アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

テッサ・モーリス=スズキ氏による講演「世界の先住権の常識で再考するアイヌ政策」

2019-03-20 11:27:53 | 日記

さる2019年3月9日に札幌教育会館にて、テッサ・モーリス=スズキ氏による講演「世界の先住権の常識で再考するアイヌ政策」があり、司会をさせて頂きました。

講演では、はじめに2月に国会に上程された「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律案」(以下、「法律案」)に関して、「大変驚いた」とコメントされました。アイヌ民族を先住民族として初めて明記したことはいいことだが、先住民族が有する権利(先住権)に関しては一切触れていない、国際的に言っても奇妙な法案だ、と。世界の共通認識として先住民族には先住権があることは切り離すことができないことなのにそれが記されていない。しかも、メディアは取り上げているところもあるが、その内容と背景は不十分だ、と。

海外における先住権獲得の事例として1970年代にアボリジニ(オーストラリアの先住民族)に無認可でオーストラリア大学が過去に「発見」し持ち帰って研究したムンゴーマン(ムンゴー湖で見つかる4万2千年前の人骨)をアボリジニに返還したことをビデオを含めて紹介。(オーストラリアには公共放送として先住民族テレビ局がある)。

特に、研究に加担した学者のひとりが43年という長い時間をかけて反省し、「遺骨は我々に語りかけている、あなたがたはわたしの土地になにをしたのか、わたしの仲間になにをしたのか、と」の言葉から、植民者側が真摯に先住民族の声を傾聴することの大切さを訴えました。

オーストラリアでは「奪われた世代」(同化政策でこどもを親から引き離して寄宿舎生活を強いられた世代)の誤りに気づき、1980年代に政府は調査委員会を設置、1997年に調査委員会の報告書ができた。そして2008年にラッド首相は分厚い報告書をすべて読み、先住民族の声を時間をかけて傾聴し、謝罪を行った。その後、奪われた世代のサポートシステムの構築、先住民族の教育、住宅、医療等の改善を行った。さらに、国として「謝罪の日」を設定した。傾聴することの大切さを強調。

ひるがえって今回の「法律案」作成時に関連付けて検証すると、日本政府はアイヌの声と意見を聞くのがあまりに不十分だと指摘。アイヌ政策推進会議(以下、推進会議)報告では2017年5月から2018年3月まで、のべ36回の意見交換会や説明会があり、のべ530人が参加したとある。この数はアイヌ人口の多くとも2パーセントになるかならないかの少数。アイヌ構成員すべての意見を聞くことは困難だろうが、わたしのような者でもこの報告書は不思議だ。まず、意見交換に関わる手続きに関する情報が不十分。報告書には2017年12月から2018年3月までの間に12箇所でのべ286人の声を聞いたとあるが、それ以外の24箇所はいつ、どこで、誰と行われたかは明記されていないし、4ヶ月弱に真冬に行っていたことに疑問がある。なぜ急いだか。海外の事例を見るとき、このような法律が成立する前には2〜3年の意見交換がある。

たぶん、この疑問の答えは2020年の東京オリンピックが関連するのだろう。つまり全世界が注目する国際行事の前になんとかアイヌに関する法律を制定させておきたかったのでしょう。しかし、この法律の目的であるアイヌ文化に対する尊敬やアイヌの権利とオリンピックにいったいどんな論理的関連性があるかまったく理解できない。

それとアイヌの意見がどれほど反映されているのかも大きな問題だ。推進会議の報告(参照)によるアイヌの側が要望した内容は、資源権に関する要望、特別議席、文化保存振興、教育充実支援、高齢者生活支援、差別罰則規定などあったが、今回の法律案とはほぼ接点はない。新しい法律案のキーポイントはこうであろう。象徴空間の管理について、地方自治体が作成するアイヌに関連する項や、農林水産業の推進に関する項、そしてアイヌの商品登録について、内閣に設置されるアイヌ政策推進本部に関すること。法案にはアイヌへの差別の禁止が書かれているが、不思議なことに罰則規定がない。すなわち、政府からのお願いでしかない。説明会でアイヌからの提案・要求にあったもので、アイヌ文化振興と知的文化保護については一定程度盛り込まれているが、それ以外は接点はない。

国有地の資源利用や鮭の漁業権の設定について法律案では山林での採集や鮭狩猟に関する項目が含まれてはいる。資源権に対応しているかのように思う人もいるかも知れないが、法律案の文言にはアイヌに関する権利ではなく特別措置となっている。それは中央政府や地方自治が「配慮する」となっている。それも生活のためではなく伝統技師式継承のためとなっている。しかし、先住民族の権利に関する国連宣言(2007)26条には、先住民族には土地や資源を有する権利があると書かれている。アイヌが有するはずの権利を「行政が配慮する」とはいったい何事か。

ここでこの法律案の根本的な問題に触れる。この法案には先住民族が有する「先住権」という言葉はひとつもない。「権利」という言葉は4回出てくる。第1章第4条に国民一般の権利について触れ、第1章18条に商標登録により生じる権利、第1章第16条には林産物の採取の権利。しかし、16条は「認定市町村の住民」がアイヌであるかどうかは不特定だし、いちいち農林水産大臣に認可を得なければならないところから考えると、権利とは言えない。実は、この法案の中でしばしば出てくるのが「管理」という言葉だ。「権利」の4回に比べ、「管理」は25回も使われている。これはアイヌの権利に関するものではなく、アイヌの管理に関する法律だ。

参考:推進会議記録(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/seisakusuishin/dai34/gijigaiyou.pdf)

皆さんに紹介したく途中から、テープ起こしのような文になりました。まだ、続きがありますので後日UPします。なお、当日のアイヌ民族の皆さんからの発言はYouTubeにUPされていますので、コタンの会のフェイスブックからご覧ください。

コタンの会

https://www.facebook.com/kotannokai/?__tn__=kC-R&eid=ARCEyGN7rp7xxOQ63dFheDP2XHijec4JMdRy-A1-DCgG3KcYn-Io_mPx3P6jlfRROyM1Jwl_Df263ONs&hc_ref=ARQ6_fp-Lyr594p3p1XmlEctKzhtNOx0IlwX7vglACDLSfXJYMMeGamnNDuOwAOrg7I&fref=nf

当日の資料(500円)


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