アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

ニュース2つと学習会2つ 

2011-02-21 03:44:30 | インポート
まずは二つのアイヌ民族関連記事を紹介します。

枝野氏 空から北方四島視察 (北海道新聞 02/20 12:43)
 【根室】枝野幸男官房長官兼沖縄北方担当相は19日、海上保安庁の航空機で北方領土を上空から視察した。現職官房長官の視察は初めて。枝野氏は視察後、ロシア閣僚の相次ぐ領土訪問について記者団に「わが国の法的、歴史的立場は揺らがない。静かな環境の中で領土交渉が進む努力をロシアに呼び掛ける」と述べ、冷静に領土交渉に続ける考えを示した。
 枝野氏は同日午後に道内入りし、日本側上空から国後島や水晶島などを視察。機中では「思った以上に近い。この近さを国民のみんなが知れば、この問題に対する関心は大きくなる」と語った。
 枝野氏は視察後、根室市内の北方四島交流センターで元島民や領土返還運動関係者と意見交換。千島歯舞諸島居住者連盟の小泉敏夫理事長は「領土問題はいまだ解決の兆しすら見えず、焦燥は募るばかりだ」と交渉の進展を政府に求めた。枝野氏は20日に納沙布岬から再び北方領土を視察した後、胆振管内白老町のアイヌ民族博物館を視察し、東京に戻る。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/politics/273833.html

アイヌ関連施設を視察=官房長官 (jiji.com 2011/02/20-18:16)
 枝野幸男官房長官は20日午後、北海道白老町のアイヌ民族博物館を視察し、アイヌ関連団体から民族共生政策を一層推進するよう要望を受けた。枝野長官は視察後、記者団に「素晴らしい伝統と文化の一端に触れさせてもらった。しっかり継承されていくことに(政府が)役割を果たさなければいけない」と語った。
 枝野長官は同博物館内でアイヌ伝統の舞踊などを見学。北海道選出の鳩山由紀夫前首相も同行した。
 枝野長官は同日午前、根室市の納沙布岬を訪れ、北方領土視察に臨んだが、雪が降る悪天候で島影は見えなかった。
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011022000157


現職官房長官の視察は初めてとのこと。別の記事には、枝野官房長官は視察にあたって
 「島民の皆さんの思いをしっかり受けとめさせて頂いて、いろいろなルートで私の方から、この問題を国民全体の共有の課題であるということを高めていきたい」と話した。
 また、アイヌ政策を担当する官房長官としてアイヌ民族博物館を視察し、地元関係者から意見を聞く、とした。(news.searchina 2011/02/19(土) 12:26) http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=0219&f=politics_0219_006.shtml

とありますが、「島民の皆さん」の中にはアイヌ民族は入っているのでしょうか。
アイヌ政策を担当する立場で、アイヌ民族の視点から、クリル諸島の問題を扱ってほしいものです。
いずれの記事も、先住民族関連ニュースblogにストックしています。→ http://blog.goo.ne.jp/ivelove/
この活動日誌blogが月報状態ですが、ニュースストックは地道に続けています。



バンクーバ空港内の先住民族関連モニュメント(10種ほど飾られていました)


今週末に行われる二つの学習会のご案内です。

WIN-AINU学習会
日 時  2月25日 午後6:30より
会 場  Lプラザ2階「環境研修室2」
講 師  本田優子さん
テーマ  ウレシパ・プロジェクトの現状と課題
参加費 無料(試料代 500円)

※ 3月は佐々木利和さんが語られる予定との情報が入っています。
佐々木さんは「民族共生の象徴となる空間」作業部会の部会長。いろいろと疑問に思っている議事内容も説明して頂けるでしょうか。


札幌女性史研究会公開講座-時代を生きた女たち-母・知里ナミと娘・幸恵の足跡を辿る
○日時:2011年2月26日(土)13時00分~15時40分○知里ナミの足跡を辿る-元バイブルウーマン金成サロメ、知里姉弟の母として
  報告:中村一枝(札幌女性史研究会員)
○伯母・知里幸恵と「記念館」を語る
  ゲスト:横山むつみさん(登別市内「知里幸恵 銀のしずく記念館」館長)
○会場:札幌エルプラザ公共施設 2階 会議室1・2 定員:50人
○参加費:500円(『女性史研究ほっかいどう4号』を資料として含む)
○申し込み:2月21日(月)までにおねがいします。
○申込み先:札幌市男女共同参画センター事務係  電話:011-728-1255

