POWERFUL MOMが行く!
多忙な中でも,美味しい物を食べ歩き,料理を工夫し,旅行を楽しむ私の日常を綴ります。
 





 「抗アレルギー薬(anti-allergy drugs)」という薬があります。ヒトには、外来の異物(「抗原(antigen)」)を排除するために働く、生体にとって不可欠な生理機能があります。細菌、やウイルスといった病原体などの抗原を「抗体(antibody)」やリンパ球の働きによって生体内から排除します。これを「免疫反応」といいます。しかし、免疫反応が特定の抗原に対して「過剰」に起こることがあります。これを「アレルギー」といいます。

 抗アレルギー薬は、アレルギー症状を抑えたり、症状を出にくくしたりして、主に症状を予防するための薬です。身体の中にアレルギー症状をおこす異物(「アレルゲン(allergen)」)が入り込むと、身体が過敏に反応してしまい、必要以上に身体の細胞から化学伝達物質(ケミカルメディエーター、chemical mediator)が出てさまざまなアレルギー症状を引き起こします。抗アレルギー薬は、この化学伝達物質が細胞から出るのを抑えてアレルギー症状を和らげます。

 アレルギー(allergy)は、その作用機序から、4つに分類されることがあります。ゲル-クームス分類(Gell and Coombs classificasion)では、Ⅰ型(アナフィラキシー型)、Ⅱ型(細胞障害型)、Ⅲ型(免疫複合体型)、Ⅳ型(細胞性免疫型、遅延型過敏症型 )の4つです。

 花粉症、食物アレルギー、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アナフィラキシーショックなどは、Ⅰ型のアレルギーです。リンパ球のB細胞は「IgE(Immunoglobulin E、IgE、免疫グロブリンE、紅斑(Erythema)を引き起こす免疫グロブリン)」という「糖タンパク質(glycoprotein)」を作り出しています。このIgEという糖たんぱく質は、特定のタンパク質などの分子を認識して結合する働きを持ちます。例えば、花粉症の患者では、目や鼻などの粘膜に花粉が付着すると、花粉からタンパク質が溶け出し、そのたんぱく質にこのIgEが結合します。

 B細胞で産出されたIgEは、IgE受容体のある肥満細胞(マスト細胞、Mast cell)、好塩基球などに結合しており、花粉のタンパク質が結合すると、例えば、花粉タンパク-IgE-マスト細胞というように一体化します。

 ドイツの医学者「パウル・エールリッヒ(Paul Ehrlich、ポール・エールリヒ)」は、アニリン色素の染色性(粘液や軟骨基質を染めると、青い色素であるにもかかわらず赤紫色に染まってくる)を調べていたとき、「トルイジンブルー(Toluidine Blue)」のような塩基性色素に染まる顆粒で満たされた細胞を見つけます。

 エールリヒは、細胞内の顆粒を栄養物質と思い込み、顆粒は周囲の細胞に栄養を与えるために存在する(この部分、諸説あり。例えば、「顆粒」は食作用で取り込んだ異物で、細胞の「餌」と考えたとするもの)と考え、この細胞に中高ドイツ語(1050年頃から1350年頃にかけての古いドイツ語)で“food”を意味する“Mast”という語をつけて“Mastzellen”(“Zellen”は「細胞」を意味する)という名称を与えます。これを日本語では、その音のままに「マスト細胞」と呼んだり、意味を含めて「肥満細胞」と呼んだりします。「肥満」と和訳したのは、肥満に関係する細胞とも聞こえ、誤解を招きますね。

 話を戻しますが、 花粉タンパク-IgE-マスト細胞というように一体化すると、マスト細胞はヒスタミン、セロトニンなどの生理活性物質を放出します。この物質は、血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの作用があり、正常域で分泌されると生体防御機能を持ちますが、「過剰」に分泌されると、ヒスタミンⅠ型受容体というタンパク質と結合して、アレルギー疾患の原因ともなります。

