アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

『これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル』

2017-05-13 12:32:57 | 日記

北海道アイヌ協会、日本考古学協会、日本人類学会の三者によるラウンドテーブルでとりまとめた『これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル報告書案』(以下、『報告書案』)へのパブリックコメントを北海道アイヌ協会が昨年末の12月19日から今年の 1月18日の日程で募集しました。アイヌ協会の報告によると計43件の意見が寄せられたとのこと。わたしもつたないものですが意見を送りました。それらの意見等を今後の報告書作成に係る協議等に反映させ、後日に結果を公開する予定のようです。現時点では、まだまとめられていないのか、未公開です。

以前にも書きましたが、アイヌ政策会議の政策推進作業部会の2月、3月、4月の会議録がいまだに公開されていません。そこで報告があったのではないかと推測しますが、どうしたのでしょうか。

『報告書案』では、アイヌ遺骨の研究に関し、「問題」がある以下のものは研究対象としないとしています。

(先住民族との関係で問題があるもの)

1 先住民族の権利に関する国連宣言の趣旨に鑑みてアイヌの同意を得られないもの

(遺族感情から問題があるもの)

2 遺族感情や、海外における法制度やガイドラインの事例を考慮して、研究が行われる時点から見て三世代以内、すなわち概ね 100年以内に埋葬された遺骨や副葬品

3 現在の遺族等への影響を鑑みて、収集経緯を公開できないもの

(学術資料の一般的な取扱いとして妥当でないもの)

4 学術資料の一般的な見地から見て、収集経緯が不明確であるものや、時代性や埋葬地に関する情報を欠如するものや、資料の正確性を担保する基本的データ(例えば、発掘調査時の実測図、写真、出土状態の記載)が欠如するもの。そのほか、調査行為自体に研究倫理の観点からみて学術資料として活用することに問題を含むもの

なお、上記の1から4の条件に触れる遺骨と副葬品は研究対象としないことを原則とするが、4の条件に触れる遺骨及び副葬品のうち、アイヌも交えた検討と判断の結果として、研究の有効性がしかるべき手続きを経て保証されるとみなされる場合には、限定的に研究を行う可能性も残される。 (『報告書案』p7)

 

意見書には表わせませんでしたが、改めて読むとたくさんの疑問がわいてきます。

1の「アイヌの同意」で言う「アイヌ」とは?それがアイヌ協会だけを含むのならば、協会員ではない相当数のアイヌの方々の意見を無視することになります。そして、結果的にアイヌ協会・日本人類学会・日本考古学会三者の閉鎖的な同意になります。 

2の「遺族感情を・・考慮して」とありますが、例えば、遺骨返還訴訟の原告である小川隆吉さんは遺族として「すべての遺骨はコタンの土へ」と訴えておられます。「100年」の括りはどこから認められるものなのでしょうか。 

3にいたっては全く理解出来ません。「収集経緯」を遺族への「影響を鑑みて」公開できないとはどんな経緯だったのでしょう。

4では、最後の但し書きで研究対象にされる可能性を残しています。これもどう言うことか説明を受けたいです。

もう3ヶ月前のことですが、共同通信の記事に「アイヌ遺骨をDNA研究 協会と札幌医大が覚書」(共同通信 2017/2/26 18:44)がありました。https://this.kiji.is/208520250454638594?c=110564226228225532

これによると、過去に発掘されたアイヌ民族の遺骨が、すでにDNAとして使われていたと言うのです。それも「北海道アイヌ協会が、遺骨を保管する札幌医大(札幌市)と覚書を交わし、研究も了承」したと。これが事実とすれば、上記の『報告案』との関連はどうなるのでしょうか。もうフライングしたということ? そのDNA研究をした遺骨の発掘地や発掘年代は? また、その地域のコタンのメンバー(また遺族)には、覚書のことや研究について知らせ合意を得たのかどうかは不明です。記事には「発掘地域のアイヌは、覚書や研究について知らされていないと反発している」と書かれています。北大開示文書研究会は、今月中旬に札医大と面会し、質問と要望書を持参します。その後に記者会見も行う予定ですので、記事になることを望みます。 

北海道新聞が4月22日の紙面に「アイヌ遺骨研究の是非は 社会的利益と民族の思い、調和課題 倫理検討委設置へ7月準備委」を掲載しました。確か有料記事であったので、わたしは見ることが出来ますが、出来ない方もおられるでしょう。その一文にはこうありました。

札幌医大では、道路工事などに伴う発掘調査の際に出土した遺骨が道や市町村から寄託され、国立科学博物館(東京)の研究者らが既に2010年から、アイヌ民族の起源を調べる研究に活用している。この際、遺骨からの DNA サンプル採取については、北海道アイヌ協会に事前に説明し同意を得た。研究倫理検討委員会は、この同意手続きを参考にする可能性がある。ただ、発掘された地域のアイヌ民族からは「知らされていない。先祖の遺骨は土にかえってこそ安らかに眠ることができる」との反発もある。報告書は、検討委の構成員を「アイヌ関係者」という表現にとどめた。研究者からは「道アイヌ協会だけではなく、地域の意向をより丁寧にくむ必要がある」と委員の人選への配慮を求める声が上がっている。http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/science/science/1-0392144.html

 

札医大は北大と違って盗掘・発掘はせず、「道路工事などに伴う発掘調査の際に出土した遺骨」であり、それらが「道や市町村から寄託され」たと書かれていますが、はて、道や市町村には遺骨を自由にする権利があるのでしょうか。さらに、アイヌ協会がそれらの研究を認める権利があるのでしょうか。2010年からすでに研究が行われているとは大問題だと思いますが、三者は「同意」内容を明らかにするべきでしょう。

最後の「報告書」とはパブリックコメントの報告書案のことなのでしょうか、それともすでに意見を集約して完成させた「報告書」なのでしょうか。もしそうだとすれば、公にするのが遅すぎです。