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No352「明治侠客伝 三代目襲名」~にらみあう顔と顔、意地の勝負~

「あ!」思わず声が出ていた。
ここは新世界。おっちゃんたちの世界で、私は異分子だということも忘れていた。
それぐらい、唐突だった。
刺客に刺され、瀕死の重症を負い、絶対安静の嵐寛寿郎が横たわっている姿を
シネスコの画面いっぱいにとらえる。
布団の向こうに並んでいる息子(津川雅彦)や子分たちの会話を長回しで撮る。
そこへ、警察が犯人を捕まえ連れてきたから、確認のため玄関まで出てきてほしい、と子分が告げる。
血気盛んな津川が行こうとすると、
「わしが行く」とやおら嵐が立ち上がったのだ。
その立ち上がり方があんまりいきなりで、予期せぬことだったので、
私は思わず声を上げてしまった。
痛みはともかく、もう意地だけという気負いに圧倒された。

そして、玄関での犯人とのにらみあい。
この犯人、冒頭でいきなり顔がアップになった汐路章が扮し、
気迫ではどちらも負けていない。
にらみあいの勝負。
汐路の視線が、
子分達の向こうに座っている依頼人の大木実の背中に焦点があうのも見事。
お祭り騒ぎの俯瞰ショットから、人ごみの中を急ぐ汐路の足のアップと
冒頭から、いきなり息を飲む展開で、さすが加藤泰監督だなあと圧倒された。

藤純子が鶴田浩二に礼を言うシーンもすばらしい。
いきなり彼女の足元、下駄をはいた素足がアップでうつり、
彼女の立っている川べりの道がぐっと画面奥に伸び、
その先にかかっている橋のシルエットまで見える、
これを一つの画面におさめてしまうとは・・。
この奥行きの深い画面、夕焼けで、なんとも美しい。

鶴田を慕う客人のやくざを演じる藤山寛美も泣かせる。
敵の罠にはまり、津川だけでも助けようと
自分は切られまくって、後に一人倒れたところが座卓の上。
画面に映っているのは彼一人。
座卓からごとっと床の上に落ちる、その凄さ。怖さ。

最後は、まるでスパイダーマンのように、鶴田浩二が走る電車の車両の上に
顔を出し、電車の上から敵の家へとびうつって、かたきを討つ。

鶴田の最初の「ぼん、しゃきっといきなはれ」のセリフも粋で
もうみどころ満載。
上映があれば、何度でも新世界に行ってしまいたくなるような作品。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
オッ、観に行きましたか。 (ライリー警部)
2008-06-02 17:53:27
あれ、草履でした?下駄だったように思うのですが。音の記憶が。
 
 
 
わ、わ、わ、ごめんなさい (なるたき)
2008-06-03 02:28:31
ご指摘、ありがとうございます。
下駄でした。うーん、反省。
さっそく修正します。
音の記憶まであるとは、さすがですね。
Riley警部さんが「映画の紙礫」に書いておられた「何でうちみたいな女に親切にしてくれはったんです?」のセリフはこれだったんだと、発見し、感慨深かったです。
 
 
 
いえいえ (ライリー警部)
2008-06-03 10:40:01
締め切りを過ぎていたので書き上げることだけに専念して、DVDで確認をするとかしなかったものですから、えらい間違いをしたかとゾ~としたんです、これを読みまして。台詞については何故か間違いないという自信はありますが(未だに確認せず・・・)。
 
 
 
すごい記憶力ですね (なるたき)
2008-06-05 01:04:52
記憶力だけで、あそこまで細かく書けるとは、さすがですね。私の場合2、3回は観ないと覚えられないような。
でも、大好きなシーンなら、2回観れば、細かく覚えられるのかもしれませんね。(ただ、私の場合、やっぱり勝手に自己流の脚色を加えたりして・・でも、それもまた、映画の記憶の一つですよね。
記憶に長く残る言葉ほど、いい表現だと、誰かがラジオで言ってました。
 
 
 
いえいえ何回も観た結果でして。 (ライリー警部)
2008-06-05 13:20:12
自己流の脚色!黒澤明の『恋と馬鈴薯』!!!
 
 
 
記憶の中で変わりゆくさまも、また楽し (なるたき)
2008-06-05 23:58:41
『恋と馬鈴薯』の月夜と、黒澤の『素晴らしき日曜日』の人気のない公園(?)で落ち葉が木枯らしに飛ばされていく感じが、ちょっと似てなくもないなあと思ったり・・
 
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