 分泌された大量のヒスタミンが血流などを介して他の部位に運ばれると、細動脈の血管が拡張する(これに伴い血圧低下)、肺の細気管支が収縮し、気管が収縮する(これに伴い喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難)などの現象を引き起こします。腹痛、さしこみ、嘔吐、下痢などの胃腸症状も引き起こします。血流から組織への体液が滲出し(これに伴う血流量低下)、血管性の浮腫(口唇、顔面、首、咽喉の腫脹)もあります。これが「アナフィラキシー(anaphylaxis、防御(-phylaxis)とは逆(ana-)の状態)」です。

 この場合、「アドレナリン (adrenaline、エピネフリン (epinephrine))」が血管収縮や気管支拡張の作用があることから、筋肉注射で投与されます(皮下注射ではアドレナリンの作用で血管が収縮するので作用が遅くなってしまう)。

 新型インフルエンザや季節性インフルエンザなどのワクチン接種は、異物を体内に入れる行為です。それによって、ワクチンに含まれる物質や接種を受けた人の体質の影響で、多かれ少なかれアレルギーのような症状(免疫反応)を起こします。極めてそれが0に近い人がいれば、極々稀ですが死に至ってしまう人もいます。これを「副反応」(一般的には「副作用」と呼ばれる)といいますが、局所に起る副反応で比較的頻度が高いもの(接種を受けた人の10~20%に起こるが、通常2~3日で消失する)は、接種した部位の「発赤」(赤み)、「腫脹」(腫れ)、「疼痛」(痛み)などが挙げられます。全身に起る副反応(接種を受けた人の5~10%に起るが、これも通常2~3日で消失する)には、発熱、頭痛、悪寒(寒気)、倦怠感(だるさ)などが挙げられます。

 アレルギー症状には、「わたしは予防接種後はいつも接種部位がひどく腫れるので、わたしの息子が予防接種を受けて腕がひどく腫れてもそんなものかなと思っていました(私の母も予防接種でひどく腫れます)。しかし、息子を小児科医に見せたら、どうやらこんなに腫れる人はあまりいないようです。接種部位の腫れにはひどく驚かれました。」といったこともあるようです。これは接種部位で血流から組織へ体液が滲出したために起る現象です。

 「蕁麻疹(urticaria)」は、表在性の微細な血管が拡張して、その血管壁の透過性が増し、漿液および血球が血管外に滲出して皮膚組織中に溜まったもので、皮膚にやや扁平に隆起する部分(浮腫)が生じ、皮膚の灼熱感や痒みを伴います。気道内にも浮腫を生じることがあり、この場合には、気道が狭窄されて、呼吸困難を起こし、死亡することもあります。 息苦しさを訴えたときは、適切に対処しなければなりません。

 抗アレルギー薬の中に「抗ヒスタミン薬(antihistamine)」があります。抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンの作用を抑制する薬で、H1受容体拮抗薬です。ヒスタミンは、ヒスタミン受容体(Histamine Receptor、H1からH4まで4種類ある)というタンパク質に取り付いて、細動脈の血管の拡張、肺の細気管支の収縮、気管の収縮といった作用を現しますが、受容体拮抗薬(receptor antagonist、ブロッカー(brocker))はヒスタミン受容体に取りついて、ヒスタミンが取り付くのを邪魔します。行き場を失ったヒスタミンは作用を現すことなく、体液中などにあるヒスタミン分解酵素で速やかに分解されてしまいます。

 抗ヒスタミン薬の1つに「ケトチフェンフマル酸塩(Ketotifen Fumarate、フマル酸ケトチフェン) 」があります。ノバルティスファーマの「ザジテン(Zaditen)」の有効成分は、フマル酸ケトチフェンです。ザジテンは、気管支喘息を緩和する(即効性はなく、いま起こっている喘息をすぐ抑えるものではない)薬であり、アレルギー性鼻炎の症状、蕁麻疹・湿疹など皮膚の痒みも和らげます。ザジテンは、三種混合ワクチンや麻疹ワクチン接種による副反応(副作用)の予防に有効との報告があるようです。また、予防接種によるアナフィラキシーショックの予防として、接種の数日前から、内服させることがあるという小児科医の報告もあるようです。

