花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

帯仕立ての道具 -糸-

2008-03-18 | 帯仕立ての道具

presented by hanamura


「糸について」

まわりを見渡すと、いろいろな「もの」が「糸」によって
結び合わされていますね。
そしてその「糸」をよくみると、
「糸」の太さや素材にはそれぞれ違いがあることが分かります。

「糸」となる原料には、木綿や絹、麻などが用いられています。
この原料の違いで「糸」の素材感は変わります。
また同じ原料の「糸」でも、糸にする段階や行程が違うと
太さや性質さえも変わってくるのです。
そのため、ひとつひとつの「糸」がもつ性質を考え、
結び合わせる「もの」に適した「糸」を選びだすことが大事です。

帯の仕立てにおいてもそれは同じです。
縫い合わせる布やその作業に合わせた糸を厳選して使っています。



帯の仕立てに「地縫い」と呼ぶ作業があります。
「地縫い」とは、帯反と帯反を合わせて縫うことです。
そしてこの「地縫い」の作業には、手縫い用の「絹糸」を用います。

「絹糸」は、みなさんご存じのとおり、
蚕(カイコ)がつくった繭(マユ)を原料としています。
繭から繰り出された糸は、5本から10本に合わされ、
「生糸(きいと)」と呼ばれるものになります。
「生糸」は「セリシン」という、糊のようなタンパク質に覆われています。
「セリシン」を精錬※して取り除いたものは「練糸(ねりいと)」となります。
お店で販売されている「絹糸」の多くはこの「練糸」です。
そして「地縫い」のときに使う「絹糸」も「練糸」です。

また、糸にかける撚り(より)※の回数やその方法によっても、
糸の太さや強さは変わります。
「地縫い」に用いる「絹糸」を撚る方法は、
「諸撚り(もろより)」というものです。
2本の糸を撚り合わせ、また撚りを戻すという作業をくり返しながら
糸を撚っていくのです。
「諸撚り」がかけられた「絹糸」は丈夫で、強いものになります。
また滑りもよいため、帯反を縫う「糸」には最適なものです。

また、この「地縫い」をする前には、
あらかじめ「しろも」と呼ばれる木綿糸で、帯反と帯反を仮止めしておきます。
この「木綿糸」は「綿花」の種子からとれる繊維を原料としています。
「しろも」とは、なんだか可愛らしい呼び名ですが、
「白い木綿糸」の略語なのです。
この「しろも」は撚りの甘い、太めの木綿糸で、
「仕付け」のための糸として用いられています。
「仕付け」とは「本縫い」の前に、布を押さえ止めることです。
あらかじめ「仕付け」をすることにより
「地縫い」のときに布がよれることなく、きれいに縫うことができます。

この「仕付け」に用いる「しろも」は
滑りにくい性質をもっています。
そのため、布をきちんと押さえることができるので
「仕付け」用の糸にはぴったりなのです。

また、帯反と帯芯を綴じるときには「シャッペスパン」という糸を用います。
「シャッペスパン」とは、特殊な方法でつくられたポリエステルの「糸」のことです。
細くて、丈夫で縮むことがなく、適度な伸びがある「シャッペスパン」は
絹や木綿にも馴染みがよいので、帯反と帯芯を綴じるときには最適な糸です。

しかし、祖母が帯の仕立てをしていた50年から60年前には
帯反と帯芯の綴じには、「そだい糸」いう絹糸が用いられていました。
この「そだい糸」とは、蚕が吐き出す糸を精錬せずに
そのまま何本かにまとめたものだったようです。
この「そだい糸」はとても丈夫な「糸」でした。
また、丈夫でありながらも
帯が仕立てあがったときに糸の「あたり」がつくことのない、
細いものだったようです。

しかし、その当時でさえも特殊なものだった「そだい糸」は、
だんだん手に入らなくなっていったようです。
そして30年ほど前には、ついにこの「そだい糸」を
使うことができなくなってしまいました。
現在では、もうその名前さえもめったに聞くことはないでしょう。

そのため、母はその代わりとなる「糸」を、
探しださなくてはなりませんでした。
そして選びだした「糸」が、現在用いている「シャッペスパン」なのです。
「そだい糸」のように細くて丈夫な「シャッペスパン」は、
素材こそ違いますが、「そだい糸」の代わりとしての役割を充分に果たしています。

「もの」と「もの」とを結び合わせる糸。
しかし「糸」はその「もの」によって選ばれてこそ、
「結び合わす」という機能を最大限に発揮できるのです。

※精錬 …… 「セリシン」を石鹸や炭酸ナトリウムの薄い溶液で煮て取り除くこと。

※撚り …… 「糸」をねじり合わせること。


花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は3月25日(火)予定です。


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