アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

慰霊施設へ集約した遺骨も新ひだかアイヌの皆さんもDNA検査をする?

2018-06-26 12:12:20 | 日記

新ひだか(旧静内)町遺骨返還訴訟の報告です。この裁判についての説明は過去ブログを参照ください。さる、6月22日に札幌地裁701号室にて公判がありました。こちら(原告側)が6月5日付で準備書面を提出し、裁判の進行についてや被告側の意見に対する反論を述べました。

まず、裁判の進行については、話し合いによって早期の解決が可能であればそうしたいと主張。

実は、問題となっている遺骨のほとんどが頭骨だけが研究のため北大に持っていかれました。頭骨以外の骨は被告新ひだか町(旧静内町)によって焼却し移葬されています。先祖の遺体を子孫の意思に反して二つ以上に分割し、別個の場所に保管するということは考えられない(いわゆる分骨は子孫の意思に基づく)ことです。それゆえ、原告側は持ち去られた頭骨をより早く持ち去られた地元に返還し、他体の遺骨と一緒に埋葬してあげたいと願っています。✳︎静内駅前発掘の27体は全身骨で持って行かれた。

手島圭三郎展に行きました。細やかな版画彫刻に感動

また、本件遺骨について祭祀承継者を明らかにすることは発掘当時及び現代においても不可能だと以下の3点から主張しました。

1.「無縁故」遺骨であること

本件遺骨は、「無縁故アイヌ墓地を、昭和31年8月から10月に移葬した」もので、全部が「無縁故」(遺骨がだれなのかも分からない、遺族などの関係者も不明)の遺骨という処理をされていた。本人確定が不可能ゆえ、遺骨の祭祀承継者などは調査のしようがない。 

2. 現代の遺骨のDNA検査による判断も事実上不可能

アイヌ政策推進作業部会が検討した際(2014/4/16)でも、遺骨からDNAを抽出して遺族を確定することは事実上、不可能だと東京歯科大学名誉教授水口清氏が説明している。詳しくは議事録(第16回)を参照してください。

3. 祭祀承継者というのは法的な概念(科学的に断定できるものではない)

仮に遺骨のDNA鑑定によって現在の特定人と遺骨とが血縁関係にあることが判ったとしても、それだけではその特定人が祭祀承継者か否かはわからない。祭祀承継者を明らかにするためにはまず戸籍が明らかであること、次に家督相続人が明らかかであるか(戦前の遺骨の場合)、慣習ないし相続人間の協議内容の確定(戦後)がない限り、祭祀承継者の特定は法的には不可能。しかも、その遺骨の死亡時から数世代が経過している以上、その間の相続関係(戸主の変遷(戦前)、相続人間の協議等(戦後))も明らかにされなければ現在における遺骨の祭祀承継者は確定できないことも明らかであり、これは不可能。

以上から、本件遺骨のように、そもそもその氏名、死亡時期等が不明な遺骨について祭祀承継者を明らかにすることは完全に不可能だと述べています。

今回の裁判は被告側に、新ひだかアイヌ協会が加わり、遺骨はコタンにではなく、北海道アイヌ協会にならって白老町に建設中の共生空間内の慰霊施設に集約し、「遺骨の特定が完了次第祭祀承継者等への返還手続きに入る」という北海道アイヌ協会の方針に従う、と主張しています。 

新ひだかアイヌ協会を裁判所用語?で「補助参加人」と呼ぶそうですが、この補助参加人の弁護士と原告側の弁護士とが法廷で意見をぶつけ合いました(この20年ほどいくつものアイヌ関連裁判を傍聴支援してきましたが、今までで一番長く、テレビドラマのようでした)。

残念ながら裁判ゆえ録音禁止のため正確にここにやりとりを書けませんが、内容としては今回の原告側の準備書面(6/5付)に対し、補助参加人弁護士は、遺骨は白老の慰霊施設へ集約し、そこでDNAを調べ、さらに新ひだかのアイヌのDNAも調べ、祭祀承継者を確定したのちに返還する、と述べました。

こちらの弁護士は、準備書面にも書いたが不可能だというと、補助参加人弁護士は「可能と考えている」と主張。「こどもがだだをこねているようにしか思えない。そう言うのであれば、きちんと反論として出すべきだ」と述べ、8月中旬までに準備書面として提出することになりました。

さて、補助参加人弁護士は、慰霊施設へ集約した遺骨のDNA検査をするということ、さらには、新ひだか町に過去に住んでいた人、および、現在、在住しているアイヌ民族の皆さんのDNAも調べると言いました。これは新ひだかアイヌ協会は了解しているということでしょうか。慰霊施設に集約される遺骨のDNA検査にいたっては、その了承はだれがするのでしょうか、そこが了解したとして、北海道アイヌ協会は認めるのでしょうか。

