のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

なくなった映画館2

2013-02-26 | 映画
2/25の続きでございます。


三条河原町を少し上がった所の朝日会館4階にあった、ほんとにちいさなミニシアター、朝日シネマが閉館すると聞いたときのワタクシのショックは、並々ならぬものでございました。幸いなことにこの劇場は場所を移して京都シネマとして復活なさいまして、今ではワタクシが最も足繁く通う映画館となっております。

朝日シネマではいちいち挙げられないほどたくさんの佳作・名作に出会いましたが、体験としてとりわけ記憶に残っているのは、『ぼのぼの クモモの木のこと』でそれはもう恥ずかしいほど号泣したことでございます。なにしろ狭い劇場で、観賞後はなるべく速やかに退散するのが常でございましたから、この時もうるうるの涙目とずるずるの水っ鼻のまま、人目をはばかりつつ狭いエスカレーターを下りて行ったのでございました。

また朝日シネマでは、スタッフさんから受けた親切にも思い出がございます。
『グレースと公爵』を観ようとでかけたのろさん、こういう渋めのヨーロッパ映画をやるのは、みなみ会館でないなら朝日シネマに違いないと思い込んで、上映時間をなんとなく調べただけで朝日シネマへと赴いたわけでございます。ところがカウンターのお姉さんは『グレースと公爵』はここでは上映していない、とおっしゃるじゃございませんか。意表をつかれて目が点状態のワタクシの前で、お姉さんはサッと市内の映画館の上映予定表を取り出して、美松劇場で○○時から上映だから急げば間に合うかも、と案内してくだすったのでございます。

前の記事で申しましたように、当時この界隈は映画館密集地帯でございました。その劇場群の中では一番離れていた朝日シネマと美松劇場さえ、せいぜい徒歩で10分ほどの距離でございます。お姉さんがおっしゃるように、走ればギリギリ間に合わなくもない時間ではございました。が、その時は恥ずかしさと自己嫌悪が相まってもはやダッシュするような気力もなく、あたりをぶらぶらして何も観ずに帰りました。
結局『グレースと公爵』は今に至るまで未鑑賞のままでございます。しかし、自館の得になるわけでもないのに、そそっかしいいち映画ファンのためにすかさず上映館を調べてくだすったスタッフさんの心意気は、長く温かい印象をワタクシの心に残したのでございました。

さて朝日シネマは別格として、消えて行った映画館の中で一番愛着があったのは京極弥生座(新京極シネラリーベ)でございました。そう頻繁に足を運んだわけではないものの、こぢんまりとした雰囲気がなんとも心地よく、また良作と出会う確率が高かったからでございます。

中でもキム・ギドク監督作品『悪い男』は、全く思いがけない拾い物でございました。
全く思いがけないとはどういうことかと申しますと、そもそもワタクシはこの作品を観るつもりはなく、画家志望時代のヒトラーを描いた『アドルフの画集』を観るつもりで弥生座に赴いたのでございます。ところが、ビルの3階と地下に一つずつあった劇場のうち、何を間違えたのか『アドルフ~』を上映中の地下劇場ではなく、上の方へ行ってしまったのでございます。

予告編がひととおり終わったのち『悪い男』のタイトルがゆっくりとスクリーンに浮かび上がり、うわしまったと頭を抱えたものの、席は空いているし時間もあるし、せっかくだから観てみるか、とそのまま座り続けました。そうしましたらこれが非常にむごく哀しく面白く幻想的かつ壮絶な作品でございまして、鑑賞前のやっちまった感もどこへやら、上映後は奇妙な爽快感と納得のいかなさを等分に抱えつつ「なんかすごいもの観てしまった...」とよろけるようにして席を立ったのでございました。
続いてもはやこちらがついでという感じで『アドルフの画集』も鑑賞しましたが、こちらはつっこみ不足と申しましょうか、わりかし薄味な作品でございました。

ちなみにのろさんが上映館または劇場を間違えたのは、上に述べましたようにこれが初めてではなく、また最後でもございません。
自爆テロへと向かうパレスチナの青年を描いた『パラダイス・ナウ』を観るつもりで京都シネマへ行ったはずが、気がつけばスクリーンでは想田和弘監督のドキュメンタリー映画『選挙』が始まっていたということもございました。あのコンパクトな京都シネマで、3つしかない劇場をどうやって間違えることができたのか自分でも不思議でございます。
しかしこの『選挙』がまた、たいへん面白い作品でございまして、そのうえ上映後には主役(と言うんでしょうか)の山内和彦氏の舞台挨拶までございまして、怪我の功名とばかりにワタクシは大いに楽しませていただいたわけですが、映画館側からすれば甚だ迷惑な客であることは間違いございません。
すみません。以降、気をつけております。


次回に続きます。