 アレルギーの1つ、花粉症の起こる1週間ほど前から抗アレルギー薬、例えば、ザジテンの服用を開始すると症状が軽くて済むことがあるようです。フマル酸ケトチフェンは、抗アレルギー作用及び抗ヒスタミン作用を有しています。

(1) 抗アレルギー作用
  ケトチフェンはPCA(受動的皮膚アナフィラキシー)反応を抑制する。
  ヒスタミン、SRS-Aなど化学伝達物質の遊離を抑制する。
  抗原及びPAF(血小板活性化因子)による好酸球の活性化を抑制する。
(2) 抗ヒスタミン作用
  ヒスタミンによる気管支収縮、血管透過性亢進、皮膚反応などを抑制する。

 眠気を起こすなどの副作用があるようですが、比較的安全な抗アレルギー薬のようです。

 2010年11月17日配信の「産経新聞」の記事からの抜粋です。

 昨シーズンは新型(H1N1)が猛威をふるったが、今年は季節性、中でもA香港型(H3N2)が流行しそうだ。中国本土や香港では今夏に大流行しており、日本でも既に幼稚園での集団発生が報告されている。

 流行に備え、まず大事なのはワクチンの接種。昨シーズンに新型や季節性のワクチンを接種した人も、改めて今年のワクチンを打つ必要がある。ワクチンは接種後、3週間ぐらい経過しないと免疫がつかないため、本格的な流行が始まる前の接種が望ましい。

 6歳未満の子供の感染で怖いのがインフルエンザ脳症の発症だ。季節性では1シーズンで数百人が発症し、約15%が死亡、25%に後遺症が出るとされる。発熱から1日前後で症状が出ることが多いので、熱が出てからしばらくは注意が必要だ。顔色が悪い、呼吸が苦しそう、意識がはっきりしないなどの症状があるときはすぐに医療機関を受診した方がよい。

 今シーズンは流行期間も長引きそうで、適切な対策がとられないと10年ぶりに2万人
(超過死亡概念による推計数)を超す死者が出る可能性がある。ワクチン接種や手洗いの徹底で予防に努めるとともに、乳幼児や高齢者が感染したときは早めに医療機関を受診してほしい。

(参考) ひとり歩きする数字-インフルエンザによる死亡者、年間1万人

(参考) 我が子の命を守るために親として「インフルエンザ脳症」を知る。

              (この項 健人のパパ)

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 神経組織は体の中に張り巡らされた電線です。そこを通って、いろいろな情報が行き来しています。この電線は私たち脊椎動物では神経細胞(neuron)からできています。神経細胞はいくつもの樹状突起(dendrite)を持っていて、そこから軸索(axon)という神経繊維が伸びています。軸索のまわりには、髄鞘(myelin sheath、ミエリン鞘)という鞘のようなものが巻き付いています。



 「脱髄疾患(demyelinating disease)」という疾患があります。神経繊維に巻きついている髄鞘が脱落する疾患をいい、髄鞘が脱落すると、情報の伝導速度が遅くなり、いろいろな神経症状が引き起こされます。漏電しないように導体(「軸索」)が絶縁体(「髄鞘」)で覆われていたものがその被覆が取れて、電気が漏れ出した状態になってしまうのです(情報の伝導速度を大幅に上昇させている「跳躍伝導(saltatory conduction)」が行われなくなる)。

 この脱髄疾患が中枢神経系に起ったものに「急性散在性脳脊髄炎」があり、末梢神経系に起ったものに「ギランバレー症候群」 があります。急性散在性脳髄炎(acute disseminated encephalo myelitis、ADEM)とは、中枢神経系の脳や脊髄を覆っている髄膜という膜が炎症を起こすもので、ウイルス感染後やワクチン接種後に生じることのあるアレルギー性の脱髄疾患です。ギランバレー症候群(Guillain-Barré syndrome、GBS」とは、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる脱髄疾患で、これもウイルス感染後やワクチン接種後に生じることがあります。

