presented by hanamura
ここ東京では先日雪が降り、
冬に戻ってしまったような寒い日となりましたが、
その雪も積もることなく、
暖かな陽射しがもどってきました。
木の上には小鳥たちがにぎやかにさえずり、
若葉もすこしずつ芽をだしはじめています。
いのち芽吹く季節の到来ですね。
花邑銀座店では、ただいま「花の帯展」を開催しています。
季節を彩るさまざまな草花をモチーフにした帯を数多く揃えて
皆さまのご来店をお待ちしております。
今回は、「花の帯展」でご紹介しているお品の中から、
杜若の文様についてお話ししましょう。
杜若は5月~6月中旬ぐらいの初夏に咲く花です。
ちょうどこの時期に芽をだして、
春の陽射しを浴びながら育ちます。
その開花時期は短いのですが、
水辺にすっと咲き並ぶ美しいその姿は、
古来より日本人に愛でられ、
杜若を題材にした多くの和歌や絵画などの作品がつくられてきました。
その中でも、平安時代のはじめにつくられた
「伊勢物語」の場面に登場する杜若の描写はたいへん有名です。
都にて身分の異なる女性に恋し、破れた男が
仲間とともに新天地を求めて東国へ下る旅の途中で、
三河の国にある八橋の沢を通ると
杜若が咲き誇るようにいたるところで花を広げていました。
男は、その美しい光景を目にして、
旅愁にかられ、遠く離れた都を懐かしみ、
「唐衣着つつなれにし妻しあれば
はるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」
(着馴れた唐衣のように添い馴れた妻が都にいるからこそ、
はるばるきた旅路に思いを馳せる。)
と詠います。
この和歌は、
か 唐衣
き 着つつなれにし
つ 妻しあれば
ば はるばる来ぬる
た 旅をしぞ思ふ
というように、「折句(おりく)」という言葉遊びにもなっています。
杜若が咲く美しい情景があったからこそつくられたこの和歌は、
「伊勢物語」の中でもとくに人気が高く、
古代の人々は、杜若といえば「伊勢物語」の八橋の場面を連想しました。
そのためか、着物や帯の意匠となる杜若文様には、
「伊勢物語」の八橋の場面をあらわしたものが多くつくられています。
さらに、江戸時代に活躍した尾形光琳が
「伊勢物語」の場面をあらわした
「燕子花(かきつばた)図屏風」を手がけたことで、
杜若と伊勢物語は一体で語られることが多くなりました。
「燕子花図屏風」は
尾形光琳の代表作ともいわれ、
その図案はのちに、杜若を意匠にあらわすときの
お手本ともなりました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/5f/33e9c727e5c2a5c717448c826934658c.jpg)
上の写真は杜若を辻が花であらわしたものです。
杜若が咲き誇る様をシンプルにあらわしたものですが、
奥行きを感じさせる図案は、
まさに尾形光琳の「燕子花図屏風」を思わせます。
ところで、
「いずれ菖蒲(あやめ)か杜若」というフレーズを
皆さんも一度は聞いたことがあることでしょう。
菖蒲と杜若のように、どちらも似たように美しく、
劣らぬ美しさを表現したものです。
このフレーズにあるように、
菖蒲(あやめ)は杜若に非常によく似た花で、
一見すると見分けがつきません。
しかし、よくみると菖蒲の花びらには黄色や白い筋が何本も入っていますが、
杜若の花びらには黄色、もしくは白い筋が一本入っているのみです。
杜若の文様では、時折菖蒲のようにみえるものもありますが、
それでも「伊勢物語」を踏まえて、
「杜若文様」と呼びます。
伝統文様の中には、
物語の場面をあらわしたものも少なくないのですが、
杜若文様はまさにその代表格ともいえるのでしょう。
※写真のお着物は花邑 銀座店にてご紹介しています。
花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
3月16日(水)はお休みさせていただきます。
次回の更新は3月23日(水)の予定です。
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