初めて飲んだ本格的な珈琲はガテマラであった。
自宅の珈琲は、いつもインスタントコーヒーであった。多分、母はあまり珈琲を家で飲む習慣がなかったと思う。実際、私自身、そのインスタントコーヒーでさえ、砂糖と牛乳を入れて飲むのも稀で、むしろジュースを好んでいた。
うろ覚えだが、レストランに家族で行っても、飲み物はたいがいジュースか水であったように思う。ちなみに家にあったインスタントコーヒーは、来客用か、もしくは私がデザートを作る時ぐらいしか使ってなかった。
ちなみにデザートは、コーヒープリンか、コーヒー寒天である。コーヒーゼリーという発想はなかった。稀に珈琲を飲むことはあっても、特段美味しいとは思っていなかった。もちろんインスタントではあったが。
高校一年のGW前であった。ワンダーフォーゲル部に入部して、合宿に向けてトレーニングをした後、先輩に連れて行ってもらったのが、駅から少し離れた場所にある「トプカプ」という喫茶店であった。
先輩の奢りであったので、よくよくメニューを見ると、一番安かったのが日替わり珈琲であった。なので、当然にこれを頼む。それがガテマラという品種の珈琲であったが、正直何も分かっていなかった。
しばらくして運ばれてきた珈琲は、香りが濃厚で、私には未知の匂いであった。作法もへったくれもないが、先輩の真似をして、ザラメ状の茶色っぽい砂糖をスプーンに一杯入れて、飲んでみた。
美味い!
苦みと甘みがミックスして、香りが鼻腔まで抜ける快感に驚いた。脳が活性化するかのような錯覚を覚えたほどだ。これが豆を轢いてドリップした珈琲との初体験であった。
以来、大の珈琲好きになり、この店の常連となる。もっとも途中からタバコの味を覚えて、喫煙のために通っていたのも事実ではある。
ところで表題の書は、いわゆるライトノベルである。けっこう人気があると聞いていたので、読んでみたのだが・・・
私がミステリー馴れしているせいもあるが、率直に言ってミステリーとしては物足りない。珈琲でいえば、イイ豆を使い、焙煎も十分あることは分かるが、いざカップに注がれて飲んでみると、どこか物足りない。ミステリーの豊潤な香りに欠けるのだ。
多分、ミステリーとして書かれたのではなく、ミステリー仕立てにしてしまったのだろう。後書きを読むと、「このミス」の書評者にも、似たような感想を抱かれたようで、素材がイイだけに、ちょっと残念な仕上がりだ。
このあたりが、ライトノベルの苦しいところだろう。ミステリー専門の出版社ならば、きっと編集者のダメ出しがあったと思う。でも、これがデビュー作らしいので、今後に期待しましょうかね。