 ギランバレー症候群で思い出すのが「大原麗子」さんです。2009年8月3日に、不整脈による内出血で亡くなった大原麗子さんは、1999年から2000年にかけて、「ギランバレー症候群」の治療のために芸能活動を休止しています。また、2008年11月には四肢に力が入らなくなる病気であるギランバレー症候群の影響で、足元がふらついて自宅で転倒し、右手首の骨折と膝の打撲という重傷を負っています。

 インフルエンザワクチンに限らず、ワクチンの接種でショック、アナフィラキシー様症状(蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫など)や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などが副作用(副反応)で起ることがあります。ADEM(エイデム)という脳症は、以前の日本脳炎ワクチンでは、200万回接種に1例ほどが発生すると言われていたようです。この確率で言うのならば、2,000万回以上の接種が行われた「新型インフルエンザワクチン」では、ワクチンの種類が違いますが、10例ほどの発生があることになります。

 蚊(コガタアカイエカ)を媒介(ブタ→蚊→ヒトという感染経路)とした重症脳炎である「日本脳炎(Japanese encephalitis)」は、2005年5月から接種を勧奨しないことになって以来(2010年4月1日、勧奨に戻った)、5年以上が経過していることから、再び日本脳炎が流行する(1966年以後、日本の患者数は激減し、近年では数10人以下。アジア各国では患者の多くは15歳以下だが、日本では高齢者に多い)のではないかと懸念されています。

 近年報告された患者の年齢は、65~69歳が最も多く、40歳以上が約85%を占めています。若年では、2006年に熊本県で3歳児、2007年に広島県で19歳の発生、2009年に高知県で1歳児、熊本県で8歳児が報告されています。2010年は8月時点で報告なし。日本脳炎ウイルスは、アジアに広く分布していて、その患者の実数は把握されていませんが、WHOの推計によると世界で数万人が発症し(感染してもその殆どが発症しない(不顕性感染))、このうち20~30%ほどが死亡しているといいます。

 日本脳炎ワクチンは、第1期初回として2回接種を行い、さらに第1期追加を行うことにより基礎免疫ができます。我が子「健人」は、1歳8か月前後に第1期初回の2回接種を受けていますが、第1期追加(第2期)を受けていません。公費での接種が受けられる第2期対象年齢(9歳~12歳)から間もなく外れる我が子は、タイやベトナムなど日本脳炎患者の多く出ている国に旅行に出かけることがあることから、ワクチン接種を急がなければなりません。

 阪大微生物病研究会が製造し、田辺三菱製薬株式会社が販売している「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン(ジェービックV)」は、日本脳炎ウイルス北京株を狂犬病ワクチンの製造用細胞として実績のあるVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)で増殖させ、得られたウイルスを採取し、ホルマリンで不活化した後、硫酸プロタミンで処理し、超遠心法で精製し、安定剤を加え充填した後、凍結乾燥したものだそうです。



 阪大微生物病研究会(「微研」)のいままでの日本脳炎ワクチン「ビケン」は、材料にマウスを使用していたことから、マウス脳由来成分の残存を完全に否定できないということがありました。この問題点を解決したのが、「ジェービックV」で、チメロサール等の保存剤を一切使用していません。微研のインフルエンザHAワクチンは、3種類あり、「ビケンHA」(1ml)では保存剤として「チメロサール」を使用しているのですが、「フルービックHA」(0.5ml)と「フルービックHAシリンジ」(0.5ml)は保存剤を使用していません。

 話が自分の関心事にずれていってしまったので、元に戻します。平成22年8月25日に開催された「平成22年度第1回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」の資料、「推定接種者数及び副反応報告頻度について」に、「ギランバレー症候群(GBS)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の可能性のある副反応報告」があります。

