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 北海道札幌市手稲区にある「手稲渓仁会病院」が「国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター」とともに2013年12月24日に「今インフルエンザシーズンの初めに経験したA(H1)pdm09亜型ウイルスによる健康成人の重症インフルエンザ肺炎症例について」という報告をしています。

 それによると、「インフルエンザ流行期のごく初期である11月中旬に、本邦ではここ2インフルエンザシーズンほど影を潜めていたA(H1)pdm09亜型ウイルスが原因と思われる健康成人の重症インフルエンザ症例を経験した」といいます。そして、2009~2010年にかけて大流行したインフルエンザA(H1)pdm09亜型ウイルスが、世界的に見ると、「一昨年あたりから分離ウイルスの中で大きな割合を占めるようになってきており、今後わが国でも再び警戒しておく必要があろう」と警告を発します。



 国立感染症研究所 が報告している「週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数」(2014年2月6日現在)を見てみると、2014年に入ってから、AH1pdm09(AH1N1)が、AH3(A香港型)と比べて、非常に多くなって多くなっていることがわかります。



 また、「インフルエンザウイルス分離・検出例の年齢群(2013年第36週~2014年第6週)」を見ると、AH1pdm09の患者数の割合がAH3などと比べて、0歳から6歳にかけて多いことが見てとれます。



 報告されている患者は38歳の女性で、免疫不全はないとのことです。患者は社員が海外と行き来のある旅行関連の会社に勤務しており、今回の原因ウイルスが海外から持ち込まれた可能性もあるといいます。しかし、原因ウイルスがすでに水面下で地域流行していて感染した可能性も否定できないともいいます。経過を見ていきます。

11月上旬…37℃台の微熱を伴う「乾性咳漱(空咳(からせき)、痰(たん)を伴わない乾いた咳)」があった。
11月16日…38.0℃の発熱と呼吸困難のために札幌のA病院を訪れた。当初、「咳喘息(気管支の慢性的な炎症が主な原因で、空咳が続く)」が疑われ入院した。
11月19日…胸部レントゲンとCT検査で両側の「間質性肺炎(絡み合っている肺胞と毛細血管を取り囲んで支持している組織である「間質」が炎症を起こす」)像が認められ、鼻腔ぬぐい液を用いた迅速検査でA型インフルエンザ抗原が陽性となった。
11月19日…ウイルスに対する特異的治療としてラピアクタ300mg/日、タミフル150mg/日がそれぞれ11月28、30日まで投与されたが、症状の改善には至らなかった。
11月19日…その後、低酸素血症が確認され、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の状態に陥り、ICUで挿管管理下に置かれた。
12月…喀痰からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたため、細菌性肺炎としての治療も開始されている。
12月13日(報告日)…現在、多臓器不全の傾向にある。

 11月20日とその2週間後の12月2日に採取されたペア血清について、赤血球凝集抑制(HI)試験を行ったところ、A/California/07/2009(H1N1pdm09)ウイルス抗原に対して、急性期(11月20日)HI価が1:10であったところ、2週間後(12月2日)の血清では1:320と大きな上昇が認められたと言います。その一方で、A/Texas/50/2012 (H3N2)、B/Massachusetts/2/2012(山形系統)、B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)に対しては、HI価の上昇は見られず、すべて1:20 となったそうです。A(H1)pdm09ウイルスによる感染があったことになります。

 感染症の診断、ワクチンの効果の判定に使用される「ペア血清(paired serum)」という手法があります。ペア血清は、同一被験者から期間をおいて採取された1組の血清です。例えば、感染初期の血清(「急性期血清」)と病気が回復した後の血清(「回復期血清」)とを1組とします。急性期血清と回復期血清とでどの程度の抗体価の上昇がみられるかを検査します。例えば、ペア血清の抗体価が4倍以上上昇した場合に、そのウイルスの感染を推定します。

 インフルエンザを発症した患者においては、症状が出てから4日以内の「急性期」には、その系統のインフルエンザウイルスに対する「抗体」はまだできていないのですが、症状が出てから2週間~4週間経った「回復期」には、「抗体」ができています。このため、血清中の抗体価をHI試験によって比較すると、インフルエンザウイルスに感染していれば、大きな差となって現れてくるのです。

(参考) 「ワクチンが充分には効かない「抗原性変異」と「赤血球凝集抑制試験」と、、、

 「長野県立こども病院小児集中治療科」が「長野県環境保全研究所感染症部」とともに2014年2月10日に「インフルエンザA(H1N1)pdm09による生来健康小児の急性インフルエンザ脳症死亡例」という報告をしています。

