のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『山荘美学 日高理恵子とさわひらき』展

2011-03-01 | 展覧会
というわけで

快適ブレーキが復活した自転車を駆って大山崎山荘美術館で開催中の山荘美学:日高理恵子とさわひらきへ行ってまいりました。
ここ数日の暖かさに正しく反応したものと見え、道中あちこちで梅の花がほころんでおりました。梅には鶯というわけで、まだへたっぴいながらも ホー ケキョ の声も耳にしましたですよ。

さわひらき氏と日高理恵子氏、日常的な事物に表現の足場を置きながらもまったく異なる方向性を持った現代芸術家でございます。
台所やバスルームといった日常生活の場から発して、ノスタルジックで幻想的な世界へと見る者をいざなうさわ氏。
下から見上げた木の枝ぶりという、これまたごく日常的な風景の中にある硬質な美をモノクロームで描き出す日高氏。

前者の作品は、もともと実業家加賀正太郎氏の山荘として使われて、まさに生活空間でもあった本館に展示されております。窓際にひっそりと立てられた本のような液晶パネルや、古い木製の小箱の中、あるいは暖炉の上の壁面といった、ふとした場所に展開する繊細な映像作品は、大正~昭和初期に立てられたこの建物に違和感なく溶け込んでおります。その展示空間との相乗効果によって、時間と空間の尺度をあいまいにさせるような作品の不思議な魅力がいっそう高められております。

氏の作品とは、今は無きサントリーミュージアム天保山で開催された『インシデンタル・アフェアーズ』でお目にかかって以来でございました。今回展示されていた8作品もまた、いずれも詩的で繊細、かつそこはかとないユーモアが漂い、たいへんよろしうございます。

『インシデンタル・アフェアーズ』2 - のろや

とりわけのろごのみだったのは「spotter」という8分弱の作品でございます。
家の中をゆっくりと飛びかう、たくさんの小さな飛行機たち。それをバスタブのへりや洗濯機の上や植木鉢の側に寄り集まって、双眼鏡で喜々として追いかける”spotter-飛行機見物好き”たち(ほとんどがいいトシのおっさん)。廊下や台所といった背景の生活感、部屋の中で離発着するちっちゃなジャンボジェット機というメルヘンなモチーフ、そしてspotterという何とも少年じみたおっさんたちの存在が相まって、何とも微笑ましい映像でございました。
↓の作品の発展形とも申せましょう。

dwelling


また本館ではさわ氏の映像作品の合間に、収蔵品のバナード・リーチや河井寛次郎やルーシー・リーの作品も展示されております。彼らもまた、アプローチの方向は違っているものの、「日常」と「美」との接点を模索した芸術家でございます。皿や花瓶といった実用的な焼き物と映像作品とが同じ空間に展示され、お互いに当たり前のような顔で調和しているというのも、「もと生活空間」たるこの美術館ならではのことではないかと。

一方、ご存知打ちっぱなしコンクリート安藤氏設計の新館に展示されている日高理恵子氏の作品は、白い画面の上に黒々と鋭く禁欲的な線を張り巡らせ、厳しさをたたえながらも、厳しさに圧倒されるというよりは、むしろ近よって行ってその前に佇みたくなる、巨木のようなたたずまいを持っておりました。

というわけで
美術館を後にしたのろも、ふと上を見上げて日常的な事物の持つ美に目を凝らしてみましたですよ。



意外とバラエティに富んでおりますね。



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4 コメント

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Unknown (Lusopeso)
2011-03-01 23:21:18
のろさん京都にお住まいなのでしょうか?
触発されて私も以前紹介したホキ美術館に入場してみましょうかな。。。
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そうなのでして。 (のろ)
2011-03-02 22:15:38
のろさんは十数年も京都にお住まいのくせに映画村にも銀閣寺にも苔寺にも行ったことがない不届き者でございます。

モノリス美術館はアヴァンギャルドな外観とは裏腹に、写実絵画に特化した美術館なのですね。HPで見たかぎりでは日本の現代画家による作品が多いようですが、時代的・地域的により広い範囲をカバーした今後のコレクション充実が期待される所です。
それにしても去年の秋に開館したばかりの美術館がお近くにあるなんて、いいではありませんか。ワタクシはまだ新築の匂いの残る美術館に足を踏み入れると、いい知れぬわくわく感に心が満たされます。ついさっき受付で入場料を払ったことも忘れて、何だか自分がその館のオーナーになったような気分にさえなるのですよ。王さま気分ってやつです、ええ。
お近くならば行く機会はいつでもありましょうが、床も壁もトイレもピッカピカでラッカーの匂いが漂っているうちに、一度入ってみてはいかがでしょうか。そしてぜひブログにご感想をUPしてくださいませ。
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Unknown (Lusopeso)
2011-03-03 15:52:40
モノリス美術館。。。BGMは勿論『青き美しきドナウ』ですよね!

わかりました。明日か明後日にも行ってみることにします。ラッカーの薫を胸いっぱい吸い込んで昼食代でも浮かせれば大丈夫。たぶん。
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Daisy~♪ Daisy~♪ (のろ)
2011-03-03 21:29:43
ああ、ワタクシは『ツァラトゥストラかく語りき』の方を想像していました。
思えば2001年という年代も、もはや「一昔前」になってしまったのですね。何とも恐ろしいことです。
どうもここ数日、寒の戻りというやつが日本列島を見舞っているようですから、飢えと寒さで行き倒れにならないよう、どうぞ万端の装備でお出かけくださいませ。
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