先日、ある土建業界の親方と久々に会い、そこでの雑談で聞いた話である。その親方は若い衆を使いこなすのが上手いとの評判であった。
いかにもヤンキー上がりといった風情の親方は、私のみるところ褒めるのが上手い。この業界に限らないが、社会人になりたての若いもんを育て上げるのは難しい。今どきの若い子は叱られ馴れていないので、昔風のシゴキは通じない。
この親方は、見た目が浮「。夜の道で出会ったら思わず避けたくなるタイプである。だが非常にまめな方で、まず自分から動く。やってみせ、やらせてみて、一緒にやって育て上げる手腕が買われて、若くして独立した親方である。
私にこの親方を紹介してくれた土建会社の社長さんは、自慢げに「うちで一番の成長株だ」と褒めていた。「ただ、一点だけ欠点があるんだよなァ」とぼやくと、若い親方が「いや~、あれだけは勘弁です」と苦笑している。
私がその欠点って何ですかと問うと、「こいつ、釣りキチなんだよ」とあきらめ顔で嘆いている。その傍らで巨体をすぼめている親方がおかしい。そこで釣りの話をふってみると、途端に笑顔になり語る、語る。この人、本当に釣りが好きみたいだ。
仕事熱心で土建会社の社員であった時は、皆勤賞どころか土日で用がなくても会社に出てくる仕事中毒であったそうだ。ところが社長に誘われて、海釣りを覚えると、はまるはまる。「釣りキチ日記」の浜ちゃんそのままである。
社長もかなりの釣り好きではあるが「こいつはキチの領域だぞ」と呆れるほどの釣りキチだそうだ。でも仕事はきっちりかっきりやる職人である。社長が可愛がるのも無理はない。
そんな彼がある日、紙おむつを身に着けて出勤したことがある。なんでも、お尻から液体が漏れて止まらないので、仕方なく高齢者用の紙おむつを着けて、仕事に来たらしい。
よくまあ、あの大柄な体に合った紙おむつがあるものだと皆呆れたが、体調は悪くなく、腹も痛くないとのこと。社員一同呆れたが、時々トイレに駆け込んで、オムツを交換しながら仕事をこなしていたらしい。
そこへ得意先回りから戻った社長がやってきて「お前、まさか、あれ食べたのか?」と問うと、「すいません、我慢できずに食べちゃいました・・・」
大きなため息付いた社長さん「お前、もう帰れ。治るまで仕事禁止」と言い渡し、無理やり寮へ帰宅させたそうだ。かなり抵抗したが、社長が「オムツつけた社員に仕事させたなんて噂が出回っては困る」との一言で諦めたそうだ。
他の社員が、いったい何を食べたのですかと社長に問うと、苦虫潰した顔つきの社長が一言「バラムツ」だ。やはり釣りをする古参の社員が、やっちまったかと嘆いた。
バラムツという魚の名を聞いたのは、私も初めてだ。
詳しく訊くと、ある理由から市場には出回らない、いや禁止されている深海魚だそうだ。普段は海底500メートルくらいに棲息しているが、夜半になると捕食のために100メートルほどの浅い海底にあがってくる。
この魚、釣りの対象としては非常に面白いらしい。かなり暴れるので、釣り甲斐がある魚であるようで、一部の好事家には人気がある。しかし、この魚が市場に出回らないのには理由がある。
この魚、脂身が豊富でマグロのトロよりも濃厚な味が特徴なのだが、その脂が大問題。非常に美味しい脂身ではあるが、その脂は人間には消化できない。だから刺身なので食べると、脂が消化されずにお尻から、タラ~っと漏れてしまうのだ。
彼が紙オムツをしていたのは、その脂漏れのためであった。普通は釣り船の船長が止めるはずなのだが、その晩の夜釣りは、社長の持ち船でやったので、社長か警告したのを無視したらしい。
後で聞いたら、社長も二キレほど船上で刺身にして食べたそうだ。少量ならば液漏れもないらしいが、悪戦苦闘の末に釣り上げ、しかも美味なる刺身を少しだけ食べてしまったら我慢できずに持ち帰って、さらに食べてしまったそうだ。
その場で廃棄させなかった俺のミスだと社長は嘆いていたが、マグロのトロよりも美味だと聞くと、私でもちょっとだけなら試してみたい気がする。でも、人前でオムツを履くのは嫌なので、食べませんけどね。
