『新・先住民族の「近代史」植民地主義と新自由主義の起源を問う』(上村英明著 法律文化社)の5章を読みました。
序文にあるように、本書は2001年4月に出版した『先住民族の「近代史」―植民地主義を越えるために』の復刻版として出版。
この第5章「尖閣諸島」問題は2014年2月の新論文を掲載された部分です。
4章にあるように、「北海道」も「沖縄」も植民地政策が行われ、現在も未解決である中、1984年5月にアイヌ民族の最大組織である北海道ウタリ協会(現在、アイヌ協会)が総会で採決した「アイヌ民族に関する法律案」の「本法を制定する理由」に以下のように書いていることを紹介しています。
北海道、樺太、千島列島をアイヌモシリ(アイヌの住む大地)として、固有の言語と文化を持ち、共通の経済生活を営み、独自の歴史を築いた集団がアイヌ民族であり、徳川幕府や松前藩の非道な侵略や圧迫とたたかいながらも民族としての自主性を固持してきた。
明治維新によって近代的統一国家への第一歩を踏み出した日本政府は、先住民であるアイヌとの間になんの交渉もなくアイヌモシリ全土を持主なき土地として一方的に領土に組み入れ、また、帝政ロシアとの間に千島・樺太交換条約を締結して樺太および北千島のアイヌの安住の地を強制的に棄てさせたのである。
土地も森も海も奪われ、鹿をとれば密猟、鮭をとれば密漁、薪をとれば盗伐とされ、一方、和人移民が洪水のように流れこみ、すさまじい乱開発が始まり、アイヌ民族はまさに生存そのものを脅かされるにいたった。
こうした植民地化に対するアイヌ民族の訴えは、「北方領土」問題にもつながっていることを、1991年4月ロシアのゴルバチョフ大統領の来日に対してアイヌ民族から出された陳述書にも記されている、と紹介。陳述書には北方領土に対して日露両政府とも「固有の領土論」を放棄し、先住民族であるアイヌ民族の権利を尊重しながら、ロシアの新島人、日本の旧島人の代表も含めて共存の道を探るよう提案が書かれていた。しかし、日本政府は無視。その理由はアイヌ民族は同化政策によって「消滅」したというフィクションが長年作り上げられ、メディアも取り上げず、国民の多くも関心を払わなかったからだ、と。さらに、2008年に国がアイヌ民族を日本の先住民族と認めても「植民地支配の事実は認定されておらず、アイヌ民族の権利はまったく認められていない」と。
『2「尖閣諸島」問題に潜む植民地主義:日本政府の論理の検証』では、日本政府の見解である1895年1月に近代国際法上の「無主地(terra nullius)」・「先占(occupation)」の法理により日本領土に編入された。1884年に古賀辰四郎が「探検」し、1885年9月から沖縄県当局がどの国家の管轄下にもないこと(いわゆる国際法上の「無主地」)であることを確認した後、1895年1月の閣議決定により「固有の領土」として日本に編入したとのこと。
しかし、①歴史的領土論を展開していない(1884年以前の言及はなし。むしろ中国の方がある)。②「日清戦争」の最中であり、侵略戦争によって収奪された土地への領土権は現在の国際法上では認められない。と、上村さんは批判。
また、「無主地(terra nullius)」・「先占(occupation)」の法理が21世紀のこの東アジアで用いられることの批判。そして、「発見者」の古賀は、そもそも商売の取引相手だった琉球漁民によって情報を得たのであり「探検」と呼べるものでもなく、発見者はむしろ琉球王国の漁民だった、と。さらに、歴史的にこの島は1880年に日本政府によって中国領とする提案・調印をしたという事実を日本政府は隠蔽していること、加えて、琉球王国の存在とその植民地化という歴史的事実を隠蔽している、と指摘。
そもそも「琉球併合」は侵略による植民地化であり、国際法上違法なのだ(4章も参照)、と。
(「4.中国政府の論理構造とその問題」は略します)
