精製・濃縮したウイルスをエーテルなどの脂溶性溶剤を加えて、免疫防御に関与する部分を取り出し(「成分ワクチン、スプリットワクチン、HAワクチン」 )、更にホルマリンで不活化したものです(死滅させた病原体を含む「不活化ワクチン」で、弱毒化してあるが生存している病原体を含む「生ワクチン」とは異なる)。

(参考) 「人獣共通感染症と「豚インフルエンザ」、「鳥インフルエンザ」

 A(H3N2)亜型のワクチン製造には、A/ビクトリア/210/2009から開発したX-187という株とA/ブリスベン/11/2010から開発されたX-197という株が検討されたようです。

 A(H3N2)亜型ウイルスは、「A/パース/16クレード」と「A/ビクトリア/208クレード」の2つの「系統群(共通の祖先から分岐した群、分岐群、clade、クレード)」に大別されています。A/パース/16クレードは、「A/パース/16/2009株」と「A/ビクトリア/210/2009株」で代表され、A/ビクトリア/208クレードは、「A/ビクトリア/208/2009株」と「A/ブリスベン/11/2010株」で代表されます。

 2010/2011年シーズンで、A(H3N2)亜型ウイルスの分離報告は2,436株であり、分離株のおよそ86%は「A/パース/16/2009株」とその類似株の「A/ビクトリア/210/2009株」だったそうです。この結果からは、A(H3N2)亜型のワクチン製造には、「X-187」という株を用いればよいという結論が引き出されますが、この製造株に対するフェレット感染抗血清を用いてA/パース/16/2009類似の流行株との交叉反応性をHI試験で調べたところ、抗X-187血清は、最近の流行株との反応性がかなり低下することが確認されたのだそうです。

 インフルエンザウイルスは、鳥類や哺乳類の赤血球を凝集させます(赤血球凝集反応(Hemagglutination))。フェレットなどの動物にインフルエンザウイルスを接種すると、免疫反応により抗血清が得られますが、この抗血清は最初に接種したウイルスに対しては赤血球凝集反応を特異的に抑制します。この現象を利用した検査法が「赤血球凝集抑制試験(HI試験法、Hemagglutination Inhibition Test)」です。血液中に抗インフルエンザ抗体がどのくらいできているかを調べることができます。

(参考) 「新型インフルエンザウイルスの抗体保有率の報告を読む

 赤血球凝集能を持つインフルエンザウイルスのようなウイルスの抗体検査は、「HI試験」によって測定します。抗体が存在すれば、抗体はウイルスの赤血球凝集素を攻撃し、赤血球が凝集しないようにします(凝集抑制)。赤血球の凝集で抗体の保有を判断するわけです。抗X-187血清は、理論とは異なり、A/パース/16/2009類似の流行株の凝集抑制という働きを充分にしなかったのです。

 一方で、A/ブリスベン/11/2010から開発された「X-197」に対するフェレット感染抗血清は、その原株と同様に流行株(A/パース/16/2009類似株)をよく抑えたことから、ワクチン効果はX-187よりも高い可能性が示されたそうです。「A/ブリスベン/11/2010株」はA/ビクトリア/208クレードで、A/パース/16クレードとは別の系統群に属するのですが、A/ビクトリア/210/2009(A/パース/16/2009類似)に対しての「抗原性(抗体を作らせる性質)」に勝っていたのです。

 ちょっとまとめてみましょう。2011/12年シーズンに流行するインフルエンザウイルスは、A/パース/16クレードという系統群に属するA/ビクトリア/210/2009であろう。ならば、A/ビクトリア/210/2009から開発したX-187という株をワクチン製造株にするのがよいだろう。しかし、X-187で製造したインフルエンザワクチンは、なぜかHI試験の結果が悪く、インフルエンザの感染を防いだり、重症化を妨げる抗体を作り出す能力に疑問詞がつくことになった。ところが、X-197というワクチン製造株では、良好な結果が得られることがわかった。というところまできました。

 しかし、残念なことがわかります。X-197というワクチン製造株は、発育鶏卵の中で増えるという「増殖性」に劣り、ウイルスの収量が問題視されます。必要量のワクチンを期限内に製造できないことがわかったのです。鶏卵を増やすと、採算性は悪くなりますが、収量を確保はできます。ところが、無菌で生産される鶏卵はすぐには増産できないのです。インフルエンザワクチンは一種の季節商品であり、時期を逃しては意味がありません。また、かりに増産できたとしても、増殖性の悪い製造株でワクチンを製造すると、卵タンパクを限度以上に含むなどの「純度の低下」によって、「卵アレルギー」反応などの副反応のリスクが増加してしまいます。