 20歳代の女性の「ワクチン接種の副反応としては否定できない。ギランバレー症候群の可能性あり。」とされたケースです。

 ワクチン接種前…体温36.6℃。新型インフルエンザワクチンと季節性インフルエンザワクチンを同時接種。
 ワクチン接種5日後…起床時より視界のぼやけ感を自覚し、見えにくさと共に持続。
 ワクチン接種10日後…両手首以遠のしびれ感出現。その後、上行し、両肘以遠のしびれ感出現。瞳孔散大、対光反射低下も出現。
 ワクチン接種11日後…しびれが両肘まで上行。受診し、瞳孔散大あり、対光反射低下あり、頸部及び頸椎のMRI異常なし、伝導速度検査にてF波低下より、フィッシャー症候群
(ギランバレー症候群の亜型とされる疾患で、上肢の運動麻痺はないという点でギランバレー症候群と異なる)疑いと診断。メコバラミン(手足の痺れや痛みを伴う末梢性神経障害の治療に広く用いられる)処方。
 ワクチン接種15日後…受診し、瞳孔散大、対光反射は改善、しびれ上行は回復。
 ワクチン接種21日後…フィッシャー症候群疑い軽快。


 糖尿病などの既往症のある70歳代の女性の「副反応としては否定できない。ADEM(急性散在性脳脊髄炎)の可能性を否定できない。」とされたケースです。

 ワクチン接種より前1ヶ月以内…季節性インフルエンザワクチン接種。
 ワクチン接種前…体温35.8℃。
 ワクチン接種3日後…急性散在性脳髄膜炎(ADEM)が出現し、入院。左半身の痙攣発作と意識消失が5分間持続。その後、回復するも、同様の発作が出現。一過性脳虚血発作が出現し、転院。CK値224IU/L。エダラボン、オザグレルナトリウム
(脳虚血症状の改善を図る)を投与。
 ワクチン接種4日及び5日後…5~10秒間の痙攣が出現。ジアゼパムを投与するも、全身痙攣は持続。バルプロ酸ナトリウム、フェニトイン・フェノバルビタールを投与。全身痙攣は持続し、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム
(運動機能障害および感覚機能障害を有する急性脊髄損傷患者の神経機能障害の改善を図る)、リドカインを投与。
 ワクチン接種13日後…痙攣は消失。左片麻痺あり。ステロイドパルス療法の実施、抗痙攣剤の投与にて痙攣発作の間隔延長。
 ワクチン接種14日後…痙攣完全消失。左片麻痺持続。
 ワクチン接種16日後…左片麻痺回復傾向。
 ワクチン接種17日後…左上肢に軽度の麻痺が残る。
 ワクチン接種26日後…左片麻痺は次第に回復。全快し、退院。ADEMは回復。


 先行感染がなく、妊婦健診を受け、妊娠経過は順調であった40歳代の妊婦の「GBS/ADEMとして否定できない」とされたケースです。

 ワクチン接種9日後(妊娠24週6日)…両上肢遠位部の表在感覚低下を認める。
 ワクチン接種10日後…両下肢の脱力が出現し、起立困難となった。
 ワクチン接種11日後…嚥下障害が出現。
 ワクチン接種13日後…両上肢の脱力も出現し入院。四肢遠位筋主体の脱力、感覚障害、四肢反射消失、両側顔面神経麻痺、球麻痺を認め、神経伝導検査では四肢遠位潜時延長、MCV低下、下肢でF波出現頻度低下、髄液検査にて細胞数0mm3, 蛋白135mg/dl、以上よりギランバレー症候群と診断。抗ガングリオシド抗体、ガングリオシド複合体に対する抗体は陰性。
 ワクチン接種14日後…この日よりγグロブリン療法を計3回実施。また、メコバラミン製剤を投与開始した。
 ワクチン接種15日後…呼吸麻痺出現し、人工呼吸器管理となった。
 ワクチン接種45日後…人工換気から離脱し、スピーチカニューレを挿入し、症状改善傾向であり、歩行器使用ではあるが、歩行可能、自力での食事も可能となった。胎児の発育は順調であり、異常も認められていない。主治医は、ワクチン接種とギランバレー症候群との因果関係は否定できないと考えている。


 「脱髄疾患」は、ワクチン接種後すぐに現れるものではなく、この3つのケースだけで言うのならば、3~9日後と言えます。それ以前に現れた類似の症状は、GBSやADEMなどの「脱髄疾患」を否定できるようです。専門家によって、GBSやADEMであることを否定できないとされたケースは、2,000万人を超える接種者のごく少数で、数例です。