たいへん興味があります。仲間の牧師から『女性史研究ほっかいどう4号』は頂いていたので、いつかお話を伺いたいと願っていました。楽しみにしています。



バンクーバのMuseam of Anthropolgyの展示品
そうとう大きい博物館でした。 


民族共生の空間作業部会10回「議事概要」を読んで

2011-02-19 12:20:10 | インポート
アイヌ民族に対する新たな施策の確立に向けた取組みはすすんでいるのでしょうか。

1月27日に開催された第10回『民族共生の象徴となる空間作業部会』の「議事概要」がUPされていました。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/kaisai.html


いつもこの「概要」を読んで感じるのですが、内容がわからなすぎるのです。これでは開かれた会議とはいえませんね。
今回も、「海外事例等について」、小谷 凱宣(名古屋大学名誉教授)さんが「アメリカ合衆国における対インディアン政策について」、国土交通省北海道局が「フィンランドにおけるサーミ文化等関連主要施策について」語ったのだろうと推測しか出来ない書き方がされていて、何をどう議論したのか分かりません。
しかも、小谷さんは過去ブログにも書きましたが、海外のアイヌ資料に関する研究をされている方のはずですし、国土交通省北海道局がサーミ施策を発題したとは、いったいどんな議事進行だったか、是非とも教えて頂きたいです。

次の記述には「佐々木部会長の若手・中堅アイヌとの意見交換会報告」とあります。
若手・中堅アイヌとはどなたなのか、どのような「具体機能のあり方について」話し合ったのでしょう。

その後も、読み進めば読むほど、内容がまったく通じずに、知りたい内容がベールに包まれていることの苛立ちを感じる内容になっています。
もしや議論ではなく、ブレーン・ストーミングをしているだけ? そうであるならば「議事」録ではなく、協議会をしたと書くほうがいいですね。みなさんもどうぞご確認下さい。これではUPする意味がないです。


【研究】の項でも、発言者の記載がないため、どう捉えたらいいのかも分かりませんが、二つの発言記録に疑問を記載しておきます。
○アイヌの人骨に関しては研究が進んでいない。アイヌ協会としては、遺跡発掘からの人骨を中心に研究に使用してもよいとしている。
○きちんと供養できるならば、アイヌ協会としては国民の理解のために研究に使用することは認めている。相互理解のもと、研究成果が明らかになっていないから誤解が生まれる。

→「アイヌ協会としては」とあるので、協会の総意ととっていいのでしょうか。「遺跡発掘からの人骨」とはどういったものでしょう。たとえば、児玉作左衛門は自ら掘ったアイヌ墓地を「遺跡」と呼びましたが、実際は埋葬されて2~30年しか経っていない場合もあるのです(植木哲也著「学問の暴力」P210ff)。
アイヌ協会は北大「アイヌ納骨堂」に納められているそれらの遺骨も「遺跡発掘」の人骨と理解しているということでしょうか。
また、たとえアイヌ協会の総意として研究使用許可をだしたとして、アイヌ協会以外のたくさんのアイヌ民族関連団体・個人の思いはどうなのでしょう。

ところで、納骨堂の遺骨は、その後まったく研究材料にされていないのでしょうか。



その他も引っかかる内容が出てきます。

○これまでアイヌは、研究される対象として扱われてきたこともあり、自然人類学研究そのものに対する不信感があった。
→誰がどの立場から語ったのでしょう。過去形で述べられていますがいいのでしょうか。

○「人材育成は卒業後の進路とセットの問題。白老イオルでの伝承者育成事業の卒業生数名程度の進路にも困っている状況も踏まえる必要。」
→ということは、三年をかけて研修を積んだ「担い手育成」の方たちの卒業後の進路は全く考えずにいたということでしょうか。 

○研究を行ったり、技術を習得したり、議論したりと色々なものを生んでいく場であってほしい。
○職業訓練と販売促進をつなぎ合わせていく必要。象徴空間内の教材をもとに技術を修得し、ショップで販売するなど。