「5.琉球人と「ユクン・クバシマ」:新たな解決に向けて」では、尖閣諸島を沖縄のことばで「ユクン・クバシマ」と呼ばれて来た名前の由来を紹介。「クバ」はヤシ科に属する常緑高木(日本ではビロウ)で、葉で屋根を葺いたり、伝統的な小舟(サバニ)の帆、笠、蓑、ロープなどに、みきは家の柱や床材に、新芽は食材にと生活用品の重要な供給材だった。さらに、「クバ」は、神々が地上に降りる際に使う「神木」であり、「御嶽(ウタキ:聖拝所)」を囲む森となる場合が少なくない。「クバ」が茂げる島々は琉球人にとって聖なる土地であった可能性もある、とのこと。そして、「ユクン」は糸満漁民のこと。彼らは高級食材のフカヒレ、するめ、イリコ(海鼠)の乾物を取り、琉球は中国へ輸出していた。
また、「ユクン・クバシマ」は、荒天時の「風待ちの場所」で、まさに、歴史的かつ実効支配の主体、あるいは生活圏とした住民のアイデンティティは琉球人民・民族であると推測出来る、と。
ただし、台湾の伝統的な漁民タウ民族なども黒潮に乗って伝統的に利用していた可能性も否定出来ないことから、
「ひとつのアイディアは、琉球人民・民族と台湾先住(原住)民族の領土権を確認しながら、日本、中国、台湾の各国政府が従来の領土論をとり下げ、先住民族の権利を尊重し、地域の琉球人や台湾人などを主体として、共存・共生の空間あるいは平和の空間を想像することである。この論理によってこそ、日中(台)間の国家的緊張は正当かつ合理的にあるいは「成熟した知恵」を使って回避することができるのではないだろうか」
と結んでいます。
いい勉強になりました。できるだけ分かりやすく『ためしてガッテン』のように紹介したいと思いつつ、理解不足でよけい分からなくさせてかも知れません。わたしもより深めて行きます。
さて、イヴェント案内Blogもこのところ、再開させています。http://blog.goo.ne.jp/sakura-ive
最新イヴェントのご案内です。
「アイヌ民族否定論に抗する」刊行記念トーク
日時 3月29日(日)18:00~20:00
内容:札幌市議の「アイヌ民族、いまはもういない」発言。ネット上にあふれ、街頭にも飛び出したアイヌへのヘイトスピーチ。これらに多様な論者が「NO」を突きつける一冊の緊急刊行を記念して札幌ではじめてのトークイベントを開催します。この本が生まれた経緯と内容の紹介等を執筆者の皆さんが語るトークショーです。
出演:香山 リカ 氏(精神科医)、丹菊 逸治 氏(言語学・北海道大学アイヌ・先住民研究センター准教授)、大野徹人 氏(ペウレ・ウタリの会会員)マーク・ウィンチェスター 氏(アイヌ近現代史研究・神田外国語大学日本研究所専任講師)
参加費 千円(簡単なドリンク付) 定員40名(申込必要)
会場 くすみ書房大谷地店 2F 〒004-0041 札幌市厚別区大谷地東3-3-20 キャポ大谷地
tel:011-890-0008 fax:011-890-0015 email:kusumi-b@bz03.plala.or.jp
わたしも申し込みましたが、日曜日であることと、翌日から二風谷にてバプテスト同盟のティーンズ研修を協力するので行けるか不安です。それと、このBlogでご紹介した榎森さんと上村さんの文しかまだ読んでいないので、頑張って準備をして行きたいと思います。
最近、読みたい本も読めていないで積読状態なのに、気になって買った漫画も机の上に平積みになっています。『王道の狗1、2』(安彦良和 中公文庫)、『ゴールデンカムイ1、2』(野田サトル 集英社)、『シュマリ上,下』(手塚治虫 三栄書房)。さらに、アイヌ民族関連ではないですが、息子が持って来てくれた『聲の形 全七巻』(大今良時 集英社)も。
斜里入口にある「オシンコシンの滝」 夜はライトアップがされているのですね。
アイヌ語で「そこにエゾマツの群生するところ」の意味。
過日の道東の旅の途中、中標津の友人牧師を見舞いに行った帰りに知りました。
