POWERFUL MOMが行く!
多忙な中でも,美味しい物を食べ歩き,料理を工夫し,旅行を楽しむ私の日常を綴ります。
 





 公費負担の対象になる疾患に難病「家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)」があります。「家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia)」は、生まれつき血液中のLDLコレステロールが異常に増えてしまう疾病です。血液中にあるLDLコレステロールは、肝臓の細胞表面にある「LDL受容体(LDLレセプター)」と呼ばれる蛋白によって肝臓の中に取り込まれていきます。

 家族性高コレステロール血症の患者では、LDL受容体の遺伝子やこれを働かせる遺伝子に異常があり、血液中のLDLコレステロールが肝臓に取り込まれないで、血液中に溜まったままになってしまいます。この遺伝子疾患の遺伝子は、「常染色体」上にあり(常染色体性優性遺伝)、性染色体にあるわけではないので、男性にも女性にも起こりえます(同じ遺伝子疾患である「血友病」は、性染色体に疾患を引き起こす遺伝子があるため、血友病患者のほとんどが男性)。

 両親の一方からこの疾患を引き起こす不全の遺伝子を受け継いだ場合を「ヘテロ接合体」と呼び、両親双方から遺伝した重症例を「ホモ接合体」と呼びます。「ヘテロ接合体」は日本では500人に1人ほどなのですが、「ホモ接合体」は100万人に1人ほどと言われます。500×500=250,000(25万)ですから、この不全な遺伝子を持った男女が出会い子をもうける確率からして、「ホモ接合体」の患者は極めて稀有な例となります。

 ヘテロ接合体の患者は、健康な人の50%ほどしかLDL受容体がないのですが、肝臓でのコレステロール合成を低下させ、調整機能のためのLDL受容体を活性化させて、血液中のLDLコレステロールの肝臓への取り込みが促進される「スタチン (Statin)」(「HMG-CoA還元酵素阻害薬」の総称)が創薬されたことで、薬剤による治療が効果を上げることも多いと言います。

 (1)食べ物から摂取するコレステロールの量を減らすよりも、体内のコレステロール合成の阻害が、血中コレステロールをよく下げるはずだ、(2)他の微生物を攻撃する武器としてカビやキノコは抗生物質をつくるが、武器としてコレステロール合成を抑える物質をつくるカビやキノコがいるに違いない という予測を立て、1971年春に4人の小さなグループで研究を始めた遠藤章氏は、6000株という数多くの微生物を調べて、1973年夏に、ミカンや餅に生える青カビの仲間(penicillium citrinum、ペニシリウム・シトリヌム。腎機能障害・腎臓癌を引き起こす毒素「シトリニン(citrinin)」を生成する真菌)から「コンパクチン(compactin)」という物質を分離します。



 1981年8月27日に、金沢大学の「馬淵 宏」氏らは、アメリカの医学雑誌「The New England Journal of Medicine」に、コンパクチン(ML-236B)を7名の家族性高コレステロール血症(ヘテロ接合体)患者に投与し、経過を観察したところ、LDLコレステロールは劇的に低下し、その一方で、HDLコレステロールは低下しなかったことを“Effects of an Inhibitor of 3-Hydroxy-3-Methylglutaryl Coenzyme A Reductase on Serum Lipoproteins and Ubiquinone-10 Levels in Patients with Familial Hypercholesterolemia”として発表します。

 ニューヨークタイムズは、この報告を“New Drug May Prevent Hardening of Arteries”というタイトル(見出し)で記事にします。

 A new drug made from penicillin reduces levels of cholesterol in the blood and may prevent hardening of the arteries, an underlying cause of the heart attacks and strokes that kill 800,000 Americans a year, researchers say.(ペニシリンから作られた新薬は、血液中のコレステロール値を減少させ、年間80万人のアメリカ人が亡くなる心臓発作や脳卒中の根本的な原因である動脈硬化を防ぐことができる、と研究者は述べている。)

 A study shows that the experimental drug compactin is effective in people with an inherited defect that produces high cholesterol levels in the blood and leads to premature heart disease.(研究は、血中コレステロール値を上昇させ、心臓病にかかる年齢を早めてしまう不全な遺伝子を持つ人々に、実験薬「コンパクチン」が効果的であることを示している。)

 The new study was directed by Dr. Hiroshi Mabuchi at Kanazawa University School of Medicine in Japan and was published in the current issue of the New England Journal of Medicine.(この新研究は、日本の金沢大学医学部の馬淵宏博士により主導され、 the New England Journal of Medicineの最新号に掲載された。)(馬渕宏氏は、現在、金沢大学大学院医学研究科脂質研究講座特任教授)