次回公判は8月21日(火)13時30分から札幌地裁にて(法廷は未定)。

 

第39回樺太移住殉教者墓前祭(6/16)の朝に墓前祈祷と供花。


2017年度「北海道アイヌ生活実態調査」

2018-06-22 09:08:02 | 日記

2017年度に道が実施した「北海道アイヌ生活実態調査」が発表されました。

過去調査と比較したい方はこちらから、それぞれ確認されるといいでしょう。

道新毎日読売などで記事になっています。いずれも閲覧期限があると思われるので切れていたら先住民族関連ニュースブログで検索してください。 

前回の調査が2013年に行われ、今回で8回目となります。この調査におけるアイヌ民族の人数は、「地域社会でアイヌの血を受け継いでいると思われる方、また、 婚姻・養子縁組等によりそれらの方と同一の生計を営んでいる方」について、各市町村が把握することのできた人数なので、把握できていない方もおられるという意味で「道内に居住するアイヌの人たちの全数とはなっていない」とただし書きがされています。あるいは、法務省が出している薄い冊子『アイヌの人々と人権』のただし書きには「アイヌの血を受け継いでいると思われる方であっても、そのことを拒否している場合は調査の対象としていません」とありますので、そのような方もおられるのでしょう。さらに、道内に限っての調査なので、道外・海外を含むアイヌ民族の総数にはなっていません。これに対し、道アイヌ協会の副理事長が「過去の戸籍を調べれば総数を正確に把握できる。これでは実態調査とは言えない」と批判しています(読売)。

過去と比較しながら今後に調査結果をくわしくじっくりと見ていこうと思います。紹介できる余裕もあまりありませんので、ここでは気になるところのみピックアップします。まずは、今回の調査を過去2回(2013年)の調査と比較しながら対象とした世帯数、及び、人数を見ると、

2006年は72市町村に8,274世帯、23,782人(’99年比較で15人と519世帯増加)

2013年は66市町村に6,880世帯、16,786人(‘06年比で人口約2割、世帯で3割の減少)

2017年は63市町村の5,571世帯、13,118人で、前回より3668人減(人口・世帯共2割減少)

2回連続で2割ずつ減少。9年で1万人以上(半数近く)が減少したとはどういうことでしょう。

読売には、道アイヌ政策推進室の「個人情報保護の意識が高まり、調査を委託した自治体が把握しにくくなっていることが背景にある」との見解を紹介しています(道新も同じ)。これも先の道アイヌ協会副理事長の批判を当てはめると、道は真面目に把握する気がないと言えるでしょう。

オオウバユリの根 今年も採りました。

「概要」を見ると「新規調査」として、「アイヌの人たちに対する施策の認知度及び利用度」「複合差別の有無」「複合差別の要因」などが加わっていて、アイヌ女性らが行なっている複合差別に関する問題意識が道に伝わっていて、道も取り入れたいい傾向に感じました。ただ、複合差別について、複合差別を受けたことが「ある」ないし「見聞きした」が20.2%、「ない」11.8%。それに対し「わからない・不詳・無回答」が73%もあり、問題意識(わからずに差別している、あるいは差別されている)をより広めるという課題は浮き彫りにされたと思いました。

また、アンケート用紙の実物が見られないので確認出来ませんが、「アイヌの人たちが必要としている対策」「アイヌ政策の再構築に望むもの」などの設問が複数回答をよしとしながらも固定されていて、その中には「先住権の復権」とか「自己決定権の確保」など本来、先住民族が与えらるべき重要な権利に関しての回答選択がないようなものだとしたら意図的としか感じられません。そもそも、「アイヌ民族」ではなく、あいかわらず「アイヌの人たち」と記し、先住民族としてのアイヌではないかのように書き続けているのですから根本的に問題にすべきと思います。

671人を対象にした面接調査で行った、差別に関わる質問では、「差別を受けたことがある」は23.2%(前回23.4%)。学校での差別が多く、職場や結婚、交際での差別も多くあります。差別をしない、させない、見逃さないための施策をもっと行うべきでしょう。

過去に書きましたが、カナダの場合は政府が主導して1991年から先住民族委員会を設置して詳細な調査を行い、2008年に「真実と和解のための委員会」をつくり、さらに寄宿舎学校問題を調査し、2015年に「報告書」を出します。そこには、「同国の同化政策を文化的ジェノサイドとよび」(丸山2016.2)、政府に対して先住民族と和解するための具体策を国連権利宣言に基づき94項目あげて、その実行を迫っているのです。日本政府はそのような動きに見習うべきですし、アイヌ政策推進会議はそのような提案を積極的に行うべきではと思います。

知里幸恵さんが好きだったというエゾカンゾウ。毎年、6月8日に旭川で開催される幸恵さんの誕生祭に野生のものを200本ほど採って供えます。