(参考) 「「卵アレルギー」と「細胞培養法」の新型インフルエンザワクチン

 この月報は、次のように結びます。「総合的に判断して、2011/12シーズンのA(H3N2)亜型ワクチン株は、A/ビクトリア/210/2009高増殖株X-187を選択することとした。」 これを「ワクチンがまるでないよりはマシです。」と読むのは穿った見方でしょうか。ワクチンが「動物(フェレット)の血清を用いた交叉反応試験」で有効性が懸念され(「はずれである」)ても、人に対しては有効である(「はずれていない」)ことはありえることですが、毎年欠かさずインフルエンザワクチンの接種を受けている我が家でも、今年の冬はいつもの年とは異なり、風邪様の症状やインフルエンザ様の症状を私も妻も我が子も経験しています。

(注意) 正しい読み方でないのかも知れないので、深く知ろうとする人は、必ず「平成23年度(2011/12シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過」をお読み下さい。

                   (この項 健人のパパ)

コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )






 1月28日配信の産経新聞の記事によると、茨城県の取手市(龍ヶ崎保健所管内)の「取手北相馬保健医療センター 医師会病院」で、入院患者と職員の計57人がインフルエンザに集団感染したそうです。1月20日から28日にかけて、職員32人、患者25人(入院患者166人。約15%が感染)がインフルエンザに感染し、迅速検査では1人を除き、B型にインフルエンザに陽性を示したようです。

 医師会病院の職員は334人であることから、感染者は約9.6%。職員は全員インフルエンザのワクチン接種を受けているという報道もあることから、ワクチンの感染予防効果には疑問が呈されます(ワクチンには重篤化を防ぐ効果もある)。病院内の環境が湿度が低いなどのインフルエンザウイルスに都合のよいものだったのでしょうか。

 「国立感染症研究所感染症情報センター」の報告によると、2011年第36週~2012年第1週に国内で検出されたインフルエンザウイルスは、そのおよそ90.5%がA香港型であり、B型は9.1%です。検出例の少ないB型の割合が非常に大きいのは、誰か1人が持ち込んだウイルスが病院内で感染を繰り返した可能性が高いといえそうです。



 (1月28日配信の読売新聞の記事によると、茨城県内にある120ヵ所の定点医療機関の平均患者数が、2012年第3週(1月16日~22日)に12.43人となり、「今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性を示す注意報の基準」10人を超えたそうです。「つくば保健所」管内では、10定点医療機関の平均患者数が32.4人となり、「大きな流行の発生・継続が疑われることを示す警報の基準」30人を上回ったようです。各保健所管内の流行指数は、常総5、潮来5.63、筑西7.4、ひたちなか8.88、日立8.91、常陸大宮10.25、鉾田10.6、土浦11.92、水戸12.35、古河12.38、竜ヶ崎17.14、つくば32.4、と高くなっていきます。)

 NHKニュースでは、病院発表をそのまま引用して、「今月20日に女性の看護師1人がインフルエンザに感染したあと、28日までに25人の患者と32人の職員の合わせて57人に感染が広が」り、「(その看護師は)予防接種を受けていたため軽い症状しか表れず、自分では気づかないまま院内感染が広がった可能性があると見ています」と報道しています。

 この病院の発表をそのまま受け入れていいのでしょうか。1人が残りすべての感染者にインフルエンザウイルスを感染させたのでしょうか。数次にわたって感染を繰り返したということはないのでしょうか。どこの病院でも、病院職員はインフルエンザワクチンの接種を受けているのが当然と思われます。ならば、インフルエンザに感染しても「軽い症状」しか現れない可能性はあり得、他の病院でも集団感染が起りえるはずです。

 全国には医療施設が17万施設(「病院」は9,000施設弱)ほどあるようです。そのなかで療養病床を有するものは、「病院」と呼ばれるもので4,000施設ほど(一般診療所で2,000施設ほど)です。集団感染が2人の死者を生じさせた可能性があるのでニュースになったとも考えられ(つまり、集団感染は起っているがニュースにはならない)、4,000分の1の確率が高くなったとしても、それでも病院の感染拡大の予防対策が病院側に不十分であったと指摘すべきでしょう。個人に責任を転化できる問題ではありません。