 日本脳炎の「感染」で「発症」する場合は、1%を切ります(多くは感染しても発症しない。それゆえ、年齢がいくと感染して免疫を持つ者が増える。日本脳炎発症者の多くが免疫を獲得していない若年層である)が、それでも、我が子には、あと数ヶ月以内に日本脳炎のワクチン接種を受けさせます。このきわめて稀なケースにならないことを祈るばかりです。

 リスクを回避するために新たなリスクを負う、というのは辛いものがありますが、人生というものは、二者択一の問題を解いて行くことでもあるのでしょう。

                  (この項 健人のパパ)

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 厚生労働省の発表によると、11月8日、山形県で、鬱血性心不全(高齢者では、心臓の機能が低下して、全身の組織が必要とする酸素を供給できない状態。臓器に血液などが滞留している)や気管支喘息などの既往症があった80歳代の女性がインフルエンザワクチンの接種後にアナフィラキシーショックで死亡しました。

 女性は11月5日に医療機関でワクチンを接種を受けます。その約1時間半後、腕の外傷治療用に処方された抗生物質を服用します。抗生物質服用後、全身のかゆみが現れ、血圧が低下し測定不能になるなどしたため、救急病院に搬送されます。搬送後間もなくして、死亡が確認されます。

 女性の主治医は「接種との因果関係あり」と報告していますが、外来抗原に対する過剰な免疫応答が原因であるアナフィラキシーショックは服用した抗生物質が原因の可能性もあり、専門家が検証することになるようです。「ショック」とは、血流の低下により酸素や栄養素を全身に輸送するという血液の機能が妨げられ、全身組織が機能不全に陥ることです。

 アナフィラキシーでは、食品や薬物などの外来の抗原に対する過剰な免疫応答が原因で、毛細血管が拡張し、全身性の蕁麻疹が現れ、喉の締め付け感(喉頭浮腫、口蓋垂浮腫)、喘鳴(ぜいめい、ゼーゼーという呼吸)、嗄声(させい、かすれ声)なども出現します。胃腸症状では、下痢、腹痛があることがあります。

 平成22年8月25日に開催された「平成22年度第1回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」の資料、「推定接種者数及び副反応報告頻度について」にアナフィラキシーショックによって重篤化した事例(回復)が掲載されています。40歳代女性がインフルエンザワクチンの接種後にアナフィラキシーを起こします。その経過を見てみます。

 ワクチン接種30分後…痒み出現。
 ワクチン接種1時間後…痒み増強。上半身に皮疹。
 ワクチン接種2時間30分後…皮膚科受診。受診時点で全身に蕁麻疹を認め強い痒みを訴えた。直ちにデキサメタゾンリン酸エステルナトリウム1.65mg点滴静注及びヒドロキシジン塩酸塩25mg静注。
 ワクチン接種3時間後…蕁麻疹やや軽減するも気道症状(呼吸苦)訴える。
 ワクチン接種3時間30分後…皮膚科入院。入院時点で全身に蕁麻疹及び軽度の呼吸苦あり。咳著明。
 ワクチン接種6時間30分後…全身ほてり感あるも蕁麻疹軽減。呼吸苦少し。咳軽減。
 ワクチン接種8時間後…消灯。咳軽度。
 ワクチン接種翌日(ワクチン接種20時間後)…蕁麻疹少し。呼吸苦も少し訴える。咳あり。
 ワクチン接種26時間後…皮疹消失。呼吸苦なし。咳あり。
 ワクチン接種27時間後…退院。咳あり。


