忘れちゃ困るぞ。本当はプロレスラーなんだから。
それがザ・ロックこと、ドウェイン・ジョンソンである。
プロレスで活躍中からB級アクション映画への出演から始まったが、映画「スコーピオン・キング」では主役を務め、「ワイルド・スピード」シリーズを始めとして、現在ではハリウッドでも指折りの映画俳優として知られている。
だけど、彼はプロレスラーだったんだ。それもとびきりの名レスラーであった。身体能力に優れているだけではない。リング上での観客へのアピールが抜群いに良かった。まさにアメリカン・プロレスの申し子であり、ピープルズ・チャンピオンとの呼び名は決して伊達ではなかった。
ただ、アメリカであまりに人気が出過ぎて、日本での試合は極めて少ない。日本でもようやく知名度が上がってきたら、映画出演が増えて、プロレスが減ってしまった。おかげで、彼がプロレスラーであることを知らない映画ファンは珍しくない。
私はそれが残念でならない。
一番記憶に残っているのは、アメリカでのハルク・ホーガン戦である。当時は人気凋落気味であった悪役(!)ホーガンと、善玉レスラーであるザ・ロックの一騎打ちの試合であった。
最初はブーイングを浴びていたホーガンなのだが、この試合に賭ける意気込みは凄まじく、堂々たるパワープレーでザ・ロックを追い込んでいく。すると観客は次第に善玉であるザ・ロックにブーイングを浴びせ、ホーガンを応援しだしたではないか。
ここからが凄かった。観客の動向を察した二人は、いつのまにやらホーガンが善玉役を、ザ・ロックが悪役を演じ始めたではないか。さすがにプロである。この時のザ・ロックの悪役ぶりは名演技といってよく、彼の試合を観た回数が少ない私の脳裏にしっかりと刻まれた。
この試合の盛り上がりは、90年代のアメリカンプロレスでも上位にランクされるべき名勝負であった。観客をあそこまで興奮させ、盛り上げた二人のプロとしての技量は、拍手喝采ものであったと私は断言したい。
でも、年齢的というか体力の衰えもあるのだろう。もう、ザ・ロックはプロレスのリングに上がることはなく、映画のなかでドウェイン・ジョンソンとして観客の喝采を浴びている。
俳優としての彼を誹謗する気はないが、プロレスラーであったザ・ロックが忘れ去られていくのが寂しくてなりません。