アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

テッサ・モーリス=スズキ氏による講演「世界の先住権の常識で再考するアイヌ政策」続き

2019-03-22 09:31:06 | 日記

さる2019年3月9日のテッサ講演の続きです。

その前に前回紹介した政府のアイヌ政策推進作業部会第34回議事概要(こちら)に2017年12月から2018年3月までの間に12箇所でのべ286人の声の概要が記されているので、みなさんも是非、確認して頂きたい(特に、説明会に参加し発言された方)のですが、このまとめ方はなんとも狭い解釈で偏ったものかとあきれるほど。いや、政府に都合のいいようにまとめていると言えるでしょう。ふたつだけ引用します。

「アイヌの皆さんを先住民族として認めることについては、法律などを規定して、それに基づく政策を実施してほしい。その際、過去を振り返って、謝罪すべきという意見がある一方で、そういったものから正しいことは生まれてこないので、未来志向で物事を進めるべき。これは後者の意見が多数だった。」

ここで分かるのは謝罪すべきという意見があったということ。しかし、それを覆い隠すように「そういったものから正しいことは生まれてこないので、未来志向で物事を進めるべき」という意見を多数意見として紹介し、そちらのほうが正論であるかのように印象付けし、謝罪することの意味や重要性を無視してしまっています。

先住民族への謝罪はつい最近では、台湾にて2018年8月1日の台湾の祝日「原住民族の日」に、蔡英文総統が原住民族に謝罪。オーストラリアではテッサさんも言及していましたが、2008年2月13日にラッド首相がアボリジニに謝罪。ノルウェーでは1997年10月にハラルド5世国王が第3回サーミ議会の冒頭でサーミに対して過去にノルウェー統治下に苦しみを与えたことを謝罪。

また、2017年11月25日、カナダのトルドー首相が先住民族を傷つけたと謝罪NHKニュース。その謝罪の中で「国民すべてが過去を認識し未来に向かって歩まなければならない」と述べたとあります。先ほどの「そういうもの(謝罪)から正しいこと(さらに未来志向)は生まれてこない」と真逆のことが言われているのです。トルドー首相が言うように、過去をきちんと認識し謝罪してこそ正しく未来にむかうことができるとわたしも考えます。が、謝罪を拒みたいがゆえに、先ほどのようなまとめとなるのでしょう。

 川村カ子トアイヌ記念館のチセ 雪下ろし前

もう一つ、次の文を紹介します。

「土地・資源の返還、利用については、謝罪を求める方の中でも特にそういったものに強い思いがある方から、北海道をアイヌに返すべきという意見がある一方で、今からアイヌの皆さんに土地を返すことは現実的でないので、むしろ国有地等について、アイヌの皆さんが共同して使えるような仕組みを作って欲しいという意見。これも後者の意見 が多数だった。」

日本政府も賛成票を投じた2007年に採択された先住民族の権利に関する国連宣言(ここ)26条には、「先住民族は自己が伝統的に所有し、占有し、又はその他の方法で使用し、又は取得した土地、領域及び資源に対する権利を有する」とあり、国はそれらの土地、領域および資源を法的に承認・保護しなければならないとあるのだから、政府はまず返還することを真剣に考えなければならないはずです。そして、返還を求める声があったということを重く受け止めるべき。それを「現実的でない」という言い方でごまかし、国有地等についてアイヌアイヌの皆が共同して使える仕組みをつくってほしいという意見でまとめあげています。この意見には「返還」が削がれ、「使用許可」をお願いするかたちに変えられています。ちなみに、国連宣言28条には土地や資源が返還不可能な場合には「正当で公平かつ衡平な補償によって、救済を受ける権利を有する」とあり、先住民族が「自由に別段の合意をしない限り、補償は、同等の質、規模及び法的地位を有する土地、領域及び資源という形態、金銭的補償又はその他の適当な救済の形態をとらなければならない」と義務付けているのですが、そんなことは無視されています。国の都合のいいように意見を捻じ曲げているのです。

その後も、漁業権もなぜか許可制度の改善のお願いになっていたり、「多数」と言う言葉で少数意見をもみ消すような報告のしかたが続きます。大問題です。

 チセ雪下ろし後

さて、テッサ講演の続きです。

この度の法律案はアイヌ民族の「権利」のためではなく、「管理」のためではなかろうか、と述べた根拠として、他国の先住民族の法律と比べて極めて明瞭だ、と。資源権は各国によって違いがあるので一概には言えないがカナダの場合はすでに先住民族に返還された土地を除外しても国有地の一部や広大な国立公園の半分に採集・収穫・狩猟権がある。オーストラリアでは連邦ゆえ各州によって法律は異なるが原則として国有地の一部および国立公園における採集・収穫・狩猟権が保障されている。ニュージーランドはワイタンギ条約により諸権利が保障されている。以上の3カ国は先住民族の資源権のみならず、土地権もある程度まで認められていると紹介。

