花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「風景文様」について

2012-06-14 | 文様について

presented by hanamura ginza


6 月も半ばとなり、
いよいよ東京でも梅雨入りとなりました。
雨の中、道を行き交う人々のさす色とりどりの傘が
雨雲の下でまるで紫陽花のように花開いています。

雨が降ると、お出かけするのがおっくうになってしまいますが、
雨だからこそ映える美しい景色もありますね。

梅雨の時期に咲く紫陽花や菖蒲は、
雨に濡れた方が色合いが艶やかで、美しく感じられますし、
日本庭園の苔むした庭も、
水分を含んで緑色に深みが加わり、神秘的な雰囲気です。

江戸時代につくられた浮世絵にも、
雨を叙情的にを描いたものが多くあります。

とくに雨の情景描写に優れているといわれる歌川広重の作品のうち、
雨の降る坂道を早足で行きかう人々を描いた『東海道五十三次』の「庄野」、
突然の夕立に橋の上をあわてて行き過ぎようとする人々を描いた
『名所江戸百景』の「大はしあたけの夕立」
などは傑作とされ、海外でも高い評価を得ています。

このような雨のふる景色を叙情的にあらわした作品からは、
単純に風景をあらわしたものにはない、
侘び寂びなどの風情や情感が感じられます。

一方で、景色をわかりやすく、
俯瞰図のようにとらえて描きあらわした風景画も
古くからつくられてきました。

そのような風景画の多くは「屏風絵」として描かれ、
安土桃山時代から江戸時代にかけては数多くつくられました。
そのほとんどが、時の権力者たちの調度品としてつくられていましたが
権力者たちは自らの治める街が描かれた屏風絵を眺め、
自らの権勢を確認していたのかもしれません。

風景を描いた屏風絵のなかでも、
当時とくに人気が高かったものに、
都であった京の市街(洛中)と郊外(洛外)をあらわした
『洛中洛外図』があります。

『洛中洛外図』は、その時代に活躍した多くの絵師によってさまざまに描かれ、
なかでも、安土桃山時代に狩野永徳が描いた屏風絵は名品といわれ、
現在では国宝になっています。

狩野永徳の『洛中洛外図』では、
屏風の画面いっぱいに金色の雲がたなびき、
その雲の間からのぞき見える京の都の風景と、
そこに暮らす人々の姿が丹念に描かれています。
その絵の中に登場する人物は、2500 人にものぼるようですが、
ひとりひとりの表情や仕草などが緻密に描かれ、
当時の人々の営みを今に伝える貴重な資料にもなっています。

江戸時代になり、庶民の間でも旅行が盛んに行われるようになると、
『洛中洛外図』のように各地の風景を俯瞰であらわした作品が人気となり、
近江国の名所をあらわした『近江八景』のような風景画も多くつくられました。

江戸時代中期には、小袖の意匠にもこうした風景画があらわされるようになり、
旅行の流行とともに、風流な意匠として人気を博しました。

上の写真の名古屋帯は、
京の名所をあらわした生紬地から名古屋帯にお仕立て替えしたものです。
大文字山や、京都御所、金閣寺などの京の名所が墨描きでさらりと描かれた図からは、
風流な雰囲気が感じられるとともに、
京の街並みを空から眺めたような気持ちが湧き上がります。

昔の人々も、雨降りの日には
このような風景画を眺めながら、
家の中で梅雨明けに旅へ出る夢を
ふくらませていたこともあったのではないでしょうか。

梅雨が明ければ、夏本番ですね。
「雨に唄えば」を口ずさみながら、
しばし、雨の景色を楽しみたいですね。

※上の写真の「京名所文様 墨描き 生紬 名古屋帯 」は 6 月 15 日(金)に花邑銀座店でご紹介予定の商品です。

花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 6 月 21 日(木)予定です。

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