→研究、伝統継承、販売に加えて「慰霊」の空間を目指しているということですね。「慰霊」と研究や販売がわたしには一緒にできないように感じますが、どうなっていくのでしょう。

○先の有識者懇談会報告で記載されている「精神文化の尊重という観点」の意味を改めて検討してみる必要。実際に人骨が収集・発掘されたことのみにキーがあるのでなく、国としてアイヌの精神文化を尊重するという意味で、責任の主体は国にあること。また、慰霊についてどういう方法が精神文化の尊重に結びつくかという点も併せて検討する必要。
→いつも腑に落ちないのですが、慰霊について真剣に考えるほど慰霊以前の謝罪に関する意見がでるべきだと思います。
過去には国策として発掘した人骨を研究材料にしただけではなく人体研究も行い、アイヌ「尊重」とはかけ離れた扱いをしてきているのです。そのことをまず謝罪するのが始まりだとおもうのですが。
1934年7月に永井潜を委員長として、解剖学部・生理学部・衛生学部・病理学部・内科学部・精神病学部の七部門を擁する調査団が組織され、平取で調査が行われました。その際、日本民族衛生学会は「活きた材料による優性的研究の結果は吾等文化民族の将来の発展進化の上に大きな波紋を画かしむべき他山の石であり、警世的炬火を投ずるものでなくして何であろう」と述べています。アイヌの人々を「活きた」優生的研究「材料」にしたことが評価されているのです(藤野豊著「日本ファシズムと優生思想」参考)。
研究と精神文化の尊重の結びつきも十分論議して頂きたいです。

○慰霊・納骨の問題は、アイヌの人たちのために何が最も正しいのかを考えることが根本にある。
○研究資料とする場合、モノではなく人間の一部として尊厳を持って扱う必要がある。
○慰霊施設は、博物館から離れたところに置くことが肝要。

→その通りだと思います。アイヌ民族の意見を傾聴することを望みます。

○海外におけるアイヌ人骨の状況は整理されているのか。
→どうなのでしょう? 数ヶ月前に○大の数名が海外に調査派遣されたような話を伺いましたが、この議場では扱われていないのでしょうか。「整理されているのか」という議事録もないと思うのですが。



11月にシンポ「植民地主義とキリスト教」に参加のため沖縄に行った際に、公設市場で撮った豚さんと魚


地域セミナーin紋別 報告その2

2011-02-12 09:06:01 | インポート
2月4日(金)より5日(土)まで行われた「ESD(持続可能な開発のための教育) 地域セミナーin紋別 地域で学ぶ、未来を学ぶ~地域の歴史・文化・環境とアイヌ民族~」報告の続きです。

二日目は第二部「実践・課題の共有とプログラムづくり」で、午前中は地域のアイヌ民族について学ぼうと、畠山敏さん(北海道アイヌ協会紋別支部長)のお話がありました。また、今年度、実際にアイヌ民族に関する授業を小中学校で行われた 増地行雄さん(紋別市立潮見小学校教員)と、藤田洋平さん(紋別市立潮見中学校教員)の報告がありました。

現在は海浜公園となっているモベツ川河口にあったモベツコタンに生まれ、のちに漁師となった畠山さんのライフストーリーを伺いました。子どものころからひどい差別を受け、中学2年から学校に行けなくなった畠山さんが公に自らをアイヌとして名乗り、生きるようになったのは50歳半ばからだった、と。
現在、異議を唱えているモベツ川上流に建設中の「産業廃棄物最終処分場」問題や畠山さんに関しては、ドキュメンタリー映画「アメリカばんざい」の藤本幸久監督らが4月から紋別入りして映画を撮りはじめるとのことですので(2010/11/4 blog参照)、完成を楽しみにしています。
(先日、留萌9条の会で藤本監督の映画制作に関わった影山あさ子さんをお招きしての講演会&映画会を持ちましたので、少し情報を頂きました)。
産廃最終処分場への抗議情報はモベツサンクチュアリーblogに詳しく書かれています。
http://mopetsanctuary.blogspot.com/