ひるがえって、今回の法律案では先住民族アイヌの権利を全く認めていない。代わりに文化維持活動のために政府あるいは自治体が作成した計画の枠組みだけで先住民族の資源利用を配慮してくれるとなっている。これはアイヌの経済的社会的な自立拡大のためものではなく、むしろアイヌに対する国家の権限と任意裁量権を増大させるものだと考える、と言われました。

この法案によってアイヌ関連の予算は増えるだろう。しかし、それらの最終決定権を持つのはなんと内閣で設置されるアイヌ政策推進本部だ。また、アイヌは地方自治体を通して文化事業などを提言は出来るが、それを採択されるかどうかを決めるのは地方自治体。結局、地方自治体が認可して、さらに国が予算支出の決定を下すことになっている。白老に設置される民族象徴空間を管理するのは政府が認定する指定法人。行政府が法人の運営などの最終決定権を持つことになる。これでは、アイヌの先住権や自己決定権(自決権)を認める法律とはとても言えない。むしろ国家がアイヌのアイデンティティ、文化、未来を管理できる法律となっていると考える、と。

安倍首相は今回の大198回通常国会における施政方針演説において、「広くアイヌ文化を発信する拠点を白老町に整備し、アイヌの皆さんが先住民族として誇りを持って生活できるよう取り組みます」と、はじめてアイヌ民族に関することを述べた(ココ)。しかし、たいへん驚いたのは、この発言は人権や共生の項目ではなく、「観光立国」の項目だ。観光問題として扱い、さらに驚くべきことはこの問題に関して大手メディアが一切批判にしなかったことを指摘。

オーストラリアでは2000年にシドニーオリンピックが開催された。この機会に政府は開会式においてアボリジニの文化に関するセレモニーを行い、観光・産業の活性化を目論みました。当時のハワード首相は「奪われた世代」への謝罪を拒んだ保守派だったが、先住権に関する議論が盛り上がった。30万人を超える抗議デモも行われた。おりピックではアボリジニのキャシー・フリーマン選手が女子400mで優勝し、オーストラリアの国旗と共にアボリジニの旗で自分のからだを包んだという大変感動的な場面があった。そして、閉会式で人気歌手のミッドナイト・オイルが「sorry=謝罪」の文字の入ったTシャツを着て、政府の先住民族政策に抗議する歌を披露。

「時は来た。公正でなければならない。借りている家賃を払おう。負担すべきものは負担しよう。時は来た。事実は変えられない。この土地は彼ら彼女らのものなのだ。それを返そう」

2000年シドニーオリンピックはアボリジニの先住権の闘いの節目となったと記録されている。前例に習うとしたら、2020年の東京オリンピックは日本の先住民族アイヌの声を世界に届ける絶好の機会となるのではないかと、わたしは信じるとエールを送ってくださいました。

最後は、シドニーオリンピックの閉会式の一部を披露。ミッドナイト・オイルが「地球が変わっていこうとしているのに、どうやって踊ればいいんだ。ベットが燃えてるっていうのに、どうやって寝るんだ。時は来た!公正でなければならない!事実は変えられない!」と歌っているのが大変印象的でした。


テッサ・モーリス=スズキ氏による講演「世界の先住権の常識で再考するアイヌ政策」

2019-03-20 11:27:53 | 日記

さる2019年3月9日に札幌教育会館にて、テッサ・モーリス=スズキ氏による講演「世界の先住権の常識で再考するアイヌ政策」があり、司会をさせて頂きました。

講演では、はじめに2月に国会に上程された「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律案」(以下、「法律案」)に関して、「大変驚いた」とコメントされました。アイヌ民族を先住民族として初めて明記したことはいいことだが、先住民族が有する権利(先住権)に関しては一切触れていない、国際的に言っても奇妙な法案だ、と。世界の共通認識として先住民族には先住権があることは切り離すことができないことなのにそれが記されていない。しかも、メディアは取り上げているところもあるが、その内容と背景は不十分だ、と。

海外における先住権獲得の事例として1970年代にアボリジニ(オーストラリアの先住民族)に無認可でオーストラリア大学が過去に「発見」し持ち帰って研究したムンゴーマン(ムンゴー湖で見つかる4万2千年前の人骨)をアボリジニに返還したことをビデオを含めて紹介。(オーストラリアには公共放送として先住民族テレビ局がある)。

特に、研究に加担した学者のひとりが43年という長い時間をかけて反省し、「遺骨は我々に語りかけている、あなたがたはわたしの土地になにをしたのか、わたしの仲間になにをしたのか、と」の言葉から、植民者側が真摯に先住民族の声を傾聴することの大切さを訴えました。

