ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

銀の匙 荒川弘

2017-04-03 13:12:00 | 

私はデスクワーカーの一人である。

もちろん、外回りはしている。というか、週の半分は事務所にいない。事務所に座っている暇があるなら、積極的に外に出て、顧客と話すべきだと思っている。

でも、仕事の中核は書類仕事であり、当然に机に向かってやっている。椅子に座っている時間はかなり長い方だと思う。

ただ、50代も半ばに差し鰍ゥると、デスクワークの良さと悪さの両方を感じることがある。体力が衰えたので、デスクワークで稼げる仕事はありがたいものだ。しかし、デスクワークが長いが故に、体力が落ちたのも一面の事実であろうことも分かる。

仕事柄、いろんな業種の方にお会いするが、つくづく思うのが、身体を使っての野外労働をしている方の健康さだ。農家にせよ、漁師にせよ、その頑健さには憧れさえ抱く。

いくら長生きしても、身体が動かないのは寂しい。でも、若い頃から野外作業などをしていた人は、足腰が頑丈で、老いても元気な方が多いように思う。しかも体だけでなく、精神面でも健全な人が多い。

つくづく思うのだが、身体を動かすって、とても重要だと思う。私は子供の頃から歩くのが好きであった。別に予定がなくても、急に思い立って、散歩にでかけることがよくあった。

三軒茶屋の裏町から、歩いて渋谷、新宿、下北沢と歩き、茶沢通りを下って三軒茶屋に戻ってくる。だいたい、5時間ほどかかる散歩である。別に目的があった訳でもなく、ただ歩いていた。それだけであったが、家に着いた時は、心地よい疲労と、空腹が気持ち良かった。

思春期に入り、いろいろと悩み多き年頃になると、どうしようもなく苦しい悩みを抱えることになる。そんな時、私は小さいザックに最低限の装備を入れて、中央線の夜行電車に乗り込んだものだ。

長野の茅野駅で明け方に降りて、バスで八ヶ岳の麓まで行き、快足を飛ばして稜線まで上がり、ひたすら南下する。岩稜帯の八ヶ岳南部は、無理をすればその日の夕方には縦断できる。

小淵沢の駅に辿りついた時には、息も絶え絶えであるが、昨夜まで私を苦しめた煩悶は消え去り、各駅の中央線で新宿に着くまで快眠していた。別に問題が解決したわけではないのだが、無我夢中で縦走登山をし、身体を疲れさせると、ストレスが消えていた。

悩んだ時は、まず考えるよりも、身体を動かす。それも限界ギリギリまで身体を使う。流す汗と共に苦悩は消え去り、明日からの気力が湧いて出てきたものだった。まァ、脳みそ筋肉系と云われても、仕方ないとも思っている。

20代で身体を壊してしまったので、もう出来ないことではある。後悔するのが好きではないが、野山に行ってひたすら歩く、あの時の経験を二度と出来ないことだけは、悔やんでも悔やみきれない。

表題の作品は、週刊少年マガジンで連載されていた農業高校を舞台とした物語である。夢も希望もなく、漠然と生きていた少年が、縁もゆかりもない農業高校に進学し、そこで体験した様々なことが、少年を大人へと変えていく。

畜産農家出身であり、農業高校で青春を過ごした作者だからこそ描ける物語である。特段、盛り上がるでもなく、さりとて退屈平凡とは縁遠い農業高校の3年間が見事に描かれている。唯一問題は、作者の都合で休載が多いことかな。

私は都会育ちで、農業とは無縁であったが、正直ちょっと憧れてしまった。机に座っての勉強ばかりが勉学ではないことも、よく分かる作品である。機会があったら、是非ご一読のほどを。

コメント (7)
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