アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

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アイヌ民族に関する法律制定の可能性と課題(仮題)

2017-01-26 07:52:50 | 日記

第29回アイヌ民族文化祭が2017年1月21日に札幌で開催されました。

その記念報告で3名が以下の報告をされました。

報告1:「北海道」の始まりから「北海道旧土人保護法—土地、狩猟と漁業の資源」(北海道博物館学芸主査 山田伸一)

報告2:アイヌ新法案から文化振興法の制定へ(元北大総長 中村睦男)      

報告3:アイヌ民族に関する法律制定の可能性と課題(仮題)(北大アイヌ・先住民研究センター長 常本照樹)

それに続き、質疑応答の時間がありましたが、会場からの質疑は受け付けず、司会者と報告者3名とのやり取りだけでした。とある噂では報告者のひとりが会場との質疑をするなら報告をしないと言ったとか。それが本当ならなんとも情けない話です。

わたしは諸事情のため報告3と質疑しか聞く事が出来ず、レジュメ(要点の印刷物)があるかと思いきや、ご本人が言うには今朝まで準備していたので印刷が間に合わなかったとのこと(しかし、パワーポイントが準備出来たのであれば、それだけでも印刷すれば良いと思うのですが。配布したくなかったのでしょうか? わたしは会場に入れず廊下のスピーカーで聞いていたので常本氏のパワーポイントは見ることが出来ませんでした)、テープを録るも、さらなるハプニングで録音が途中で遠くなってしまいました。

報告3をなんどか聞きながらまとめてみました。逐語録ではなく、縮められる部分は略しました。

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新しい法律を求める要求に関しては今において始まったわけではない。2009年の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」の報告書の結論で新しい立法措置の要望をしていた。それ以降、現在も続くアイヌ政策推進会議の各部会の報告書を通じて一貫して立法措置・法的措置の必要性をうたわれている。昨年来、特に官房長官の発言を契機として立法を求める動きの大きな高まりを見る事が出来る。

アイヌ文化振興法に続く新しい法律が必要だと言う事は議論の余地がない。しかし、極めて重要な問題であるゆえに立法に関わらず様々な課題を整理して今後の運動につなげて頂ければと考える。

現在の立法に関する大きなうねりのきっかけとなったのは、昨年の新聞報道だ。一例として5月14日の北海道新聞はこのように報じていた。見出しが「アイヌ新法制定へ始動 官房長官、早急な体制整備指示」。そしてその記事の中で「政府は13日、アイヌ民族の生活・教育支援を目的とした新法の制定に向けて動きだした」と報じていた。それ以降も幾度か記事があったが、一番最近のものとして1月17日付の北海道新聞に、「政府がアイヌ民族の生活・教育支援を目的とした新法の制定に着手」という記事がある。これをみれば論ずるまでもなく、政府がまさに生活向上、教育支援それ自身を目的とした法律を制定しようとしているという印象を受ける。では、実際のところ、菅官房長官はどう言っていたのかを確認すると、昨年3月28日に行われた記者会見では「生活向上対策や幼児期の教育問題など貧困問題を含めて幅広くアイヌ政策に取り組むこと、ここが必要だと思っています。そう言う中で法的措置の必要性についても総合的に検討して行きたいと思います」と言っている。また、5月13日の第8回アイヌ政策推進会議での挨拶の中で「現在、施策の改善方策を含めて幅広くアイヌ政策を検討しているところでありますが、その中で法的措置の必要性についてもしっかりと総合的に検討していきたい」と言われた。若干報道とのニュアンスの違いを感じるかと思う。

政府が政策を進める手段には3つの方法がある。一つは現行制度の運用改善、二つ目は予算措置、三つ目は法的措置。1と2は比較的、柔軟な実施が可能な反面、継続性は難しい。3は継続的安定性はあるが、越えるべきハードルは高い。