学校には、アイヌ協会紋別支部後援会会長の鷲頭幹夫さんとお二人で行かれたとの事。小学校は5年生、中学校は3年生が畠山さんらのお話に真剣に耳を傾けていたという報告がありました。こどもたちの感想文の紹介もありました。 「畠山さんが自分からアイヌ人だといったことはびっくりしました」 「はじめて知ったことがたくさんありました」 「一番心に残ったのは人種差別の事です・・・私も努力して差別の様な事を無くしたいです」等々、畠山さんらも「思い切って行ってよかった」と感想を書いておられました。

過去blogに北教組が作った「アイヌ民族の学習」を薦めるための指針の紹介を書きました(2010/9/27)。
各学年の社会科や地理、歴史の各社の教科書にどれほどアイヌに関する記述があるかも表にされ、評価と課題も示されています。たとえば中学・公民の項では
「歴史的な差別の実態を押さえるだけでなく、現在も残る差別や偏見にもふれることが必要である。その際には、北海道が実施した「ウタリ生活実態調査(06年度版)」や北海道大学アイヌ・先住民研究センターが実施した「北海道大学アイヌ民族生活実態調査(08年度版)」の結果がインターネット上で公開されており、(略)活用していただきたい」
と。道が実施した「生活実態調査」の大きな誤記は「正誤表」が出ていますね。
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/NR/rdonlyres/760B9B59-2006-42C8-8B56-C8B1C19A7DE9/0/chousa_seigo2.pdf

生活意識の項で数字が逆に書かれており、「豊かである」が本来は0,3だったのに29,7と99倍にもなっていたのですから、大変なことです。
ところで、北大の調査は道の「生活実態調査」を参考にしているはずですが、気づかなかったのでしょうか。

午後の部「未来への学びをつくりだそう 課題の共有~地域と学校との連携に向けて」は、翌日に備えて早めに帰ったため、参加できませんでした。さっぽろ自由学校“遊”からの報告を待ちたいと思います。地域と学校とが連携して具体的なプログラムを作り出せていけたらいいと思います。

質疑の中で、紋別のアイヌ民族の人口数について、おおよそ4~500人と畠山さんが答えられました。「でも、自分の親戚の多くはアイヌを隠している」と。隠さざるを得ないほど差別は続いているのです。



バンクーバ空港内に設置されている先住民族のモニュメントのひとつ。たくさんありました。
空港はいわばその国の玄関口。そこに、先住民族を意識しているというのは大切なことと感じました。
少なくとも道内の空港にはアイヌ民族のモニュメントを多く取り入れて、お客さんをお迎えできたらいいですね。

昨夜は独立学園高校の北海道ブロック同窓会があったのですが欠席。こちらで2・11思想・信教の自由を守る集会を少人数でしたが行いました。土井敏邦監督の映画「“私”を生きる」を一部を鑑賞しました。


旭川冬まつりからアイヌ古式舞踊がなくなったなんて

2011-02-11 11:33:03 | インポート
2月8日より開催された第52回旭川冬まつり。
まつりは会場も複数で多くのイヴェントが行われ、環境客を含む多くの人たちでにぎわいます。
恒例のこととしてわたしも楽しみにしていたイヴェントを今回も観たいと探すべくインターネットで調べました。
勿論、旭川チカップニ・アイヌ民族文化保存会の「アイヌ古式舞踊」。

毎年、楽しみ行っているのですが、実は、昨年は会場を間違えて、少々遅れてしまったのです(2010/2/12 blog)。
そのため、今回こそは、と調べたところ・・・どこを探してもない!
http://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/files/kankou/awf/

どうしてかを川村カ子トアイヌ記念館の川村館長に伺いに行きました。
市は「業者に任せているから」とのことらしく、市からは何の連絡もはいらなかったそうです。
半世紀にわたって定着していたものを一方的にやめてしまうとは驚きです。

しかも、この祭そのものが1947(昭和22)年にアイヌの祭り「イヨマンテ」の開催が始まりだったはず。
道外からも多くが観に来るお祭りですから必要だと思います。

このブログにも何度か書きましたが、故三浦綾子さんが小説「氷点」で冬まつりを観に行く下りがあり、長年、スクリーンにもこのカットはアイヌ民族の直々の出演をして頂いている場面なのです。
たとえば、1966年の映画「氷点」(若尾文子・船越英二出演)にカ子トさんが、現館長も2001年のドラマ「氷点2001」(浅野ゆう子・末永遙出演)に出演。
現館長の時はまつりの時期ではなかったためにわざわざまつりの舞台をセットして撮影したそうです。