 高脂血症、一過性脳虚血発作(Transient Ischemic Attacks、TIA)の既往症のある60歳代女性の事例です。

 ワクチン接種30分後…全身そう痒感と発疹出現。
 ワクチン接種1時間後…生理食塩水500mLで静脈確保ののち、リン酸デキサメタゾンナトリウム注射液2mgを静注。
 ワクチン接種1時間15分後…コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム注射用125mgを点滴静注。
 ワクチン接種3時間…眩暈、立ちくらみ、頭痛。血圧は安定しているものの状態が安定していないことから入院を勧めた。この時に顔面浮腫を認めている。入院時血液検査で、白血球増多(白血球数:11950、
正常値は4000~8000)、核左方移動を認めた。
 ワクチン接種2日後…顔面浮腫残存するも状態安定したため退院となる。
 ワクチン接種6日後…腹痛と下痢を認めた。
 ワクチン接種9日後…下痢がとまらないため、近くの開業医を受診。白血球数:11000
 ワクチン接種11日後…開業医で点滴治療を受けている。
 ワクチン接種13日後…下部消化管症状(腹痛と下痢)は軽快。


 アナフィラキシーは適切で迅速な医療処置が必要ですから、どのような症状で始まり、どのような経過をとるか、インフルエンザワクチンの接種を受けるときには知っておく必要があります。前年度の新型インフルエンザワクチンでは、ワクチンメーカーの微研で8例(対10万接種に対し発生頻度0.3)、北里で4例(NBで3例、NMで1例、発生頻度1.6、0.2)、デンカで10例(0.6)、化血研で33例(SL、0.5)の重篤なアナフィラキシーが報告されています。

             (この項 健人のパパ)

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 平成22年度の新型インフルエンザワクチン接種事業が今年10月1日から来年3月31日までの期間で行われています。平成21年度の新型インフルエンザワクチン接種事業では、一時期、新型インフルエンザに罹ったときに重症になる可能性が高い人などが優先的にワクチンを接種できることになっていましたが、今年度は、優先順位というものはなく、希望すればいつでも接種を受けられます。

 インフルエンザウイルスは、ヒトの体の中に入って、細胞内で増えます(「感染」)。やがて、数日後に熱が出たり、のどが痛くなったりするインフルエンザの症状が現れます(「発症」)。「感染」したら必ず「発症」するわけではなく、症状が出ないまま済んでしまう「不顕性感染」で終わる人もいます。インフルエンザワクチンには、この発症を「ある程度」抑える効果があると言われています。また、発症しても「重症」(肺炎や脳症などの重い合併症が現れる)になることを防ぐのに一定の効果が期待できるとも言われています。

 この説明で行くと、インフルエンザの予防接種は、他の予防接種とは異なり、「感染」を予防するのではなく、「発症」をある程度予防するのであって、少なくとも「重症化」の予防は期待できる、ということになるのでしょうか。

 インフルエンザワクチンの接種で一番の関心事は、副作用(副反応)です。重症化して命を落とすことを防ぐためにワクチン接種を受けて、副作用(副反応)で命を落とすことがあったのでは救われません。しかし、ワクチン接種が死亡原因であるのを完全に否定できない事例があることは事実です。また、ワクチン接種を受けても「発症」する場合が経験的にあることから、その「有効性」を疑う人たちもいます。

 平成21年度の新型インフルエンザワクチン接種事業に基づいて、受託医療機関は国と直接契約を結びました。その際、副反応報告が義務づけられたので、受託医療機関から2,400を超える副反応報告が上がってきました。それを平成22年8月25日に開催された「平成22年度第1回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」の資料「推定接種者数及び副反応報告頻度について」で見てみましょう。平成21年10月から平成22年6月までの副反応報告です。

 国産のインフルエンザワクチンは、熊本県熊本市にある「財団法人化学及血清療法研究所」、埼玉県北本市の「学校法人北里研究所生物製剤研究所」、大阪府吹田市の「財団法人阪大微生物病研究会」、東京都中央区の「デンカ生研株式会社」の4団体が製造しています。



 この中で、化血研(化学及血清療法研究所)の出荷量が一番多く、SL01~SL16というロットの合計で1272万3千回分、SS01~SS09というロットの合計で687万2千回分、その総計でおよそ1960万回分(すべてが使用されたわけではない。4メーカーで推定接種者数は2,133万5千人)になります。この化血研のワクチンが死亡例(ワクチン接種との関連が否定できないもの、総数で133例)の多くを占めます。81例(SLで80例、SSで1例)が報告されています。