次に、政策の特徴に応じてどういう実現方法が適当なのかを考えると、例えばアイヌ文化振興法の場合、①施策対象者を特定しなくともいい。②アイヌ民族にメリットがあるだけではなく、日本全体にとっても文化的に豊かになると言うメリットがあった。③実施する組織が必要だがアイヌ文化財団をつくった。総じて、文化振興法は立法措置に馴染みやすい。

他方、生活向上施策はどうかというと、①対象者特定の課題がある。②アイヌ民族のみが受益者になるので一般に利益があるとは言いにくい面がある。③実施する仕組みも全国が対象になるので実施の仕組みが問題になる。結果、官房長官が言ったように「総合的に検討」する必要がある。

 また、「ポスト2020年」の課題がある。2020年まではお金が出るかもしれないが、それ以降は分からないと著名な経済学者が言っていた。2020年を越えてもなおアイヌ政策をどうやって堅持したらいいのかが問題だ。生活向上という課題は一般国民にもやっているのだから一般政策の中に解消してもいいのではないかという議論もある。これに応じるには「先住民族の地位の確立」をあらためて考えてみるべきだ。

「先住民族の地位の確立」と言えば、2008年の衆参両院での決議だが、国会決議をもう一度見直してみると「政府は、これを機に次の施策を早急に講じるべきである。 一 政府は、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を踏まえ、アイヌの人々を日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、宗教や文化の独自性を有する先住民族として認めること。」衆議院HPとあり、これは衆参両院に対し「認め」させることに留まっている。さらに言えば2014年6月13日に「アイヌ文化の復興等を促進するための「民族共生の象徴となる 空間」の整備及び管理運営に関する基本方針について」の閣議決定がなされている。

閣議決定とは、憲法によって行政権が付与されている内閣の最高の決定方式(行政権における最高の意思決定)なので、行政を拘束することは間違いない。その中で「アイヌの人々は・・・先住民族である」ことが書かれている。従って、例えば文科省とか国土交通省というお役所が「アイヌ民族は先住民族だ」ということを疑うことは出来ない。しかしながら、逆に言えばこれは内閣の中だけの話であって、それを越えてアイヌ民族が先住民族であることの地位が確立しているのかと言うと、なお考えるべき事が残っている。すなわち、法による地位の確立が必要なのではないか。法律は閣議決定と違って三権(立法・司法・行政)すべてを拘束するという力を持っている。法律でアイヌ民族を先住民族である事を理念法ないしは基本法として確立する必要があるのではないか。もちろん、理念法、基本法というのは一般的には法律の世界ではあまり評判がいいものではない(中身がないと言われることもある)。しかしながら、ことアイヌ民族の先住民族たる地位の確立については極めて重要な意味を持つと言う風に考えられる。

 まとめると四点になる。ひとつは、生活向上の実現と言うものは重要な問題だからこそ法律を視野に入れつつ、運用改善、予算措置を検討して最も効果的・現実的な方策を戦略的に選ぶべきではないか。もちろん法律は必要です。法律だけを視野に入れるのではなくて、様々な手段を総合的に考えながら最も効果的・現実的な手段を考えるべき、それだけ重要な問題だと考える。一方、法律だけに限って言えば、継続的安定性と言う利点と制定の難しさという難点を考えて、まさに法律でなければ難しいという目標についてまず目指すべきと考えられる。諸外国の先住民族は憲法、条約、法律でその地位を確立している。アメリカ、カナダ、台湾では憲法の中に先住民族に関する規定を置いて、それを根拠に様々な政策を実施することが可能になっている。また、ニュージーランドには条約があり、その条約を国内に実施する法律があってマオリの地位が確立されている。それらが基盤となって先住民族の正当性の根拠となっている。やはりアイヌ民族、日本においてもそういうものが必要だ、国会決議と閣議決定だけでは不十分だ。最後は、このような目標を的確に定めてさらなる運動の盛り上がりを期待したいと思うし、微力ながらお手伝いをしたいと考えている。

取り急ぎ(すでに5日も経っていますが)、きょうは報告3を載せるだけで終わります。

二風谷のこども達のアイヌ語での歌や踊り とてもよかったです。