のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『MvA』のこと・登場人物その2(追記あり)

2014-04-04 | 映画
現実から逃走して『モンスターvsエイリアン』について語っていくシリーズ。
『MvA』のこと・登場人物その1の続きでございます。

今回は怒濤のドク語り。

Dr.コックローチ ph.d

こちら↓はTV版のドク。


超天才にしてマッドサイエンティストにしてゴキ男。
もとは100%人間だったのですが、ゴキの能力を人間に与えるという実験を自らに試した結果、能力の獲得には成功したものの、副作用でゴキ頭となってしまいました。今は50%人間、50%ゴキの身でいらっしゃいます。TVシリーズではゴキの割合をいっとき60%に引き上げたせいで、えらいことになっておりました。

ゴキの能力とは具体的にどんなものかといいますと、

・壁や天井を普通に歩ける
・ゴミを食べて生きて行ける
・ちょっとやそっとのダーメジでは死なない

など。
それからパタリロもまっつぁおのゴキブリ走法ですね。それほど危機感のない時は二足走行ですが、急ぐ時には四つん這いになってカサカサ走ります。低い姿勢のまま猛スピードで平行移動するさまのゴキらしさったらございません。また効果音が実に臨場感に溢れておりまして、わりとぞっといたしますよ。

変身前のドクの姿は映画の序盤でちらっと出てまいります。Dr. Cockroach - Monsters vs. Aliens Wiki←下の方にある画像ギャラリーの最上列右端。モンガー元帥(後述)は「handsom fellow/イケメン」と呼んでおりますが、微妙な所です。とりあえずワタクシには若作りなヴィンセント・プライスにしか見えませんです。
TVシリーズで明かされた所によると、ファーストネームはハーバート。密かにグレゴールかフランツであることを期待していました。そして「コックローチ(=ゴキ)」は本名なのだそうです。何と恐ろしい苗字でしょう。しかしあるエピソードで「家名を汚してしまった!」と苦悩していることから鑑みて、ご本人はこの姓に誇りを持っておいでのようです。大抵はDr.コックローチもしくはドクと呼ばれます。Dr.Cまたはドク・ローチと呼ばれることもあります。

ドクがどれだけ天才なのかと申しますと、鷹の爪団のレオナルド博士ぐらいの天才でございます。手近な材料から、スーパーコンピュターやら物質転送マシンやら、身につけると権威ある雰囲気をかもし出す香水「Air of Authority」やら、ポテトチップ1枚から際限なくエネルギーを生み出せる装置やら、色々作り上げてしまいます。手近な材料、というのは大抵の場合、ペットボトルやらピザの空き箱やら捨てられた家電やら。要するにゴミです。そこはゴキですから。
発明品の素材、またはおやつ調達のため、ゴミ缶の中に頭を突っ込んでいる場面がしょっちゅうあります。ちなみに好物は生ゴミ。そこはゴキですから。

ことほど左様にゴキであるにも関わらず、動画やファンアートの多さから鑑みるに、ドクはおそらくお子様に受けそうなボブと並んで、このフランチャイズ一番の人気キャラクターでございます。それはもう、質問サイトAsk.comに「何でDr.コックローチにばかりファンガールがつくんですか?」という質問が投稿されていたくらいでございます。あまりにもどうでもいい質問だったためか、回答はございませんでしたけれども。

さて、何故ドクばっかりそんなに人気があるのでしょうか。
人口脳や若返り光線銃を”手近な材料”から即座に作ってしまうほどの天才だから。
マッドサイエンティストらしさ満点のむわははははあ!という高笑いが素敵だから。
科学者なのにダンスがめっぽう上手く、エレキギターを弾きこなし、カクテル作りも得意な趣味人だから。
それもございましょう。
しかし何より、半分ゴキであろうと何であろうと、ドクは知的で小粋で礼儀正しく、茶目っ気がありノリもよく、プライドが高い一方で他者への優しい気遣いのできるジェントルマンであり、要するに人としてたいへん魅力的なキャラクターとして造形されているのでございます。人気があるのも当然ではございませんか。(駄洒落好きなのが玉にキズですが)

映画と短編の1作目でドクの声を吹き込んだヒュー・ローリーがおっしゃるように、ゴキというものは肯定的に描かれることがめったにない生物でございます。肯定どころか、名前自体が最大級の罵倒語として使われるほど嫌われております。ご存知のようにルワンダでは、ツチ族への嫌悪と虐殺を煽ったラジオ番組で、パーソナリティが繰り返しツチ族を「ゴキブリ」と呼んだのでした。昨今日本で行われているヘイトスピーチという恥ずべき現象においても、同じことが行われております。
かくまで否定的なものと見なされている生物に、上記のように魅力的な人格を与えるということは、大げさなようですが、罵倒語を無化するという側面がございます。
映画でもTVでも、ドクは仲間たちから全く普通に「Dr.コックローチ」、即ち「ゴキブリ博士」と呼ばれております。そんなキャラクターが肯定的なもの、「よいもの」として提示されることによって、否定的な響きしかなかったCockroachという語が、それまでとは違ったイメージを帯びるようになります。(あくまで語のイメージの話であって、実際のゴキさんを好きになれるかどうかはまた別問題)

