日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

石川県発“子供に携帯を持たせるな条例”は果たして正しいか?

2009-06-29 | ニュース雑感
小中学生に携帯電話を持たせないよう保護者に努力義務を課した石川県の「子ども総合条例」の改正案が、29日開催の県議会で賛成多数で可決されたそうです。

本件は同県自民党会派の独自提案だそうで、同党県連政務調査会長の下沢県議は「携帯電話は、社会的に未熟な小中学生の犯罪やいじめの温床になる。校内で使用を禁止しても家で手にできるのでは意味がなく、親の意識改革が必要」と話しています。そもそも本件は、石川県で昨年県内で携帯サイトの掲示板への書き込みをめぐる高校生同士の殺人未遂事件が発生したことが発端で、青少年の健全育成を目的として法制化済みの同条例に今回の携帯不所持努力目標を新たに加えた形です。

今回の条例改正、罰則規定はないとは言いながら携帯トラブル対策として正しいのか、個人的にはいささか疑問に感じております。県は「憲法の知る権利や財産権に抵触するおそれがあり、携帯電話販売店からの損害賠償請求もありうる」との観点から自民案と距離を置いているそうですが、もっと根本的問題として「危ない部分があるものはすべて子供たちから遠ざけるべき」的なやり方自体がどうなのか、と思うのです。

例えば麻薬のような明らかに有害かつ危険で、何の得もないものを遠ざけるのは分かります。しかし携帯電話は今や一番身近なIT機器であり、情報活用の観点からも小中学生の時代から情報機器に慣れ、その正しい活用法を身につけさせることこそ本来あるべき教育ではないのでしょうか。未成年の誤った携帯電話の使い方が事件やトラブルを引き起こしているのであるのなら、対策や再発防止策としては使い方そのものの教育や根本的なモラル教育にこそ力を入れるべきであり、携帯を持たせないという措置はあまりに安直な考えで教育の放棄であると言ってもいいと思います。コンサルティング的に言っても、「逃げは決して問題解決にあらず」であるのです。

本件に関しては先に述べた県の消極姿勢に加え、子供の携帯電話やインターネット利用に関する学術研究と教育実践を目的として設立された「ネット安全モラル学会」からも22日に、石川県県議会議長宛陳情書が送付されています。内容は「携帯電話は今日の高度情報通信社会においてすべての国民にとって暮らしを豊かにする道具として必要不可欠のものであり、すでに生活の一部として溶け込んでいる。パソコンやインターネットに関する学校教育を逐次充実させるという教育改革の方向と逆行していおり同案の否決すべき」というものです。このような状況を勘案すれば、パブリック・コメントの実施等もっと慎重に審議を重ねるべき問題であったことは明らかであり、強行採決した自民党県連のやり方には大きな疑問符が付くのです。

本件は、単に携帯電話を子供に持たせることの是非にとどまらず、教育のあり方に関わる根本的かつ大変重要な問題をはらんでいると思います。マスメディアには、単に石川県の問題として片付けることなく、全国的な世論をとりまとめることで問題の本質にかかわる議論を展開させ、正しい方向づけに至らせることを期待します。