今年の札幌雪祭の雪像です。

ニュースでは中国や台湾からのお客さんが旧正月と重なったために数十パーセント増とのこと。
札幌の雪祭りにも最初の頃はまだ札幌には保存会が出来ていなかったため、旭川の皆さんが踊りに出向いていたことも伺いました。いつの頃から出番がなくなったのでしょう。6月のヨサコイでは踊っておられるようですが。

アイヌ民族に対する新たな施策の確立に向けた取り組みが行われている中、アイヌ民族への理解を広めるためにもこのようなイヴェントを大切にしていくことを望みます。


CBDCOP10の成果

2011-02-09 11:51:07 | インポート

活動日誌ならず、月報状態ですが、今回は少々長いです。
2月4~5日に行われた「ESD(持続可能な開発のための教育) 地域セミナーin紋別 地域で学ぶ、未来を学ぶ~地域の歴史・文化・環境とアイヌ民族~」に参加してきました。
教育と先住民族、そして、持続可能な開発のための教育がテーマとなって、昨年もそうだったようですが、学校教師の皆さんが多く来られていました。

一日目の講演は北海道アイヌ協会副理事長・副読本編集委員長の阿部ユポさんより、「副読本『アイヌ民族:歴史と現在』を活用するために」の講演。
副読本の小学生用、中学生用「アイヌ民族・歴史と現在~未来を共に生きるために」と、教師用副読本が配布され、歪曲され、隠された歴史をしっかりと伝えることの必要性を訴えられました。



お二人目は上村英明さん(市民外交センター代表・恵泉女学園大学教授)より、「先住民族の権利宣言と生物多様性」の講演。

最初に国際環境法と人権についての歴史を分かりやすく解説して下さいました。
1972年にストックホルムで国連人間環境会議が開催され、有機水銀などを原因とした公害病(水俣病)などが国際化。これによって環境問題と人権の関係が明白化。
20年後の1992年、リオデジャネイロにて国連環境開発会議が開催。「環境と開発に関するリオデジャネイロ宣言」(リオ宣言)採択。ここで「持続可能な開発」という概念が確立され、環境問題は皆の努力が必要だという考えにいたった(逆に、誰が問題かがあやふやになってしまった)。
この会議で国際的に重要な以下の二つの環境条約が採択。
1.気候変動枠組み条約(UNFCCC)。地球環境の悪化を温暖化=CO2を中心とする温室効果ガスの排出量の増加で測る条約。石油文明と大量消費社会からの脱却を考えるもの。
2.生物多様性条約(CBD)。地球環境の悪化を生物多様性(「生態系」、「種」、「遺伝子」)の減少で測る条約。生命の重視・大規模開発主義の否定するもの。


2のCBDの特徴は以下の3つ。
(外務省のHPにも明記→ http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/bio.html)
①生物多様性の保全
②生物多様性の構成要素の持続可能な利用
③遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分


日本では、①しかイメージない。すなわち、希少な動物・植物を保護する程度(あるいは山から下りてきた鹿や熊・猿対策)。
②は自然を持続可能な利用してきた人々(先住民族)を守らなければ環境は守れないことなのだということ。
③は大航海時代まで戻って利益を考え直せというもの。コロンブスが持ってきたジャガイモを品種改良した。奪ってきたもので豊かになったのだからその利益の衡平な配分が必要だとするもの。
たとえば、タミフルはネパールなどに生息している植物ハッカクを先住民族が利用していたのをアメリカが開発。また、インフルエンザのワクチンは熱帯雨林に住む先住民族の人体実験による犠牲によって作られているが、薬は高額のため先住民族には恩恵が得られない状態などの改善。
②、③を解決するには人間対策が必要との考えの下で、CBDでは先住民族の権利(人権)について第8条J項と第10条C項が入ったとのこと。
CBD第8条J項
「自国の国内法令に従い、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関連する伝統的な生活様式を有する先住民族・地域共同体の知識、工夫、及び慣行を尊重し、保存し及び維持する適用を促進すること並びにそれらの利用がもたらす利益の平衡な配分を奨励すること。

