日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

売れ筋ブックレビュー~「あなたの会社は部長がつぶす/山田修」

2010-03-24 | ブックレビュー
★「あなたの会社は部長がつぶす!/山田修(フォレスト出版1400円)」

売れているようです。アマゾンのビジネス書で1位を続けていたようですから、かなりな売れ行きですね。この出版社は毎度毎度ですが、“売れる”タイトルのつけ方がうまいですね。本書や「会社にお金が残らない本当の理由」のようにかなりショッキングなタイトルで目を引いたり、「社長のベンツはなぜ4ドアか?」の如くビジネス書なのに誰もが聞いてみたくなるような食いつきのよい問いかけ型タイトルにしてみたりと、いつも感心させられます。特にネットで本を購入する時代になって、書店ならばタイトルに惹かれても中身をパラパラ読んで「な~んだ」となれば買わない本でも、ネットだとタイトルがおもしろそうだと中身を見ることなく買ってしまうので、時としてとんでもないベストセラーが生まれたりするのです。先の「社長のベンツ…」などはまさしくその典型的な例で、買ってビックリ恐ろしく中身の薄い本でした。

さて本書、タイトルのショッキング加減とは裏腹に中で著者が言っている基本思想は至ってオーソドックス。経営資源の中で「ヒト」を何よりも大切にすること、組織の問題はすべてコミュニケーションに解決策があること等々、少し気の利いた組織論的ビジネス書には必ず出てくるお話がメインで書かれております。まぁこの辺は、1949年生まれの実業界での経験豊富な筆者らしい切り口であり、個人的にも共感できる部分であります。しかしながら読み進めていくうちに、方法論として「おや?変だぞ」と思しき点にいくつかぶちあたります。

それは、「ヒトを大切に」と言いながら「ヒト」の扱いに関してはかなりドラスチックな考え方を展開している箇所にあります。すなわち、著者が言うところの「ヒトを大切に」する考えは、「組織にとって大切な」という観点で考えていることであり、「大切に育てる」ということではないのです。それは曰く「痛みを伴わない改革はない」との考え方の根底にある「要らない人材はそれなりの金を払ってすべて切れ」という部分に如実であり(本人が言うことろの「鬼手仏心」だそうです。とんでもない!)、自身の経験談としても社長着任後早々に6人いた幹部を5人切った話をしています。果たしてこのような考え方が、日本の中小企業に通用するでしょうか?本書は表紙に「中小企業向け」とあるのですが(著者が本文でも胸を張って明言してもいます)、いささか疑問に感じざるを得ませんでした。

組織に有害な人材を“切る”ことがいけないことであるとは申し上げませんし、そのつど「ヒト」の入れ替えを視野に入れながら企業経営をしていくことは大切なことであるとは思います。しかしながら、「幹部6人中5人を切った」「毎年下5~10%を切って入れ替えろ」と自慢話よろしくドラスチックな考え方で人材を扱うことを吹聴する姿勢には同意できかねます。コンサルタントにとって「ヒト」を入れ替えて業績を上げたことなど何の実績にもならない話であり、むしろ氏の職業コンサルタントとしての基本姿勢が疑われる発言ではないかと思うのです。「ヒトを入れ替える」ことをで組織の問題解決をはかるのならコンサルティングは不要であり、著者の考え方には同業の末席を汚す私としても首をかしげざるを得ません。コンサルティングはもっともっと血の通ったものであるべきなのではないでしょうか。

それともう一点、人材活用における人材区分けマトリクスの2軸を「よく働くか否か」と「頭が良いか否か」で取っている点も合意しかねます。「よく働くか否か」は現状の仕事の与え方や環境によっても違うわけで短絡的な判断で活用すべき指標ではありません。「頭が良いか否か」に至っては言語道断。著者は相当頭のよろしい方なのでしょうが、そんな見方で部下を率いる経営者に本当に長きにわたって部下がついていくのか、いささか疑問視せざるを得ないと思います。「良く働かない部下をいかに働かせるか」「頭のよしあしでなく適所をいかに見つけてやるか」こそが、限られた資金と人材の下で苦労する日本の中小企業経営者のあるべき姿ではないでしょうか。このあたりを考えるに、恐らくは著者の経歴的にみて外資系企業での社長を歴任されており、外資系特有のドラスチックで個人主義的な考え方が全面的に出ているのではないかと思われ残念です。

「コミュニケーションを大切にする」という部分はともかくとして、こと「ヒト」の扱いに関しては、およそ日本の典型的中小企業には受け入れられにくいお話ではないかと思います。この著者の考え方がストレートに受け入れられ役に立つ企業は、外資系または新興のIT企業等に限定されるのではないでしょうか。少なくとも私がお手伝いしてる中小企業の社長方には鵜呑みにして欲しくない内容でありました。10点満点で5点(気持ちは「4点=赤点」です)。