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No1391『東京物語』~「まぁええほうじゃよ」~

相変らずの新聞の整理をしながら、
大好きな映画『東京物語』についての記事が出てきたので、
触発されて。。。

私が高校生の頃から大好きな俳優さんは笠智衆さんだ。
テレビドラマ「ながらえば」(山田太一作)を観て、
「おまえといっしょにおりたい」と病床の老妻に言う姿に
涙をこらえきれなかった。

その笠さんが出ている映画『東京物語』(1953年)に、
最近、何かにつけ、頭の中でリフレインするセリフがある。

尾道から東京まで、蒸気機関車で約15時間かかった時代。
尾道に住む老夫婦が、子どもたちを訪ねて、東京にやってくる。
長男は、東京で町医者をしていると聞いていたが、
訪ねてみれば、家は狭く、泊ってみたものの長居もできない。
長女が営む美容院も同じで、
結局、戦死した次男の嫁の紀子(原節子)に親切にされて。。

笠智衆と東山千栄子演じる老夫婦が、互いに
成人した長男と長女について、昔はもっと優しい子じゃったと、言いあうシーン。

周吉・・・「でも 子供も大きうなると変るもんじゃのう
    志げも子供の時分はもっと優しい子だったじゃにゃァか」
とみ・・・「そうでしたなァ」
周吉・・・「おなごの子ァ嫁にやったらおしまいじゃ」
とみ・・・「幸一も変りやんしたよ あの子ももっと優しい子でしたがのう」
周吉・・・「なかなか親の思うようにァいかんもんじゃ……」
周吉・・・「欲を言や切りァにゃァが まァええほうじゃよ」
とみ・・・「ええほうですとも よっぽどええほうでさ わたしらァ幸せでさあ」
周吉・・・「そうじゃのう…… まァ幸せなほうじゃのう」
とみ・・・「そうでさ 幸せなほうでさ……」

なんだかこのシーンがとても印象に残っていて、
私自身も、何かにつけ、「ええほうじゃ」と思うことにしている。
映画が、互いに言い合うふうになっているから、
まねして、心の中で、自分で自分に問い返してみるのだ。
おまじないみたいなものかもしれないけれど。

この映画についていえば、大好きなシーンばかりで、きりがない。
紀子が、老母の肩をもむシーンもいいし、
熱海の波打ち際や東京の公園を老夫婦が歩くシーンも好きだ。
大好きな俳優さん、女優さんばかりで、
長女役で、かりかりしている杉村春子さんを観ると、私も長女だから、
ああ、きっと、私もおんなじだろうなあと思う。
昔の友人に会い、酔っぱらって帰ってきた笠を見て、
「お父さん」「いやになっちゃうなあ」
と言うのも、すごく実感がこもっていて忘れられない。

そういうおっとりできない杉村春子に共感するからこそ、
老夫婦のやりとりや、原節子とのやりとりに、心がなごむ。

妻を亡くした笠に、隣の主婦(高橋豊子)がかける言葉も「お寂しいこってすなぁ」。
笠さんのうちわと背中が忘れられない。。。

「人間の本当の幸福は平凡な日常の平凡な繰り返しの中に隠されている、というのが小津の信条である。」
「老父と老母と紀子の間で結ばれる相手への思いやりの深さと優しさが、時代と国境を越えて普遍的な共感を呼ぶのである」
(毎日新聞2015.12.19「長部日出雄の映画と私の昭和『東京物語』(1953年)」より)

未見の方は、いつかぜひ、何歳の時でもいいから、いつか人生に一度は観てほしい。
どのエピソードもそれぞれに心に迫ってきて、きっと人生のそれぞれの節目で、忘れがたいものになるでしょう。
人間味あふれる、達観した家族のドラマです。

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