のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『ボストン美術館展』2

2010-08-21 | 展覧会
8/18の続きでございます。

肖像画のセクションでいきなり待ちかまえておりますのはヴァン・ダイクでございます。


『ペーテル・シモンズ』

つい数年前ヴァン・ダイクの作品であることが確定されたというこの作品、左下に手を描きなおした跡がございます。どうでしょう、修正前の左手を伸ばしているポーズの方がどっしりと安定した画面になりますけれども、胸に当てている方が画面が引き締まりますし、矜持あるポーズと申しましょうか、颯爽としてカッコよく見えると思いませんか。「お客様にご満足いただけるよう勤めております」という画家のつぶやきが聞こえてまいります。

それにしてもヴァン・ダイク、この人に依頼すればどんな人物でもそれなりの威厳と気品を備えた肖像画に仕上げてくれそうでございますね。もしものろがあの世で肖像画を描いてもらうことになったら、レンブラントに頼もうか、ヴァン・ダイクにしようか、大いに迷う所でございます。フランス・ハルスにはうっかり変な顔した瞬間を描かれそうなので敬遠。ちょっと恐いけどベラスケスもよろしうございます。いやしかしモディリアーニもレーピンもいるし、ほんとに迷うなあ。さんざん迷ってやっぱりシーレにしようっと。

何の話でした?
ああ、ヴァン・ダイク。

稀代の肖像画家によってその名と風貌とを後世に残すこととなったシモンズさん。
この人誰かに似ているぞ、と絵の前に陣取って考えることしばし。
やや面長の輪郭、ひゅーんととんがった鼻、秀でた額に眠そうな吊り目。
そうです。プーチン首相でございます。



こう思ってしまうと、もはや「口ひげのあるウラジーミル・プーチンの像」にしか見えなくなってしまいました。
まあそんな次第でプーチン首相の視線を背中に感じつつ、展示室をぐるっと廻ってたどり着いたのが


マネ『ヴィクトリーヌ・ムーラン』

マネの迷いのない筆致、それだけでも充分目に楽しいものでございます。肖像画としては不自然なほど強いコントラストに、ばさっ ばさっ と置かれた絵具が描き出しているのは、くっきりとした小振りの唇、丸みのある鼻、大した関心もなさそうにこちらを見つめる二重まぶたの目、即ちオランピア草上の昼食でお馴染みのあの顔でございます。
ヴィクトリーヌを描いた最初の絵とされるこの作品においても、マネはこのモデルを美化するでもなく、性格や内なる感情を表現するでもなく、極めて即物的に描いております。 青いリボンと片耳に輝くイヤリングは真珠の耳飾りの少女を思い起こさせます。しかしフェルメールの作品とは違い、ヴィクトリーヌは微笑みを浮かべることもなく、顔をはすに構えてただただこちらを見つめるばかりでございます。

マネのお気に入りモデルとして今に知られる彼女でございますが、モデルというのは決して一般的に受けのいい職業ではございませんでした。エコール・ド・パリの花型モデル、多くの芸術家たちのミューズとなり、女王と謳われたモンパルナスのキキにしても、その晩年は悲惨なものでした。若く、そこそこに美しく、物怖じしない視線を画面の外に投げかけるヴィクトリーヌは、どんなふうに歳をとり、どんな生涯を送ったのでございましょうか。
のっぺりとした背景の中、鮮烈に浮かび上がる白い顔を眺めつつ、そんなことを考えたのでございました。

印象派も風景画もそれほど好きではないのろにとっては、この肖像画セクションが本展のメインでございました。とは申せ、額縁の向こうに広々と横たわるコンスタブルの田舎風景や、二年前のコロー展でもお見かけしたコローの人物画、色彩の調和に満ちたファンタン=ラトゥールの静物画などなど、この他にもため息ものの作品がたくさんございました。

これだけ色々貸し出してくだすったのはボストン美術館が改修中だからなんだそうで。そういえば神戸でもボストン美術館収蔵の浮世絵展を開催中でございますね。何にしても、海外の名品をいながらにして拝めるのは有り難いことでございます。来年はアムステルダム国立美術館あたりが改修工事してくれないかしらん。




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