 スタチン系薬剤は、構造中に肝臓でのコレステロール合成の中間生成物である「HMG-CoA」と類似した部分を持つため、律速酵素(rate-limiting enzyme)であるHMG-CoA還元酵素を阻害します。HMG-CoA還元酵素は、HMG-CoAと構造が類似しているスタチン系薬剤を取り込みます。HMG-CoA還元酵素の活性部位にスタチン系薬剤が入り込むと、本来の基質であるHMG-CoAは反応することができず、コレステロールの生合成は阻害されます。

 肝臓でのコレステロール合成が抑制され、肝臓内のコレステロール含量が低下すると、肝臓の調整機能が働き出し、LDL受容体の発現が誘導され、肝細胞膜のLDL受容体が増加しで、外部から肝臓内にコレステロールを取り込もうとします。血液中のコレステロール含有率の高い(コレステロールを50%ほど含む)LDL(Low Density Lipoprotein、低比重リポタンパク)の肝臓への取り込みが促進されます(HDL、IDL、VLDLといったリポタンパクはコレステロールの含量が22~30%程度)。そして、血液中のコレステロールが減少していきます。

 馬渕 宏氏の発表した論文には次のような記述があります。

 Serum cholesterol decreased from 390±9 to 303±8 mg per deciIiter, and serum triglyceride decreased from 137±18 to 87±9 per deciliter. Intermediate-density-lipoprotein(IDL) cholesterol,IDL triglyceride, low-density-lipoprotein(LDL) cholesterol, and LDL triglyceride decreased significantly. However,there were no significant changes in very-low-density-lipoprotein(VLDL) cholesterol and triglyceride or high-density-lipoprotein(HDL) cholesterol.(血清コレステロールは、390±9 mg/dLから303±8 mg/dLに、血清トリグリセリドは、137±18 mg/dLから87±9 mg/dLに減少した。IDLコレステロール、IDLトリグリセリド、LDLコレステロール、LDLトリグリセリドは有意に減少した。しかし、VLDLコレステロール、VLDLトリグリセリド、HDLコレステロールには有意な変化はなかった。)

 その機序についてはまだ理解が進んでいませんが、コレステロールの減少は中性脂肪(トリグリセリド)の減少を伴うもので、同時に増加・減少していくようです。これはコレステロールと中性脂肪を一緒に収納しているリポタンパクというカプセルの数が増減することの結果なのでしょうか。

 このHMG-CoA還元酵素阻害薬であるスタチン系薬剤は、血中のLDLコレステロールを減少させますが、同時に血中の中性脂肪も減少させます。これと同様の働きが「ヘスペリジン」にもあって、血中の中性脂肪を減少させる働きを持つ「ヘスペリジン」は、血中のコレステロールを減少させるのかも知れません。

 長々と「モノグルコシルヘスペリジン」について書いてきましたが、「私のブログは旅行ネタがメインなのに、、、」「こんな難しい話、誰も読んでいないわよ。」「調べる時間があったら、旅行のことにして!」「パソコンの前に座ってばかりいないで、私の話も聞いてよ。」などなど、妻の苦情が累積していくので、家庭の平穏のため、ほとぼりが冷めるまでこの話題での記事はしばらくお休みです。ではまた。

(参考)「トクホって? チュウセイシボウって? モノグルコシルヘスペリジンって?(1)

(参考)特保って? チュウセイシボウって? モノグルコシルヘスペリジンって?(2)

(参考)特保って? 中性脂肪って? モノグルコシルヘスペリジンって?(3)

(参考)「スタイリースパークリング」という飲み物と「モノグルコシルヘスペリジン」

(参考)禁煙? 運動? モノグルコシルヘスペリジン? そしてフラミンガム心臓研究(1)

(参考)禁煙? 運動? モノグルコシルヘスペリジン? そしてフラミンガム心臓研究(2)

(参考)コレステロールには、悪玉も善玉もなく、人体に欠くことができない物質(1)

(参考)コレステロールには、悪玉も善玉もなく、人体に欠くことができない物質(2)

                  (この項 健人のパパ)

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コメント
 
 
 
大満足です。 (化学LOVE)
2016-02-18 08:43:55
いつも体に良いとされる成分を耳にするたびに、どんな化学式を持つどんな構成の物で、体内でどんなふうに働くのか、化学的・医学的に知りたいと思っていました。
今回のモノグルコシルヘスペリジンの話は、そんな私の好奇心をとても満足させてくれました。
調べるのも書き込むのも大変だったと思います。
感動しました。感謝です。
 
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