社会通念上「わるい」とされているものを、あえてヒーロの座に据えるというのは『シュレック』や『メガマインド』とも通じるものがございます。ワタクシはドリームワークスのこういう所が好きなのですが、最初の記事で取り上げましたように、ドリームワークスのカッツェンバーグCEOは、もう当面この手のパロディ的作品は作らない方針のようでございます。いわく「『シャーク・テイル』、『モンスターvsエイリアン』、『メガマインド』はアプローチもトーンも発想もパロディと言う点で共通している。これらは国際的にはあまりいい業績を上げなかった。こうした作品はしばらく作られることはないだろう」
しかしもしひたすらディズニーのような王道を歩むようになったら、ドリームワークスの存在意義はどこにあるんでしょう。それにドル箱の『シュレック』だっておとぎ話のパロディでしょうに。ワタクシはドリームワークスの存在意義はひねくれにあると考えておりますので、CEOのこの方針によって社風まで変わってしまうのではないかといささか心配です。

ちと話が逸れました。
ワタクシはCGアニメというものがどれくらいモーションキャプチャに頼るものなのか存じませんので、キャラの動かし方についてアニメーターにどれくらいの裁量があるのかも分かりません。しかし細やかな表情や動きぶりから察するに、ドクはたいへん動かしがいのあるキャラクターなのではないかと想像いたします。
まずもって目玉が巨大ですので、瞳孔の大きさやまぶたの開き方で感情を非常に豊かに表現することができますし、感情や身体的状態を表すパーツとして触角(大写しになると恐ろしいほどリアル)を活用できるのも面白い所です。いかにもインテリらしい洗練と、ちょっと気取った雰囲気を漂わせる所作も大変結構で、作り手の愛情を感じる所でございます。胸の前で両手をグーにしたり、抱きついた時に片足が上がったりという女性的な仕草も可愛らしい。

そうそう、声についても触れておかなければ。
前にも触れましたように、ヒュー・ローリーのつんつんしていながらも明るさと気さくさを感じさせる喋り方が実に素晴らしいのです。ドクのキャラクター造形にも少なからず貢献なさったのではないかと。DVDのコメンタリによると、ドクのトレードマークであるマッドサイエンティスト笑いは、もとはローリーの即興なのだそうで。
↓この笑い。


ハロウィン向け短編2作目『Night Of The Living Carrots』でドクを演じたジェームズ・ホランは声質も喋り方もローリーと随分似ていて、これまた結構でございます。
TV版のクリス・オダウドもいい声なのですが、前の2人とはちと声質が違うこと、そして喋り方にキレとつんつん感が足りないのが残念でございます。とにかくローリーの吹き込みがあんまり素晴らしいので、それと比べるて聞き劣りがするのは仕方のないことではございます。

ドクの元ネタは、言わずと知れた『蝿男の恐怖』あるいは『ザ・フライ』。TVシリーズでは物質転送装置も登場いたします。ただし『蝿男~』では蝿と人間が融合してしまったのに対し、こちらの場合は「マッドなドク」と「サイエンティストなドク」の2人に分離してしまうという事態に。
このエピソードでもそうでしたが、映画からTVシリーズまで一貫して、ドクは自分が「マッドサイエンティスト」であるという点に高い誇りを持ってらっしゃるため、サイエンスという語を自分に関連づけて発する時には必ず頭に「マッド」が付きます。
ついでに半ゴキであることにも誇りを持ってらっしゃるようです。ゴキ頭になったことは、はたから見ると悲劇ですが、ドクにとっては彼の実験につきものの「miner side effect(些細な副作用)」のひとつにすぎないのでございましょう。実際はあんまり些細ではない場合が多いにしても。

(追記:2014年4月14日の現時点でWikipediaにはドクが「頭脳明晰で発明家としては独創的だが、マッドサイエンティストではないと主張する」と書かれておりますが、この記述の後半部分は誤りです。上の動画でのヒュー・ローリーの台詞にあるように、「I'm not a quack! I'm a mad scientist. There's a difference 私はインチキ博士ではない、マッドサイエンティストだ!一緒にするな」というのがドクの信条であり、むしろ自らがマッドサイエンティストであるとはっきり主張しております。劇中ではこのすぐ後に、「どうして誰も分かってくれないんだろう」と言いたげに、ちょっと悲しげな表情になるのが実によろしい。)

普通ならマイゴッドとかジーザスクライストとか言う場面で、ガリレオやホーキング博士の名前が出て来るドク。ギョロ目に白衣に高笑い、怪しい発明に天まで届くプライドと、正しいマッドサイエンティストの条件をかなり満たしているドク。自らも「私は不可能性のエキスパートだ(=不可能だと思うことなら私に任せなさい)」と豪語しますが、その割には、面倒な事態に直面した時には現実逃避に走りがちでございます。一度などはエピソードの初盤で「こういう時は目をつむって、太陽の降り注ぐアカプルコにいるフリをするといい」とのたまい、結局そのエピソードが終わるまで脳内アカプルコから帰って来ませんでした。

とまあ全エピソードを語り出しそうな勢いですので、ここらで切り上げようと思いますが、パロディに発したにも関わらずオリジナルな魅力に富んだドク・ローチ、このフランチャイズにおける他のキャラ共々、できることならもっと多くの作品で活躍していただきたいのでございますよ。NickelodeonでのTV’シリーズの放送は終わってしまいましたが、他局での復活。またはドリームワークスがせめて季節ものの短編だけでも作り続けてほしいものと、ワタクシは願ってやまない次第でございます。

と、こう願いながらも昨日ドラッグストアでホウ酸ダンゴを買って来てしまった。
今年も彼らと対決せねばならないのかしらん。例年にも増して心が痛むぞなもし。



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