日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ソニー取締役会の英断に拍手

2012-02-02 | 経営
ソニー次期社長に平井一夫副社長の就任が正式に発表されました。驚きだったのは、当初伝えられていた、ストリンガー現CEOが会長兼CEOで残る案ではなく、取締役会議長に退き平井氏を社長兼CEOとして全権を集中させるという人事に中身が変更されていた点です。そのあたりの経緯は本日の日経新聞にも詳しく掲載されていますが、委員会設置会社のトップ人事を巡る取締役会、特に指名委員会のガバナンス機能を考える際の企業のあるべき形のひとつとして称賛に値するものではないか感じています。

当初、ストリンガー氏は引き続きCEOを兼務することで自身の責任において平井氏との二頭体制を組み、経営の立て直しに当たる考えを示していたと聞きます。しかし委員会設置会社において役員人事を司る取締役会指名委員会は、4期連続赤字が確実視される同CEOの業績責任を重く見て、ストリンガー続投に疑問符を投げかけたようです(非技術系の二人がトップに立つリスクも懸念されたのではないかと思われます)。委員会設置会社はそのガバナンス機能をより確かなものにするために、各員会を構成する取締役の過半を社外取締役にすることを義務付けています。ソニーは15人の取締役のうち社内はストリンガー氏と前社長の中鉢氏の2名のみ。大半が社外取締役であり、トップ交代に関する彼らの判断が注目されると前回のソニー関連エントリー(http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/e/bb743d6fcffda762d54ccc128aca10d1)でも述べさせていただいたところでありますが、十分にガバナンス機能を発揮した結果となりました。

本来、会社法上で代表取締役は取締役会の下に位置するのですが、日本的組織管理ではたいていそれが逆になり、代表取締役の意向を取締役会が追認する形をとることで、ガバナンスを危うくし誤った方向に企業を導く原因になってもいます。トップがらみの企業不祥事は、たいていこの点がネックになって起きてもいます。ソニーのような大企業ではたくさんの情報がメディアを通じて流されますし、株主の人たちにも「ストリンガー氏続投でいいのか」という目で事態の展開を見守っていた人が多くいたのではないかと思っています。その意味では、現段階での取締役会の判断として、大変思慮深い決断がなされたと言っていいのではないでしょうか。昨日のエントリーにからめて言えば、東電も相撲協会もぜひ見習うべきガバナンスのあり様であるといったところでしょうか。

ここからは至って個人的な感想を。思えば、ストリンガー氏は前CEOの出井伸之氏の推薦により後任を任された人物です。出井氏は、技術畑出身でないがためにイメージ戦略先行路線の経営である意味、技術のソニーの“失われた10年”を作ってきた経営者であります(もちろん、ブランド価値の向上等においては成果を上げており、経営者として無能であったと断じるつもりはありません)。ストリンガー氏はそんな出井時代最後のソニー・イメージ戦略仕上げ策として投じられた、国際企業イメージ醸成狙いの外国人経営者起用ではなかったかとも思わされました。確かにストリンガー時代は、リーマンショック等不幸な時期ではあったものの、やはり生え抜きでないハリウッド映画ビジネス出身の米国人という部分がソニーのトップとしては荷が重かったのではないかと思わされもします。生え抜き平井氏へのバトンタッチで、“出井黒魔術”はようやく終焉を迎えるのかなと期待されることろです。

平井氏について、前回エントリー以降いろいろ人物像が明らかになってきました。今回のトップ交代で何といっても一番のソニーらしさを感じさせるのは、年功制を全く無視した思い切った若返りです。前回も申し上げましたが、この若返りパワーによるソニーの再生は大いに期待されるところです。さらに本日の日経新聞の人物評で、もっとも目を引いたのは「事業アイデアをグループ内から広く吸い上げる対話型に経営スタイル」という人物評。これは私が常々申し上げている「経営者の開物力」そのものであり、技術者でない弱みを包み隠すことなく、コミュニケーション能力でカバーするということができうる人物であると受け取りました(出井氏も同じコミュニケーション能力に長けた経営者でしたが、主に外へのコミュニケーションにパワーが割かれた点が組織にとって不幸であったとも言えると思います)。

一点だけ心配な点。平井氏を推薦したのは当然ストリンガー氏であり、もちろんゲーム事業を立て直した手腕を買っての抜擢ではありますが、ネイティブレベルの英語能力がありコミュニケーションが他の役員に比べて取りやすかったという点が多少なりともありはしなかったか、という懸念。要するにマネジメント能力評価が語学力に上塗りされて実力以上のものになってはいなかったかということです。ただ、これは今言っても仕方ない。まずは、平井新社長のコミュニケーション力を背景にしたフレッシュさあふれるマネジメントに期待したいところです。前回エントリー記載時は、期待と不安が「5:5」といった感じでしたが、ストリンガー氏勇退と平井氏の手腕の背景となりうるコミュニケーション力に期待して、現時点では「8:2」に修正させていただきます。同世代の音源業界出身のやわらか頭に期待です。