今でこそTVを観ることは少ないが、子供の頃は当然にTVっ子である。
幾つか記憶に残っているドラマもある。その一つにNHKの大河ドラマ「国盗り物語」があった。家族で観ていた時は結構面白いと思っていた。ところが中学時代に司馬遼太郎の「国盗り物語」を読むと、あまり面白いとは感じなかった。より正確に云えば、前半(斉藤道三)はあまり面白くなく、むしろ後半(織田信長)が面白い。
小説は作品としてはバランスもよく、別段不快に思ったわけでもない。でも、どうしても主役は織田信長である感が否めない。前半の斉藤道三がTVほど面白くなかったというのが、私の当時の率直な感想であった。
その原因の一つにあるのは、司馬氏の斉藤道三の捉え方ある。TVでは平幹二郎が演じていたが、えらく人間味のある面白い人物であった。しかし、司馬氏の原作では、それほど面白味のある人物には思えなかったのだ。強いて言えば、信長の引き立て役に過ぎないとさえ感じられた。
そのせいか、その後も斉藤道三には関心が持てず、もっぱら織田信長ばかり注目していた。
しかし、今にして思うとこれは真面目である以上に堅物であった司馬遼太郎には、商売と色ごとに長じた斉藤道三を描ききれなかったことが原因ではないかと考えるようになった。
そこで今回は歴史学者の書いた斉藤道三像を知りたいと思い、手に取ったのが表題の書。淡々と記述される斉藤道三の生涯は、やはり一筋縄ではいかない曲者である。しかも、色欲、金銭欲、名誉欲の強い実に虚飾に満ち溢れた人物像が浮かび上がる。
こりゃ、司馬氏お嫌いだろう。
だが貧乏侍の子に産まれ、寺に放り込まれても、決して野心を忘れない。その寺を飛び出して、金、地位、女を手に入れる欲の強い男として、実に魅力的な人物だと思う。多分、傍で観ていたら面白いはず。
ただし、巻き込まれたら困惑を禁じ得ない危ない人物でもある。この時代を代表する梟雄としては、松永弾正と双璧ではないかと思う。また北条早雲と並び下剋上を代表する武将でもある。
この人の不幸は、あの織田信長の引き立て役とならざるを得ない立場にあったことだろう。最後は息子との合戦で倒れた悲劇の人でもあったが、案外と本人は納得して死んでいったのではないかと思う。
当初は息子・義龍をただの乱暴者の大男だと見下していたようだが、いざ戦場で相対してみて見事な布陣での戦いぶりに自分の判断を悔いたと書き記されている。息子に打倒されるのも、ある意味梟雄に相応しい人生に思えてならない。
ただ、その義龍が案外と短命で、数年後に病死してしまったことが、斉藤道三の評価を殊更地味にしてしまった気がする。更に付け加えるなら、孫の龍興が父にも祖父にも似ないボンクラだっただけに、悲劇性よりも滑稽ささえ感じられてしまう。まァ、娘婿の信長があれだけ派手な人生でなければ、もう少し評価も上がった気もする。
調べたら司馬以外にも数名、斉藤道三を取り上げた小説があるようなので、今度はそちらを読んでみようと思います。さて、どんな道三像が描かれているのでしょうね。