のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『舞台芸術の世界』展

2007-07-03 | 展覧会
舞台芸術の世界 ディアギレフのロシアバレエと舞台デザイン 京都国立近代美術館へ行ってまいりました。

衣装、写真、絵画、デザイン画、再演映像、さらにはマイセン人形といったさまざまなメディアから
20世紀初頭、西洋美術界にセンセーショナルを巻き起こしたロシア・バレエとその周辺を概観する展示でございます。
印象としては衣装デザイン関連のものが7~8割といった所でございましたが
上に挙げました通り展示品が多岐に渡っておりましたので、いろいろなものが見られて面白うございましたねえ。



それぞれの時代の傾向が表れた多数の衣装デザイン画の他、実物の衣装も展示されておりました。
中でも印象深かったのはオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』の衣装でございます。



黒を基調とした重厚なデザインでございます。裏地にはつややかで鮮烈な赤い布地が使われております。
袖口と、頭を囲う城壁のように高くそびえ立つハイカラーには、ずっしりと大振りな装飾がぐるぐる渦巻いております。
猜疑心が強く、皇子暗殺という罪の記憶にさいなまれ
苦悩のすえに発狂する帝位簒奪者の衣装にふさわしいではございませんか。

平面作品ではバルビエによる版画集『ワツラフ・ニジンスキー』がよろしうございましたねえ。
アール・デコの寵児バルビエの、画中のあらゆるものに対する平面的・デザイン的処理が
ワタクシは好きなんでございます。
風にあおられる噴水を、弧を描いて空中を流れるドットの集まりで表現するなんざ
実によろしいではございませんか。(「アルミードの館」リンク先上から2番目)

優美な線、平面的な表現、東洋趣味、エロチシズムなどなどは
時代的に少し先行するビアズリーにおいても特徴的でございますが
バルビエにはビアズリーのような病的でグロテスクな雰囲気はございませんね。
むしろ古代ギリシアの壷絵のように、あまりに端正であるが故に
かえって幻想的な雰囲気をかもし出している感がございます。

ギリシアの壷絵といえば、会場内でビデオ上映されている『牧神の午後』(再演)は
緊張感とおおらかな(あるいは、あからさまな)エロチシズムにみちみちて
まさに壷絵の人物が3Dで動き出したかのようでございました。
ニジンスキー自身が振り付けをしたというこの作品、
バレエというよりはパントマイムといった方がしっくりくるナとワタクシは思いました。
他に類を見ない静的で性的な振り付けゆえに
当時の観客や批評家から、賞賛とともに困惑と避難の声が大いに上がったとのこと。
さもありなんでございます。

ビデオ上映はこの『牧神の午後』(15分)の他、『薔薇の精』(15分)と『ペトルーシュカ』(35分)がございました。
のろはこの日は予定が入っておりましたので、残念ながら『ペトルーシュカ』鑑賞は途中で切り上げねばなりませんでした。
もっと早い時間に出かけておくんだったと後悔する事しきり。
これから行くご予定の皆様は、通常の鑑賞時間プラス1時間の余裕をもって行かれることをお薦めいたします。