アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

サーモンピープルーアイヌのサケ捕獲権回復をめざして』の紹介

2021-06-09 05:37:30 | 日記

浦幌在住のアイヌ民族団体ラポロアイヌネイションが2020年8月に祖先がサケを捕獲していた川でのサケ漁は先住民族の権利だとして、国と道を相手に漁業権を認めるよう札幌地裁に提訴したことを以前にご紹介しました。https://blog.goo.ne.jp/ororon63/e/ffdf8d2ba4a830908d7cd409e4067c70

この裁判を始める3年前の2017年にラポロの皆さんは北西アメリカネイティブの皆さんを訪ね、サケ捕獲権の闘いを学ばれました。本ブックレットはその訪問記録と報告、および、アイヌ・サケ捕獲権確認請求訴訟の訴状および原告の意見陳述等の資料が含まれています。

一行はまずワシントン州オリンピアでアメリカ北西インディアン漁業委員会(NWIFC)を訪ね、そこに属する20のトライブ(先住民族集団)がどのようにサケ捕獲権を含む先住権を勝ち取って来たか、そして現在どのような資源管理を行っているかを学びました。

 さかのぼること1854年のメディスンクリーク条約を筆頭にトライブはいくつもの不平等な条約を結ばされます。その中でトライブは漁業権を獲得することに成功します。しかし、ワシントン州はかつて結んだ条約は(トライブが衰退・消滅した現在は)もう無効だと主張し、漁業権を無視し侵害しはじめます。人々を逮捕し、網も舟も取り上げました。それでも人々は繰り返し魚を獲り逮捕され続けました。こういった行動を権利主張する「直接行動」、そしてこの時代を「魚戦争(Fish Wars)」と人々は呼びました。それらの行動が漁業権を争う裁判にまで発展し、1974年のボルト判決によってトライブの人々は白人同等の漁獲量(50%)が保障されるようになります。さらにトライブは連邦政府からの支援を受けて独自の専門家や科学者を雇い、河川や海洋の資源管理を行い始めます。現在では環境保護のためのリーダーと周りからとらえられ歓迎されています。

この漁業委員会に所属する20のトライブはすべて連邦政府と関係を持ち、各トライブが主権、すなわち、自己決定権、トライブメンバー決定権、土地や自然資源の管理権、商取引や家族法などの関係を決める権利、連邦政府とのあいだで対等に交渉する権利などを持っています。各々がネイション(国家)として連邦政府と対等なのです。

次に一行は、サケとクジラの捕獲権を回復したマカトライブを訪問。そこでマカの歴史(先述のごとく投獄の歴史も含む)、伝統漁業、捕鯨権から、資源管理についても学びます。マカはトライブの排他的水域を持ち、マカ以外の人々はマカの許可を得ないとその海域に入れないとのこと。水揚げされたサーモンは個体ごとに重量を計り、魚の表面の組織のサンプルをとって研究室に送り、病気などの検査をして厳しい品質管理と獲りすぎ防止のための措置を行っているのを見学。また、500年以上前に使われていたイラクサで作られた漁網の発掘により、古くから漁猟を使っていたことが証明されて現在も認められたことや、伝統的漁法から学んで乱獲されている魚を避けて漁をすることに成功した話も紹介されていました。マカの先祖からの言い伝え「海こそがわたしたちの土地」のことばが心に残りました。

最後に、ダムを撤去しエルワ川にサケを呼び戻したローワーエルワクララムトライブを訪問。ローワーエルワクララム(強い人々の意)はアメリカとカナダに土地とトライブを分断された歴史を持っています。ダムの撤去と川の再生はトライブの権利として裁判を起こし、ダムが撤去された後に川にはサケが、河口近くの砂浜には動植物がローワーエルワクララムの人々には笑顔が戻ってきたとのこと。これは歴史上、世界でもっとも壮大なダム撤去事業と言われていることにも驚愕。ローワーエルワクララムトライブの笑顔の報告にラポロのみなさんもこうありたいと目標を与えられたとの感想がありました。

