アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

慰霊施設へ集約した遺骨もすべてのアイヌの皆さんもDNA検査をするということ?

2018-10-06 18:57:52 | 日記

新ひだか(旧静内)町遺骨返還訴訟の報告です。この裁判についての説明は過去ブログを参照ください。

昨日の10月5日に公判がありました。先方被告側の補助参加人(新ひだかアイヌ協会)が、こちら(原告:コタンの会)の求釈明に対し、回答を出して来ました。

こちら(原告:コタンの会)は前回、遺伝子を調べて遺骨を祭祀承継者に返還することは不可能だと主張しました(前回の裁判報告2018/06/26記事参照)。それに対し、今回、被告補助参加人(新ひだかアイヌ協会)は、斎藤成也氏(国立遺伝学研究所教授)の文章を証拠品として提出し、「現在においては、数世代離れた親族関係を推定することが理論的には可能となっており、さらに近い将来には、より離れた親族関係の推定も可能となると推測している」と回答してきました。

結論から言うと、こちら(原告:コタンの会)からは、被告に対して再度、求釈明(説明を求める)文書を出しました。内容は、遺伝子によって仮に「親族」ないし「遺骨の子孫」が解明されたとしても、さらにそれらの人々が「祭祀承継者」であることをどのように判定するのかを明らかにしなさいというものです。

繰り返しになりますが、前回の公判(2018/06/26記事参照)でも指摘したところを先方は無視しているのです。その部分を少し長いですが、あえて再掲載します。

引用始め****

3. 祭祀承継者というのは法的な概念(科学的に断定できるものではない)

仮に遺骨のDNA鑑定によって現在の特定人と遺骨とが血縁関係にあることが判ったとしても、それだけではその特定人が祭祀承継者か否かはわからない。祭祀承継者を明らかにするためにはまず戸籍が明らかであること、次に家督相続人が明らかかであるか(戦前の遺骨の場合)、慣習ないし相続人間の協議内容の確定(戦後)がない限り、祭祀承継者の特定は法的には不可能。しかも、その遺骨の死亡時から数世代が経過している以上、その間の相続関係(戸主の変遷(戦前)、相続人間の協議等(戦後))も明らかにされなければ現在における遺骨の祭祀承継者は確定できないことも明らかであり、これは不可能。

****引用終わり。

 

さて、斎藤成也氏(国立遺伝学研究所教授)の文章ですが、一読して感じたのは極めて一方的な専門分野からの報告で、被告側の主張に対し、まったく的外れでした。もちろん、被告側の証人ですからそうなるのでしょうが、この違和感は、先日、コタンの会らが国立科学博物館と山梨大学宛に出した質問書の回答を読んだ際にも感じられたものでした。この件に関しては後日、詳しく書こうと思いますが、そのやりとりはこちら

(質問 http://hmjk.world.coocan.jp/sapporoikadaigaku/questions20180514.html

(回 答 http://hmjk.world.coocan.jp/sapporoikadaigaku/kahaku_reply20180729.pdf

(再質問 http://hmjk.world.coocan.jp/sapporoikadaigaku/questions20181001.html

を参考にしてください。

原告のコタンの会らが、遺伝子研究のために遺骨を損傷したことは先祖への冒涜であり、人間の命の尊厳を無視した研究倫理上、大きな問題であると責任追及した際、この回答(国立科学博物館も山梨大学も全く同じものが送られて来ました)には、分析には損傷は必要なんだということと「貴団体がかんがえておられる「損傷」の程度はわかりませんが、私たち研究者もむやみに遺骨を損傷しようとしているわけではありません」と述べるのです。「損傷」すること自体を批判されているにも関わらず、「むやみに損傷しようとしているわけではない」とは、全く噛み合わない回答です。

 

この度の斎藤文書もDNA研究が「爆発的に加速し」、「(解析の)コストの劇的な下落」もあり、「この分野の基礎研究や応用研究を加速している」と、自ら行なっている研究に関して絶賛しています(まるで宣伝トーク)。が、しかし、とても大切なことが抜け落ちています。この裁判で原告側の主張は、遺骨を傷つけることなく直ちに返還し再埋葬したいという願いです。遺骨収集過程の問題はもちろんのこと、地元コタンに対する反省や謝罪もなく、さらに再度、研究材料として用いることへの説明と同意(インフォームド・コンセント)なくして、いくら研究の効果を述べても、全く響きません。

以前にも書きましたが、昨年に日本考古学会・日本人類学会・北海道アイヌ協会の三者が共同で作成した「これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル最終報告書」(概要はこちら。最終報告書全文はこちら)には、従来の研究はアイヌ民族の声を聞いてこなかったし、遺骨等の収集に関しては十分な説明と同意の取得がなされなかったとし、「研究者は真摯に研究の目的と手法を事前に適正に伝えた上で、記録を披瀝、自ら検証していくことが必要である」と述べています。さらに、研究倫理の観点から見て今後の研究対象とすることに問題があるものとして「研究の実施についてアイヌの同意がえられないもの」とあります。同意がえられることを前提としている宣伝トークに納得がいきません。

また、これらの前提となっていることは、大学等にある遺骨は白老に集約保管しながらDNA鑑定を行うこと、遺骨は全道から「発掘」されたものですから、祭祀承継者を適合させるためには、いまおられるすべてのアイヌ民族の皆さんのDNA鑑定も行い、祭祀承継者が判明した遺骨を順次、返還していくということになっています。

アイヌ民族の皆さんはこのことを承知し、承諾しているのでしょうか。少なくともコタンの会やわたしの身近で遺骨返還を望んでいる皆さんは認めていません。このことを広くアイヌの皆さんにお伝えすることが大事だと考えます。

もうひとつ、前回にも述べましたが、アイヌ政策推進作業部会が検討した際(2014/4/16)に、遺骨からDNAを抽出して遺族を確定することは事実上、不可能だと東京歯科大学名誉教授水口清氏が説明しています(議事録(第16回)を参照)。この説明は4年前ゆえ、もう意味がないのでしょうか。 

様々な疑問がわく斎藤文書でした。

留萌の夕日


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