 次に、約1150万回分(HP01~HP11)で34例の微研(阪大微生物病研究会)、約514万回分(S1~S14)で16例のデンカ(デンカ生研)、約797万回分(NB001~NB009、NM001~NM004)で2例の北里(北里研究所生物製剤研究所)と続きます(出荷数の4メーカーの総計は約4420万回分だから、推定接種者数の倍が出荷されていたことになる)。

 34例の微研のワクチンの対10万接種あたり死亡例の発生頻度は0.6、2例の北里の発生頻度はNBシリーズで0.1(NMシリーズでは死亡例はない)、16例のデンカは1.0と高く、80例(SLシリーズ)の化血研の0.9より高い(SSシリーズでは1例で0.1)。

 死亡例の発生は、優先接種者への接種が始まった時期に多く、化血研のワクチンではロットがSL01からSL04までに80例のうちの63例が報告されることになります。デンカは10月9日に出荷が開始されたS1とS2で16例のうちの12例を出しています。微研はHP01(10月19日出荷開始)からHP04(11月24日出荷開始)までで34例のうちの31例でした。

 もし、あなたがインフルエンザ感染で重篤化しやすい健康状態で、ワクチン接種が原因と疑われて亡くなるのを避けるのであれば、前シーズンのデータから見れば、「北里」のインフルエンザワクチンを接種してくれる医療機関を探すのもいいのかも知れません。しかし、そこが「かかりつけ医」でないのであれば、あなたの健康状態を詳しく知らないのだから、それなりのリスクがまた生じるかも知れません。

 秋田県北秋田市の医療法人社団博愛会「鷹巣病院」で、A香港型のインフルエンザの集団感染があり、10月31日から11月5日にかけ入院患者の60歳代~90歳代の男女6人(10月31日に80歳代の男性、11月2日に90歳代男性、60歳代男性、70歳代女性の3人、4日に80歳代の女性、5日に80歳代男性)が死亡しました。記者会見で病院側は「(集団感染の要因としては)精神科の閉鎖病棟であることが考えられる。潜伏期間の患者が食堂に集まり、広がった可能性もある」と述べたそうです。病院では、10月29日までにA香港型を含む混合ワクチン(AH3亜型、AH1pdm、B型ビクトリア系統株)を入院患者全員に接種しており、11月2日以降は、感染者の数人にはタミフルを投与したようです。

 全国約5,000の定点医療機関からインフルエンザの報告を集計している国立感染症研究所によると、今年はこの時期としては2000年(平成12年)以降で3番目に多い患者数となっているそうです。2010年第43週(10月25日~10月31日)のインフルエンザ流行レベルを「国立感染症研究所 感染症情報センター」が発表しています(第44週は11月11日に発表されます)。「注意報」は、今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性があるということを意味しています。

 2010年第43週のインフルエンザの定点当たり報告数は0.15(患者報告数728)と2週連続で増加した。都道府県別では北海道(1.06)、沖縄県(1.02)、岐阜県(0.49)、青森県(0.42)、宮崎県(0.36)、宮城県(0.20)、千葉県(0.17)の順となっている。
 警報レベルを超えている保健所地域は認められていないが、注意報レベルのみを超えている保健所地域は第42週に引き続いて北海道において1箇所認められた。
 直近の2010年第38~42週の5週間では、インフルエンザウイルスの検出は、AH3亜型(A香港型)の割合が最も高く、次いでAH1pdm、B型の順である。


 スウェーデンの保健当局は、今年の冬から来年の春にわたって、A香港型(H3N2)のインフルエンザが猛威を振るう恐れがあるので、高齢者や基礎疾患を有している人は、インフルエンザワクチンの接種を急ぐようにと警告しています。ワクチンを接種しても抗体がつくまでには3週間ほどかかるため、高齢者などは早めの接種が望まれるのです。いま、世界各地で最も多く検出されているインフルエンザウイルスはA香港型です。昨年(2009年)に新型(AH1pdm)が流行したため、A香港型の抗体を持っている人が少なくなっていることが理由のようです。

               (この項 健人のパパ)

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