のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『カポディモンテ美術館展』2

2010-11-24 | 展覧会
削り屑まみれになりながら本の小口のヤスリがけをしていたら、玄関のチャイムが鳴るではございませんか。慌てて部屋着をかぶってドアを開けるとそこにはNTTの調査員さんが。

調「どうも。お休みの所すみません」
の「いえいえ」
調「はあ」
の「えー、どういったご用で」
調「光回線の普及状況調査です」
の「はあ。左様で」
調「左様でと来ましたか」
の「はあ。すみません」
調「いえいえ」

振り返ってみると何だか妙なやりとりでございました。

それはさておき
11/20の続きでございます。

角を曲がるとそこはもうマニエリスムのお部屋。グレコ、ティツィアーノに挟まれて、本展の目玉であるパルミジャニーノの『貴婦人の肖像』が佇んでおります。



はい、パルミジャニーノ、『長い首の聖母』の人でございますね。

Madonna with Long Neck - Parmigianino

うーむ。気持ち悪い。
実を申せば、パルミジャニーノはあんまり好きな画家ではございません。歪んだプロポーションを特徴とするマニエリスムの画家の中でも、人体の歪みぐあいがとりわけ気持ち悪いからでございます。薔薇の聖母なんてもう、あちこちえらいことになっております。

今回来日した貴婦人はドレスをしっかり着込んでおりますので、身体の歪みはあまり目立ちません。それでも、右肩から腕にかけてのプロポーションがおかしいことは一見してお分かりになりましょう。顔や手といった部分部分の描写の確かさや、みごとに描き分けられた布や毛皮の質感からは画家の卓越した技巧が伺われます。それだけに、明らかに歪んだ人体のプロポーショはいかにも奇妙であり、背景の暗さも相まって、不気味な凄みのある作品となっております。

歪んだ身体の上には、首長の聖母にそっくりの冷たく整った顔が乗っかっております。ちょっときれいすぎるような卵形の輪郭に、笑っているようないないような微妙な表情の口元。黒いひとみは遠目にはきりっとこちらを見据えているかに思えたものの、近づいてよくよく見たらば「きりっと」を通り越してあまりに冷たく、どこにも焦点を定めずただ宙に見つめているだけのような気がしてまいります。
仮に「アンテア」と呼ばれてはいるものの、本当の名前も身分も来歴も知られていないこの女性は、果たして現実に存在したのだろうか。おそろしく整い、かつ明らかに歪んでいるこの肖像を前にして、そんなことを考えたのでございました。

さて、見るからに歪んだプロポーションや現実離れした色彩、奇抜な演出や極端な遠近法という特徴を持つマニエリスム絵画でございますが、いったい何故このような美術様式が流行したのでございましょうか。美術史の本をひもときますと、いくつかの理由が挙げられております。
曰く、レオナルドやラファエロといった数多くの天才を輩出したルネサンスを経て、自然そのものから直接学ぶことよりも、こうした過去の巨匠たちの手法や様式(マニエラ)を模倣することがもてはやされたため、表現における現実性が失われていった。
曰く、この時代が経験した諸々の精神的危機の反映として、現実よりも主観や幻想に重きを置く精神文化が醸成された。
曰く、宮廷などの閉鎖的な社会において享受されたことから、極度の洗練や奇想へと傾いた。

手法と形式の模倣と、現実からの退避と、閉鎖的サークル内での享受。
ううむ。400年前の美術様式について述べたことなのでございますが、何だか昨今流行りの「萌え絵」についての分析のような気がしてまいりました。してみると今から400年後には、村上隆氏の作品あたりが「第二のマニエリスム」として美術の教科書に紹介されているかもしれませんて。


次回に続きます。


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