 その報告には、「今シーズン流行初期である2014年1月中旬に、生来健康な9歳児がインフルエンザ脳症を発症し、発症から2日目に死亡した」こと、「A(H1N1)pdm09による急性脳症を発症し、集中治療にもかかわらず死亡」したこと、「救急要請から2時間半後の集中治療室入室時にはすでにショック、DIC状態と病勢が強く救命しえなかった」ことに、強い無念さがにじんでいます。

 DIC(disseminated intravascular coagulation)とは、播種性血管内凝固症候群または汎発性血管内凝固症候群のことで、血液凝固反応は本来は出血箇所のみで生じるはずなのですが、それが全身の血管内で無秩序に起こる状態を言います。

 正常であれば、血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子の働きにより、必要な箇所以外では血液は凝固しません。ところが、何らかの原因で凝固促進物質が大量に血管内に流入することが起これば、抗血栓性の制御能を失うことになり、全身の細小血管内で微小血栓が多発して、臓器不全へと進行することになります。

 経過をこの報告から辿ってみます。

1月9日…咳嗽、鼻汁出現。
1月10日…朝6時、38.5℃の発熱出現。
1月10日…総合病院小児科を受診、鎮咳去痰薬と解熱剤(アセトアミノフェン)が処方された。抗インフルエンザ薬は投与されず。
1月11日…咳嗽、鼻汁が増悪したが、お昼に少量食事摂取(プリン)。
1月11日…「ドスン」というベッドから落ちるような音が聞こえ、うなり声、尿便失禁、開眼しているも視線合わず、顔色不良という状況で発見された。
1月11日…13時50分に救急要請、総合病院小児科へ搬送された。搬送中に嘔吐あり、呼びかけには反応なし。同医で迅速診断キットにてインフルエンザA陽性。
1月11日…集中治療目的で長野県立こども病院にドクターヘリ搬送となった。
1月11日…長野県立こども病院到着時、Glasgow Coma Scale(GCS); E4V1M1で、眼球左方偏位、左上肢屈曲位で硬直していた。痙攣持続していると判断され、気道確保など集中治療を開始したが、ショック状態は続いていたため、人工心肺装置を装着し循環管理を開始した。また出血傾向ありDICも合併していた。
1月11日…抗インフルエンザ薬(点滴注射薬ペラミビル。商品名は「ラピアクタ」)に加えて、ステロイドパルス(炎症を早急に抑える必要があるときに、ステロイド薬を大量に点滴する治療方法)、シクロスポリン(サイトカインの産生と遊離を抑制する抗生物質)などインフルエンザ脳症に対する特異療法を開始した。しかし、脳波は平坦となった。
1月12日…瞳孔散大と対光反射の消失を認めたため、人工心肺を中止。

 意識障害の程度を記録する「グラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale、GCS)」が、E4V1M1だったことから、開眼機能(Eye opening)は、「自発的に、または普通の呼びかけで開眼」、言語機能(Verbal response)は、「発語みられず」、運動機能(Motor response)は、「運動みられず」という状態であったようです。

 白血球が分泌し免疫系の調節に機能するインターロイキン (interleukin)、ウイルスの増殖阻止や細胞の増殖抑制で機能するインターフェロン(interferon)、細胞にアポトーシスを誘発する腫瘍壊死因子(TNF-α)やリンフォトキシン(TNF-β)など、細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達をするものをサイトカイン (cytokine)と言います。

 サイトカインは免疫系による感染症への防御反応として産生されることもあり、それが過剰なレベルになる(サイトカイン・ストーム)と、多臓器不全などを引き起こします。インフルエンザウイルスは、例えば肺細胞に対して影響を及ぼすと、肺組織においてサイトカインが過剰に分泌され免疫系を刺激します。肺に移動した白血球は肺の細胞を破壊し、肺胞炎、肺胞浮腫が起こり、患者は呼吸困難に陥ることになります。このようなサイトカイン・ストームは、健康で免疫系が正常な若年の患者に起こりやすいと言われています。

(参考) 「ウイルス感染が誘発する「サイトカイン・ストーム」と「多臓器不全」

 「札幌市衛生研究所」や「国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター」などが2014年1月6日に報告した「2013/14シーズンに札幌市で検出された抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルス」によると、「A(H1N1)pdm09ウイルスの抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスにおいて、札幌市で検出されたA(H1N1)pdm09ウイルスがいずれもNA蛋白にH275Y耐性変異をもち、オセルタミビル(商品名タミフル)およびペラミビル(商品名ラピアクタ)に耐性を示すことが確認された」といいます。

