金がありあまると、人間ろくな事をしないらしい。
1970年代後半のことだ。キティと呼ばれた猫のキャラクターが爆発的なヒット商品となった。このとぼけた表情の猫を売り出した会社がサンリオだ。
急激な売上増加は、必然的に多額の法人税等の負担を呼び込んだ。税金を沢山払うぐらいなら、なにか他の事業に投資してやる。そう思ったかどうかは知らないが、サンリオが経営の多角化を目指したのは事実だ。
その多角化の一つに出版事業があった。キティやらの絵本なら分るが、なにを思ったのかSF本の出版にまで手を出した。当時、SFは早川書房と東京創元社がほぼ独占的に牛耳っており、後発の出版社は容易には市場に参入できなかった。
大半のビックネイムが大手2社に押さえられているなか、キティで儲けた大金を投じて、海外の新進気鋭のSF作家の作品を買い漁ったまではいい。
問題は、その翻訳だった。当時はSF(サイエンス・フィクション)は空想科学小説などと意訳されている状態で、特殊な分野としての扱いであった。そのせいか、有名どころの翻訳家がなかなか手をつけてくれなかったと聞く。
仕方なくサンリオは有名大学の英文科の教授や著名なSFファンにあたったようだ。問題はその翻訳作業をしたのは、教授たちではなく、どうも学生らしいのだ。要するに自分の研究室に属する学生たちを下請けにして翻訳していたらしい。
おかげで、とんでもないレベルで翻訳がなされてしまった。早川や創元社では考えられぬほど、迷訳が続出した。どうも翻訳を請け負った教授方もろくにチェックしなかったらしい。おまけにサンリオの出版部門の校正も、相当にレベルが低いと断じざるえない。
たとえばだ、腕利きの盗人である主人公が警察に追われる場面の一文が笑わせる。
「初めて駆り立てられる立場になった・・・」と翻訳である。これは前後の文脈から判じれば「初めて狩り立てられる立場になった・・・」と訳すべきであることが明白だ。この程度の翻訳しか出来ない人にやらせたらしい。
原文を読まなくても分る誤訳、迷訳の数々は間違いなく作品の質を貶めた。おかげで本国アメリカでは大人気を博したステンレス・スチール・ラットのシリーズは、日本では不遇の作品として嘲笑を浴びる始末。
国語力に問題のある翻訳と、そのお仕事をろくに監修しなかった教授たちが悪いのは当然だ。だが、出版事業である以上、それをろくにチェックせずに販路にのせたサンリオが一番悪い。
必然的に本の売れ行きは芳しくなく、10年持たずしてSF部門は閉鎖され、多くの名作がお蔵入りとなった。サンリオはお子ちゃま向けにキティ・にゃんこを作っていれば良かったのだ。余計なことに手を出すから、失敗する羽目に陥るのだ。
今回、ほぼ30年ぶりに再読してみたが、やはり翻訳がひどい。この作品の翻訳は、海外在住のSFファンで、翻訳家としてはセミプロだと思う。他のサンリオSF文庫よりはマシだが、それでも翻訳家としてはレベルは低い。
素人の私でも気になる稚拙な翻訳が、若い頃よりも辛抱強くなったせいで、最後まで読みきれた。読み終えて、ますます腹がたってきた。これだけ面白い作品を、こうもダメにするなんて文化破壊行為だと思う。サンリオの責任は重いぞ。
1970年代後半のことだ。キティと呼ばれた猫のキャラクターが爆発的なヒット商品となった。このとぼけた表情の猫を売り出した会社がサンリオだ。
急激な売上増加は、必然的に多額の法人税等の負担を呼び込んだ。税金を沢山払うぐらいなら、なにか他の事業に投資してやる。そう思ったかどうかは知らないが、サンリオが経営の多角化を目指したのは事実だ。
その多角化の一つに出版事業があった。キティやらの絵本なら分るが、なにを思ったのかSF本の出版にまで手を出した。当時、SFは早川書房と東京創元社がほぼ独占的に牛耳っており、後発の出版社は容易には市場に参入できなかった。
大半のビックネイムが大手2社に押さえられているなか、キティで儲けた大金を投じて、海外の新進気鋭のSF作家の作品を買い漁ったまではいい。
問題は、その翻訳だった。当時はSF(サイエンス・フィクション)は空想科学小説などと意訳されている状態で、特殊な分野としての扱いであった。そのせいか、有名どころの翻訳家がなかなか手をつけてくれなかったと聞く。
仕方なくサンリオは有名大学の英文科の教授や著名なSFファンにあたったようだ。問題はその翻訳作業をしたのは、教授たちではなく、どうも学生らしいのだ。要するに自分の研究室に属する学生たちを下請けにして翻訳していたらしい。
おかげで、とんでもないレベルで翻訳がなされてしまった。早川や創元社では考えられぬほど、迷訳が続出した。どうも翻訳を請け負った教授方もろくにチェックしなかったらしい。おまけにサンリオの出版部門の校正も、相当にレベルが低いと断じざるえない。
たとえばだ、腕利きの盗人である主人公が警察に追われる場面の一文が笑わせる。
「初めて駆り立てられる立場になった・・・」と翻訳である。これは前後の文脈から判じれば「初めて狩り立てられる立場になった・・・」と訳すべきであることが明白だ。この程度の翻訳しか出来ない人にやらせたらしい。
原文を読まなくても分る誤訳、迷訳の数々は間違いなく作品の質を貶めた。おかげで本国アメリカでは大人気を博したステンレス・スチール・ラットのシリーズは、日本では不遇の作品として嘲笑を浴びる始末。
国語力に問題のある翻訳と、そのお仕事をろくに監修しなかった教授たちが悪いのは当然だ。だが、出版事業である以上、それをろくにチェックせずに販路にのせたサンリオが一番悪い。
必然的に本の売れ行きは芳しくなく、10年持たずしてSF部門は閉鎖され、多くの名作がお蔵入りとなった。サンリオはお子ちゃま向けにキティ・にゃんこを作っていれば良かったのだ。余計なことに手を出すから、失敗する羽目に陥るのだ。
今回、ほぼ30年ぶりに再読してみたが、やはり翻訳がひどい。この作品の翻訳は、海外在住のSFファンで、翻訳家としてはセミプロだと思う。他のサンリオSF文庫よりはマシだが、それでも翻訳家としてはレベルは低い。
素人の私でも気になる稚拙な翻訳が、若い頃よりも辛抱強くなったせいで、最後まで読みきれた。読み終えて、ますます腹がたってきた。これだけ面白い作品を、こうもダメにするなんて文化破壊行為だと思う。サンリオの責任は重いぞ。