序文にあるように、本書は2001年4月に出版した『先住民族の「近代史」―植民地主義を越えるために』の復刻版として出版。
この第5章「尖閣諸島」問題は2014年2月の新論文を掲載された部分です。
4章にあるように、「北海道」も「沖縄」も植民地政策が行われ、現在も未解決である中、1984年5月にアイヌ民族の最大組織である北海道ウタリ協会(現在、アイヌ協会)が総会で採決した「アイヌ民族に関する法律案」の「本法を制定する理由」に以下のように書いていることを紹介しています。
北海道、樺太、千島列島をアイヌモシリ(アイヌの住む大地)として、固有の言語と文化を持ち、共通の経済生活を営み、独自の歴史を築いた集団がアイヌ民族であり、徳川幕府や松前藩の非道な侵略や圧迫とたたかいながらも民族としての自主性を固持してきた。
明治維新によって近代的統一国家への第一歩を踏み出した日本政府は、先住民であるアイヌとの間になんの交渉もなくアイヌモシリ全土を持主なき土地として一方的に領土に組み入れ、また、帝政ロシアとの間に千島・樺太交換条約を締結して樺太および北千島のアイヌの安住の地を強制的に棄てさせたのである。
土地も森も海も奪われ、鹿をとれば密猟、鮭をとれば密漁、薪をとれば盗伐とされ、一方、和人移民が洪水のように流れこみ、すさまじい乱開発が始まり、アイヌ民族はまさに生存そのものを脅かされるにいたった。
こうした植民地化に対するアイヌ民族の訴えは、「北方領土」問題にもつながっていることを、1991年4月ロシアのゴルバチョフ大統領の来日に対してアイヌ民族から出された陳述書にも記されている、と紹介。陳述書には北方領土に対して日露両政府とも「固有の領土論」を放棄し、先住民族であるアイヌ民族の権利を尊重しながら、ロシアの新島人、日本の旧島人の代表も含めて共存の道を探るよう提案が書かれていた。しかし、日本政府は無視。その理由はアイヌ民族は同化政策によって「消滅」したというフィクションが長年作り上げられ、メディアも取り上げず、国民の多くも関心を払わなかったからだ、と。さらに、2008年に国がアイヌ民族を日本の先住民族と認めても「植民地支配の事実は認定されておらず、アイヌ民族の権利はまったく認められていない」と。
『2「尖閣諸島」問題に潜む植民地主義:日本政府の論理の検証』では、日本政府の見解である1895年1月に近代国際法上の「無主地(terra nullius)」・「先占(occupation)」の法理により日本領土に編入された。1884年に古賀辰四郎が「探検」し、1885年9月から沖縄県当局がどの国家の管轄下にもないこと(いわゆる国際法上の「無主地」)であることを確認した後、1895年1月の閣議決定により「固有の領土」として日本に編入したとのこと。
しかし、①歴史的領土論を展開していない(1884年以前の言及はなし。むしろ中国の方がある)。②「日清戦争」の最中であり、侵略戦争によって収奪された土地への領土権は現在の国際法上では認められない。と、上村さんは批判。
また、「無主地(terra nullius)」・「先占(occupation)」の法理が21世紀のこの東アジアで用いられることの批判。そして、「発見者」の古賀は、そもそも商売の取引相手だった琉球漁民によって情報を得たのであり「探検」と呼べるものでもなく、発見者はむしろ琉球王国の漁民だった、と。さらに、歴史的にこの島は1880年に日本政府によって中国領とする提案・調印をしたという事実を日本政府は隠蔽していること、加えて、琉球王国の存在とその植民地化という歴史的事実を隠蔽している、と指摘。
そもそも「琉球併合」は侵略による植民地化であり、国際法上違法なのだ(4章も参照)、と。
(「4.中国政府の論理構造とその問題」は略します)