オーストラリアでは「奪われた世代」(同化政策でこどもを親から引き離して寄宿舎生活を強いられた世代)の誤りに気づき、1980年代に政府は調査委員会を設置、1997年に調査委員会の報告書ができた。そして2008年にラッド首相は分厚い報告書をすべて読み、先住民族の声を時間をかけて傾聴し、謝罪を行った。その後、奪われた世代のサポートシステムの構築、先住民族の教育、住宅、医療等の改善を行った。さらに、国として「謝罪の日」を設定した。傾聴することの大切さを強調。

ひるがえって今回の「法律案」作成時に関連付けて検証すると、日本政府はアイヌの声と意見を聞くのがあまりに不十分だと指摘。アイヌ政策推進会議(以下、推進会議)報告では2017年5月から2018年3月まで、のべ36回の意見交換会や説明会があり、のべ530人が参加したとある。この数はアイヌ人口の多くとも2パーセントになるかならないかの少数。アイヌ構成員すべての意見を聞くことは困難だろうが、わたしのような者でもこの報告書は不思議だ。まず、意見交換に関わる手続きに関する情報が不十分。報告書には2017年12月から2018年3月までの間に12箇所でのべ286人の声を聞いたとあるが、それ以外の24箇所はいつ、どこで、誰と行われたかは明記されていないし、4ヶ月弱に真冬に行っていたことに疑問がある。なぜ急いだか。海外の事例を見るとき、このような法律が成立する前には2〜3年の意見交換がある。

たぶん、この疑問の答えは2020年の東京オリンピックが関連するのだろう。つまり全世界が注目する国際行事の前になんとかアイヌに関する法律を制定させておきたかったのでしょう。しかし、この法律の目的であるアイヌ文化に対する尊敬やアイヌの権利とオリンピックにいったいどんな論理的関連性があるかまったく理解できない。

それとアイヌの意見がどれほど反映されているのかも大きな問題だ。推進会議の報告(参照)によるアイヌの側が要望した内容は、資源権に関する要望、特別議席、文化保存振興、教育充実支援、高齢者生活支援、差別罰則規定などあったが、今回の法律案とはほぼ接点はない。新しい法律案のキーポイントはこうであろう。象徴空間の管理について、地方自治体が作成するアイヌに関連する項や、農林水産業の推進に関する項、そしてアイヌの商品登録について、内閣に設置されるアイヌ政策推進本部に関すること。法案にはアイヌへの差別の禁止が書かれているが、不思議なことに罰則規定がない。すなわち、政府からのお願いでしかない。説明会でアイヌからの提案・要求にあったもので、アイヌ文化振興と知的文化保護については一定程度盛り込まれているが、それ以外は接点はない。

国有地の資源利用や鮭の漁業権の設定について法律案では山林での採集や鮭狩猟に関する項目が含まれてはいる。資源権に対応しているかのように思う人もいるかも知れないが、法律案の文言にはアイヌに関する権利ではなく特別措置となっている。それは中央政府や地方自治が「配慮する」となっている。それも生活のためではなく伝統技師式継承のためとなっている。しかし、先住民族の権利に関する国連宣言(2007)26条には、先住民族には土地や資源を有する権利があると書かれている。アイヌが有するはずの権利を「行政が配慮する」とはいったい何事か。

ここでこの法律案の根本的な問題に触れる。この法案には先住民族が有する「先住権」という言葉はひとつもない。「権利」という言葉は4回出てくる。第1章第4条に国民一般の権利について触れ、第1章18条に商標登録により生じる権利、第1章第16条には林産物の採取の権利。しかし、16条は「認定市町村の住民」がアイヌであるかどうかは不特定だし、いちいち農林水産大臣に認可を得なければならないところから考えると、権利とは言えない。実は、この法案の中でしばしば出てくるのが「管理」という言葉だ。「権利」の4回に比べ、「管理」は25回も使われている。これはアイヌの権利に関するものではなく、アイヌの管理に関する法律だ。

参考:推進会議記録(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/seisakusuishin/dai34/gijigaiyou.pdf)

皆さんに紹介したく途中から、テープ起こしのような文になりました。まだ、続きがありますので後日UPします。なお、当日のアイヌ民族の皆さんからの発言はYouTubeにUPされていますので、コタンの会のフェイスブックからご覧ください。

コタンの会

https://www.facebook.com/kotannokai/?__tn__=kC-R&eid=ARCEyGN7rp7xxOQ63dFheDP2XHijec4JMdRy-A1-DCgG3KcYn-Io_mPx3P6jlfRROyM1Jwl_Df263ONs&hc_ref=ARQ6_fp-Lyr594p3p1XmlEctKzhtNOx0IlwX7vglACDLSfXJYMMeGamnNDuOwAOrg7I&fref=nf

当日の資料(500円)