ヌマンタの書斎

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相続税の増収

2012-07-13 15:24:00 | 経済・金融・税制

消費税の増税は、ほぼ確定といって良いが、気になるのが相続税の増税だった。

ところがだ、消費税の増税法案は衆議院を通過したのに、またしても相続税の増税は先送りとされた。たしか継続審議なので、再び国会に提出される可能性はある。まァ、増税を望んでいるわけではないので、とりあえず一安心した。

しかし、今回で二度目の先送りだ。目立った反対運動があるわけでもないのに、何故に二度も先送りされたのか私には不思議に思えてならなかった。そんな矢先、妙な情報を聞いた。なんと23年度の相続税の納付が前年を上回っているらしい。だから今国会での先送りを了承したのだろうか。

通常、相続税の納税が増える要因は、土地と株価の高騰だ。そしてご存知のとおり、日本経済は低能・民主党政権のもとで迷走を続けている。不動産取引は低調であり、空き室、空き家が目立つほど。株価については、多少の変動はあるものの、全体としては低迷しており、売買高も低調だ。

こんな状況下で相続税の納付が増えるなんて、普通では考えられない。しかし、実際に納付額は増えている。なぜか?

実は増税こそされていないが、実質的な増税が平成21年にされている。何かというと、「小規模宅地の減額特例」の適用の厳格化だ。

これは、生活の拠点である土地を時価評価して、そのまま課税してしまうと土地の高騰により納付するための現金がなくて、結果的に住まいを売らねばならない事態に陥りかねない事を考慮して設けられた特例だ。

簡単に言えば、生活の拠点である自宅の土地の更地価格が一億円だとしても、20%である2000万円で評価することを認めている。面積制限(240㎡)こそあるが、8割の減額評価なのだから、大変ありがたい制度であった。

この「小規模宅地の減額特例」と手厚い基礎控除(五千万円プラス法定相続人×一千万円)のおかげで、相続あれども相続税はなし、といった家庭が多かったはずである。

だが、来る少子高齢化社会へ向けての財源確保の一環として、相続税を広く薄く課税することを目論む財務省が、基礎控除の縮小(三千万円プラス法定相続人×600万円)を打ち出した改正相続税法案の提出を目指していたはずだ。しかし、この法案は、二度にわたり継続審議となっている。

にもかかわらず、相続税の税収は前年を上回っているという。そうなると、やはり平成21年の「小規模宅地の減額特例」の適用が厳しく制限されたことが大きく影響していると考えざる得ない。

なにが厳しくなったかといえば、居住用とみなされるための要件だ。核家族化が当たり前になり、親と子供が同居してることは、もはや珍しい時代にあって、同居して、かつ相続税の申告期限(死後、10か月)まで継続して居住することを求めているのは、いささか非現実的だ。

細かい要件は省くが、配偶者が取得するか、同居していた子供がその家に住み続けるか、あるいは持ち家を持たない子供(配偶者も持ち家なし)がその家を相続する以外では、この居住用の特例を受けるのが難しい。

さらにおかしいのは、事業用の場合だ。つまり亡くなった親がお店をやっている場合、そのお店を引き継げば居住用の特例同様に8割減の評価特例を受けられる。小売店や飲食店ならばいい。しかし、お店の中身が親と子で違ってしまうと、この特例は受けられない。

たとえば、親が内科医で、子供が歯医者の場合、医師と歯科医師では業種が違うので、事業を引き継いだとみなされず特例は受けられない。たしかに歯医者の子供は、親の内科医の仕事を引き継ぐことはできない。

だが、もともとこの特例が設けられた趣旨は、生活の拠点を相続税の納税のため売り払うような悲劇を避けるためだったはずだ。こんなに要件を厳格化してしまうと、むしろかえって立法の趣獅ノ反するように思えてならない。

正直、私個人としては承服しかねる。だが、一方で私はプロなので、税務当局が認めないと分かっている特例適用をすることは出来ない。それは仕方のないことではあるが、顧客に特例を受けられない事情を説明する気持ちは複雑だ。

いったい、なんのために小規模宅地の特例が設けられたのか、これでは納得できないし、矛盾だらけではないか。

ただ、困ったことにこの件では世論の応援は期待しずらい。なにせ、相続税に悩むような家族は、せいぜい3%前後だからだ。実際、上記のようなおかしな適用厳格化に反発して、裁判になったケースは少なくない。しかし、大半が納税者敗訴で終わっている。

そのような裁判にかかわった方の話を聞くと、裁判官の側は金があるんだから、払えよといった態度が透けてみえるように見受けられたらしい。法令解釈にのみ固執して、立法の趣獅ネいがしろにする裁判官が後を絶たないらしい。

普通、相続に頭を悩ませるのは、人生で1~2回程度だ。そのせいで、関心を持たない人が多いのは分かるが、いざ直面してみて自分の常識が通用しない税務の世界に戸惑い、怒り、嘆く人は多い。

財務省はこの先、相続税を広く薄く課税する意向であるようなので、今後相続税に悩まされる方は増えるはずだ。私も頭が痛いぞ。

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