「5.琉球人と「ユクン・クバシマ」:新たな解決に向けて」では、尖閣諸島を沖縄のことばで「ユクン・クバシマ」と呼ばれて来た名前の由来を紹介。「クバ」はヤシ科に属する常緑高木(日本ではビロウ)で、葉で屋根を葺いたり、伝統的な小舟(サバニ)の帆、笠、蓑、ロープなどに、みきは家の柱や床材に、新芽は食材にと生活用品の重要な供給材だった。さらに、「クバ」は、神々が地上に降りる際に使う「神木」であり、「御嶽(ウタキ:聖拝所)」を囲む森となる場合が少なくない。「クバ」が茂げる島々は琉球人にとって聖なる土地であった可能性もある、とのこと。そして、「ユクン」は糸満漁民のこと。彼らは高級食材のフカヒレ、するめ、イリコ(海鼠)の乾物を取り、琉球は中国へ輸出していた。
また、「ユクン・クバシマ」は、荒天時の「風待ちの場所」で、まさに、歴史的かつ実効支配の主体、あるいは生活圏とした住民のアイデンティティは琉球人民・民族であると推測出来る、と。
ただし、台湾の伝統的な漁民タウ民族なども黒潮に乗って伝統的に利用していた可能性も否定出来ないことから、
「ひとつのアイディアは、琉球人民・民族と台湾先住(原住)民族の領土権を確認しながら、日本、中国、台湾の各国政府が従来の領土論をとり下げ、先住民族の権利を尊重し、地域の琉球人や台湾人などを主体として、共存・共生の空間あるいは平和の空間を想像することである。この論理によってこそ、日中(台)間の国家的緊張は正当かつ合理的にあるいは「成熟した知恵」を使って回避することができるのではないだろうか」
と結んでいます。
いい勉強になりました。できるだけ分かりやすく『ためしてガッテン』のように紹介したいと思いつつ、理解不足でよけい分からなくさせてかも知れません。わたしもより深めて行きます。
さて、イヴェント案内Blogもこのところ、再開させています。http://blog.goo.ne.jp/sakura-ive
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「アイヌ民族否定論に抗する」刊行記念トーク
日時 3月29日(日)18:00~20:00
内容:札幌市議の「アイヌ民族、いまはもういない」発言。ネット上にあふれ、街頭にも飛び出したアイヌへのヘイトスピーチ。これらに多様な論者が「NO」を突きつける一冊の緊急刊行を記念して札幌ではじめてのトークイベントを開催します。この本が生まれた経緯と内容の紹介等を執筆者の皆さんが語るトークショーです。
出演:香山 リカ 氏(精神科医)、丹菊 逸治 氏(言語学・北海道大学アイヌ・先住民研究センター准教授)、大野徹人 氏(ペウレ・ウタリの会会員)マーク・ウィンチェスター 氏(アイヌ近現代史研究・神田外国語大学日本研究所専任講師)
参加費 千円(簡単なドリンク付) 定員40名(申込必要)
会場 くすみ書房大谷地店 2F 〒004-0041 札幌市厚別区大谷地東3-3-20 キャポ大谷地
tel:011-890-0008 fax:011-890-0015 email:kusumi-b@bz03.plala.or.jp
わたしも申し込みましたが、日曜日であることと、翌日から二風谷にてバプテスト同盟のティーンズ研修を協力するので行けるか不安です。それと、このBlogでご紹介した榎森さんと上村さんの文しかまだ読んでいないので、頑張って準備をして行きたいと思います。
最近、読みたい本も読めていないで積読状態なのに、気になって買った漫画も机の上に平積みになっています。『王道の狗1、2』(安彦良和 中公文庫)、『ゴールデンカムイ1、2』(野田サトル 集英社)、『シュマリ上,下』(手塚治虫 三栄書房)。さらに、アイヌ民族関連ではないですが、息子が持って来てくれた『聲の形 全七巻』(大今良時 集英社)も。
斜里入口にある「オシンコシンの滝」 夜はライトアップがされているのですね。
アイヌ語で「そこにエゾマツの群生するところ」の意味。
過日の道東の旅の途中、中標津の友人牧師を見舞いに行った帰りに知りました。