日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ソニーの凋落に思う“身の丈経営”の大切さ

2012-02-06 | 経営
平井新社長発表に伴いソニーの立て直し策をテーマにした報道やエントリーが多数出ているので、私も思うところを記しておきます。

ソニーの凋落は、出井時代の事業部門ごとの収益性向上を狙ったプロフィットセンター化の徹底による拡大国際化路線にこそその原因があったと思います。開発型企業がサービス業的部門収益管理を徹底することで、収益競争意識は高まりつつも組織一体での技術、製品開発は疎かになってしまう。まさしく、ハード、ソフト、サービスの一体化は望むべくもなく、アップルに大きく水を開けられた携帯音楽プレーヤーやタブレット端末の分野はその典型例です。ただちょっと待ってください。出井氏が舵を切った拡大路線に従って、そもそもその後ソニーがアップルのような戦略的な頭をもって企業を前に進ませるようなことができたのであろうかという点。それはCEOがストリンガー氏であろうがなかろうが、無理だったのではないかと思えるのです。

ソニーは町工場から生まれた技術開発型の企業であり、言ってみればもっとも日本的な企業でもあったわけです。その日本的な企業が、90年代に出井CEOの下、米国型の国際企業に形を変えるべく組織改革をリードされ、結果として“技術のソニー”はどこかに置き去られる形になってしまった。技術的低迷の責任を取る形で後任にトップの座を譲った出井氏は、それでもなお国際企業化路線を進めるべく、米国人経営者のストリンガー氏を後継に指名します。「マネジメント:ストリンガー」+「技術:中鉢」の二頭体制でのスタートは、恐らく出井氏の自己の“技術オンチ”の反省に立った苦肉の対応策であったのかもしれません。しかしながら米国人と日本人、エンタメ畑と技術畑、あまりに異なるバックボーンの二頭体制は日本的技術系企業内における国民性の違いや育った畑の違いがいかんともしがたく、その成果を見出せずにストリンガー氏は中鉢氏を“勇退”に追い込み“技術オンチ”の自身に実権を集中させるという、端で見る限りは「出井氏と同じ轍を踏んだな」と思わせることになるのです。

アップルの成功はひとえに、スティーブ・ジョブズという稀代の天才経営者がいたという点に尽きるでしょう。彼は技術知識、マーケティングセンスに加えてアーティステックな感性までもを持ちあわせた、驚異的な存在でありました。彼がいたから家電とITの融合は予想をはるかに超える速度で進展した。そのことがまた、不調のエレキ部門を抱えながら同じ路線を目指していたソニーの悲劇でもあったのでしょう。しかしソニーに、いや日本の企業にジョブズ氏のような経営者が輩出されることを望むのは酷すぎるのです。すなわち出井氏が目指したのであろう、「技術+マーケ+αで革新的なものを生み出す国際企業」は、実は日本では輩出せざるジョブズ氏のような天才プロデューサー兼経営者がいてはじめて成り立つものではないのでしょうか。出井氏はアップルの後塵を拝しつつ、米国にそれができる経営者を求めストリンガー氏にそれを託したのかもしれません。しかし結果は散々なものでした。

日本的技術系企業ソニーは病巣を抱えつつ行き過ぎた多角的国際化戦略進行の結果、もはや誰もこの組織を正しい方向へ導くことができないところに来てしまっているように思えます。具体的には、我が国の家電業界が共通に抱える“テレビ問題”と同時に、ソニー独自の組織運営の問題を抱えてしまっているわけで、平井新社長の船出は大変厳しいものであると言わざるを得ないでしょう。そのような中でソニーはいかに復活への道を歩むべきなのか。ソニーに関連する前回のエントリーで、私は「平井氏のコミュニケーション能力に期待する」と申し上げましたが、ソニーを復活の道へ進ませるためには、その前提として「日本的技術系企業ソニーへの回帰」が不可欠であろうと思っています。言いかえればそれは“出井以前”への回帰であり、これはマネジメントのダウンサイジングとも言える、かなり勇気を要する舵とりであろうと思われます。

思いっきり背伸びをしすぎた“出井時代”。その背伸びに無理が生じてアキレスけんを痛めたストリンガー時代。日本の経営者の水準にとっては行き過ぎた領域に向かって走り出し失速をしつつあるソニーをまずは、適正水準に戻すこと。平井氏に期待されるのは、従来の“背伸び経営”路線を見直しし“身の丈経営”へ回帰することではないかと思うのです。ソニーが立ち返るべき「原点」は、出井時代の“多角的国際化路線”の「原点」ではなく、町工場から発展を続けた創業の精神に裏打ちされた「原点」であるはずです。本当のソニーイズムはその場所こそ存在するのではないでしょうか。“身の丈経営”への回帰。今ソニーがおかれた状況は、中小企業経営者にとっても示唆に富んだものであると思えます。