日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ82~覚せい剤逮捕の事務所対応に思う「危機管理」のあり方

2010-03-10 | 経営
J-WALKのリーダーでボーカルの中村耕一(59)が覚せい剤不法所持の容疑で逮捕されたそうです。この手の事件発生時には必ず言っていますが、「バカ」の一言です。59歳にもなってなんだこの有様はという感じですね。

本人は論外、もう何も言う気にもならないのですが、所属事務所の対応に関してはこの手の事件の対応としては珍しくすばやくかつ適切な対応であったと思いました。中村容疑者逮捕の当日、事務所社長が所属レコード会社社長を伴っての謝罪会見を開き、所属アーティストに対する管理責任の所在を明確に認めました。これは実はけっこうできていないことで、今までこの手の事件では会見は、すぐにやらない、トップが出てこない、まったく無視等々、いろいろ改善すべき問題点が散見されていたのです。その最たるものが、ジャニーズ事務所です。

元光GENJIの赤坂晃被告が07年に覚せい剤不法所持で逮捕された際に、所属事務所のジャニーズは「赤坂とは契約解除をしましたので、当事務所とは一切関係ありません」の一言コメントでチョン。それをまたそれ以上追及できなかったマスメディアも情けないのですが、とんでもなく無責任極まりない思い上がり対応だった訳です。昨年の酒井法子被告の失踪→逮捕の際にも、本人身柄拘束時に所属のサン・ミュージック側が即座に社長会見をせず、マスメディアに叩かれ翌日会見したという“事件”もありました(ジャニーズは叩かず、サン・ミュージックは叩くと言う、小沢一郎を畏怖するのと同様のマスコミの“強いモノ”に対する腰が引けた対応にも大きな問題があると思いますが…)。

全く責任回避のジャニーズ、シラっとやり過ごそうとして失敗したサン・ミュージック、叩かれる前にトップ謝罪を決断した今回の中村容疑者の所属事務所、この3社の対応の大きな違いは何かですが、一言で言って「危機感」の違いであると思います。ジャニーズは「やれるものならやってみろ。うちを叩いたメディアにはうちのタレントは絶対出さないからな!」という暗黙の圧力がかかると認識したうえで、その“思い上がり”が企業としての「危機感」を希薄にさせ誤った行動をさせた訳です。結局自らの過ちへの“気づき”に至らなかったツケは、いずれもっと大きな形になって必ず返ってくると確信しています。リスク管理を甘く見たシッペ返しは必ずあるハズです。サン・ミュージックは売れっ子を多数抱える若干の思い上がりがあったものの、マスメディアの批判を受けて“気づき”を与えられ“更生”した訳です。

そして今回の事務所。名前も知らないほどの弱小事務所で、J-WALKのメンバーの親族が経営していたという話ですから、恐らく彼らなしでは企業として成り立たない状況なのではないでしょうか。その意味では、企業の存続にかかわるほどの「危機感」をつのらせたことは確実であり、悲壮とも言える社長の謝罪と契約解除をせず「何とか更生させたい。今は待っているつもりです」と“情け”をかける意向に対して、マスコミ各社にもその「危機感」溢れるモノ言いに一定の理解を示し、事務所の対応に対して批判的な取り上げ記事はほとんど見受けられませんでした。

結果契約を解除しない今回の対応が良いのか否かは分からない部分もありますが、危機対応として当事者がしかるべき「危機感」に基づく誠意を持って事に対応することで、周囲から一定の理解が得られるのだというということは改めて印象付けられました。不祥事対応において企業が持つべきは、何と言っても当事者としてのしかるべき「危機感」であり、企業を不祥事に起因する信用リスクから守るのもこの「危機感」の有無に他ならないのです。中小企業でも同じことであり、マスメディアに取り上げられるような不祥事ではなくとも、クレーム対応一つに対しても当事者としての「危機感」をもって誠意ある対応をするか否かが、顧客の信用を強くするか否かの分岐点でありその後のビジネス展開に大きな影響を及ぼすと思うのです。

不祥事対応の危機管理は大企業特有の問題と思われがちな部分がありますが、実は中小企業においてもクレーム対応等における危機管理意識の有無はその企業の将来性に大きな影響を及ぼしているのです。常にステークホルダーに対して「危機感」を持ってその反応を受け止めること、何か事が起きた時にはまずもって当事者意識を持って誠意ある対応を心がけること、それを徹底することが周囲の理解を得、企業価値を高めていくことにつながるのです。今回の芸能界覚せい剤汚染事件、とりあげるまでもないくだらない事件ではありましたが、当事者としての事務所の対応にそんなことを考えさせられた次第です。