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文芸月評から影との対決まで~山積みの新聞から3~

抜き書きが好きです。
子どもの頃からで、小説でも、気に入った一節は、汚い字で懸命にノートに書き写していました。
「はみだしっ子」(三原順)まで書き写そうとして、漫画なのに文章が長くて挫折したり、、、

今、読売新聞をとっています。
何年も前、会社の昇任試験のために解説記事が充実していると思って購読を始めましたが、
政治については、かなり体制寄りでいまいちなものの、
二人だけ、いつも楽しみにしている執筆者がいます。

一人は、以前にもご紹介したことがある編集委員の芥川喜好さん。
毎月、月末土曜に「時の余白に」というエッセイ記事を掲載されています。
美術評論者ですが、孤高の画家を取り上げ、気骨ある生き方に魅かれずにはいられません。(詳しくは稿を別にして、紹介させてください)

もう一人が、「文芸月評」等を書かれている文化部記者の待田晋哉さん。

「若い頃の恋愛とは、異性の心を動力として自分の中の深い場所に降り、自分とは何か、人生に何を求めるのかを知るものだ。未熟な者が人間になってゆく長い心の旅を、又吉さんは生硬な青みの残る筆で書き切った。最後の場面で、その道行きをくぐり抜けた者の挽歌として、真心の歌を絶唱しなければならなかった」(又吉直樹「劇場」)

「現実と自分の間が薄いまぶたのような幕で隔てられた画家の話だ。不思議な経験を通してそれらを破り、世界に触れてゆくまでをたどった。
今作の読みどころは、第2部の後半にある。村上さんはよく、人間の魂には「地下2階」の場所があると話す。自分でも操れない心の深い場所にふと誘われ、自己の健全な発展を阻害するものを見つけ、真の自分と出会うこと。その体験を、暗闇があり、川が流れ、不意に湿った土の匂いがする、熱にうなされた時の際限なく続く夢にも似た文章を連ね、言語化した」
(村上春樹「騎士団長殺し」)

「歯ごたえのないスルメをかむかのような展開に、夫婦げんかの絶えないうなぎ屋の逸話が巧みに差し挟まれる。他人から見れば平凡極まりなくとも、どんな人生にも自分だけにしか分からない起伏が確かにある。」(角田光代「うなぎ屋の失踪」)

「生の底板を踏み抜く瞬間。一閃する冷たいエロス」(絲山秋子「始発まで」)

いずれも、時期は異なる「文芸月評」からの抜粋です。
こういう表現は、逆立ちしてもできないと思いながら、どれも未読ですが、
村上春樹は大好きで、でも、読みだすと、すごく心の奥深くまで潜っていく気がして(実際、井戸がよく出てきます)、
熱中して、しばらく出てこれなくなります。
スキーにも似た、雪という別世界にはまりこむ感覚でしょうか。
学生時代に大失恋をスキー合宿で乗り越えた身としては、
「IQ84」も、中古の文庫でやっと先日、全巻買い揃えましたが、
大失恋した時(笑)のために、とってあります。

村上さんの小説についての待田さんの評を読むと、
先日1月21日に亡くなった大好きなアーシュラ・K・ル=グウィンのファンタジー小説「ゲド戦記」『Earthsea』の第1巻「影との戦い」(A Wizard of Earthsea)を思い出さずにはいられません。
私は、ゲドシリーズが大好きで、特に第1巻で、ゲドが失敗を重ねたり、影と戦うシーンが好きで、ゲドの姿に自分を重ねて、自分自身の苦しい時期を乗り越えた気がして、ゲドのことは、他人とは思えないくらいです。

もう一つ、影との対決で、脳裏に浮かぶのは、project-Pさんのインスト曲「moonlight」。
「ダークでクラシカルなダンストラック」とのことですが、
私が、この曲からイメージするのは、大海を突き進む一艘の小舟です。
まさに、ゲドが、小舟で繰り出したのと、イメージを重ねてしまいますが。
少年の目前に広がる、広大な海。
彼方まで続く水平線。
太陽に反射して、きらきら光る波。
つきすすむメロディ。
疾走感にあふれつつ、広大な広がりを感じ、
目標は遠いけれど、前に突き進んでいくエネルギーにあふれていて、
この曲の躍動感にいつも元気と力をもらいます。
ぜひ聴いてみてください。→リンク先BIG UP!で聴けます!

【追記】
村上さん、又吉さんの書評の文芸月評は、現時点で、ネットでも読めましたので、
リンクをはらせていただきます。(いつまで読めるかわかりませんが)
→こちら

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書評 (JNK)
2018-02-10 00:39:40
こんばんは。
私も書評を読むの好きです。
BSで児玉清さんがされていた「週刊ブックレビュー」
も毎週見ていました。
映画評と書評は似て非なるもの、という感じがします。
本屋大賞ができたとき、凄い!と思いましたが、さらに
その進化系(?)の新井賞なるものを知り、紙の文化は
すたれない、と思いました。
湿った土の匂い、熱にうなされた時の際限なく続く夢
にも似た文章!!
 
 
 
JNKさまへ (パラパラ)
2018-02-10 10:57:51
私も書評が好きで、
実家が毎日新聞をとっているので、
毎日新聞の書評欄には、時々、川本三郎さんが書いていたり、かつては堂々3頁も紙面をさいていて、充実ぶりに、荷物のついでに、母に送ってもらってるのです。

しかし、なかなか読めずに積読!!!になっているのですが、最近、やっと食卓を片付けて、
椅子に座って(何年ぶり!!!笑)新聞を読めるようにしたので、
食事しながら、せっせと読みふけっている(読み飛ばしている!?!)ところです。

JNKさんの映画評の香りは、書評の香りですね。
いつもどこかに心に残るフレーズがあって、文学的だなあと思ってたのです。
今、気が付きました。

新井賞、全く知りませんでした!!!!!
今、検索してみたら、すごくおもしろそうな人ですね。
すごい!ありがとうございます!
若い人で、こういうバイタリティがある人、いいですね。
ブログも読んでみたら、テンポよくたたみかけるようなコンパクトな文章で、読みやすいです。
芥川賞と同日で発表してしまうなんて、仕掛け人でもありますね。
私もちょっとのぞいてみようと思います!
 
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