第10条(生物多様性の構成要素の持続可能な利用)C項
「保全又は持続可能な利用の要請と両立する伝統的な文化的慣行に沿った生物資源の利用慣行を保護し及び奨励すること。」




2010年10月18日~29日に名古屋で開催されたCBDCOP10では世界各地から150名を超える先住民族が参加し、以下を含む47の成果文書を採択。
①ABS議定書(名古屋議定書)
②新戦略計画2011・2020(愛知ターゲット)


①の名古屋議定書では、前文27段落中4段落、本文36条中11条にて先住民族の権利に関して言及(上村訳 注:草案ゆえ番号が変わる可能性あり)
第5条:公正で衡平な利益配分
2.締約国は、先住民族・地域共同体によって保有される遺伝資源の利用から生じる利益が、これら遺伝資源に関する先住民族・地域共同体の確立された権利に関する国内法規に従い、相互に合意された条件に基づき、当該共同体と公正かつ衡平な方法で配分されることを目的に、適切な場合には、法的、制度的あるいは政策的措置を取る。

第6条:遺伝資源へのアクセス
2.国内法に従い、各締約国は、先住民族・地域共同体の事前で十分な情報に基づく合意や承認および参加を、彼らがこうした資源へのアクセスを認可する確立された権利を保有しているところでは、遺伝資源へのアクセスのために確保することを目的に、適切な場合には、法的、制度的あるいは政策的措置を取る。


愛知ターゲットでは 20の目標の内、2つの目標で言及。
戦略目標D:生物多様性および生態系サービスからの利益をすべての人へ
ターゲット14: 2020年までに、水に関するサービスや健康、生活、福祉に貢献するサービスを含め、基本的なサービスを提供する生態系は、女性、先住民族・地域共同体、貧困者および弱者のニーズを考慮しながら、回復され、保全される。

戦略目標E:参加による計画策定、知識管理、および能力強化を通した実施
ターゲット18: 2020年までに、生物多様性の保護や持続的な利用および生物資源の慣習的使用に関連した、先住民族・地域共同体の伝統的知識、革新および慣行は、国内法規と関連する国際義務に従って、尊重され、かつ、すべての関連レベルにおける先住民族・地域共同体の完全で効果的な参加の下に、本条約の実施に完全に統合され、反映される。


かなり多くの制限はついたが、先住民族が遺伝資源の利益配分の主体として認められたことや、「先住民族・地域共同体の完全で効果的な参加」が明記されたことは大きな成果だと。確かにすごいことですね。先住民族サミットの前半だけ参加のために名古屋に行きましたが、そこでこのような進歩があったとは・・・。
さらに、これらを進展させていければ、モベツ川上流の産廃施設問題にもつながるし、アイヌ民族の権利回復にもつながる、と上村さんは言及。たとえば、

①日本政府は2007年に「第3次生物多様性国家戦略」を策定したが、アイヌ民族どころか先住民族に関しての言及がないため、早急に改定が必要。  
   http://www.env.go.jp/nature/biodic/nbsap3/pdf/mainbody.pdf
②2008年6月制定された「生物多様性基本法」にもアイヌ民族あるいは先住民族に関しての言及がないため、早急に改定が必要。
   http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H20/H20HO058.html
③2011年1月より環境省による「生物多様性保全活動促進法」制定準備のためのヒアリングが行われているが、要注目。 
   http://www.env.go.jp/nature/satoyama/conf_pu/22_03/3_shiryou2-2.pdf
④2010年7月につくられた「北海道生物多様性保全計画」(全65頁)には、15行分に「アイヌ民族の自然観に学ぶ」と明記されているが、その具体的な計画が全くない。具体化が必要。
   http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/hokkaidotayousei.htm (9頁目)


等々、取り組むべきことが多くありますね。
世界レベルで先住民族の権利について法制化されたのですから、議長国である日本政府もしっかりと取り組む必要があります。わたしたちも注目し、主張していかなければなりませんね。大変、勉強になりましたし、力を頂きました。


紋別でガリンコ号Ⅱに乗り、流氷を観て来ました