「闘いを始めてから約100年かけてダムを撤去することが出来た」「わたしたちトライブはすべての人々が精神的なつながりを川に持っている」「あなたの物語を伝え続けなさい。少しずつ、あなたの側についてくれる人々が出てきます」という言葉が印象的でした。

一読した感想は、どのトライブも並大抵ならぬ権利回復のための闘いを続けたことに圧倒されました。「魚戦争」で55回も逮捕された「牢屋男」たちの勇気ある行動と不当行為に屈しない精神、痛み伴いながらも直接行動を起こし続けたことにたいへん教えられました。また、伝統的漁法から乱獲種を避ける方法にたどり着き実践をされていること、ダム解体裁判勝訴により、川と海をよみがえらせたことなど希望を感じました。

ここまで読んで、詳細な内容紹介とふんだんなカラー写真に地図のおかげで、ラポロの皆さんと一緒に研修に出かけて多くを学ばされたような感覚になりました。わたしも過去に台湾とカナダに研修に行かせて頂きましたが、そこで出会った皆さんから学ばせていただいた感動と重なりました。ぜひとも、広めたい内容です。

第2章には、先住民族の権利裁判に長年関わられてきたチャールズ・ウィルキンソンさん(コロラド大学ロースクール教授)の日本講演「先住民にサケを獲る権利はあるか?―アメリカにおける先住民の主権とサケ捕獲権」(2016年7月30日、札幌にて開催)を収録。

(過去ブログhttps://blog.goo.ne.jp/ororon63/e/4d0fa64ea37b51b106ea1d833e0aa4f1

当初、お聞きした内容でしたが、この度の研修報告を受けた後にあらためて読み直すことによって、より鮮明にサーモンピープルの先住権についての知識が深まりました。

サケの捕獲権を確認した後、生業としてサケを獲り、さらに他の魚介類を含めた資源管理システムを構築して、その資源管理部門の職員がひとつのトライブあたり200〜300人に達しているという雇用にもつながっていることに驚きました。資源管理に限らずトライブの主権にかかわる権限から自前の役場や裁判所、病院、学校(大学院含む)も設置されているとのこと。最後にアイヌの目指すべき3つの領域として漁業権、土地の返還、教育を挙げておられました。

第3章には、アイヌ・サケ捕獲権確認請求訴訟の訴状(先述しました)。差間正樹ラポロ名誉会長、長根弘喜ラポロ会長2名の意見陳述、そして、原告弁護団帳の市川守弘弁護士の先住権に関する説明を収録。市川弁護士の説明の中で、昔ながらの権利の行使(たとえば丸木舟の使用など)しかできないのではなく、発展の権利(先住民族に関する国連宣言23条)を認めているのだから現代の技術に応じて権利行使が出来るというのに納得がいきました。

みなさま、ぜひ、お手にとってお読み下さい。

購入方法
全国の書店、またネット書店でお買い求めください。

おトクなまとめ買いをどうぞ
一度に10冊以上をご購入の場合、定価の2割引き(1冊あたり消費税込み1144円)・送料無料でお届けします。郵便振替用紙にお名前、送付先、電話番号、注文冊数を記入のうえ、下記口座まで代金・送料の合計をご入金ください。

ゆうちょ銀行振替 02790-1-101119
口座名:北大開示文書研究会

1冊購入の場合 定価1,430円+送料180円=1,610円
2〜4冊購入の場合 定価1,430円×冊数分+送料370円
5〜9冊購入の場合 定価1,430円×冊数分+送料520円

10冊購入の場合 割引き価1,144円×10冊+送料無料=11,440円 

お問い合わせ
北大開示文書研究会事務局 TEL(FAX)0164-43-0128

三浦

 

 


最新の画像もっと見る