 感染拡大を防ぐには、感染者を病院内や医療現場に立ち入らせないのが最も効果的で、「発熱がある」、「咳をしている」などのインフルエンザ感染の可能性のある職員を勤務させないのがいいのですが、いまの医療現場は少ない医師や看護師で運営しているという現実があるようです。多少の発熱などの体調不良では休めないのでしょう。

 2月2日配信の時事通信の記事によると、山梨県甲府市(中北保健所管内)の城東病院で、インフルエンザの集団感染が発生したようです。1月27日から、入院患者や職員にインフルエンザ様症状がみられ、院内で検査の結果、入院患者26名(入院患者数は231人。約11%が感染)と職員10名(職員数216人。4.6%が感染)がインフルエンザA型と診断されたそうです。

 脳血管障害などの基礎疾患のあった80歳代(男性)と90歳代(女性)の入院患者が2人亡くなり、現在、重篤者が3人(女性患者2人と男性患者1人)いるようです。入院患者の発症者26人のうち、予防接種を受けた者は15人(接種率約58%。基礎疾患のある高齢者はワクチンの接種自体が大きなリスクとなる)、職員の発症者10人のうち、予防接種を受けた者は9人(接種率90%)だったようです。

 2月2日配信の毎日新聞の記事によれば、2012年第4週(1月23日~29日)に、山梨県の定点1医療機関あたりのインフルエンザ患者数が33.28人となり、警報レベル(定点1医療機関あたり30人以上)に入ったようです。県内40の定点医療機関の患者数は計1331人。地域別では、富士・東部で45.56人、中北で34.31人、峡東で28.71人、峡北で26.00人、峡南で22.00人となっているそうです。

 インフルエンザワクチンには、少なくとも重篤化を防止する効果はあるのではないかと言われています。しかし、インフルエンザのウイルスに対抗するにはある程度の体力は必要でしょう。病院ですから、看護師などの職員は別として、体力の低下した人がいるわけです。病院には、感染予防や感染拡大阻止の対策を十分に講じてもらいたいものです。

(追記) 2月2日配信の朝日新聞の記事によれば、宮崎県宮崎市の潤和会記念病院(宮崎市保健所管内)で、インフルエンザの集団感染が発生したそうです。1月24日に職員がインフルエンザに感染したあと、院内で感染が広がり、2日までに55人(30日で41人。この時点で新規の入院や転院などを取りやめていた)(入院患者30人、職員25人)が感染したそうです。この病院の入院患者は380人(推定)であることから、感染率は7.9%ほど。

 1月10日に入院していた80歳代の女性が肺炎で死亡しました。しかし、インフルエンザ感染と死亡との因果関係ははっきりしないようです。さらに、60歳代~70歳代の患者の男女2人も重篤な状態だといいます。病院職員のインフルエンザ予防接種率は、2010年度のデータで、94.4%。医師は100%なのですが、看護師は93.7%のようです。

 宮崎県では、2012年第3週(1月16日~1月22日)の時点で、延岡、日南、小林保健所管内で「警報」(大きな流行の発生・継続が疑われることを示す)が出ており、 他の全域(宮崎市、都城、高鍋、高千穂、日向、中央保健所管内)で「注意報」(今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性があることを示す)が出ていました。

 厚生労働省・感染症サーベランス事業により、 全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関を受診した インフルエンザ患者数が週ごとに把握されています。 過去の患者発生状況をもとに基準値を設け、各保健所管内でその基準値を超えると「注意報」や「警報」を出すことになっています。 

(追記) 2月15日配信の毎日新聞の記事によれば、岡山市中区浜の有料老人ホーム「ベストライフ岡山」でインフルエンザの集団感染があり、発熱などの症状のあった25人(入所者20人、職員5人)のうち入居中の高齢女性3人(93歳(ワクチン接種済み。検査で感染を確認。死因は多臓器不全)、92歳(ワクチン接種済み。検査をしたが感染が確認されず。死因は多臓器不全)、85歳(接種も検査も受けていない。死因は肺炎))が死亡したようです。

               (健人のパパ)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )



« 前ページ