 「2013/14シーズンに札幌市の患者から分離されたA(H1N1)pdm09ウイルス5株について、札幌市衛生研究所において遺伝子解析による薬剤耐性マーカーの1次スクリーニングを行ったところ、5株すべてがH275Y変異をもつことが明らかになった」のだそうです。11月中旬に札幌市内の病院で、健康成人の重症インフルエンザ症例の発生があり、国立病院機構仙台医療センターでの患者臨床検体の検査によって検出されたA(H1N1)pdm09ウイルスのRNAについて、「国立感染症研究所において遺伝子塩基配列の解析を行った結果、札幌市衛生研究所で分離された5株と同様にH275Y変異をもつことが明らかになった」ようです。

 オセルタミビルおよびペラミビルに対して耐性を示すことが確認されたH275Y変異をもつ5株は、一方、ザナミビルおよびラニナミビルに対しては感受性を保持しているようです。つまり、ザナミビル (専用の吸入器によって吸入投与。商品名「リレンザ」)やラニナミビル (吸入投与。商品名「イナビル」)はH275Y変異をもつウイルスに対しても、増殖を防ぐ効果があることになります。

 インフルエンザウイルスは、ノイラミニダーゼ(Neuraminidase)という酵素をその表面に持っています。この酵素には、宿主細胞で複製されたウイルスを宿主細胞から遊離させするという働きがあります。オセルタミビル (商品名「タミフル」)やペラミビル(点滴注射薬、商品名「ラピアクタ」)という抗インフルエンザ薬は、このノイラミニダーゼの働きを阻害します。遊離できなくなるのですから、ウイルスは増殖できなくなります。

 ノイラミニダーゼは糖タンパク質であり、アミノ酸をその構造に持ちます。インフルエンザウイルスの中には、ノイラミニダーゼの275番目のヒスチジン (histidine、略号はHis、H) というアミノ酸がチロシン(tyrosine、略号はTyr、Y)というアミノ酸に変わっているものがあります。これを「H275Y変異」といいます。これが起こっていると、「タミフル」や「リレンザ」は、ウイルスのノイラミニダーゼを認識できなくなります。ウイルスの増殖を許してしまうのです。しかし、この変異はザナミビル (とラニナミビルという抗インフルエンザ薬には通用しないようです。

 長野県の小児から2014年1月11日に採取した咽頭と鼻腔ぬぐい液を長野県環境保全研究所に送付し、RT-PCR法を用いて遺伝子検査を実施したところA(H1N1)pdm09が検出されたそうです。MDCK細胞で分離されたA(H1N1)pdm09株に対し、TaqMan RT-PCR法を用いてNA(ノイラミニダーゼ)遺伝子を解析したところ、オセルタミビルおよびペラミビルの臨床効果の低下に関与しているといわれている耐性変異(H275Y変異)は検出されなかったといいます。

 この小児の発症と同時期に父、弟2人(5歳、2歳)にも迅速検査が行われていますが、迅速診断キットでインフルエンザA陽性であったといいます。なぜ、この小児だけが重篤化し死に至ったのでしょうか。亡くなった小児はワクチンの接種を受けていなかったといいます。しかし、想像するに2人の弟も接種を受けていなかったことでしょう。なぜ、この小児だけが重篤化し死に至ったのでしょうか。インフルエンザワクチンには、感染予防(罹患予防)、重篤化予防、死亡回避の効果があるといわれています。ワクチンの接種は受けた方がいいのかも知れません。

(参考) 「ワクチンって効くの? インフルエンザワクチンの有効率を考える

(参考) 「我が子の命を守るために親として「インフルエンザ脳症」を知る

 2014年2月10日(月)配信の毎日新聞の記事からです。

 国立感染症研究所は2月10日、長野県内の男児(9歳)がインフルエンザ脳症で死亡したと発表した。男児から検出したインフルエンザウイルスのタイプは、今季流行しているA型のH1N1型だった。このタイプは、2009年に新型インフルエンザとして流行し、その際に脳症を発症する患者が多かったため、同研究所は今後も脳症の患者が増える恐れがあるとして関係者に注意を呼びかけている。長野県立こども病院によると、男児は1月10日に発熱などの症状が出た。翌日に症状が悪化。県内の病院に救急搬送され、インフルエンザと診断された。その後も顔色が悪いなど症状が悪化し、1月12日に脳症で死亡した。

                  (この項 健人のパパ)

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