いかにもヤンキー上がりといった風情の親方は、私のみるところ褒めるのが上手い。この業界に限らないが、社会人になりたての若いもんを育て上げるのは難しい。今どきの若い子は叱られ馴れていないので、昔風のシゴキは通じない。
この親方は、見た目が浮「。夜の道で出会ったら思わず避けたくなるタイプである。だが非常にまめな方で、まず自分から動く。やってみせ、やらせてみて、一緒にやって育て上げる手腕が買われて、若くして独立した親方である。
私にこの親方を紹介してくれた土建会社の社長さんは、自慢げに「うちで一番の成長株だ」と褒めていた。「ただ、一点だけ欠点があるんだよなァ」とぼやくと、若い親方が「いや~、あれだけは勘弁です」と苦笑している。
私がその欠点って何ですかと問うと、「こいつ、釣りキチなんだよ」とあきらめ顔で嘆いている。その傍らで巨体をすぼめている親方がおかしい。そこで釣りの話をふってみると、途端に笑顔になり語る、語る。この人、本当に釣りが好きみたいだ。
仕事熱心で土建会社の社員であった時は、皆勤賞どころか土日で用がなくても会社に出てくる仕事中毒であったそうだ。ところが社長に誘われて、海釣りを覚えると、はまるはまる。「釣りキチ日記」の浜ちゃんそのままである。
社長もかなりの釣り好きではあるが「こいつはキチの領域だぞ」と呆れるほどの釣りキチだそうだ。でも仕事はきっちりかっきりやる職人である。社長が可愛がるのも無理はない。
そんな彼がある日、紙おむつを身に着けて出勤したことがある。なんでも、お尻から液体が漏れて止まらないので、仕方なく高齢者用の紙おむつを着けて、仕事に来たらしい。
よくまあ、あの大柄な体に合った紙おむつがあるものだと皆呆れたが、体調は悪くなく、腹も痛くないとのこと。社員一同呆れたが、時々トイレに駆け込んで、オムツを交換しながら仕事をこなしていたらしい。
そこへ得意先回りから戻った社長がやってきて「お前、まさか、あれ食べたのか?」と問うと、「すいません、我慢できずに食べちゃいました・・・」
大きなため息付いた社長さん「お前、もう帰れ。治るまで仕事禁止」と言い渡し、無理やり寮へ帰宅させたそうだ。かなり抵抗したが、社長が「オムツつけた社員に仕事させたなんて噂が出回っては困る」との一言で諦めたそうだ。
他の社員が、いったい何を食べたのですかと社長に問うと、苦虫潰した顔つきの社長が一言「バラムツ」だ。やはり釣りをする古参の社員が、やっちまったかと嘆いた。
バラムツという魚の名を聞いたのは、私も初めてだ。
詳しく訊くと、ある理由から市場には出回らない、いや禁止されている深海魚だそうだ。普段は海底500メートルくらいに棲息しているが、夜半になると捕食のために100メートルほどの浅い海底にあがってくる。
この魚、釣りの対象としては非常に面白いらしい。かなり暴れるので、釣り甲斐がある魚であるようで、一部の好事家には人気がある。しかし、この魚が市場に出回らないのには理由がある。
この魚、脂身が豊富でマグロのトロよりも濃厚な味が特徴なのだが、その脂が大問題。非常に美味しい脂身ではあるが、その脂は人間には消化できない。だから刺身なので食べると、脂が消化されずにお尻から、タラ~っと漏れてしまうのだ。
彼が紙オムツをしていたのは、その脂漏れのためであった。普通は釣り船の船長が止めるはずなのだが、その晩の夜釣りは、社長の持ち船でやったので、社長か警告したのを無視したらしい。
後で聞いたら、社長も二キレほど船上で刺身にして食べたそうだ。少量ならば液漏れもないらしいが、悪戦苦闘の末に釣り上げ、しかも美味なる刺身を少しだけ食べてしまったら我慢できずに持ち帰って、さらに食べてしまったそうだ。
その場で廃棄させなかった俺のミスだと社長は嘆いていたが、マグロのトロよりも美味だと聞くと、私でもちょっとだけなら試してみたい気がする。でも、人前でオムツを履くのは嫌なので、食べませんけどね。