日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

音楽夜話~本場米国発これぞアルバム・ガイド・ブック

2009-06-20 | 洋楽
★「500 GREATEST ALBUMS OF ALL TIME(インフォレスト2940円)」 

米雑誌「ローリング・ストーン」による、ロック誕生以降のアルバム・ガイドです。

もともと2003年12月11日号の同誌で特集された同名企画がムック版として発刊され、その日本語版がこのたびリリースされたという次第です。編集部のはじめのコメントにあるように、まさに「究極のロック・レコード・ガイド」。選者は、「専門家と真の音楽ファン」と評される273人。ファッツ・ドミノ、ジャクソン・ブラウン、ピート・シガーなどの超一流ミュージシャンをはじめ、プロデューサー、マネージャー、レコード会社重役、研究家、批評家等々、錚々たるメンバーです。一人が50枚のアルバムを順位をつけて選出し、その合計を点数化して1位から500位まで順番に並べて紹介しています。

統一の選出基準は定めず、当時の存在感、現在価値、自身への影響の度合等々、各選者の基準で50枚ずつのべ13650枚が選ばれ、その集計結果の上位500枚を掲載。すなわちこれは、私が問題視する少数主観の集合体的「名盤選」ではなく、まさに「GREATEST ALBUMS」、本書で言うことろの「過去を救い、現在を刺激し、未来を決めるアルバムたち」なのです。なのに日本語版のタイトルは「名盤ディスク・ガイド500」と、至って主観的な「名盤」という言葉を使って安直に翻訳。日本語版編集者のセンスを疑います。原タイトルや副題に日本語の「名盤」にあたる「MASTERPIECE」なる言葉は一切ありません。「名盤」という言葉を使用したことは、ローリング・ストーン誌の企画の趣旨が曲がって伝わりかねないという点で非常に遺憾に思うのです。

ですからあえて言っておきたいことは、本書は「こんなアルバム知ってんだぞ」的“したり顔”の音楽評論家たちが選出する「名盤企画」とは明らかに一線を画するものであるということです。コンサルティング的言い方をすれば、多岐の職業にわたる音楽専門家273人の選定集団を組成し、主観の大集合体を形成することで一定の客観性を確保、選ばれた約3000枚弱のアルバムの中から「より多くの選者が価値を認めた500枚」が選出された訳です。巷を乱舞する“評論家センセ”たちによる少数主観集合体的「アルバム選」とは、明らかに類の違うものであります。これだけ綿密に作られた書籍が、その十分な企画意図が伝わらずに「名盤ガイド」の名で書店の棚に並んでしまうことは、買い手にも誤解を生じさせかねないと懸念する次第です。

さて、肝心の中身ですが、これは本当に素晴らしい。何といってもある程度の客観性を確保され選ばれた500枚故、日本の“評論家センセ”が毛嫌いする売れすぎたアルバム、ポピュラーすぎるアルバムもちゃんとランクインして、まさにロック50年の歴史を曲った価値観で歪めることなくキッチリと伝えてくれていると思います。本書内にも記載がありますが、ビートルズ、ディラン、ストーンズ、フー、スプリングスティーンの作品が全体の1割を占めているということですが、この事実は彼らの50年のロック史に果たした役割の大きさが、ごくごく自然な形で現れたということの証でしょう(スプリングスティーンに関しては、やや米国人の国民性が強く出た感が否めませんが…)。

装丁、デザイン・レイアウトも本当にグレイト!まず1ページ1ページに使われたくすんだイエローの紙質が最高です。さらに、その紙質を活かすべく文字数を極力落として贅沢なつくりにしたレイアウトがまたさすがのセンスです。各アルバムに添えられた控え目とも思われるコメントも、散文的で実にアートなムード。他ではまずあり得ないこういった心づかいがトータルで醸し出す“一流”の風格は、やはりロックの歴史をリアルタイムで把握し続けている「ローリング・ストーン」誌であればこそなのです。

すべての音楽ファン必読の一冊。“名盤選“としてでなく、米国発の“真のロック・ガイドブック”として、ぜひ書店で手にとって見て欲しい書籍です。